自動車整備工場のM&A|特定整備の認証と指定工場の指定は手法で行き先が違う、整備主任者・自動車検査員の確保と売り方の判定表

自動車整備工場のM&Aで最初に確かめるのは、その工場が「認証工場」か「指定工場」かです。道路運送車両法では、認証と指定で、M&Aの手法ごとの扱いが違います。

特定整備の認証は、株式譲渡ならそのまま続き、合併・会社分割・事業譲渡でも買い手が地位を承継して届出で済みます。一方、指定工場の指定は、事業譲渡や合併では引き継がれず、買い手があらためて指定を受け直します。

もう一つの軸は人です。認証も指定も、整備士の資格を持つ従業員がいることを条件に出ています。整備主任者や自動車検査員が辞めれば、手続きが正しくても工場は回りません。

この記事では、整備工場を経営するオーナー・後継者と、整備工場の取得を考えるディーラー・同業・異業種の買い手に向けて、認証と指定の扱い、人の確保、電子制御装置整備、土地と設備、元請けとの取引、価格の見方を順に整理します。運送会社やガソリンスタンドのM&Aは別の記事で扱っているので、ここでは整備事業に絞ります。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 自動車整備のM&Aで先に分ける認証工場と指定工場
  2. 株式譲渡と事業譲渡で特定整備の認証と指定はどう扱われるか
    1. 買い手が欠格事由に当たらないかを先に確かめる
  3. 整備主任者と自動車検査員の確保が自動車整備のM&Aの値段を決める
  4. 電子制御装置整備(特定整備)の認証の有無で工場の守備範囲が変わる
  5. 自動車整備工場の設備と土地はM&Aで何を確かめるか
    1. 特定整備記録簿と指定整備記録簿の保存
  6. 元請け(ディーラー・保険会社・リース会社)との取引をM&Aで引き継げるか
  7. 自動車整備のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  8. 自動車整備工場のM&Aの価格は何で決まるか
  9. 自動車整備工場の売り方を決める判定表
  10. よくある質問
    1. Q. 株式譲渡で整備工場を買ったとき、運輸支局への届出は要りますか。
    2. Q. 事業譲渡で指定工場を買うと、車検はいつから受け付けられますか。
    3. Q. 認証工場は一つの会社で複数の工場を持てますか。
    4. Q. 異業種の会社でも整備工場を買えますか。
  11. まとめ
  12. 参考

自動車整備のM&Aで先に分ける認証工場と指定工場

自動車の特定整備を事業として行うには、事業場ごとに地方運輸局長の認証が要ります(道路運送車両法第78条第1項)。特定整備は、エンジンやブレーキなどを取り外して行う「分解整備」と、衝突被害軽減ブレーキのカメラ・レーダーなどを扱う「電子制御装置整備」を合わせた呼び方です(道路運送車両法施行規則第3条)。令和2年3月までは「分解整備事業」の認証と呼ばれていました。

指定工場は、認証工場のうち、検査の設備と自動車検査員を備えて地方運輸局長の指定を受けた工場です(同法第94条の2)。いわゆる民間車検場で、保安基準適合証を交付できるので、車検の車を運輸支局へ持ち込まずに済みます。

区分 根拠 できること 人の要件(概要)
認証工場 第78条 特定整備を事業として行う 特定整備に従事する従業員2人以上、1級または2級整備士が1人以上、整備士の数が従業員の4分の1以上(施行規則第57条)
指定工場 第94条の2 認証の業務に加えて、保安基準適合証を交付する 自動車検査員の選任、工員4人以上でうち3分の1以上が整備士(国土交通省の基準の概要)

日本自動車整備振興会連合会の令和7年度の調査では、認証工場は92,251事業場、うち指定工場は29,810事業場です。1事業場あたりの整備要員は平均4.36人なので、整備士が1人辞めるだけで認証や指定の要件を割る工場は珍しくありません。

株式譲渡と事業譲渡で特定整備の認証と指定はどう扱われるか

道路運送車両法は、認証について承継の規定を置いています。指定には、この規定が準用されていません(第94条の9)。

手法 特定整備の認証 指定自動車整備事業の指定
株式譲渡 会社が同じなので続く。役員が替われば30日以内に変更届(第81条第1項第2号) 続く。自動車検査員などを替えれば届出
合併・会社分割 存続会社・承継会社が地位を承継し、30日以内に届出(第82条) 引き継がれない。新たに指定の申請が要る
事業譲渡 譲受人が地位を承継し、30日以内に届出(第83条) 引き継がれない。新たに指定の申請が要る

指定を受け直す場合でも、設備・技術・管理組織(事業場管理責任者、主任技術者、自動車検査員)が変わらない承継なら、添付書面を絞った申請で扱うと国土交通省の通達(「自動車整備事業の取扱い及び指導要領について」令和2年4月1日 国自整第353号)が定めています。ただし、指定の取消しや是正命令につながる違反があり、改善が確認されていない場合はこの扱いになりません。国土交通省は、指定の決定まで申請後おおむね45日としています。

指定が切れている期間は、保安基準適合証を交付できません。車検の売上が大きい指定工場を事業譲渡や合併で引き継ぐなら、クロージングの日と指定の申請の日程を運輸支局と先にすり合わせます。株式譲渡が整備工場のM&Aで選ばれやすいのは、この空白を作らずに済むからです。株式譲渡と事業譲渡の一般的な違いは「株式譲渡と事業譲渡の違い」で扱っています。

買い手が欠格事由に当たらないかを先に確かめる

認証には欠格事由があります。役員に1年以上の拘禁刑を受けて2年を経過しない人がいる、過去に認証を取り消されて2年を経過しない、といった場合です(第80条第1項第2号)。認証を承継した後でも、欠格事由に当たれば事業の停止や認証の取消しの対象になります(第93条第3号)。異業種の買い手が役員を送り込むときは、送る人について確かめておきます。

整備主任者と自動車検査員の確保が自動車整備のM&Aの値段を決める

整備工場の許認可は、建物ではなく人で保たれています。買い手が見るのは、資格者が何人いて、誰が辞めると要件を割るかです。

役割 誰がなれるか 届出 M&Aで確かめること
整備主任者 分解整備は1級または2級整備士。電子制御装置整備は1級整備士、または2級整備士などで運輸支局の講習を修了した人(施行規則第62条の2の2第1項第7号) 選任・変更から15日以内(同条第2項) 他の事業場と兼ねていないか。毎年度の研修を受けているか
自動車検査員 整備主任者として一定の実務経験があり、地方運輸局長の教習を修了した人 選任・変更から15日以内(第94条の4第3項) 何人いるか。1人しかいないと、休みや退職で車検が止まる
整備士(3級を含む) 技能検定の合格者 なし 従業員の4分の1以上いるか。年齢構成

同じ調査で、整備要員の平均年齢は専業の工場で53.0歳です。オーナー自身が整備主任者や自動車検査員を兼ねている工場では、オーナーが引退すると要件を割ります。売却後も一定期間は残ってもらう、後任の検査員を教習に出しておく、といった段取りを契約に入れます。

事業譲渡では、従業員は本人の同意を得て転籍します。資格者が転籍に応じなければ、認証を承継しても要件を満たせません。資格者には、売却を決めた段階で個別に話をしておく必要があります。

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電子制御装置整備(特定整備)の認証の有無で工場の守備範囲が変わる

令和2年4月の改正で、衝突被害軽減ブレーキなどのセンサーの取り外しや調整(エーミング)、センサーが付いたバンパー・グリル・窓ガラスの脱着が、電子制御装置整備として認証の対象になりました。改正前から行っていた事業者向けの経過措置は、令和6年3月31日で終わっています。

認証が分解整備だけの工場では、次の点が買い手の評価に響きます。

  • センサー付きのバンパー交換やガラス交換を、外注に出しているか
  • 指定工場の場合、電子制御装置整備の認証が無いと、該当する装置を備えた車には保安基準適合証を交付できない
  • 認証を取るには、エーミングができる広さの作業場、整備に必要な車種ごとの技術情報と機器を入手できる体制、講習を修了した整備主任者が要る(施行規則第57条)

板金・車体修理を手がける工場を買う場合は、電子制御装置整備の認証まで取っているかで、取れる仕事の幅が大きく変わります。

自動車整備工場の設備と土地はM&Aで何を確かめるか

認証は、作業場の面積や間口・奥行、作業機械が基準を満たしていることを前提にしています。屋内作業場の面積や間口・奥行を変えたら、30日以内に届出が要ります(第81条第1項第4号、施行規則第58条)。

確かめること 理由
土地・建物が自社所有か賃借か。賃借なら契約期間と、支配権の変更を解除事由にしていないか 立ち退きになれば、移転先で認証を取り直すことになる
用途地域 準住居地域では作業場150平方メートル、商業地域では300平方メートルを超える自動車修理工場は建てられない(建築基準法別表第2)。増築や建替えができないことがある
認証のときの平面図と、いまの作業場の配置 無届の改装で基準を割っていないか
リフト・検査機器の更新時期 指定工場の検査機器は買い替えに大きな費用がかかる
廃油・不凍液などの保管と処分の記録、地下タンクの有無 土地を売るとき・返すときに、汚染の調査と除去の費用が出る

特定整備記録簿と指定整備記録簿の保存

特定整備記録簿と指定整備記録簿は、記載の日から2年間保存します(第91条第3項、第94条の6第2項)。買い手は記録簿を抜き取りで見て、整備主任者の氏名や総走行距離が書かれているか、保安基準適合証の交付と記録が合っているかを確かめます。指定工場の不正な保適証の交付は、交付の停止や指定の取消しにつながり(第94条の8)、株式譲渡では会社ごと引き継ぐことになります。

元請け(ディーラー・保険会社・リース会社)との取引をM&Aで引き継げるか

町の整備工場の売上は、一般の客よりも、ディーラーの下請け、損害保険会社から紹介される修理車の入庫、リース会社のメンテナンス契約で支えられていることがあります。これらは許認可ではなく契約なので、引き継げるかどうかは契約書で決まります。

  • 取引基本契約に、株主や代表者の変更を通知・解除の事由にする条項が無いか
  • 事業譲渡では、契約の相手方の承諾を得て契約上の地位を移す必要がある
  • 上位3社の売上比率。1社に偏っていれば、その1社の意向で価格が変わる
  • 元請けの品質基準や指定工場であることを取引の条件にしていないか

ディーラーが買い手の場合、そのディーラー以外の元請けは取引を引き上げることがあります。売り手は、元請けごとに買い手が誰なら取引が続くかを見込んでおきます。

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自動車整備のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は届出・同意・申請が要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡
特定整備の認証 ○ そのまま。役員変更は30日以内に届出 △ 譲受人が承継し、30日以内に届出
指定自動車整備事業の指定 ○ そのまま × あらためて指定の申請
整備主任者・自動車検査員 ○ 雇用はそのまま(退職すれば15日以内に後任を届出) △ 本人の同意で転籍し、選任を届出
整備士・事務員 ○ 雇用はそのまま △ 本人の同意で転籍
自社所有の土地・工場 ○ そのまま △ 所有権移転登記。登録免許税・不動産取得税がかかる
賃借の土地・工場 ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) △ 貸主の承諾が要る
元請けとの取引契約 ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) △ 相手方の承諾が要る
過去の保適証交付の不正、未払残業代などの簿外債務 ○ 会社ごと引き継ぐ × 契約で引き受けたものだけ

株式譲渡は手続きが少なく指定も切れませんが、過去の不正や簿外債務も引き継ぎます。事業譲渡は債務を絞れる代わりに、指定の取り直しと、従業員・元請けの承諾集めが要ります。DDの進め方は「デューデリジェンスとは」で扱っています。

自動車整備工場のM&Aの価格は何で決まるか

整備工場の価格は、時価純資産に、数年分の利益を営業権として上乗せする形で考えるのが一般的です。考え方の全体は「M&Aの価格の決め方」で扱っています。整備工場に特有の上げ下げは次のとおりです。

価格が上がる要素 価格が下がる要素
指定工場で、車検の入庫が安定している オーナーが唯一の自動車検査員・整備主任者
電子制御装置整備の認証まで取っている 整備士の多くが60歳以上で、後任がいない
土地・工場が自社所有で、用途地域の制限にかからない 賃借の土地で、契約の残りが短い
元請けが複数に分散している 売上の大半が1社の元請けに依存している
記録簿と保適証の交付が整っている 検査機器の更新が近い、廃油の処理記録が無い

買い手が同業やディーラーなら、価格の中身は整備士と車検の顧客をまとめて採る費用です。整備士を1人ずつ採るより早いという点が、営業権の根拠になります。

自動車整備工場の売り方を決める判定表

自分の工場の状態に当てはまる行を探してください。

工場の状態 向く進め方 先にやること
指定工場で、車検の売上が大きい 株式譲渡 自動車検査員・整備主任者の残留の約束、記録簿の点検
会社が整備のほかに販売・板金・ガソリンスタンドなども営み、整備だけを売る 事業譲渡または会社分割 指定の申請の日程を運輸支局と調整。資格者の転籍の同意
オーナーが唯一の検査員・整備主任者 株式譲渡に、オーナーの一定期間の残留を付ける 後任を教習・講習に出す
電子制御装置整備の認証が無く、板金・車体修理が多い 売る前に認証を取るか、取れない理由を整理して売る 作業場の寸法と、講習を修了した整備主任者の確保
土地が賃借で、契約の満了が近い 貸主と更新してから売る 契約書、支配権変更の条項の確認
1社の元請けへの依存が大きい その元請け、または同じ系列のディーラーを買い手候補にする 元請けとの契約書と取引実績の一覧
黒字で資格者もそろっているが、後継者がいない すぐに売らなくてもよい。社内の整備士への承継か、株式譲渡の準備から始める 資格者の年齢と退職予定の一覧を作る

買い手の側から見るなら、同じ表で「誰が辞めると要件を割るか」「指定に空白ができないか」「元請けが買収後も残るか」を確かめる、という読み方になります。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

よくある質問

Q. 株式譲渡で整備工場を買ったとき、運輸支局への届出は要りますか。

認証は会社に付いているので続きますが、役員が替われば30日以内に変更の届出が要ります(道路運送車両法第81条)。整備主任者や自動車検査員を替えた場合は、15日以内の届出です。

Q. 事業譲渡で指定工場を買うと、車検はいつから受け付けられますか。

指定は引き継がれないので、買い手が指定を受けた日からです。国土交通省は、申請から指定の決定までおおむね45日としています。クロージングの前に申請の日程を運輸支局と相談し、空白の期間をどう埋めるかを決めておきます。

Q. 認証工場は一つの会社で複数の工場を持てますか。

持てます。認証は事業場ごとに受けるので、工場の数だけ認証があります(第78条第1項)。整備主任者は事業場ごとに置き、他の事業場の整備主任者を兼ねることはできません。

Q. 異業種の会社でも整備工場を買えますか。

買えます。認証の基準は設備と従業員なので、資格者がそろっていれば業種は問いません。ただし、役員が欠格事由に当たらないことと、資格者が買収後も残ることが前提です。

まとめ

自動車整備工場のM&Aは、認証と指定が手法ごとにどう扱われるかで進め方が決まり、整備主任者と自動車検査員が残るかで価格が決まる取引です。

株式譲渡なら認証も指定もそのまま続くが、過去の不正や簿外債務も引き継ぐ。事業譲渡や合併では認証は届出で承継できるが、指定は取り直しになる。

売り手は、資格者ごとの年齢・退職予定と、元請けごとの取引の一覧を、価格の交渉より先に作ってください。

参考

  • 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
  • 道路運送車両法施行規則(昭和26年運輸省令第74号)https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000800074
  • 建築基準法(昭和25年法律第201号)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
  • 国土交通省「自動車整備工場には認証工場と指定工場があります。その違いは?」https://www.mlit.go.jp/jidosha/ninshoutoshiteinochigai.html
  • 国土交通省「指定自動車整備事業制度について」https://www.mlit.go.jp/jidosha/shiteiseibi.html
  • 国土交通省「特定整備制度概要」https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001332203.pdf
  • 国土交通省自動車局長「自動車整備事業の取扱い及び指導要領について(依命通達)」令和2年4月1日 国自整第353号(北陸信越運輸局掲載)https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/nagano/pdf/2020/200423-02.pdf
  • 日本自動車整備振興会連合会「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」https://www.jaspa.or.jp/Portals/0/resources/jaspahp/member/data/pdf/R07jittaityousa.pdf

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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