ロングリストとは? 作成時の注意点・ショートリストとの違い・実務的な使い方などを徹底解説

ロングリストとは、外部業者や人材の選定、あるいはM&Aにおける候補企業選定などに活用されるツールです。M&Aにおいては、買収先あるいは売却先の候補となる企業を可視化するために、初期段階で作成します。なお、初期段階では候補を絞る必要がなく、より広い条件でピックアップするため、候補一覧が長くなります。そのため、“ロング”リストと呼ばれています。この記事では、ロングリストをM&Aに活用する場合について、具体的な作成方法や、リストからどのようにして交渉相手を選んでいくのかなどを詳しく解説していきます。

■ロングリストとは?

ロングリストは、M&Aの初期段階において作成される、ターゲット企業候補の一覧です。買い手企業が売り手企業候補を探す場合や、売り手企業が売却先候補を探す場合に活用されるもので、自社で作成することもあれば、M&A仲介会社やFAなどの外部の専門家に依頼して作成してもらうこともあります。

対象企業は、業種や事業内容、規模、地域などをもとに抽出します。抽出した企業の企業名などの基本情報を一覧化すると、100社以上になることもあります。

ただし、絶対に譲れない条件などがあることから、最初からターゲット企業がある程度絞られる場合、20~30社程度のリストになることもあります。

候補となる企業数が100社を超えても、そこからさらに条件を絞り込んで「ショートリスト」を作成することになるため、ロングリスト作成の段階では条件を絞りすぎる必要はありません。ショートリストについてはこのあと詳しく解説していきます。

なお、絶対に譲れない条件などがあることから、最初からターゲット企業がある程度絞られて、20~30社程度しかピックアップされない場合もあります。その場合は、ロングリストとショートリストをきっちり区分けする必要はありません。

■ショートリストとは?

ショートリストとは、ロングリストにまとめられた候補企業のなかから、より事業シナジーやM&Aの実現可能性が高い候補を選び、5~10社程度にまとめたリストのことをいいます。

ロングリストからショートリストへと絞り込む時点で候補から消えた企業とは、交渉を進めることはありません。つまり、ショートリストにまとめた企業は、M&Aにおける交渉や最終面接に進める“本命候補”ということになります。

●ロングリストとショートリストの違い

ロングリストとショートリストは、いずれもターゲット企業を絞り込んでいくために活用するツールですが、作成する目的、候補となる企業数や情報の深度などに明確な違いがあります。

ロングリスト ショートリスト
作成する目的 可能性の洗い出し 交渉・最終面接に進める候補の決定
作成のタイミング M&Aの初期段階 ロングリスト作成後の精査段階
候補となる企業数 数十社~100社以上 5~10社程度
記載する情報 基本的な企業情報 詳細情報(強み・弱み・期待されるシナジー効果など
情報の深度 企業の基本情報 事業の強み・弱み、財務状況の推移、株主構成など
選定基準 基本的・客観的な条件 より具体的かつ詳細な条件
主な活用法 候補企業の整理と把握 具体的な交渉先の決定

▲ロングリスト作成の目的・候補数・情報の深度

ロングリストは、M&Aの相手として少しでも可能性がある企業を網羅して、選択肢を最大化するために作成します。そのため、候補となる企業数は数十社以上、多いと100社以上にも及びます。ただし、それぞれの企業の情報についてはそこまで深堀する必要はなく、企業名、所在地、業種、売上規模といった基本的な情報を中心にまとめていきます。

▲ショートリスト作成の目的・候補数・情報の深度

ショートリストは、実際に交渉・最終面接に進めたい相手を厳選するためのツールです。ロングリストにまとめた候補を厳格な基準で絞り込んでいき、5~10社程度を厳選します。それぞれの企業に関して、事業の強み・弱み、財務状況の推移、株主構成などの情報まで詳しくまとめて記載します。

■M&Aにおけるロングリストの役割とは?

ロングリストは、M&Aの初期段階において、ターゲットとなる企業を抽出・整理するために不可欠なツールです。M&Aを進めることが自社にとってよい選択となるのかどうかを検討するためには、自社のニーズや戦略にはまる企業を見逃すことのないよう、候補となる企業一覧を活用してスクリーニングすることが非常に重要であるためです。

また、企業ごとの特徴などもリストに盛り込んでおけば、優先順位がつけやすくなります。さらに、M&A仲介会社などの関係者と認識を共有するためにも、このリストが役立ちます。

●ロングリスト作成のメリット

ロングリスト作成には、次のようなメリットもあります。

▲業界や市場のトレンドを把握できる

広範な企業データを収集することによって、業界全体の動向や競合他社の戦略、消費者のニーズの変化などを把握できるという複合効果も得られます。市場トレンドや競合他社の動きについても早期に察知することができるため、戦略的優位性を確保しやすくなります。つまり、ロングリストが、経家戦略全般における重要な情報基盤として機能してくれるということです。

▲バイアスを排除したことによって大きく成長できる可能性がある

敢えて幅広い候補をリストアップして、そのすべてに目を通すことによって、特定の業界や企業に対する偏った見方を見直せる可能性があります。つまり、より客観的な視点で企業を評価できるようになるため、結果的に企業の長期的な成功につながる可能性があります。また、先入観をなくしてM&Aの候補先を選んだ結果、予期しなかったシナジー効果や、新たな協力機会を得られる可能性も高まります。

なお、通常の基準では選定される企業ではないものの、独自の技術や市場を持っている企業をロングリストに含めることで、思わぬ発見につながることがあるとされていますが、こうした企業をピックアップすることが、「ワイルドカード枠を設定する」と表現されることがあります。ロングリスト作成の文脈では使われることがある表現なので、覚えておいても損はないでしょう。

●M&Aにおいてロングリストを作成するタイミング

ロングリスト作成を含めた、M&Aプロセス全体の流れは次の表の通りです。

M&Aプロセス 内容
① M&A戦略・目的の策定 どのような企業を探すか決める
② 買収または売却条件・選定基準の設定 業種、規模、地域、シナジーなどを決める
③ ロングリスト作成 条件に合う企業を幅広く抽出する
④ ショートリスト作成 有望企業に絞り込む
⑤ アプローチ(打診) NDA締結・トップ面談など
⑥ 基本合意 LOI・基本合意書
⑦ デューデリジェンス DD実施
⑧ 最終契約・クロージング 買収または売却実行

なぜこのタイミングかというと、まず、ロングリストを作成する前に、M&Aの目的や、ターゲット企業に求める条件などを決める必要があるためです。条件が決まれば、帝国データバンク、東京商工リサーチ、業界データベース、M&Aアドバイザーが保有するデータなどを利用して、候補企業を幅広く抽出して、ロングリストを作成します。

ロングリストが完成したら、ターゲット企業に優先順位をつけて絞り込んでいきながら、ショートリストの作成へと移っていきます。

●【買い手視点】ロングリストは「これからアプローチする潜在層」のリストでもある

買い手企業がM&A仲介会社等にロングリストの作成を依頼した場合、リストに掲載された数十〜100社以上の企業すべてが「今すぐ身売りを考えている企業」というわけではありません。

実務において、買い手向けのロングリストは、これからダイレクトメール(トップレター)や電話でアプローチをおこない、売却の意向があるかを探っていくための「ソーシング(案件発掘)リスト」としての役割を大きく担っています。そのため、「この企業が買いたい」とショートリストに絞り込んだとしても、相手方にまったく売却の意思がなく交渉のテーブルにつけないケースも多々あるという前提を理解しておく必要があります。

■ロングリストに含まれる情報と作成基準

M&Aのロングリストは、買い手候補または売り手候補を幅広く抽出した一覧です。M&Aの初期段階では、「候補を漏れなく洗い出すこと」が目的であり、この段階では完璧に絞り込まず、一定の条件に合致する企業を網羅的にリストアップします。つまり、条件を狭め過ぎないほうが選択肢を最大化できるということになります。

●候補企業の選定軸

ロングリストの作成では、主に以下のような観点から候補企業を選定します。

選定軸 確認する内容 具体例
業種・事業内容 自社との関連性 同業、周辺業界、サプライチェーン企業など
企業規模 売上高・従業員数・資本金など 売上50億~300億円、従業員100~500名など
地域 本社所在地・営業エリア・海外展開など 関東企業、西日本強化、海外進出企業など
シナジー効果 M&A後の相乗効果 販路拡大、技術補完、製品ラインアップ強化など
M&A意欲 過去の買収実績・成長戦略 積極的な買収実績、中期経営計画でM&Aを明記など(詳しく調べなくてもわかる範囲でOK)
経営方針・企業文化 PMIとの親和性 経営理念、人材活用方針など

●ロングリストの件数の目安

前述の通り、ロングリストに記載する企業数は数十~100社以上に及ぶことがあります。「何件以上ピックアップしなくてはならない」などの明確なルールはありませんが、一般的な目安は次の通りです。

M&Aのケース ロングリストの件数
条件が明確な案件 20~30社程度
一般的な中堅・中小企業M&A 30~100社程度
幅広く候補を探索する案件 100~200社程度

なお、先に解説した通り、条件が明確でロングリストの時点で20~30社にまで絞り込まれた場合、ショートリストを新たに作成せず手続きを進めていくこともあります。

■仲介会社・FAなどの専門家はどうやってリスト(ロングリスト・ショートリスト)を作るか

M&A仲介会社やFAなどの専門家は、ロングリスト作成前に、まずはM&Aの目的などを確認します。そのうえでリストアップする基準を決めたら、公開情報だけでなく、独自のデータベースや市場情報も活用しながら、ロングリストを作成していきます。

▲現状の課題を分析する

まずは、買収または売却を検討している企業が、なぜM&Aを検討しているのかを深く理解するために、現状の課題を分析していきます。企業の強み・弱み、競合の状況、市場の状況を把握する前に、政治・経済・社会・技術の「マクロ環境」を把握して、課題の全体像を俯瞰していきます。

▲M&Aの目的を整理する

さらに、ヒアリングを通じて、M&Aの目的、希望する相手像(期待するシナジー効果)、希望条件、そのなかから絶対に譲れない条件などを明確にしていきます。

(例)
・同業へ売却したい
・全国展開企業が望ましい
・従業員の雇用維持を重視
・オーナーの早期引退希望

▲スクリーニング条件を設定する

ヒアリング内容を基に、業種、売上規模、地域、財務状況、成長性、M&A実績などの条件を設定します。スクリーニング条件については、「ロングリストはこうでなくてはならない」というものはないので、各企業で何を重視するかを考えましょう。

▲各種データベースから候補を抽出する

代表的な情報源は次の通りです。

・帝国データバンク
・東京商工リサーチ
・有価証券報告書・決算資料
・業界団体名簿
・官報・商業登記
・仲介会社・FA独自の案件データベース
・過去のM&A成約実績

これらを活用して候補企業を広く抽出します。

▲企業情報をリストにまとめる

抽出した企業情報は、スプレッドシートなどで一覧表に整理します。「企業名」「所在地」「事業内容」「設立年」などの項目を一覧化しておけば、後々、スムーズに比較できます。さらに、「業績の安定性」「成長性」など、定性評価の簡易項目も付け加えておくと、優先順位をつけやすくなります。

M&Aの目的などによっては、評価軸をさらに加えるなどしてカスタマイズすることが大切です。「ロングリストにはここまでしか載せてはいけない」「これ以上の情報はショートリストで扱わなくてはならない」などのルールはないので、臨機応変にまとめていきます。

●ロングリストからショートリストへの絞り込み方

ロングリストで幅広く抽出した候補企業を、その後の打診対象となるショートリストへ絞り込む際には、「買収できる企業か」あるいは「自社を売却できる企業か」だけでなく、「買収後 or 売却後に成功する企業か」という視点が重要になります。

▲絞り込みの評価基準 ①財務力(買収実行能力)

(買収の場合)まず確認すべきは、候補企業に十分な買収余力があるかです。

主な確認項目は次の通りです。

・売上高・営業利益の推移
・現預金残高
・自己資本比率
・借入金の状況
・時価総額(上場企業の場合)
・投資余力・資金調達力

たとえば、譲渡価格が10億円規模の案件であれば、財務体質が弱い企業は候補から外れることがあります。

▲絞り込みの評価基準 ②PMI適性(統合後の運営能力)

PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に組織や業務を統合するプロセスです。PMIが苦手な企業相手では、期待した成果が得られない可能性があります。

主な確認項目は次の通りです。

・過去のM&A実績
・(買収の場合)先方が過去に買収した先との統合成功事例
・グループ会社の管理体制
・人材受入れ能力
・経営陣の統合方針

特に中小企業オーナーは、従業員の雇用維持、既存取引先との関係維持を重視するため、PMI能力は重要な評価ポイントになります。

▲絞り込みの評価基準③ 文化的適合性(企業文化・経営理念)

文化的適合性は、財務条件と同じくらい重視される要素です。

主な確認項目は次の通りです。

・経営理念
・人材マネジメント方針
・意思決定のスピード
・組織風土
・顧客への考え方
・創業者の価値観

たとえば次のような企業の場合、企業文化の相性が悪いと、従業員の離職や顧客離れにつながるリスクがあります。

・地域密着型企業
・ファミリー企業
・職人気質の製造業

▲絞り込みの評価基準④ シナジーの実現可能性

(例)
・販路拡大が見込めるか
・技術補完ができるか
・クロスセルが可能か
・重複コスト削減が可能か

単に「同業だから」という理由ではなく、実際に企業価値向上につながるかを検討します。

▲絞り込みの評価基準⑤ M&A実行可能性

次のような点をチェックすることも大切です。

・M&A方針を公表しているか
・過去に買収実績があるか
・オーナーの意思決定が早いか
・競争法上の問題がないか

条件が良くても、買収意欲が低い企業は優先順位が下がります。

■(売却の場合)売り手サイドから見た優先順位のつけ方

売り手がショートリスト内で優先順位を付ける際は、価格のみを判断材料としないのが賢明です。

▲譲渡価格

もっとも分かりやすい評価軸は価格ですが、最高値の企業が必ずしも最優先とは限らないことを頭に入れておきましょう。価格以外に優先すべきポイントについてはこのあと解説していきます。

なお、価格に関する確認ポイントは次の通りです。

・希望価格を満たせるか
・現金決済か
・アーンアウトの有無
・スキームの複雑さ

▲従業員の雇用維持

中小企業オーナーが特に重視する項目です。

確認ポイントは次の通りです。

・リストラ方針の有無
・労働条件の維持
・福利厚生制度
・人材育成方針

「従業員を守りたい」という理由で、価格よりも雇用維持を優先するケースも少なくありません。

▲企業文化・理念の相性

オーナー経営企業においては、非常に重要なポイントです。

たとえば、次のような価値観を共有できる企業は優先順位が高くなります。

・顧客第一主義
・地域貢献
・技術重視

▲事業の成長可能性

売却後の会社の発展を重視するケースです。

確認ポイントは次の通りです。

・販路拡大
・海外展開
・新規事業支援
・技術投資

特に、後継者不在型M&Aにおいては、「会社をより成長させてくれる相手か」が重視されます。

▲経営者の処遇

オーナーが引き続き会社に残る場合に関しては、非常に重要なポイントです。

次のポイントについて確認することが大切です。

・残留期間
・役職
・権限
・報酬条件

経営者保証の解除や個人資産の整理なども、優先順位に大いに影響します。

●実務でよく使われる評価項目の例

ショートリスト作成時には、次のような評価表(スコアリングシート)を用いることがあります ※点数の配分は一例です。

評価項目 配点例
財務力 25点
シナジー 25点
PMI能力 15点
M&A意欲・実績 10点
企業文化の適合性 15点
雇用維持・経営方針 10点
合計 100点

なお、このような定量評価に加えて、オーナーの意向や仲介会社・FAの経験則を踏まえつつ、最終的なショートリストを決定するのが一般的です。

■売り手がロングリストを確認・承認する際のポイント

ロングリストは、M&Aアドバイザーや仲介会社が作成しますが、実際にどの企業へアプローチするかを決めるのは買い手または売り手です。

売却の場合、売り手は候補企業を単に「買ってくれそうな会社」という視点だけでなく、情報漏洩リスクや事業への影響も考慮して確認・承認する必要があります。

売り手が確認すべき主なポイントを確認していきましょう。

▲自社の希望条件に合っているか

まずは、次のような基本条件を確認します。

・希望する業種か
・希望する企業規模か
・財務的な買収余力がありそうか
・自社とのシナジーが期待できるか
・従業員や取引先を大切にしてくれそうか

特にオーナー企業では、譲渡価格だけでなく「誰に会社を託すか」という視点を持つことが重要です。

▲情報漏洩リスクが高い企業はないか

ロングリストに含まれている企業は、いくら魅力的であっても、情報漏洩のリスクが高いという懸念点がある場合があります。

たとえば、次のような企業は情報漏洩リスクが高い場合があります。

・最大の競合企業
・主要取引先
・主要仕入先
・重要顧客
・過去にトラブルのあった企業
など

こうした企業は、売り手側が個別に除外を希望することがあります。逆にいうと、売り手側が除外を希望したほうがいい場合があります。

▲売却後の事業運営に不安がないか

「高値で売れる」ことと「安心して任せられる」ことは別問題であるため、次の点についても確認することが大切です。

・買収後の統合方針
・従業員への対応
・ブランド維持の可能性
・地域拠点の存続

●競合他社や取引先が含まれるケースへの対処法

▲競合他社が含まれる場合

競合企業はシナジーが大きく、買収意欲も高いことが多いため、ロングリストに含まれることがあります。

しかし一方で、次のようなリスクがあります。

・売却検討情報が漏れる
・従業員が動揺する
・取引先へ噂が広がる
・営業活動に利用される

といったリスクがあります。

そのため実務では、一般的に次のように対処します。

・方法① ロングリストには載せるが優先順位を下げる

まずは候補として残しつつ、他の候補を優先して打診します。

・方法② 完全に除外する

最初から対象外とします。

・方法③ 最終段階まで匿名性を維持する

ノンネームシートのみを送付して、相手の関心を確認してから次の段階へ進めます。

▲主要取引先が含まれる場合

取引先は事業内容を理解しているため、有力な候補になることがあります。

たとえば、販売代理店、フランチャイズ本部、主要仕入先、OEM委託先などがその例です。

ただし、既に関係性があることから、取引条件の見直しや値下げ交渉、契約更新への影響などが生じる可能性があります。

そのため、次のような対応が検討されます。

・アプローチのタイミングを慎重にする
・NDA締結後にのみ詳細開示する
・最終候補になってから打診する

●秘密保持の観点から注意すべきこと

M&Aでは、「会社を売却しようとしている」という情報自体が重要な機密情報です。

情報が漏洩すると、次のようなことが起こり得ます。

・従業員の離職

従業員が経営の安定性に対して不安を覚えて、離職する恐れがあります。とりわけ優秀な人材が先陣を切って離職する可能性が高いので注意が必要です。

・取引先との関係悪化

「会社を売却するようだ」という情報が取引先のミニに入ると、取引停止や条件見直しを要求される場合があります。

・金融機関の警戒

金融機関から「業績が悪いのでは?」と判断されると、M&Aに必要な資金を調達しにくくなる可能性があります。

・競合の攻勢

競合他社が、取引先へのアプローチを強めるなどの妨害行為をおこなってくる可能性が出てきます。

・風評被害

「あの企業は経営不振らしい」などの根拠のないうわさが広まると、企業イメージが低下する可能性があります。また、これによって顧客離れが起きるリスクも考えられます。

これらの対策として、次のようなことを検討することが大切です。

▲ノンネームシートの活用と「ネームクリア」の徹底
初期打診では通常、企業名を伏せた「ノンネームシート(ティーザー)」を使用します。

(記載例)
・業種
・売上規模
・所在地域(都道府県レベルまでなど特定されない範囲)
・特徴・強み
・譲渡理由
など

会社名や、特定につながる可能性のある詳細な情報は厳格に伏せます。そして、このノンネームシートを見た買い手候補が「詳細を知りたい」と関心を示した場合、M&Aアドバイザーは必ず売り手企業に対して「A社(買い手候補)に御社の実名を開示してもよいか」という確認を取ります。

M&A実務では、このように実名を開示する許可を得るプロセスを「ネームクリア」と呼びます。売り手がネームクリアを承認してはじめて、買い手と秘密保持契約(NDA)を締結し、実名や詳細な財務情報が記載された企業概要書(IM)が開示される仕組みになっています。このネームクリアのプロセスがあることで、売り手は「情報を知られたくない競合他社」への情報流出を防ぐことができます。

▲NDA(秘密保持契約)締結前は詳細情報を出さない

候補企業が関心を示しても、秘密保持契約(NDA)を締結するまでは、次の情報については開示しません。

・会社名
・顧客名
・取引条件
・従業員情報
・技術情報

なお、一般的な流れは次のとおりです。

・①ロングリスト作成
・②ノンネームシート送付
・③関心表明
・④NDA締結
・⑤企業概要書(IM)開示
・⑥面談・DD

▲社内でも情報共有範囲を限定する

秘密保持は社外だけの問題ではありません。そのため、共有範囲を最小限にすることが大切です。

具体的には、次のような範囲にとどめるケースが多いです。

・オーナー経営者
・CFO
・経理責任者
・M&A担当役員

プロジェクトメンバー以外には、基本合意後やクロージング直前まで知らせないことも珍しくありません。

なお、情報共有範囲を限定することと併せて、デジタルセキュリティを強化してアクセス管理を徹底することや、情報の持ち出しに制限をかけることも大切です。

●≪実務上のチェックリスト≫

ロングリスト承認時には、売り手は次の点を確認するのが一般的です。

□競合企業が含まれていないか
□主要顧客・主要取引先が含まれていないか
□過去に問題のあった企業が含まれていないか
□財務的に買収可能な企業か
□企業文化や経営理念に大きな違和感はないか
□情報漏洩リスクが高い企業はないか
□NDA締結前に開示する情報範囲は適切か

この確認をおこなったうえでロングリストを承認して、その後、ショートリスト化や候補企業への初期打診へ進むのが一般的なM&Aプロセスです。

■ロングリスト・ショートリスト作成の依頼先

M&Aを成功に導くためには、専門的な知見をもとにターゲット業者を選定することがとても大切です。そのため、ロングリスト・ショートリストの作成に関しても、自社で完結させるのではなく、外部の専門機関に依頼することが賢明な場合があります。

次のような依頼先があるので、自社での対応ハードルが高いと感じた場合、相談を検討してみるといいでしょう。

●M&A仲介会社・FA

もっとも一般的な依頼先は、M&A仲介会社あるいはFAです。なぜかというと、M&A仲介会社やFAは独自の企業情報データベースや広範なネットワークを有しているためです。つまり、一般には公開されていない売却希望案件なども期待できるということです。

また、M&Aのサポート経験が豊富であれば、戦略に合致した候補企業の選定だけでなく、その後の交渉に至るまで強力にサポートしてくれます。

●金融機関

地方銀行やメガバンク、証券会社などの金融機関は、地域に根差した情報を豊富に有しています。そのため、取引先ネットワークを活かした候補企業の紹介が期待できます。特に、日ごろからつきあいのある金融機関は、自社の事業内容や財務状況までよく理解してくれているため、マッチングしやすい企業を紹介してくれる可能性が高いといえます。また、事業承継に関する問題を抱えている企業などについての情報も豊富に有している可能性が高いので、まずは気軽に相談してみるといいでしょう。

●コンサルティングファーム

特定の業界における業者を選定したい場合をはじめ、より戦略的な視点が必要な際には、業界特化型のコンサルティングファームや、経営コンサルティングファームへの相談がおすすめです。

なぜかというと、業界動向や市場分析スキルに長けていて、客観的な視点からパートナー候補のリストアップおよび評価をおこなってくれるので、ロングリスト作成前の、戦略策定段階から関与してもらうのも一手です。

●商工会議所

地域内にエリアを絞って買収先・売却先を探す小規模なM&Aの場合、商工会議所にサポートしてもらうという選択肢もあります。なぜかというと、地域の中小企業の情報を豊富に有しているためです。ただし、商工会議所はM&Aの専門家ではないため、“地域内で候補となる会社のリストアップのみおこなってもらいたい場合”にのみ利用価値があるといえます。

■ロングリスト作成においては、明確な基準を策定してきちんと情報を管理することが大切

ロングリスト作成は、M&Aの初期段階においてターゲット企業を網羅するための大切なプロセスです。先に解説した通り、広く可能性を探る段階だからこそ、条件を絞りすぎないことは大切ですが、だからといって大まかな条件に引っかかる企業はすべて拾っていくのが正解というわけではありません。明確な選定基準を設けて、ピックアップした企業の情報をわかりやすく整理することによって、ショートリストに残す企業の選定がしやすくなります。また、それによってM&Aの成功率がぐっと高まるので、精度の高いロングリストを作成できる専門家を頼ってみることを検討するのもいいかもしれません。

執筆 ジョブカンM&A編集部

ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


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