ROE(自己資本利益率)は、当期純利益÷自己資本×100で計算します。株主が出したお金と、会社が貯めてきた利益を使って、1年でどれだけ利益を出したかを示す数字です。
決算書が手元にあれば、数字を2つ拾うだけで計算できます。ただし、ROEは「高ければ良い」とは限りません。自己資本を減らすだけでも数字は上がるからです。会社を売る前に見直すなら、ROEの数字そのものより、どの要素が数字を作っているかを確かめる必要があります。
この記事では、ROEの計算式と決算書のどこを見るか、計算例、デュポン分解で弱い要素を見つける方法、ROAとの違い、中小企業の水準の目安を整理します。そのうえで、M&Aの買い手がROEをどう読むか、売却前にROEを上げる打ち手のうち「改善すべき」「見かけだけ」「気にしなくてよい」を判定表で分けます。
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ROEの計算式と決算書で使う数字
ROEの計算式は次のとおりです。
ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100
分子と分母は、決算書の次の場所から拾います。
| 計算式の項目 | 決算書の場所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 損益計算書の一番下の「当期純利益」 | 法人税等を引いた後の利益。経常利益や税引前当期純利益ではない |
| 自己資本 | 貸借対照表の「純資産の部合計」 | 新株予約権がある会社は、その額を差し引く |
中小企業で新株予約権を出している会社は多くないため、純資産の部合計をそのまま自己資本として使えば足ります。
分母を「期末の純資産」にするか「期首と期末の平均」にするかは、統計によって違います。中小企業庁の中小企業実態基本調査は当期純利益÷純資産で計算し、財務省の法人企業統計調査は純資産(新株予約権を除く)の期首・期末平均を使っています。自社の数字を毎年追うだけなら、どちらかに決めて毎年同じ方法で計算することが大事です。この記事の計算例は期末の純資産を使います。
債務超過(純資産がマイナス)の会社は、ROEを計算しても意味のある数字になりません。先に純資産をプラスに戻すことが課題になります。
ROEの計算例(売上5億円の会社)
次の決算の会社(A社)で計算します。
| 項目 | 金額 | 決算書の場所 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5億円 | 損益計算書 |
| 当期純利益 | 1,500万円 | 損益計算書 |
| 総資産 | 4億円 | 貸借対照表(資産の部合計) |
| 純資産 | 1億5,000万円 | 貸借対照表(純資産の部合計) |
ROE=1,500万円÷1億5,000万円×100=10.0%
A社は、株主の持ち分1億5,000万円に対して、1年で1,500万円の利益を出したことになります。
期首の純資産が1億4,000万円だった場合、期首・期末平均で計算すると、1,500万円÷1億4,500万円×100=約10.3%です。利益を配当せずに貯めている会社ほど、期末の純資産で計算したROEは平均で計算するより低めに出ます。
デュポン分解でROEの弱い要素を見つける
ROEが10%と分かっても、それだけでは何を直せばいいか分かりません。そこで、ROEを3つの比率のかけ算に分けます。これをデュポン分解と呼びます。
ROE=売上高純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
| 要素 | 計算式 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 当期純利益÷売上高 | 売上から最終的にどれだけ利益を残せるか(稼ぐ力) |
| 総資産回転率 | 売上高÷総資産 | 持っている資産でどれだけ売上を作れているか(資産の使い方) |
| 財務レバレッジ | 総資産÷自己資本 | 自己資本の何倍の資産を、借入などを使って動かしているか(借入への依存) |
3つをかけると、売上高と総資産が打ち消し合い、当期純利益÷自己資本だけが残ります。
A社のデュポン分解の計算例
| 要素 | A社の計算 | A社の値 | 中小企業全体(令和6年度決算) |
|---|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 1,500万円÷5億円 | 3.0% | ― |
| 総資産回転率 | 5億円÷4億円 | 1.25回 | 1.07回 |
| 財務レバレッジ | 4億円÷1億5,000万円 | 2.67倍 | 2.23倍 |
| ROE | 3.0%×1.25×2.67 | 10.0% | 10.92% |
※中小企業全体の値は中小企業庁「令和7年中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報」の法人企業合計。同調査は利益率を経常利益で出しているため、売上高純利益率の欄は空けています。
A社は、総資産回転率が全体より高く、資産はよく回っています。財務レバレッジも全体より高い、つまり借入を多く使っています。それでもROEが全体をやや下回るのは、売上高純利益率が低いからだと読めます。A社が直すべきは、借入を増やすことではなく、価格設定や原価・販管費の見直しです。
仮に売上高純利益率を3.0%から4.0%に上げると、ROEは4.0%×1.25×2.67=約13.3%になります。借入を増やさずにROEが上がるので、買い手からも評価されやすい上げ方です。
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ROEとROAの違いは「借入の効果」を含むかどうか
ROA(総資産利益率)は、当期純利益÷総資産×100で計算します。分母が自己資本ではなく、借入も含めた総資産です。
| 指標 | 分母 | 答える問い | A社の値 |
|---|---|---|---|
| ROE | 自己資本 | 株主のお金でどれだけ稼いだか | 10.0% |
| ROA | 総資産 | 会社の資産全体でどれだけ稼いだか | 3.75% |
2つの関係は、ROE=ROA×財務レバレッジです。A社なら3.75%×2.67倍=10.0%になります。
つまり、ROAが同じでも、借入を増やせばROEは上がります。ROEが高いのにROAが低い会社は、借入の多さでROEを押し上げている会社です。自社のROEを見るときは、ROAと並べて「稼ぐ力で出したROEか、借入で出したROEか」を確かめてください。
ROAは分子に経常利益や営業利益を使う計算もあります。比べる相手と同じ利益を使うようにしてください。
中小企業のROEの目安(業種別)
中小企業庁の「令和7年中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報」では、中小企業(法人企業)全体のROEは10.92%でした。業種別の値は次のとおりです。
| 業種 | ROE | 総資産回転率 | 自己資本比率 | 財務レバレッジ |
|---|---|---|---|---|
| 法人企業合計 | 10.92% | 1.07回 | 44.93% | 2.23倍 |
| 建設業 | 11.90% | 1.08回 | 49.38% | 2.02倍 |
| 製造業 | 10.36% | 0.96回 | 49.29% | 2.03倍 |
| 情報通信業 | 11.68% | 1.07回 | 54.08% | 1.85倍 |
| 運輸業,郵便業 | 12.82% | 1.14回 | 36.86% | 2.71倍 |
| 卸売業 | 12.76% | 1.86回 | 43.70% | 2.29倍 |
| 小売業 | 11.21% | 1.79回 | 39.43% | 2.54倍 |
| 不動産業,物品賃貸業 | 9.75% | 0.36回 | 38.38% | 2.61倍 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 8.40% | 0.43回 | 66.86% | 1.50倍 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 11.02% | 0.96回 | 31.01% | 3.22倍 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 7.62% | 1.00回 | 31.36% | 3.19倍 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 11.61% | 0.94回 | 43.43% | 2.30倍 |
出典:中小企業庁「令和7年中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報」第10-1表
この表は業種全体の集計から出した値で、個々の会社のばらつきは大きくあります。同じ業種でも年度によって数ポイント動くので(宿泊業,飲食サービス業は前年度の22.00%から11.02%へ下がっています)、1年分の数字で良し悪しを決めず、自社の3期分と業種の値を並べて見るのが現実的です。
業種の値と比べるときは、ROEだけでなく回転率とレバレッジも並べてください。卸売業や小売業は回転率が高く、不動産業は回転率が低い代わりに利益率が高いというように、業種によってROEの作り方が違います。
M&Aの買い手はROEをどう見るか
中小企業のM&Aで、ROEの数字そのものが譲渡価格の計算式に入ることはあまりありません。価格は、純資産に数年分の利益を足す方法や、利益やEBITDAに倍率をかける方法などで決まります(手法は「M&Aの価格算定4手法と計算例」で扱っています)。
それでもROEは、純資産に対して価格がどれだけ上乗せされるかを左右します。株価の指標で言えば、PBR(株価÷1株当たり純資産)=PER(株価÷1株当たり利益)×ROEの関係があります。同じPERで評価されるなら、ROEが高い会社ほど純資産を大きく上回る価格がつき、ROEが低い会社は純資産に近い価格に落ち着きます。PERの見方は「PERの目安は何倍?」で解説しています。
買い手は、決算書のROEをそのまま使わず、次の3点を調整して見ます。
- 利益の調整。オーナーの役員報酬や私的な経費、一時的な売却益・損失を除いた、実力ベースの利益(正常収益力)に直す
- 自己資本の調整。事業に使っていない現預金や保険積立金、遊休不動産を分けて考える。これらは事業の価値とは別に評価されることが多い
- レバレッジの中身。ROEを借入で押し上げていないか。借入が多ければ、買収後の借り換えや経営者保証の解除が必要になる
買い手が一番気にするのは3です。借入で作ったROEは、買収後に借入を返せば消えます。自己資本比率の見方は「自己資本比率の計算式と業種別の目安」で扱っています。
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売却前にROEを上げる打ち手の判定表(改善すべき/見かけだけ/気にしなくてよい)
ROEを上げる方法は、分子の利益を増やすか、分母の自己資本を減らすかの2つです。買い手に評価されるのは前者で、後者はほとんどが見かけだけに終わります。
| 自社の状況・打ち手 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 売上高純利益率が業種より低い(値引き・原価高・販管費の膨張) | 改善すべき | 利益が増えればROEも価格の算定基礎も上がる。買い手が最も評価する上げ方 |
| 総資産回転率が業種より低く、滞留在庫・回収の遅い売掛金・使っていない設備がある | 改善すべき | 在庫と売掛金を減らせば資産が軽くなり、資金も戻る。デューデリジェンスでも指摘される箇所 |
| 役員貸付金・仮払金が純資産を膨らませている | 改善すべき | 回収の見込みが無い資産として純資産から差し引かれやすい。売却前に精算しておく |
| 自己株式の取得で純資産を減らしてROEを上げる | 見かけだけ | 会社の現金が減り、純資産による評価額も同じだけ下がる。レバレッジが上がるので買い手の見方は厳しくなる |
| 多めの配当で純資産を減らす | 見かけだけ | 現金が株主に移るだけで稼ぐ力は変わらない。純資産が300万円を下回る会社は配当ができない(会社法第458条) |
| 借入を増やして自己株式取得や配当に回す | 見かけだけ | ROAは変わらずレバレッジだけが上がる。買収後の借り換えの負担として価格から差し引かれる |
| 有償減資で資本金を株主に払い戻す | 見かけだけ | 自己株式取得と同じく純資産と現金が減るだけ。債権者保護手続きなど2か月以上かかる |
| 現預金が厚く、自己資本比率が高いのでROEが低い | 気にしなくてよい | 余った現金は事業の価値とは別に評価されることが多い。何に使う予定の資金かを説明できれば足りる |
| オーナーの役員報酬が高く、当期純利益が小さい | 気にしなくてよい | 買い手は役員報酬を相場に置き直して利益を見る。報酬の内訳を説明できるようにしておく |
| 一時的な特別損失(固定資産の除却・災害など)で当期のROEが下がった | 気にしなくてよい | 一時的な損益は正常収益力の計算で除かれる。3期分で見れば影響は薄まる |
自己資本を減らしてROEを上げたときの計算例
A社が、現預金5,000万円を使って自己株式を取得した場合を計算します(取得による利息収入の減少などは無視します)。
| 項目 | 取得前 | 取得後 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 総資産 | 4億円 | 3億5,000万円 |
| 純資産 | 1億5,000万円 | 1億円 |
| ROE | 10.0% | 15.0% |
| 財務レバレッジ | 2.67倍 | 3.50倍 |
| 自己資本比率 | 37.5% | 28.6% |
ROEは5ポイント上がりますが、稼ぐ力は1円も変わっていません。会社から5,000万円の現金が出て、純資産も5,000万円減っただけです。純資産をもとにした評価額はその分下がり、自己資本比率は業種の目安を大きく下回ります。
自己株式の取得には、あらかじめ株主総会の決議が必要です(会社法第156条)。株主に渡せる金額には分配可能額の上限があり(会社法第461条)、売った株主の側では、取得の対価の一部がみなし配当として課税されます(「みなし配当とは?」)。有償減資は、株主総会の決議(会社法第447条)と債権者の異議手続き(会社法第449条)が必要です。手間と税金をかけてROEの見た目を変えても、M&Aの価格は上がりません。
ROEを計算して弱い要素を判定する手順
決算書から自社の判定をするときは、次の順に進めてください。
- 直近3期分の損益計算書と貸借対照表を用意する
- 各期の当期純利益÷純資産の部合計で、ROEを出す
- 売上高純利益率・総資産回転率・財務レバレッジの3つに分ける
- 上の業種別の表と並べ、全体の値より弱い要素に印を付ける
- 役員報酬・一時的な損益・事業に使っていない資産を除いて、実力ベースのROEも出しておく
- 判定表で「改善すべき」に当たる要素から手を付ける
5で出した実力ベースのROEは、買い手との面談で「なぜこの数字なのか」を説明する材料になります。
よくある質問
Q. ROEの計算に使うのは経常利益ですか、当期純利益ですか。
当期純利益です。損益計算書の一番下にある、法人税等を引いた後の利益を使います。経常利益で計算した値はROEとは呼ばないため、他社や統計と比べるときは分子が当期純利益になっているかを確かめてください。
Q. 赤字の年や債務超過の場合、ROEはどう扱えばいいですか。
赤字ならROEはマイナスになり、債務超過なら分母がマイナスになるので計算しても意味がありません。赤字の原因が一時的な損失なら、それを除いた実力ベースの利益で計算し直します。債務超過の会社は、ROEより先に純資産をプラスに戻すことが課題です。
Q. ROEは何%あれば会社を売るときに評価されますか。
決まった基準はありません。中小企業全体の値は令和6年度決算で10.92%ですが、業種によって差があります。買い手はROEの高さより、それが利益率で作られているか、借入で作られているかを見ます。業種の値と並べて、利益率と回転率で上回っていれば評価の材料になります。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ
ROEは当期純利益÷純資産で計算でき、デュポン分解で利益率・回転率・レバレッジのどこが弱いかが分かります。売却前に手を付けるのは利益率と回転率で、自己資本を減らして数字を上げても価格は上がりません。
参考
- 中小企業庁「令和7年中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)確報」(e-Stat)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00553010&tstat=000001019842
- 財務省 財務総合政策研究所「法人企業統計調査からみる日本企業の特徴」https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/japan/japan_all.pdf
- 会社法(第156条・第447条・第449条・第458条・第461条)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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