事業譲渡と資産譲渡の違い|契約・許認可・従業員・税の比較表と、どちらを選ぶかの境界線

工場の土地建物だけを売るのか、工場で動いている事業ごと売るのか。外から見ると同じ「売却」でも、会社法と税務のうえでは別の取引です。前者は資産譲渡(個々の財産の売買)、後者は事業譲渡にあたります。

どちらに当たるかで、株主総会の特別決議が要るか、売り手に法律上の競業避止義務が生じるか、買い手が税務上ののれん(資産調整勘定)を償却できるかが変わります。さらに、会社を丸ごと渡す株式譲渡という第3の選択肢もあります。

この記事では、事業譲渡と資産譲渡の違いを比較表で整理したうえで、どういう条件ならどれを選ぶかを境界線として示します。株式譲渡と事業譲渡の比較は「株式譲渡 vs 事業譲渡 完全比較」で詳しく扱っているので、ここでは資産譲渡との境目に焦点を当てます。

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目次
  1. 事業譲渡と資産譲渡はどこで分かれるか
  2. 比較表:契約・許認可・従業員・税
  3. のれんの税務で差がつく
  4. どれを選ぶかの境界線
  5. 契約で「どちらか」を曖昧にしない
  6. 許認可と従業員の扱い
  7. 選ぶ前のチェックリスト
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 参考

事業譲渡と資産譲渡はどこで分かれるか

会社法には「事業譲渡」の定義規定がありません。判断の目安として使われているのは、旧商法の「営業譲渡」について示した最高裁判所の判決(最高裁昭和40年9月22日大法廷判決)です。要点は次の3つです。

  1. 一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先や営業上のノウハウなどの事実関係を含む)を譲渡すること
  2. 譲渡によって、譲渡会社がその財産で営んでいた営業活動を譲受人に受け継がせること
  3. 譲渡会社が、法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うこと

つまり、土地・建物・機械・在庫といった「モノ」だけでなく、取引先、従業員、ノウハウといった事業を動かす仕組みがまとめて移り、買い手がその事業をそのまま続けられる状態なら事業譲渡です。モノだけを移し、買い手が自分の事業に組み込んで使うなら資産譲渡です。

同じ工場の売却でも、次のように分かれます。

ケース 移るもの 区分
工場の土地建物と機械を売り、買い手は自社製品の生産に使う 設備だけ 資産譲渡
工場の設備に加え、取引先との契約、従業員、製造ノウハウも移し、買い手が同じ製品を作り続ける 事業を動かす仕組み一式 事業譲渡
飲食店の厨房設備と内装だけを居抜きで売る 設備だけ 資産譲渡
店舗・屋号・レシピ・スタッフ・常連客ごと引き継ぐ 事業一式 事業譲渡

比較表:契約・許認可・従業員・税

項目 事業譲渡 資産譲渡(個別の財産の売買)
移るもの 事業を構成する資産・負債・契約・従業員などを、契約で個別に特定して移す 契約で定めた個々の財産だけ
会社法上の決議 事業の全部または重要な一部の譲渡なら、株主総会の特別決議(会社法第467条・第309条第2項第11号) 株主総会の決議は不要。重要な財産の処分なら取締役会の決議(取締役会設置会社・第362条第4項第1号)
反対株主の株式買取請求 あり(第469条) なし
売り手の競業避止義務 特約がなくても、同一・隣接市町村で20年間の競業避止義務を負う(第21条第1項) 法律上は生じない。必要なら契約で定める
取引先との契約 契約ごとに相手方の同意を得て、買い手に移す 原則として移らない
従業員 移すには従業員本人の個別の同意が必要(民法第625条第1項) 移らない。売り手に残る
許認可 原則として買い手が取り直す。業法に承継の規定がある業種だけ例外(建設業の事前認可など) 移らない
商号の使用 買い手が売り手の商号を使い続けると、売り手の債務を弁済する責任を負うことがある(第22条) 通常は問題にならない
消費税 資産ごとに課税・非課税を判定。一括の対価なら合理的に按分する 資産ごとに課税・非課税を判定(同じ)
のれんの税務(買い手) 要件を満たせば、対価と時価純資産の差額が資産調整勘定になり、60か月で損金算入(法人税法第62条の8) 原則として生じない
不動産の移転コスト 不動産取得税・登録免許税がかかる 同じくかかる

事業譲渡は、譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1以下なら、「重要な一部」に当たらず、株主総会の特別決議の対象から外れます(第467条第1項第2号の括弧書き)。中小企業で一部門だけを売る場合は、この基準に当たるかを先に確認します。

消費税の扱いは、事業譲渡も資産譲渡も「資産ごと」に判定する点で変わりません。国税庁の質疑応答事例では、営業権10億円・有形固定資産10億円・土地20億円を一括で譲渡した事例で、課税の対象は営業権と有形固定資産の20億円、土地の20億円は非課税として算入しないと示されています。詳しくは「事業譲渡の消費税」で扱っています。

のれんの税務で差がつく

事業譲渡と資産譲渡の差が最も金額に出るのは、買い手が払う「上乗せ分」の扱いです。

計算例として、時価純資産が6,000万円の事業を、8,000万円で買うとします。

  • 対価:8,000万円
  • 移転を受けた資産・負債の時価純資産:6,000万円
  • 差額:2,000万円

事業譲渡で、事業とその主要な資産・負債のおおむね全部が移る場合、この2,000万円は資産調整勘定として扱われ、60か月(5年)で均等に損金になります。

項目 金額
資産調整勘定 2,000万円
1年あたりの損金算入額 400万円
法人税等の実効税率を約30%と仮定した場合の1年あたりの税負担の減少 約120万円
5年間の合計 約600万円

個別の資産を買うだけなら、そもそも事業の上乗せ分を払う理由がなく、時価に近い価格での売買になります。仮に時価を超える額を払っても、その差額を資産調整勘定として償却することは原則としてできません。買い手にとっては、事業として引き継ぐ方が上乗せ分を税務上回収しやすい構造です。

売り手の側では、どちらの形でも法人が譲渡すれば譲渡益に法人税がかかります。ただし事業譲渡では、のれん(営業権)の対価が加わるぶん譲渡益が大きくなり、その部分は消費税の課税対象にもなります。

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どれを選ぶかの境界線

事業譲渡か、資産譲渡か、株式譲渡か。さらに、今は売らないという選択肢も含めて、自社の状況を次の条件で判定します。

選択肢 こういう条件なら 向かない条件
事業譲渡 会社の中の一部門だけを売りたい。買い手がその事業を続け、従業員や取引先もできるだけ引き継いでほしい。簿外債務や過去の訴訟リスクを買い手が引き受けたくない 従業員や取引先が多く、個別の同意を取り切れない。許認可の取り直しに時間がかかり、空白期間が生じる
資産譲渡 事業はすでに止めた、または縮小する。欲しいのは設備・不動産・在庫だけで、買い手は自社の事業に組み込んで使う。売り手が今後も同種の事業を続けたい 取引先や従業員ごと引き継いでほしい。事業としての価値(のれん)を対価に含めたい
株式譲渡 会社を丸ごと手放してよい。許認可・契約・従業員をそのまま維持したい。個人株主として手取りを最大化したい 会社に残したい事業や資産がある。買い手が過去の債務や訴訟リスクを嫌う
どれもしない(賃貸・ライセンス・継続) 不動産や設備は手放さず、賃料で収益化したい。ブランドやノウハウを使わせる契約で足りる。後継者の見込みがあり、まだ売る時期ではない 資産の維持費や借入の返済が重く、持ち続けるほど価値が下がる

「事業譲渡か資産譲渡か」で迷う場合、判断の分かれ目は次の3点です。

  1. 買い手はその事業を続けるか。続けるなら事業譲渡、自社に取り込むだけなら資産譲渡
  2. 従業員と取引先を移すか。移すなら事業譲渡の形で、個別の同意を取る段取りが要る
  3. 売り手が同じ事業を続けるか。続けるなら、事業譲渡では会社法第21条の競業避止義務が問題になる。特約で排除するか、資産譲渡の形にする

契約で「どちらか」を曖昧にしない

注意したいのは、契約書のタイトルを「資産譲渡契約書」にしても、実態が事業譲渡なら事業譲渡として扱われることです。取引先・従業員・ノウハウまでまとめて移しているのに、株主総会の特別決議を経ていなければ、決議を欠いた事業譲渡として効力が争われるおそれがあります。

また、売り手が債権者を害することを知りながら事業譲渡をした場合、残された債権者は買い手に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます(会社法第23条の2)。借入の多い会社が優良な事業だけを切り出して売る場面では、この規定も意識しておく必要があります。

契約書の作り方と条項ごとの注意点は「事業譲渡契約書のひな形」、競業避止義務の範囲は「競業避止義務とは」で扱っています。

許認可と従業員の扱い

事業譲渡で時間がかかるのは、許認可と従業員です。

許認可は、多くの業種で買い手が新たに取得し直す必要があります。建設業は例外の一つで、令和2年10月から、事業譲渡・合併・分割の前に認可を受ければ、建設業者としての地位を空白期間なしで承継できる制度があります(建設業法第17条の2)。他の業種でも承継の規定があるかどうかは業法ごとに違うため、所管の行政庁に確認します。調剤薬局の保険薬局の指定のように、事業譲渡では取り直しになる例は「調剤薬局のM&A」で扱っています。

従業員は、事業譲渡でも自動的には移りません。民法第625条第1項により、使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡せないためです。厚生労働省の「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」は、承継に必要な労働者の同意について、実質的な同意を得ることや、事前の協議を求めています。

資産譲渡の場合、従業員は売り手に残ります。事業を止めて資産だけを売るなら、残った従業員の配置転換や退職の手続きを別に進める必要があります。

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選ぶ前のチェックリスト

  • 移すのは「モノ」だけか、取引先・従業員・ノウハウを含む事業一式か
  • 買い手はその事業を続けるのか、自社の事業に組み込むのか
  • 譲渡する資産の帳簿価額は総資産の5分の1を超えるか(株主総会の特別決議の要否)
  • 売り手は同じ事業を今後も続けるか(会社法第21条の競業避止義務)
  • 移す契約の相手方から同意を得られるか
  • 移す従業員から個別の同意を得られるか
  • 許認可に承継の制度があるか、取り直しにどれだけかかるか
  • 対価のうち、のれん(営業権)にあたる部分はいくらか。資産ごとの対価を契約で区分したか
  • 借入が多い会社なら、残る債権者を害する形になっていないか

よくある質問

Q. 不動産だけを売る場合も事業譲渡になることはありますか。

不動産だけで、取引先や従業員が移らず、買い手がその事業を続けないなら、通常は資産譲渡です。ただし、その不動産が事業の中核で、売却によって会社の事業が事実上止まるような場合は、「重要な一部」の譲渡に当たるかを含めて弁護士に確認してください。

Q. 事業譲渡で、競業避止義務を負わない形にできますか。

できます。会社法第21条の競業避止義務は、当事者の特約で排除できます。売り手が同じ事業を続ける予定なら、契約書に排除の特約を入れます。

Q. 個人事業主の場合も同じですか。

会社法の規定(株主総会の決議や反対株主の買取請求)は会社の話なので、個人事業主には当てはまりません。ただし、商法にも営業譲渡人の競業避止義務の規定があり(商法第16条)、従業員の同意や許認可の取り直しの考え方は同じです。

まとめ

  • 事業譲渡は、取引先・従業員・ノウハウを含む「有機的一体として機能する財産」を移し、買い手が事業を続ける取引。資産譲渡は個々の財産の売買
  • 事業譲渡は、全部または重要な一部なら株主総会の特別決議が要り、売り手に法定の競業避止義務が生じる
  • 従業員と契約は、事業譲渡でも個別の同意がなければ移らない
  • 買い手は、事業譲渡なら上乗せ分を資産調整勘定として60か月で損金算入できる
  • 事業を続けてもらうなら事業譲渡、モノだけなら資産譲渡、会社ごとなら株式譲渡。売る時期でなければ賃貸やライセンスも選択肢になる

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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