少額減価償却資産の特例は、中小企業が取得した一定額未満の資産を、買った年に全額損金にできる制度です。令和8年度税制改正で、対象の取得価額が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限は令和11年3月31日まで3年延びました。40万円未満になるのは、令和8年4月1日以後に取得した資産からです。
経理の現場で迷うのは、この特例だけでなく、10万円未満の即時損金算入、20万円未満の一括償却資産、通常の減価償却のどれで処理するかです。選び方で、その年の税金と、翌年以降の固定資産税(償却資産税)が変わります。
この記事では、特例の要件、4つの処理の判定表、仕訳と計算例、申告の書き方、償却資産税の扱いの違いを整理し、M&Aや事業承継で買い手が固定資産台帳のどこを見るかまでまとめます。減価償却の計算の基本(定額法と定率法)は「減価償却とは」で扱っています。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
少額減価償却資産の特例は令和8年度改正で40万円未満に(いつから)
改正の中身は3つです(租税特別措置法第67条の5、同法施行令第39条の28)。
| 項目 | 令和8年3月31日までの取得 | 令和8年4月1日以後の取得 |
|---|---|---|
| 対象の取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 対象法人の従業員数 | 常時使用する従業員500人以下 | 常時使用する従業員400人以下 |
| 年間の合計額の上限 | 300万円 | 300万円(変わらず) |
| 適用期限 | 令和8年3月31日 | 令和11年3月31日 |
判定は事業年度ではなく、資産を取得した日で行います。例えば12月決算の会社が令和8年中に資産を買った場合、1月から3月に取得した分は30万円未満、4月以後に取得した分は40万円未満が基準です。年300万円の上限は、その事業年度の合計で見ます。
個人事業主にも同じ特例があり(租税特別措置法第28条の2)、今回の引き上げと延長は所得税にも同じく適用されています。
少額減価償却資産の特例を使える会社の要件
特例を使えるのは、次のすべてに当てはまる法人です。
- 青色申告書を提出している
- 中小企業者等に当たる(資本金1億円以下の法人など)。ただし、資本金1億円超の大規模法人に発行済株式の2分の1以上を持たれている法人(複数の大規模法人で3分の2以上の場合も)は外れる
- 常時使用する従業員が400人以下(令和8年4月1日以後の取得)
- 通算法人ではない(グループ通算制度を使っていない)
- 過去3年の平均所得が15億円を超える「適用除外事業者」ではない
資産の側にも条件があります。
- 取得価額が40万円未満(令和8年4月1日以後の取得)
- 事業の用に供していること。買っただけで使っていない資産は、使い始めた事業年度で適用する
- 貸付けの用に供した資産は対象外(貸付けが主要な事業の場合を除く)
- 他の特別償却・税額控除・圧縮記帳と重ねて使わない
器具備品や機械だけでなく、ソフトウエアなどの無形資産、中古資産も対象です。
取得価額は「1単位」と「税抜か税込か」で決まる
取得価額は、購入代金に運賃や据付費などの付随費用を足した額です。判定は、通常1単位として取引される単位ごとに行います。応接セットのように、机と椅子がそろって使われるものはセットの合計で見ます。
消費税は、会社の経理方式に合わせます。税抜経理なら税抜の金額、税込経理なら税込の金額で判定します。税込で40万円を少し超えるパソコンでも、税抜経理の会社なら特例の対象になることがあります。
10万円未満・20万円未満・40万円未満の判定表(即時償却・一括償却・特例・通常償却)
取得価額ごとに選べる処理は次のとおりです。
| 取得価額(1単位) | 選べる処理 | 損金にする時期 | 償却資産税の申告 | 使える会社 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円未満 | 少額の減価償却資産として即時損金算入 | 使い始めた年に全額 | 不要 | すべての会社 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産 | 3年で3分の1ずつ | 不要 | すべての会社 |
| 10万円以上40万円未満 | 少額減価償却資産の特例 | 使い始めた年に全額(年300万円まで) | 必要 | 青色申告の中小企業者等 |
| 金額を問わず | 通常の減価償却 | 耐用年数にわたって | 必要 | すべての会社 |
10万円未満の資産は、特例ではなく法人税法施行令第133条の即時損金算入が優先します。特例が意味を持つのは10万円以上からです。
迷いやすいのは10万円以上20万円未満の資産で、一括償却資産と特例のどちらも選べます。境界線はこう引けます。
| 自社の状況 | 向いている処理 | 理由 |
|---|---|---|
| 今期の利益が大きく、今期の税金を減らしたい | 特例 | 今期に全額が損金になる |
| 今期は赤字、または利益が小さい | 一括償却資産 | 今期に全額を損金にしても節税にならない。損金を3年に分けられる |
| 年300万円の枠が足りなくなりそう | 一括償却資産 | 20万円未満の資産を一括償却に回し、枠を20万円以上の資産に使う |
| 同じ区市町村内の償却資産が多く、固定資産税がかかっている | 一括償却資産 | 一括償却資産は償却資産税がかからない |
| 資本金1億円超や通算法人など、中小企業者等に当たらない | 一括償却資産 | 特例が使えない |
20万円以上40万円未満の資産は、特例か通常の減価償却のどちらかです。特例の枠が残っていて今期の利益があるなら特例、そうでなければ通常の減価償却になります。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
少額減価償却資産の仕訳(10万円未満・一括償却資産・特例)
3月決算の会社を例に、処理ごとの仕訳を示します(税抜経理、金額は税抜)。
10万円未満(8万円のプリンター)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 80,000 | 普通預金 | 80,000 |
一括償却資産(18万円のタブレット端末)
| 時点 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 取得時 | 一括償却資産 | 180,000 | 普通預金 | 180,000 |
| 決算時 | 減価償却費 | 60,000 | 一括償却資産 | 60,000 |
一括償却資産は、事業年度の途中で買っても月割りにしません。12か月の事業年度なら、取得価額の3分の1ずつを3年で損金にします。途中で売ったり捨てたりしても、残りを一度に損金にはできません。
少額減価償却資産の特例(35万円の業務用パソコン)
| 時点 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 取得時 | 工具器具備品 | 350,000 | 普通預金 | 350,000 |
| 決算時 | 減価償却費 | 350,000 | 工具器具備品 | 350,000 |
特例の適用には損金経理、つまり決算書で費用として計上することが必要です。消耗品費で直接落とす会社もありますが、いったん資産に計上してから減価償却費で落とすと、固定資産台帳に記録が残ります。後で説明する償却資産税の申告で、この記録が要ります。
少額減価償却資産の特例の計算例(年300万円を超えた年)
資本金1,000万円、従業員30人、3月決算の会社が、令和8年4月から令和9年3月の事業年度に次の資産を買った例です。
| 資産 | 取得価額 | 使い始めた月 |
|---|---|---|
| 業務用パソコン 6台 | 各35万円(計210万円) | 令和8年5月 |
| 複合機 | 38万円 | 令和8年10月 |
| 会議システム一式 | 39万円 | 令和9年1月 |
| ノートパソコン 5台 | 各18万円(計90万円) | 令和9年2月 |
40万円未満の資産の合計は377万円で、300万円の枠を77万円超えます。枠の配分はこう考えます。
- 20万円未満のノートパソコン90万円は、一括償却資産に回せる。これを外すと、特例の候補は287万円(パソコン210万円+複合機38万円+会議システム39万円)で、枠に収まる
- 特例で287万円を全額損金にする。枠は13万円余るが、18万円のノートパソコン1台は入らない
- ノートパソコン90万円は一括償却資産として、今期に30万円(90万円×12/36)を損金にする
この会社の今期の損金は、287万円+30万円=317万円です。
もしノートパソコンも特例の候補にしていたら、300万円の枠に入らなかった資産は通常の減価償却になります。枠から外れた1台が複合機38万円だったとすると、器具備品(事務機器)の耐用年数5年・定率法の償却率0.400で、使い始めた10月から6か月分なので、38万円×0.400×6/12=7万6,000円しか今期の損金になりません。枠を超えそうな年は、20万円未満の資産から一括償却に回すと、損金を今期に寄せやすくなります。
事業年度が1年に満たない場合、上限は300万円を12で割って月数をかけた額になります。設立初年度の6か月決算なら150万円です。
少額減価償却資産の特例の申告(別表十六(七))
特例を使うには、確定申告書に別表十六(七)「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例に関する明細書」を添付します。書くのは、資産の種類・構造・細目、取得年月日、事業の用に供した年月、取得価額などで、合計額が年300万円以内に収まっていることを示します。
資産の数が多い場合は、別表十六(七)に合計額を書き、明細は別紙で保存する扱いも認められています。どちらにしても、どの資産に特例を使ったかを1件ずつ追える状態にしておくことが大切です。
一括償却資産は別表十六(八)、通常の減価償却は別表十六(一)(定額法)・十六(二)(定率法)に書きます。個人事業主は、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に、特例を使った旨と取得価額の合計額を書きます。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
少額減価償却資産の特例と償却資産税(固定資産税)の扱いの違い
法人税で全額損金にしても、固定資産税の上では資産として残ることがあります。特例は租税特別措置法による国税の制度なので、固定資産税(償却資産)には適用されません。
| 処理 | 法人税の扱い | 償却資産税の申告 |
|---|---|---|
| 10万円未満の即時損金算入 | 全額損金 | 不要 |
| 20万円未満の一括償却資産 | 3年で損金 | 不要 |
| 少額減価償却資産の特例 | 全額損金 | 必要 |
| 通常の減価償却 | 耐用年数で損金 | 必要 |
償却資産税は、毎年1月1日時点で持っている事業用の資産について、1月31日までに資産のある区市町村(東京23区は都税事務所)へ申告します。課税標準額の合計が150万円未満なら課税されませんが、申告自体は求められます。
よくある誤りは、特例で全額損金にした資産を、償却資産の申告からも外してしまうことです。帳簿上で消耗品費にしていると、固定資産台帳に載らず、申告から漏れます。特例を使った資産も、耐用年数が過ぎるまでは償却資産として申告します。
M&A・事業承継で少額減価償却資産の特例が見られる箇所
M&Aのデューデリジェンスでは、買い手は固定資産台帳、償却資産の申告書、法人税申告書の別表十六を照らし合わせます。少額減価償却資産の特例に関して見られるのは次の3点です。
| 見られる点 | 何が問題になるか |
|---|---|
| 特例を使った資産が償却資産の申告から漏れていないか | 漏れていれば、区市町村から過去の年度分までさかのぼって固定資産税と延滞金を課されることがある。買い手は想定される追徴額を株価から差し引くか、売り手に表明保証を求める |
| 年300万円の枠を超えて特例を使っていないか | 超えた分は損金にならず、税務調査で否認される。別表十六(七)の合計額と、実際に特例で落とした額が合っているかを見られる |
| 固定資産台帳に載っていない資産がないか | 消耗品費で落とした資産が台帳に無いと、資産の実在と金額を確かめられない。事業に必要な設備が帳簿のどこにも無い状態になる |
売却の後は、特例が使えなくなることもあります。資本金1億円超の会社に株式の過半数を売った場合、買った会社の傘下に入った日から中小企業者等に当たらなくなり、それ以後に取得した資産には特例を使えません。買い手のグループでグループ通算制度に入る場合も同じです。売却後の設備投資の計画を立てるときは、この点を織り込みます。
売却を考え始めたら、直近数年分の固定資産台帳と償却資産の申告書を並べ、特例を使った資産が申告に含まれているかを確かめておくと、デューデリジェンスでの指摘を減らせます。提出を求められる書類の全体は「M&Aデューデリジェンスの必要書類チェックリスト」で扱っています。
少額減価償却資産の特例を使う前のチェックリスト
- [ ] 青色申告をしていて、資本金1億円以下など中小企業者等に当たるか
- [ ] 常時使用する従業員は400人以下か(令和8年4月1日以後の取得)
- [ ] 取得価額は、付随費用を含め、経理方式(税抜・税込)に合わせて判定したか
- [ ] 事業年度の特例の合計額は300万円以内か
- [ ] 20万円未満の資産を一括償却資産に回すほうが有利でないか
- [ ] 別表十六(七)を添付したか
- [ ] 特例を使った資産を固定資産台帳に載せ、償却資産の申告に含めたか
よくある質問
Q. 30万円以上40万円未満の資産を令和8年3月に買い、4月から使い始めた場合は特例を使えますか。
使えません。40万円未満の基準は、令和8年4月1日以後に取得した資産に適用されます。使い始めた日ではなく取得した日で判定するので、3月に取得した資産は30万円未満の基準で見ます。30万円以上なら通常の減価償却になります。
Q. 年300万円の上限を超えた分はどうなりますか。
超えた資産は特例の対象外となり、通常の減価償却で処理します。20万円未満の資産なら、一括償却資産として3年で損金にする方法も選べます。どの資産を特例に回すかは会社が選べるので、取得価額の大きい資産から枠に入れると、損金を今期に寄せやすくなります。
Q. 赤字の年でも少額減価償却資産の特例を使うべきですか。
必ずしも使う必要はありません。赤字の年に全額を損金にしても、その年の税金は減りません。青色申告の欠損金として翌年以降に繰り越せますが、一括償却資産や通常の減価償却で翌年以降に損金を残すほうが、利益が出た年の税金を減らしやすいこともあります。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を、年300万円まで買った年に全額損金にできる制度です。適用期限は令和11年3月31日で、従業員400人以下の青色申告の中小企業者等が使えます。
10万円未満は即時損金、10万円以上20万円未満は一括償却か特例、20万円以上40万円未満は特例か通常償却。今期の利益、300万円の枠、償却資産税の3つで選び分けます。
特例で全額損金にしても、償却資産税の申告は残ります。資産を買ったら固定資産台帳に載せることが、毎年の申告の抜けを防ぎ、将来会社を売るときの説明の手間も減らします。
参考
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2026/pdf/A.pdf
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
- 中小企業庁「少額減価償却資産の特例」https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tokurei/syougaku_shisan.html
- 東京都主税局「固定資産税(償却資産)」https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/work/shokyak_sis
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
他の関連記事はこちら