競業避止義務とは|M&Aで売り手オーナーが負う範囲と、期間・地域の決め方

会社を売った後、同じ商売をもう一度始めてよいか。

この問いに答えるのが競業避止義務です。株式譲渡契約では、
ほぼ必ず条項として入ります。そして交渉の終盤で、
売り手が「そこまで縛られるとは思っていなかった」と気づく箇所でもあります。

この記事では、法律上どこまで自動的に縛られるのか、
契約でどこまで広げられるのか、そして期間・地域・範囲をどう決めるかを整理します。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 出どころが2つある
  2. 会社法21条は「事業譲渡」だけの話
  3. 株式譲渡では、契約で4つを決める
    1. ① 誰が義務を負うか(人的範囲)
    2. ② 何を禁じるか(事業の範囲)
    3. ③ どこで禁じるか(地域)
    4. ④ いつまで(期間)
  4. 「どこまで縛れるか」には限度がある
  5. 売り手・買い手それぞれの見方
  6. 「そもそも要らない」ケースもある
  7. 違反したらどうなるか
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 参考

出どころが2つある

競業避止義務には、法律で当然に発生するものと、契約で作るものがあります。
これを混同すると議論がかみ合いません。

出どころ 誰に、いつ 中身
会社法21条(事業譲渡の場合) 事業を譲渡した会社に、自動的に 同一市町村・隣接市町村で20年間、同一の事業を行わない
会社法356条・594条 取締役・業務執行社員に、在任中 競業取引には株主総会(取締役会)の承認が必要
契約条項 契約で定めた相手に、定めた期間 自由に設計できる(ただし限度がある)

🔴 株式譲渡には、会社法21条のような自動的な競業避止義務がありません。
会社の株主が変わっただけで、事業を譲渡したわけではないからです。
だから株式譲渡では、契約書に書かなければ売り手オーナーは何も縛られません。

ここが実務でいちばん誤解される点です。
「法律で決まっているはず」と思って条項を軽く見ると、後から効きません。

会社法21条は「事業譲渡」だけの話

事業譲渡の場合、当事者が特に定めなくても、
譲渡会社は同一市町村と隣接市町村の区域内で、20年間、同一の事業を行えません(会社法21条1項)。

そのうえで、当事者の合意で次のように変えられます。

  • 特約で30年まで延長できる(同条2項。30年を超える部分は無効)
  • 特約で短縮・排除もできる
  • 不正競争の目的がある場合は、地域・期間の制限なく禁止される(同条3項)

⚠️ 「隣接市町村」は物理的に接する市町村を指します。
広域で商売をしている事業だと、この範囲では実質的に足りないことが多く、
結局は契約で範囲を書き直すことになります。

株式譲渡では、契約で4つを決める

株式譲渡契約(SPA)の競業避止条項で決めるのは、次の4つです。

① 誰が義務を負うか(人的範囲)

売り手個人だけにするか、その親族・関連会社まで広げるか。

  • 売主本人(最低限)
  • 売主の配偶者・二親等内の親族
  • 売主が支配する他の法人

🔴 本人だけを縛っても、配偶者名義で同じ事業を始められると意味がありません。
買い手側は親族まで含めたがり、売り手側は「親族の職業選択まで縛られるのはおかしい」と抵抗します。

現実的な落としどころは、「売主が実質的に関与する形での競業」を禁じる書き方です。
名義ではなく関与の実態で線を引きます。

② 何を禁じるか(事業の範囲)

書き方 範囲 誰に有利か
「対象会社が現に営む事業と同一または類似の事業」 広い。「類似」の解釈で揉める 買い手
「別紙に列挙する事業」 狭い。明確 売り手
「対象会社の主要顧客への営業行為」 事業ではなく顧客で切る 中間

「類似」という語は、後で必ず争点になります。
売り手側は、将来やりたいことがあるなら、明示的に除外リストに入れておくのが確実です。

③ どこで禁じるか(地域)

  • 全国
  • 特定の都道府県・地域
  • 「対象会社が営業活動を行っていた地域」

事業の実態と揃っていないと、後で無効を主張される余地が生まれます。
1都県でしか営業していない会社の譲渡で「全世界」と書くのは、合理性を欠きます。

④ いつまで(期間)

M&Aの実務では、2年から5年に置かれることが多い範囲です。

期間 使われる場面
2年 売り手が引き続き役員として残らず、早期に離れる
3年 最も一般的。引継ぎ期間+顧客関係の定着を見る
5年 売り手の個人的信用に事業が強く依存している
5年超 合理性の説明が必要。争いのリスクが上がる

期間の根拠は「買い手が買ったものを守るのに必要な期間」です。
顧客関係の引継ぎに2年かかるなら、その2年+αが説明できる長さになります。

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「どこまで縛れるか」には限度がある

競業避止条項は、職業選択の自由(憲法22条)との緊張関係にあります。
公序良俗に反する(民法90条)と判断されれば無効です。

裁判所が有効性を見るときの視点は、おおむね次のとおりです。

  • 守るべき正当な利益があるか(営業秘密、顧客関係、のれん)
  • 制限の範囲が、その利益を守るのに必要な限度か(期間・地域・業務)
  • 代償があるか(M&Aでは譲渡対価がこれに当たる)

🔴 M&Aの競業避止は、雇用契約における競業避止よりも有効と認められやすい傾向にあります。
理由は代償です。オーナーは事業の対価としてまとまった金額を受け取っており、
その中には「競合しないこと」の価値が含まれていると評価されるためです。

逆に言えば、対価が小さい取引で長期・広範な制限を課すと、有効性が弱まります。

売り手・買い手それぞれの見方

売り手が確認すること

  1. 将来やりたいことが禁止範囲に入っていないか。
    同業でのコンサルティング、非常勤での勤務、投資家としての出資。
    やりたいことがあるなら、明示的に除外条項を入れる
  2. 親族が同業にいないか。いる場合、人的範囲から外す交渉をする
  3. 違反したときのペナルティ。違約金の額、差止め請求の可否
  4. 期間の起算点。クロージング日か、役員退任日か。
    引継ぎで2年残るなら、起算点が退任日だと実質7年になることもある

買い手が確認すること

  1. キーパーソンが本当に縛られているか。株主でない実質的な経営者が、
    契約の当事者に入っていないケースがある
  2. 従業員の引き抜き禁止(勧誘禁止)が別条項で入っているか。
    競業避止と引き抜き禁止は別物
  3. 範囲が広すぎて無効にならないか。欲張って全部無効になるより、
    守れる範囲を確実に押さえるほうがよい

「そもそも要らない」ケースもある

すべての取引で厳格な競業避止が要るわけではありません。

  • 売り手が高齢で引退が前提。事業を再開する現実的可能性がない
  • 技術や設備に事業の価値があり、個人の顧客関係に依存していない
  • 売り手が引き続き役員として長期に残る(別途、取締役の競業避止義務がかかる)

こうした場合、期間を短くしてでも交渉全体を早く進めるほうが合理的です。
競業避止条項で交渉が長引き、取引そのものが流れるのは本末転倒です。

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違反したらどうなるか

契約に定めがあれば、次が請求できます。

  • 差止請求(競業行為をやめさせる)
  • 損害賠償請求(実損の立証が必要)
  • 違約金(あらかじめ額を定めておく。立証負担が軽くなる)

⚠️ 損害の立証は難しいのが実情です。
「競業がなければ得られたはずの利益」を数字で示す必要があるためです。
だから買い手側は違約金条項を入れたがります。
売り手側は、その額が過大でないかを見ます。

よくある質問

Q. 会社を売った後、同業他社に従業員として就職できますか。
条項の書き方次第です。「自ら事業を行う」だけを禁じているなら可能ですが、
「役員・従業員として関与する」まで含んでいれば不可です。文言を確認してください。

Q. 期間が過ぎたら、まったく自由ですか。
競業避止義務としては解放されますが、秘密保持義務は別に残ります。
秘密保持は期間が長く設定されるか、無期限のこともあります。

Q. 事業譲渡なら契約に書かなくても20年縛られるのですか。
会社法21条1項が適用されるのは譲渡会社(法人)です。
その代表者個人が別途縛られるわけではないため、個人については契約で書きます。

まとめ

競業避止義務は、株式譲渡と事業譲渡でまったく違います。

  • 事業譲渡 … 会社法21条で、譲渡会社に同一・隣接市町村で20年が自動的にかかる
  • 株式譲渡 … 自動的な義務はない。契約に書かなければ縛られない

そして契約で決めるのは、人・事業・地域・期間の4つです。
有効性は「守るべき利益に対して必要な限度か」で判断され、
M&Aは譲渡対価という代償があるぶん、雇用契約より広い制限が認められやすい領域です。

売り手として最も実務的な備えは1つ。
🔴 将来やりたいことがあるなら、交渉の早い段階で除外条項として提示すること。
契約書のドラフトが固まってから言い出すと、価格の再交渉になりかねません。

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参考

  • 会社法 第21条(譲渡会社の競業の禁止)、第356条、第594条
  • 民法 第90条(公序良俗)
  • 日本国憲法 第22条(職業選択の自由)
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン」
  • 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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