会社を株式譲渡で売却した経営者が、翌年の確定申告で必ず書くことになるのがこの明細書である。正式名称は第18号様式「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」で、国税庁の様式は令和7年分以降用として改訂されている。
この明細書でつまずく理由は、様式が難しいからではない。書く順番が様式の見た目と逆で、しかも非上場株式は「一般株式等」の列に書くという区分を取り違えると、すべての数字が別の列に流れてしまうからである。
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この明細書はいつ要るか
上場株式を特定口座(源泉徴収あり)で売っただけなら、そもそも確定申告が要らない。この明細書を書くことになるのは、証券会社が源泉徴収してくれない譲渡があったときである。
| 譲渡したもの | 区分 | 明細書は要るか |
|---|---|---|
| 非上場株式(自社株を含む) | 一般株式等 | 必ず要る。特定口座に入らないため源泉徴収されない |
| 上場株式(特定口座・源泉徴収あり) | 上場株式等 | 申告不要を選べば不要 |
| 上場株式(一般口座) | 上場株式等 | 要る |
| 上場株式(相対取引) | 上場株式等 | 要る。括弧書きでの内書きが必要 |
| 公社債・投資信託の償還 | 区分により分かれる | 源泉徴収の有無で判断する |
M&Aで会社を売った場合、譲渡したのは非上場株式なので「一般株式等」に当たる。買い手が法人でも個人でも、売り手が個人であればこの明細書を書く。
一般株式等と上場株式等は通算できない
明細書の1面が2列に分かれているのはこのためである。一般株式等の損失と上場株式等の利益は相殺できない。様式の注記にも、繰越損失の欄について「⑫欄の金額を『一般株式等』から控除することはできません」と明記されている。
上場株式で過去に出した損失の繰越があっても、自社株の売却益からは引けない。ここを取り違えて税額を試算すると、実際の納税額と大きくずれる。
様式の構成と書く順番
1面と2面の2ページ構成だが、記入は2面から始める。
| 面 | 何を書くか |
|---|---|
| 1面 | 1 所得金額の計算。①から⑬までの丸数字で所得と税額の基礎を計算する |
| 2面(上) | 2 申告する特定口座の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の合計。証券会社ごとの口座単位 |
| 2面(下) | 【参考】特定口座以外で譲渡した株式等の明細。銘柄ごと・取引ごとの明細 |
非上場株式を売った人が書くのは、2面の下にある【参考】欄である。ここの合計が1面の①④⑤へ流れる。順番を逆にして1面から埋めると、2面の合計と食い違う。
2面【参考】欄の記入例
自社株を譲渡した場合、次のように書く。
| 欄 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 区分 | 一般株式等か上場株式等か | 「一般株式等」に○ |
| 譲渡年月日 | 決済した日 | 令和7年6月30日 |
| 譲渡した株式等の銘柄 | 会社名 | 株式会社○○ |
| 数量 | 譲渡した株数 | 1,000株 |
| 譲渡先の名称・所在地等 | 買い手 | △△株式会社(東京都○○区…) |
| 譲渡による収入金額 | 譲渡代金 | 80,000,000円 |
| 取得費(取得価額) | 取得に要した金額 | 3,000,000円 |
| 譲渡のための委託手数料 | 証券会社への手数料 | 仲介手数料はここに書かない(後述) |
| 取得年月日 | 株式を取得した日 | 設立時なら設立年月日 |
譲渡先の欄は空欄にしない。証券会社を介さない相対取引でも、買い手の名称と所在地を書く。
仲介手数料やアドバイザリー報酬はどこに書くか
2面の欄名は「譲渡のための委託手数料」である。M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーへの報酬は、証券会社への委託手数料とは別物なので、この欄ではなく1面の⑥欄(名称のない空欄)に「譲渡費用」などと記載して計上するのが実務である。
譲渡費用として認められるのは、その譲渡のために直接要した費用に限られる。売却を決める前の一般的な経営相談料や、譲渡後の税理士報酬は含まれない。契約書と請求書で、いつ・何のための費用かを示せるようにしておく。
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1面の丸数字を上から追う
| 欄 | 名称 | 書くこと |
|---|---|---|
| ① | 譲渡による収入金額 | 2面の合計を転記。一般株式等の列へ |
| ② | その他の収入 | 該当がなければ空欄 |
| ③ | 小計(①+②) | 申告書第三表の㋠欄(一般株式等)へ転記 |
| ④ | 取得費(取得価額) | 2面の合計を転記 |
| ⑤ | 譲渡のための委託手数料 | 2面の合計を転記 |
| ⑥ | (空欄) | 譲渡費用をここに書く。仲介報酬・印紙代など |
| ⑦ | 小計(④から⑥までの計) | 必要経費の合計 |
| ⑧ | 特定管理株式等のみなし譲渡損失の金額 | 上場株式の特例。非上場なら空欄 |
| ⑨ | 差引金額(③−⑦−⑧) | 所得の素の数字 |
| ⑩ | 特定投資株式の取得に要した金額等の控除 | エンジェル税制の適用者のみ |
| ⑪ | 所得金額(⑨−⑩) | 申告書第三表へ転記 |
| ⑫ | 本年分で差し引く上場株式等に係る繰越損失の金額 | 上場株式等の列だけ。一般株式等からは引けない |
| ⑬ | 繰越控除後の所得金額(⑪−⑫) | 申告書第三表へ |
赤字になったときの書き方が列によって違う。一般株式等が赤字なら0と書く。上場株式等が赤字なら△を付して書く。様式にそのまま注記されている。
取得費をどう決めるか
非上場株式の申告で税額が最も動くのがこの欄である。先代から相続した株式、設立時に払い込んだ株式、増資で引き受けた株式が同居していることが多く、証憑が残っていない。
| 取得費の決め方 | 条件 | 金額 |
|---|---|---|
| 実額 | 払込金額や購入代金を証憑で示せる | その金額 |
| 概算取得費 | 取得費が不明なとき | 譲渡による収入金額の5% |
実額が分かっていても、概算取得費5%のほうが大きければそちらを使える。設立時の資本金が小さい会社ほど、5%のほうが有利になる。
計算例
譲渡代金8,000万円、設立時の払込300万円(証憑あり)、M&A仲介報酬400万円のケースで比べる。
| 実額取得費を使う | 概算取得費5%を使う | |
|---|---|---|
| ① 譲渡による収入金額 | 80,000,000円 | 80,000,000円 |
| ④ 取得費 | 3,000,000円 | 4,000,000円(8,000万×5%) |
| ⑥ 譲渡費用 | 4,000,000円 | 4,000,000円 |
| ⑦ 必要経費の計 | 7,000,000円 | 8,000,000円 |
| ⑪ 所得金額 | 73,000,000円 | 72,000,000円 |
| 税額(20.315%) | 14,829,950円 | 14,626,800円 |
差は203,150円である。取得費が譲渡代金の5%を下回る会社では、概算を選ぶほうが納税額が小さくなる。資本金300万円で設立した会社を8,000万円で売れば、この関係になる。
税率20.315%の内訳は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%である。申告分離課税なので、給与所得や役員報酬と合算されず、累進税率もかからない。
明細書を書く前のチェックリスト
- [ ] 譲渡した株式が一般株式等か上場株式等かを確定した
- [ ] 令和7年分以降用の様式(第18号)を使っている
- [ ] 2面の【参考】欄から書き始めた
- [ ] 2面の合計が1面の①④⑤と一致している
- [ ] 取得費の証憑(払込証明・株式譲渡契約書・登記簿)を集めた
- [ ] 実額取得費と概算取得費5%を比べて有利なほうを選んだ
- [ ] 仲介報酬を⑤ではなく⑥に計上した
- [ ] 譲渡費用の請求書が「その譲渡のため」と読めるか確かめた
- [ ] 上場株式等の繰越損失を一般株式等の所得に充てていない
- [ ] ③⑪⑬を申告書第三表の該当欄へ転記した
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よくある質問
Q. 代金を分割で受け取る場合、どの年に申告するか。
譲渡所得の収入すべき時期は、原則として引渡しがあった日である。代金の受領時期ではない。契約日を選ぶこともできるが、分割払いでも譲渡した年に全額を収入金額として申告するのが原則になる。
Q. アーンアウト(業績連動の追加対価)はどう扱うか。
後から金額が確定する部分は、確定した年の収入として扱うか、当初の譲渡対価に含めるかで税務上の判断が分かれる。契約の書き方によって結論が変わるため、契約段階で税理士に確認しておく。
Q. 相続した株式の取得費は。
被相続人の取得費を引き継ぐ。相続税評価額ではない。先代が設立時に払い込んだ金額まで遡る必要があり、証憑が残っていなければ概算取得費5%を使う。
Q. 譲渡損失が出たら翌年に繰り越せるか。
一般株式等の譲渡損失は繰り越せない。繰越控除の対象は上場株式等に限られ、しかも金融商品取引業者を通じた譲渡であることが条件になる。
Q. 明細書だけ出せばよいか。
明細書は計算の内訳である。確定申告書本体と第三表(分離課税用)に転記して、セットで提出する。
まとめ
株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書は、区分を間違えなければ機械的に埋まる様式である。
- 非上場株式を売った場合は「一般株式等」の列に書く
- 記入は2面の【参考】欄から。その合計が1面の①④⑤へ流れる
- 一般株式等と上場株式等は通算できない。繰越損失も引けない
- 取得費は実額と概算5%の有利なほうを選べる
- M&A仲介報酬は⑤ではなく⑥欄に譲渡費用として計上する
- 税率は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)の申告分離課税
参考・一次情報
- 国税庁 第18号 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(令和7年分) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/pdf/r07_joto_18-1.pdf
- 国税庁 令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた(記載例) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/kisairei/kabushiki/index.htm
- 国税庁 確定申告書等の様式・手引き等(令和7年分) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/r07.htm
- 国税庁 株式・配当・利子と税 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_5.htm
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
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