調剤薬局のM&A|株式譲渡と事業譲渡で「保険薬局の指定」がどう変わるか

調剤薬局の譲渡には、他業種にはない論点があります。
薬局は許認可事業であり、しかも許可が2本立てになっているためです。

薬機法に基づく薬局開設許可と、健康保険法に基づく保険薬局の指定。
この2つを、譲渡のスキームによって引き継げるか、取り直しになるかが変わります。

取り直しになると、その間は保険調剤ができません。
売上が止まる期間が生まれるということです。

この記事では、そこを中心に、調剤薬局のM&Aで実務上決まってくる論点を整理します。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 業界の前提——店舗数は頭打ち、経営環境は変わり続けている
  2. 譲渡の方法は2つ。許認可の扱いが決定的に違う
    1. 株式譲渡(法人ごと引き継ぐ)
    2. 事業譲渡(薬局という事業を売る)
    3. どちらを選ぶかの目安
  3. 買い手が実際に見ているもの
  4. 譲渡までの流れと期間
  5. 売るか、続けるか、たたむか
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 参考

業界の前提——店舗数は頭打ち、経営環境は変わり続けている

薬局の数は全国で6万を超えています(厚生労働省「衛生行政報告例」)。
コンビニエンスストアより多い、と言われる水準です。

一方で経営環境は動き続けています。

  • 調剤報酬改定のたびに、評価の軸が「対物業務」から「対人業務」へ移っている
  • 門前・医療モール型の立地に依存したモデルへの評価が下がってきている
  • 薬剤師の採用難が続き、人件費が上がっている
  • 経営者の高齢化と後継者不在

1店舗、2店舗の薬局にとって、これらは同時に効きます。
在宅対応や地域連携の体制を作るには人が要りますが、その人が採れない。
結果として、加算が取れない → 収益が下がる → さらに人が採れないという循環に入ります。

譲渡が増えている背景は、単純な後継者不在だけではなく、この構造にあります。

譲渡の方法は2つ。許認可の扱いが決定的に違う

株式譲渡(法人ごと引き継ぐ)

法人の株式を買い手に譲る方法です。
法人格が変わらないため、薬局開設許可も保険薬局の指定もそのまま継続します。

  • 保険調剤が止まらない
  • 従業員の雇用契約もそのまま
  • 賃貸借契約、リース契約も原則そのまま

対象になるのは、薬局を法人(株式会社・有限会社)で経営している場合です。

注意点は、簿外債務を含めて丸ごと引き継ぐことです。
過去の未払残業代、税務上の指摘リスク、返還が生じ得る過誤請求。
これらも一緒に移るため、買い手は必ずデューデリジェンスで確認します。

事業譲渡(薬局という事業を売る)

薬局の設備・在庫・営業権を個別に譲渡する方法です。
買い手は薬局開設許可を新たに取得し、保険薬局の指定も新たに受ける必要があります。

ここが最大の論点です。
保険薬局の指定は申請から指定まで一定の期間がかかり、
多くの地方厚生局では毎月の締切に間に合った分が翌月1日付の指定という運用です。

つまり、譲渡日と指定日がずれると、その間は保険調剤ができません。

実務では、譲渡日を指定日に合わせる形で日程を組みます。
逆に言えば、日程の設計を間違えると数週間分の売上が消えるということです。

個人経営の薬局を譲渡する場合、法人格がないため事業譲渡になります。
このケースがいちばん日程管理を要します。

どちらを選ぶかの目安

状況 向いている方法
法人経営で、全店舗を譲る 株式譲渡
法人経営で、一部の店舗だけ譲る 事業譲渡
個人経営 事業譲渡(選択の余地がない)
簿外債務の懸念が大きい 事業譲渡(買い手が求めることが多い)

買い手が実際に見ているもの

調剤薬局の評価は、売上規模だけでは決まりません。
買い手が確認するのは、おおむね次の5点です。

1. 処方元の構成
1つの医療機関に依存しているか、複数から来ているか。
門前の医師が高齢で、数年内に閉院する可能性があるかは必ず確認されます。
処方元が閉じれば、その薬局の価値はほぼ消えます。

2. 薬剤師が残るか
これが最も重要です。管理薬剤師が譲渡と同時に辞めると、営業が続けられません。
譲渡の事実をいつ従業員に伝えるかは、案件の成否を分ける論点になります。

3. 加算の取得状況
地域支援体制加算、在宅対応の実績、かかりつけ薬剤師指導料。
これらを取れている薬局は、対人業務へ舵を切った後の評価が高くなります。

4. 在庫と不動産
不動産を所有しているか賃借か。賃借なら、譲渡に伴う賃貸人の承諾が取れるか。
医薬品在庫は評価額の調整対象になります。

5. 過去の指導・監査の履歴
返還が生じた履歴があれば、価格に反映されます。

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譲渡までの流れと期間

  1. 譲渡の意思決定と、資料の整理(決算書3期分、処方箋枚数、人員構成)
  2. 相手探しと初期の条件交渉
  3. 基本合意
  4. デューデリジェンス
  5. 最終契約
  6. 許認可の手続き(事業譲渡の場合はここが律速)
  7. 従業員への説明、引き継ぎ
  8. クロージング

全体で半年から1年程度が目安です。
事業譲渡の場合、6の許認可手続きが日程を規定します。
最終契約を急いでも、指定日は動かせません。

売るか、続けるか、たたむか

続けるほうがよい場合
- 処方元が安定していて、管理薬剤師も定着している
- 在宅や地域連携の体制を作る余力がある
- 後継者候補(親族・従業員)が実在し、本人に意思がある

譲渡を検討すべき場合
- 経営者自身が管理薬剤師を兼ねていて、健康上の不安がある
- 薬剤師の採用ができず、営業日や営業時間を縮めている
- 処方元の閉院が見えている(この場合は早いほど条件がよい)

廃業を選ぶ場合
- 処方元がすでに閉院し、処方箋枚数が回復しない
- 立地上、買い手がつく見込みがない

廃業には費用がかかります。
在庫の処分、原状回復、廃止届の手続き、従業員への対応。
譲渡なら在庫と設備が評価対象になりますが、廃業では費用になります。
処方元が閉じてから動くと、この差がそのまま損失として出ます。

よくある質問

Q. 1店舗だけの薬局でも買い手はつきますか。
つく場合があります。近隣に店舗を持つ薬局にとっては、
処方元と薬剤師が同時に手に入るため意味があります。
ただし処方元の状況によって評価は大きく変わります。

Q. 譲渡の話を従業員にいつ伝えるべきですか。
早すぎると動揺で離職が起き、遅すぎると信頼を損ないます。
最終契約の前後で、買い手と歩調を合わせて伝えるのが一般的です。
管理薬剤師には、それより前に個別に伝えるケースが多くみられます。

Q. 薬局開設許可の管理薬剤師が譲渡後に変わる場合、手続きは必要ですか。
必要です。管理薬剤師の変更は届出事項です。
株式譲渡でも、管理薬剤師が交代するなら手続きが発生します。

Q. 個人経営の薬局を息子に承継する場合も、指定は取り直しですか。
親族間であっても、開設者が変わる以上は新たな開設許可と保険薬局の指定が必要です。
親子だから手続きが省ける、ということはありません。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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まとめ

調剤薬局のM&Aで最初に決めるべきは、株式譲渡か事業譲渡かです。
事業譲渡では、薬局開設許可も保険薬局の指定も取り直しになります。
指定日と譲渡日を合わせないと、保険調剤ができない期間が生まれます。

買い手が見るのは、処方元の構成と薬剤師が残るかどうかです。
どちらも時間が経つほど不利になる性質のものです。

処方元の閉院が見えている、あるいは薬剤師の採用が止まっている。
そう感じた時点が、条件のよい状態で相談できる最後の時期だと考えてください。

参考

  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法/薬局開設許可)
  • 健康保険法(保険薬局の指定)
  • 厚生労働省「衛生行政報告例」(薬局数)
  • 厚生労働省「調剤報酬点数表」
  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン」

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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