利益相反とは|M&A仲介・事業譲渡で起きる場面と、会社法の承認手続き

利益相反とは、ある人の判断が、立場の異なる複数の利益のあいだで対立する状態を指します。判断する人が一方の利益を優先すると、もう一方が損をします。

中小企業のM&Aや事業承継では、この状態が頻繁に発生します。しかも当事者が悪意を持っていなくても起きます。誰が誰のために判断しているかが曖昧なまま話が進むためです。この記事では、M&A仲介で起きる利益相反と、事業譲渡などで問題になる会社法上の利益相反取引を分けて整理し、売り手が自分で確認できるチェックリストを示します。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 会社法が定める利益相反取引
    1. オーナー企業ほど起きやすい
  2. 事業譲渡・親子会社間の取引で起きる利益相反
    1. 承認の議事録に残しておく内容
  3. M&Aの場面で起きる利益相反
    1. アドバイザーが売り手と買い手の双方につく
    2. 経営陣が買い手になる場合
    3. 親族内承継で株式を移す場合
  4. 中小M&Aガイドラインが仲介者に求める規律
  5. 回避のしかたは3つ
  6. 売り手が契約前に確認するチェックリスト
  7. よくある質問
    1. 仲介者に依頼してはいけないのですか。
    2. 取締役会がない会社ではどうしますか。
    3. 承認を取らずに行った取引はどうなりますか。
  8. まとめ
  9. 参考

会社法が定める利益相反取引

会社法356条1項は、取締役と会社のあいだで利益が対立する取引について、重要な事実を開示したうえで株主総会の承認を受けるよう定めています。取締役会設置会社では、承認機関が取締役会に置き換わります(365条1項)。対象は2種類あります。

  • 直接取引(356条1項2号)——取締役が自己または第三者のために会社と取引する。会社の不動産を取締役が買う、取締役が代表を務める別会社と取引する、など
  • 間接取引(356条1項3号)——会社が取締役の債務を保証する、など。取締役自身は取引の当事者ではないが、会社と取締役の利益が相反する

承認を得ずに行った取引は、判例上、無効となりうるとされています。ただし事情を知らない第三者との関係では、無効を主張できない場合があります。条文上の責任も重く、次のように定められています。

  • 取引で会社に損害が生じたとき、取引をした取締役や、承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったものと推定される(423条3項)
  • 自己のために直接取引をした取締役は、自分に落ち度がなかったことを理由に責任を免れることができない(428条1項)
  • 取締役会設置会社では、取引をした取締役は取引後も遅滞なく重要な事実を取締役会に報告する(365条2項)

オーナー企業ほど起きやすい

株主と経営者が同一人物の会社では、「自分の会社なのだから」という感覚で手続きが省略されやすくなります。株主が1人でも、会社と個人は別人格です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」も、中小企業では株主総会・取締役会の議事録等の整備が不十分な場合が少なくないと指摘し、M&Aに備えた整備を促しています。

事業譲渡・親子会社間の取引で起きる利益相反

「事業譲渡 利益相反」で問題になるのは、譲渡する会社の取締役が、譲り受ける側にも関わっているケースです。たとえば社長が代表を務める別会社へ事業を移す場合、その社長は「第三者(別会社)のために会社と取引する」立場になり、356条1項2号の直接取引に当たります。親子会社や兄弟会社のあいだで、同じ人が双方の代表取締役を務めている場合も同じ構造です。

場面 必要になる手続き 根拠
事業の全部または重要な一部を譲渡する 株主総会の特別決議で契約を承認 会社法467条1項、309条2項11号
譲受会社に、譲渡会社の取締役が代表として関わっている 上記に加え、利益相反取引としての承認(取締役会設置会社は取締役会) 356条1項2号、365条1項
相手方が議決権の9割以上を持つ親会社(特別支配会社) 譲渡会社側の株主総会決議は不要。利益相反取引の承認は別に検討する 468条1項
取締役会で承認する 利害関係のある取締役は議決に加わらず、議事録にその氏名を記載 369条2項、会社法施行規則101条3項5号

取締役会を置かない会社で株主総会が承認する場合、利害関係のある株主も議決権を行使できます。ただし、その結果として著しく不当な決議がされたときは、決議取消しの訴えの対象になります(831条1項3号)。親族や少数株主がいる会社ほど、価格の根拠を記録に残しておく意味が大きくなります。

承認の議事録に残しておく内容

後の承継やM&Aで買い手が確認するのは、「承認を取ったか」だけでなく「何を開示して承認したか」です。少なくとも次の内容を議事録や添付資料で残しておくと、説明に困りません。

  • 取引の相手方、対象(事業・資産の範囲)、価格と支払条件
  • 価格の根拠(第三者の評価書、比較した資料など)
  • 利害関係のある取締役の氏名と、その取締役が議決に加わっていないこと
  • 承認の結果と、取引後に取締役会へ報告した内容(取締役会設置会社の場合)

M&Aの場面で起きる利益相反

アドバイザーが売り手と買い手の双方につく

中小M&Aでは、1社の仲介者が売り手と買い手の双方と契約し、双方から手数料を受け取る形が多く用いられています。構造として利益相反が生じます。

  • 売り手は高く売りたい
  • 買い手は安く買いたい
  • 仲介者は成約したい

中小M&Aガイドラインは、仲介者がリピーターになりうる買い手の利益を優先する動機を持つ構造的なリスクを指摘しています。一方で、譲渡額に連動して手数料が増える場合は売り手寄りに働く動機もあるとしており、「仲介だから悪い」とは位置づけていません。

経営陣が買い手になる場合

経営陣が自社を買い取るMBOでは、経営陣は「会社の情報を最もよく知る買い手」になります。売り手である株主との情報の差が大きく、価格の妥当性が争点になりやすいため、第三者の評価を入れる、独立した立場の人に検討してもらうといった手当てが必要です。

親族内承継で株式を移す場合

後継者へ株式を移すとき、価格の設定によって他の相続人の取り分が変わります。承継する側とされる側が同じ家族であっても、利益は対立しえます。

中小M&Aガイドラインが仲介者に求める規律

ガイドライン(第3版)は、仲介者に最低限次の措置を求めています。

  • 両当事者と契約する仲介者であること、双方から手数料を受け取る場合はその旨を伝える
  • バリュエーションやデュー・ディリジェンスなど、一方の意向が反映されやすい工程の結論を仲介者が決めない
  • 契約時に利益が対立しうる事項を説明し、一方にだけ有利・不利な情報を知ったら適時に双方へ開示する
  • 依頼者に、必要に応じて士業等専門家の意見を求めるよう伝える

さらに、買い手から追加で手数料を受け取って便宜を図る行為、リピーターを優遇する行為、希望額との差額の一部を別途報酬として求める行為、伝達を頼まれた事項を伝えない・偽って伝える行為、一方にだけ有利・不利な情報を秘匿する行為は禁止され、仲介契約書に「行わない」義務として定めなければならないとされています。

また別の箇所で、契約前に相手方が支払う手数料(報酬率・基準額・最低手数料など)も書面で説明すべきとし、契約後に相手方の手数料が増える場合も、その内容を依頼者に開示すべきとされています。開示の基準を事前に合意する場合は、「報酬率が●%以上上がったら開示」のように具体的・定量的に決める必要があり、包括的に開示を不要とする取り決めや定性的な基準にとどめるべきではないとされています。売り手にとっては、相手方の手数料の動きが譲渡額の交渉に影響しうるため、見落とせない点です。

回避のしかたは3つ

  • 開示する——どの立場で誰の利益のために動いているかを、関係者全員に伝える
  • 判断から外れる——利害関係のある議題の決議に加わらない。会社法も特別利害関係取締役の議決参加を認めていない
  • 第三者を入れる——価格や条件の妥当性を、利害関係のない専門家に評価してもらう

このうち最も効くのは1つめです。開示さえされていれば、相手は判断の材料を持てます。隠して進めた場合に、後から信頼が崩れます。

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売り手が契約前に確認するチェックリスト

まず、依頼する相手が仲介かFA(フィナンシャル・アドバイザー)かを押さえます。どちらが悪いということではなく、自分がどちらを依頼したのかを理解しているかが問題になります。

項目 仲介 FA
契約の相手 売り手・買い手の双方 一方の当事者のみ
手数料の受け取り 双方から受け取るのが通常 依頼者のみから
立ち位置 双方の意向を把握し、成立に向けて調整する 依頼者に有利な条件での成立を目指す
向いている場面 条件の最大化より円滑な進行を重視する 譲渡額の最大化や、株主・債権者への説明責任を重視する

そのうえで、次の項目に「はい」と答えられるかを確認します。

  • 相手方が支払う手数料も含めて、書面で説明を受けた
  • 仲介契約書に、禁止される利益相反行為を行わない義務が書かれている
  • 企業評価の結論を誰が出すのか、自分の側に立って意見を言う専門家がいるか把握している
  • 秘密保持条項が、士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センターへのセカンド・オピニオンの相談を妨げない
  • 自社側で利益相反取引に当たる取引があれば、承認の決議と議事録がそろっている

よくある質問

仲介者に依頼してはいけないのですか。

そうではありません。中小M&Aでは相手探しの機能が重要で、ガイドラインも仲介という業態を不適切とは断じていません。双方から手数料を受け取る構造と、仲介者に課された規律を理解したうえで依頼することが要点です。

取締役会がない会社ではどうしますか。

株主総会で重要な事実を開示し、承認を受けます(356条1項)。株主が1人であっても、承認の記録を残しておくと、後の承継やM&Aの場面で説明がしやすくなります。

承認を取らずに行った取引はどうなりますか。

判例上は無効となりうる一方、事情を知らない第三者には無効を主張できない場合があります。会社に損害が生じれば取締役の任務懈怠が推定されるため、気づいた時点で手続きを整え、専門家に対応を相談するのが安全です。

まとめ

  • 利益相反は悪意がなくても起きる。まず誰が誰のために判断しているかを明らかにする
  • 会社法では、取締役と会社の利益が対立する取引に株主総会または取締役会の承認が必要(356条・365条)
  • 事業譲渡の相手に自社の取締役が関わるなら、特別決議と利益相反取引の承認の両方を確認する
  • M&A仲介は構造的な利益相反を抱えるが、ガイドラインが開示と禁止行為を定めている
  • 契約前に、仲介かFAか、相手方の手数料、セカンド・オピニオンの可否を確かめる

参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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