事業譲渡の消費税|課税・非課税の判定表と、のれん・按分・インボイスの実務

事業譲渡は、会社の中の「事業」を資産・負債・契約ごとに切り出して売る手法である。株式譲渡と違い、消費税の計算が資産ごとに発生する。

見落とすと、買い手は想定外の消費税分の資金を用意することになり、売り手は納税資金が足りなくなる。価格交渉で「税込か税抜か」を詰めていないと、数百万円単位のずれが生じる。

本稿では、判定表と数値例で実務の論点を整理する。税務の個別判断は、必ず税理士など専門家に確認してほしい。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

目次
  1. 事業譲渡は「資産の一括譲渡」として扱われる
  2. 資産別の判定表
  3. 数値例:資産ごとに対価を決めた場合
  4. 対価を一括で決めた場合の按分
  5. 売り手が確認すること
    1. 課税売上割合が下がり、仕入税額控除が減ることがある
    2. 簡易課税なら、固定資産の売却は第四種事業
    3. 基準期間の課税売上高が膨らむ
  6. 買い手が確認すること
    1. インボイスを受け取れるか
    2. 売り手が免税事業者の場合
    3. 買い手が簡易課税・免税事業者の場合
  7. 株式譲渡・合併との比較
  8. よくある質問
    1. Q1. 事業譲渡で引き継ぐ負債は、消費税の計算で差し引けるか
    2. Q2. のれんが帳簿にない場合も消費税はかかるか
    3. Q3. 個人事業主から事業を買うときに気をつけることは
  9. まとめ
  10. 参考

事業譲渡は「資産の一括譲渡」として扱われる

国税庁の質疑応答事例は、営業権・土地・建物・債権債務を含めた事業(営業)の譲渡について、次の考え方を示している。

  • 事業の譲渡は、課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものと認められる
  • 課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分し、課税資産の部分にだけ消費税を課す

同事例では、土地20億円・営業権10億円・有形固定資産10億円を譲渡し、預り保証金5,000万円を差し引いて39億5,000万円を支払うケースで、課税対象は20億円(営業権+有形固定資産)とされている。負債を差し引いた支払額ではなく、資産側の課税資産の価額で考える点が要である。

資産別の判定表

移転する資産・負債 消費税 根拠・補足
建物・構築物 課税 事業用資産の譲渡
機械設備・車両・工具器具備品 課税 同上
商品・製品などの棚卸資産 課税 同上
のれん(営業権) 課税 権利などの無形資産も「資産」に含まれる
特許権・商標権・ソフトウェア 課税 同上
土地・借地権 非課税 土地の上に存する権利を含む
株式などの有価証券 非課税 子会社株式を事業と一緒に移す場合も同じ
売掛金・貸付金などの金銭債権 非課税 有価証券等の譲渡の一類型
現金・預金 非課税 支払手段・預金債権
買掛金・借入金などの負債の引継ぎ 対価の一部 負債を引き受ける分だけ現金の支払が減るが、課税資産の対価の額は資産側で考える
従業員の雇用契約 対象外 資産の譲渡ではない

のれんが課税であることを見落とす例が多い。事業の収益力を評価して上乗せした部分は、帳簿に載っていなくても譲渡対価に含まれ、消費税の対象になる。

数値例:資産ごとに対価を決めた場合

仮の事業譲渡で計算する。数字は説明用の架空値で、税抜で表示する。

資産 譲渡対価 消費税
土地 3,000万円 非課税
建物 2,000万円 課税
機械設備・車両 1,000万円 課税
商品在庫 500万円 課税
売掛金 1,500万円 非課税
のれん(営業権) 2,000万円 課税
合計 1億円 課税対象5,500万円

課税資産は5,500万円なので、消費税(地方消費税を含む10%)は550万円になる。買い手は対価1億円に加えて550万円を支払い、売り手はこれを申告・納付する。

契約書で「譲渡対価1億円(税込)」とだけ書くと、この550万円をどちらが負担するのかで争いになる。資産ごとの内訳と、消費税を別に上乗せするのかを明記しておく。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

対価を一括で決めた場合の按分

事業全体を「1億円」とだけ決め、資産ごとに区分していない場合は、消費税法施行令45条3項により、譲渡時の時価の比率で按分する。

例として、一括対価1億円(課税資産部分は税込で受け取るものとする)、時価が土地4,000万円・課税資産6,000万円だったとする。

  • 課税資産に対応する対価:1億円 × 6,000万円 ÷ 1億円 = 6,000万円(税込)
  • 課税標準:6,000万円 × 100/110 ≒ 5,454万5千円
  • 消費税額等:約545万5千円

区分の仕方で納める消費税が変わる。土地の比率を不自然に高くして課税部分を小さくする区分は、合理的な区分と認められないおそれがある。不動産鑑定や固定資産税評価額など、説明できる根拠で按分する。

売り手が確認すること

課税売上割合が下がり、仕入税額控除が減ることがある

原則課税の売り手では、土地などの非課税売上が一度に大きく入ると課税売上割合が下がる。課税売上割合が95%未満になると、仕入れにかかった消費税を全額は控除できず、個別対応方式か一括比例配分方式での計算になる。課税売上高が5億円を超える事業者も同様である。

例として、通常の課税売上2億円の会社が、先の数値例で課税資産5,500万円・土地3,000万円を譲渡すると、課税売上割合は約89.5%まで下がる。

一方で、売掛金など、資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権の譲渡は、課税売上割合の分母に含めない(消費税法施行令48条2項2号)。有価証券の譲渡は対価の5%だけを分母に入れる(同条5項)。

個別対応方式で計算する場合は、事業の実態に応じて合理的に算定した「課税売上割合に準ずる割合」を、税務署長の承認を受けて使える(消費税法30条3項)。承認を受けた日の属する課税期間から適用されるので、譲渡の前に税理士と確認する。

簡易課税なら、固定資産の売却は第四種事業

簡易課税を選んでいる売り手では、事業区分ごとのみなし仕入率で計算する。自己が使用していた固定資産等の譲渡は第四種事業(みなし仕入率60%)に当たる(消費税法基本通達13-2-9)。

先の例で建物・機械設備の3,000万円なら、売上に係る消費税300万円のうち60%がみなし仕入れとなり、差引の納付額はおおむね120万円である。棚卸資産は本来の事業区分で扱う。のれんなど無形資産の区分は事案により判断が分かれうるので、専門家に確認する。

基準期間の課税売上高が膨らむ

事業譲渡の年の課税売上高は、2年後の課税期間の「基準期間の課税売上高」になる。簡易課税(基準期間5,000万円以下)が使えなくなる、免税事業者に戻れないといった影響が出る。事業の一部だけ売って会社を続ける場合に効いてくる。

買い手が確認すること

インボイスを受け取れるか

原則課税の買い手は、売り手から適格請求書(インボイス)を受け取れば、支払った消費税を仕入税額控除できる。先の例なら550万円である。

売り手が免税事業者の場合

売り手が免税事業者(例えば売上1,000万円以下の個人事業主)でインボイスを発行できないと、買い手は原則として控除できない。経過措置により一定割合は控除できるが、令和8年度税制改正で次のように見直された。

課税仕入れの時期 控除できる割合
2023年10月1日〜2026年9月30日 80%
2026年10月1日〜2028年9月30日 70%
2028年10月1日〜2030年9月30日 50%
2030年10月1日〜2031年9月30日 30%
2031年10月1日以降 控除不可

さらに、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の相手先からの課税仕入れが年(事業年度)で1億円(税込)を超える部分には経過措置が使えない(改正前は10億円)。

課税資産の対価が5,500万円(税込扱い)なら、消費税相当は500万円で、70%の350万円しか控除できない。差の150万円は買い手のコスト増になるので、価格交渉に織り込む論点になる。

買い手が簡易課税・免税事業者の場合

買い手が簡易課税なら、支払った消費税の額にかかわらずみなし仕入率で計算するため、事業譲受で払った消費税は実額では控除されない。免税事業者の買い手はそもそも控除できない。消費税の550万円は、そのまま取得コストになる。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

株式譲渡・合併との比較

手法 消費税 補足
事業譲渡 課税資産部分にかかる 資産ごとの判定が要る
株式譲渡(個人株主が売る) かからない 事業として行う取引ではないため課税対象外
株式譲渡(法人株主が売る) 非課税 対価の5%を課税売上割合の分母に入れる
合併・会社分割 一般に課税対象外とされる 包括承継であり、個別の資産の譲渡と異なる

株式譲渡では会社そのものの持ち主が変わるだけで、会社が持つ資産は動かない。消費税の負担を避けたいという理由だけで手法を選ぶのではなく、許認可の引継ぎや簿外債務のリスクと合わせて比べる。

よくある質問

Q1. 事業譲渡で引き継ぐ負債は、消費税の計算で差し引けるか

差し引かない。国税庁の質疑応答事例では、預り保証金を差し引いた支払額ではなく、営業権と有形固定資産の価額が課税対象とされている。負債の引継ぎは現金の支払を減らすが、課税資産の対価の額は資産側で考える。

Q2. のれんが帳簿にない場合も消費税はかかるか

かかる。事業の収益力を評価して譲渡対価に上乗せした部分は営業権の対価であり、課税資産の譲渡に当たる。契約書でのれん部分をいくらとするかを決めておくと、按分の争いを避けやすい。

Q3. 個人事業主から事業を買うときに気をつけることは

売り手がインボイス発行事業者かを確認する。免税事業者なら、2026年10月1日以後は経過措置の控除割合が70%に下がり、一の相手先から年1億円を超える部分は対象外になる。控除できない分を価格に反映するかを交渉で決める。

まとめ

  • 事業譲渡は資産の一括譲渡であり、課税資産の部分にだけ消費税がかかる
  • 建物・設備・在庫・のれんは課税、土地・有価証券・売掛金は非課税である
  • 対価を区分しないと時価比で按分されるので、資産ごとの内訳と税の上乗せを契約書に明記する
  • 売り手は課税売上割合・簡易課税の区分・基準期間への影響を、買い手はインボイスの有無を確認する
  • 2026年10月以後、免税事業者からの仕入れは控除割合が70%に下がり、1億円超の部分は対象外になった

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

参考

  • 国税庁 質疑応答事例「営業の譲渡をした場合の対価の額」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/14/01.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
  • 国税庁「消費税法基本通達 第13章第2節(13-2-9)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/13/02.htm
  • 国税庁「消費税法基本通達 第5章第1節 通則(5-1-3 資産の意義)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/01.htm
  • 国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス関係)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm
  • e-Gov法令検索「消費税法(30条)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108
  • e-Gov法令検索「消費税法施行令(45条・48条)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/363CO0000000360

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


他の関連記事はこちら