酒蔵のM&A|酒類製造免許は株式譲渡なら続き、事業譲渡では取り直しになる。杜氏・醸造設備・貯蔵酒の評価まで(判定表つき)

酒蔵の売却では、ほかの業種以上に手法の選び方が結果を決めます。理由は酒類製造免許にあります。

法人の酒蔵を株式譲渡で売れば、製造免許は会社に付いたまま続きます。事業譲渡や合併では免許は移らず、買い手が税務署長の免許を新たに受け直す必要があります。そして清酒の製造免許は、酒税法の需給調整の考え方から、新しく取るのが難しい免許です。

この記事では、酒蔵のM&Aで引き継げるもの・引き継げないものを判定表にし、製造免許の扱い、杜氏と蔵人の引き継ぎ、醸造設備と蔵の土地建物、貯蔵酒とブランドの評価を整理します。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 酒蔵のM&Aが株式譲渡を基本にする理由(酒類製造免許)
  2. 酒蔵のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  3. 事業譲渡・合併では清酒の製造免許を取り直す
  4. 杜氏・蔵人の引き継ぎと酒造りの技術
  5. 醸造設備・蔵の土地建物・仕込み水の確認
  6. 貯蔵酒の在庫評価とブランドの値付け
    1. 計算例:貯蔵酒の評価で価格が動く
  7. 酒蔵を売る前のチェックリスト
  8. よくある質問
    1. Q. 個人の蔵元でも株式譲渡はできますか。
    2. Q. 製造を3年休んでいる蔵でも売れますか。
    3. Q. 買い手が蔵の場所を移して造りたいと言っています。
  9. まとめ
  10. 参考

酒蔵のM&Aが株式譲渡を基本にする理由(酒類製造免許)

酒類を製造するには、品目別・製造場ごとに、製造場の所在地を所轄する税務署長の製造免許を受けなければなりません(酒税法第7条第1項)。免許には、製造場ごとの1年間の最低製造見込数量があり、清酒は60キロリットルです(同条第2項)。

免許を受けた者が変わる場面について、酒税法は次のように定めています。

場面 製造免許の扱い 根拠
株式譲渡 免許を受けているのは会社なので、そのまま続く。役員の変更は異動申告 酒税法第7条
相続 相続人が申告すれば、被相続人の免許を受けたものとみなされる 第19条
個人の蔵元が製造業の全部を事業譲渡 譲受者が申告すれば、免許を受けたものとみなされる 第19条(個人に限る)
法人の事業譲渡・合併・分割 移らない。承継する側が製造免許を新たに申請する 国税庁の手続き一覧

ここで押さえたいのは、第19条の事業譲渡による承継は「個人に限る」とされている点です。株式会社や合名会社など法人の蔵元が、事業譲渡や合併で製造業を移すときは、買い手(存続会社)が改めて製造免許を申請することになります。国税庁の手続き一覧でも、法人の合併・分割や営業の譲受けなどの組織再編では、製造免許申請書を「事前に」出す手続きとして整理されています。

酒蔵のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は申告・承諾・同意が要る、×は引き継げない(買い手が取り直す)、という意味です。法人の蔵元を前提にしています。

項目 株式譲渡 事業譲渡 合併・会社分割
酒類製造免許(清酒など) ○ 継続。役員が変われば直ちに異動申告 × 買い手が新たに製造免許を申請 × 承継する法人が新たに製造免許を申請
酒類販売業免許(直売所など) ○ 継続 × 買い手が新たに申請 × 同左
蔵の土地・建物・醸造設備 ○ 会社に残る △ 移転登記。不動産取得税・登録免許税がかかる △ 移転登記
貯蔵中の酒・酒米 ○ 会社に残る △ 個別に移す。酒税の扱いを税務署と確認 △ 同左
銘柄の商標 ○ 会社に残る △ 商標権の移転登録 △ 移転登録
杜氏・蔵人 ○ そのまま △ 本人の同意が必要(民法第625条) ○ 包括承継(分割は労働契約承継法の手続き)
酒販店・卸との取引 ○ そのまま(支配権変更条項に注意) △ 取引先ごとに同意 △ 契約の条項を確認
借入金・保証 ○ 会社に残る △ 契約で特定したものだけ △ 合併は包括承継

清酒の製造を続けたいなら、株式譲渡がほぼ唯一の現実的な手法です。事業譲渡を選ぶと、次の節で見るように、清酒の免許を取り直す段階で止まるおそれがあります。

株式譲渡の場合も、法人の役員が変わったときは、直ちに所轄税務署へ異動申告書を出します。買い手から役員を送り込むときは、その人が酒税法第10条の欠格事由に当たらないことも前提になります。

事業譲渡・合併では清酒の製造免許を取り直す

事業譲渡や合併を選ぶと、買い手は清酒の製造免許を新たに申請することになります。ここで問題になるのが、酒税法第10条第11号の需給調整要件です。税務署長は、酒税の保全上、酒類の需給の均衡を維持する必要があるときは、製造免許を与えないことができます。

国税庁の法令解釈通達では、清酒の製造免許を与える場合を次のように限っています。

  • 清酒製造者が、企業合理化のために新たに製造場を設置する場合
  • 2以上の清酒製造者が、企業合理化のために新たに法人を組織し、新たな製造場で共同製造する場合
  • 清酒製造者が、企業合理化のために分離・分割し、新たに製造場を設置する場合
  • 発泡性を持たせた清酒を共同でびん詰めする場合など
  • 輸出するために清酒を製造する場合

このうち、既存の蔵を事業譲渡で引き継ぐ場合にどれが当てはまるかは、通達の文言だけでは読み切れません。事業譲渡や合併を検討するなら、買い手が既存の清酒製造者かどうかも含めて、必ず事前に所轄税務署の酒類指導官に相談してください。製造免許の標準的な処理期間は原則4か月以内とされているので、相談は承継の4か月以上前に始めます。

例外として、財務状況が悪化して事業の継続が困難な中小企業者が、産業競争力強化法の「中小企業承継事業再生計画」の認定を受けて事業を承継させる場合は、一定の要件を満たせば需給調整要件にかかわらず免許を受けられます。ただしこれは事業再生の場面に限った制度で、通常の事業承継で使えるものではありません。

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杜氏・蔵人の引き継ぎと酒造りの技術

酒蔵の価値は、免許と設備だけでは決まりません。その蔵の味を造っているのは杜氏と蔵人です。

  • 杜氏が季節雇用で、冬の仕込みの時期だけ蔵に入る形もあります。雇用契約が毎年更新される場合、引き継ぎの時期によっては次の造りに来てもらえないことがあります
  • 杜氏が高齢で、後継の蔵人が育っていない蔵では、買い手は技術の継承そのものを買うことになります
  • 仕込み配合、麹づくりの手順、酒米の調達先は、書面にしておかないと人と一緒に失われます

事業譲渡では蔵人の雇用は自動では移らないので、本人の同意を得て買い手と契約を結び直します。株式譲渡でも、オーナー交代を機に杜氏が離れることは珍しくありません。杜氏に残ってもらえるかを、基本合意より前に確かめるのが、酒蔵のM&Aでは価格交渉より先の順番です。

醸造設備・蔵の土地建物・仕込み水の確認

醸造設備は専用性が高く、帳簿上の価値と使える価値が大きくずれます。

確認すること 見るポイント
仕込みタンク・甑・搾り機・冷蔵設備 更新時期と修繕の履歴。冷蔵貯蔵の能力は品質に直結する
蔵の建物 築年数、耐震、改修の制約(古い蔵は文化財の指定・登録を受けていることがある)
土地 蔵と住居が同じ敷地にあり、オーナー個人名義の部分が混じっていないか
仕込み水 井戸の水質の分析記録、周辺の開発による影響
製造場の移転 別の場所で造るなら製造場の移転許可が要る

オーナー個人の名義の土地に会社の蔵が建っている形はよくあります。株式譲渡で会社だけを売ると、土地はオーナーの手元に残り、買い手は地代を払って使い続けることになります。土地を会社に移すか、賃貸借契約を結ぶかを、売却前に決めておきます。

貯蔵酒の在庫評価とブランドの値付け

酒蔵の貸借対照表でもう一つ大きいのが在庫です。清酒は仕込みから出荷まで時間がかかり、熟成酒や古酒を持つ蔵では、在庫の比重がさらに大きくなります。

酒税は、酒類を製造場から移出したときに納税義務が生じる仕組みです。製造場に貯蔵している間の酒には、まだ酒税がかかっていません。在庫の評価は原価ベースで、出荷時に酒税の負担が別に生じることを前提に見ます。

計算例:貯蔵酒の評価で価格が動く

帳簿上の在庫が5,000万円の蔵を例に取ります。

項目 金額
帳簿上の在庫(製造原価) 5,000万円
うち販売見込みのない古い在庫・劣化品 800万円
買い手が評価する在庫 4,200万円
純資産の修正(在庫分) マイナス800万円

売れ残りや劣化した在庫を帳簿に残したままだと、デューデリジェンスで一括して減額されます。売る前に在庫を棚卸しし、販売できない分は処分や評価替えを済ませておく方が、価格の説明がしやすくなります。

ブランドの価値は、銘柄の知名度、酒販店や飲食店との取引の継続性、品評会での受賞歴、輸出の実績などで評価されます。銘柄の商標を会社名義で登録しているかは、どの手法でも最初に確認する点です。登録がオーナー個人の名義だったり、そもそも登録していなかったりすると、ブランドを買ったつもりで権利が移っていないことになります。

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酒蔵を売る前のチェックリスト

  • [ ] 製造免許の品目・製造場・免許の条件(期限や数量の条件が付いていないか)
  • [ ] 直近3年の製造数量と、最低製造数量を満たしているか
  • [ ] 酒類販売業免許の有無
  • [ ] 杜氏・蔵人の雇用形態と、残留の意思
  • [ ] 仕込み配合・工程の記録
  • [ ] 蔵の土地建物の名義(会社・オーナー個人)と文化財の指定・登録の有無
  • [ ] 醸造設備の更新時期と修繕履歴
  • [ ] 在庫の棚卸しと、販売できない在庫の整理
  • [ ] 銘柄の商標登録の名義
  • [ ] 事業譲渡・合併を考えるなら、所轄税務署の酒類指導官への事前相談

よくある質問

Q. 個人の蔵元でも株式譲渡はできますか。

個人事業には株式がないので、株式譲渡はできません。個人の蔵元が製造業の全部を譲渡する場合は、譲受者が申告すれば製造免許を受けたものとみなされます(酒税法第19条)。ただし譲受者が欠格事由に当たらないことが条件です。

Q. 製造を3年休んでいる蔵でも売れますか。

3年以上引き続き酒類を製造しない場合や、3年以上製造数量が最低製造数量に達しない場合は、製造免許を取り消されることがあります(酒税法第12条)。休造中の蔵を売るときは、免許が有効なうちに手続きを進める必要があります。

Q. 買い手が蔵の場所を移して造りたいと言っています。

製造場を別の場所へ移すには、製造場の移転許可を受ける必要があります(酒税法第16条)。移転後の場所で設備の要件を満たせるかも審査されます。

まとめ

酒蔵のM&Aは、製造免許が手法を決め、杜氏と在庫が価格を決める取引です。

法人の蔵を株式譲渡で売れば製造免許は続き、役員の変更は異動申告で足りる。事業譲渡や合併では免許は移らず、清酒は需給調整要件のために取り直しが難しい。

杜氏の残留、土地と商標の名義、在庫の整理を、価格の交渉より先に固めてください。株式譲渡と事業譲渡の違いは「事業譲渡と株式譲渡の違い」で整理しています。

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参考

  • 酒税法(第7条・第10条・第12条・第16条・第19条)https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000006
  • 国税庁「第10条 製造免許等の要件」(酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/2-08.htm
  • 国税庁「免許通知書の項目に変更があった場合等の主な手続き一覧」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sake/annai/23600093a.htm
  • 国税庁「お酒に関するQ&A【酒類製造・販売業免許関係(共通)】Q3」https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/03c/03.htm

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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