役員貸付金は、会社が社長などの役員にお金を貸している状態を表す勘定科目です。社長が会社の口座から生活費や個人の支払いを出し、そのまま精算していないと、決算で役員貸付金として残ります。
役員貸付金のデメリットは、利息・銀行・税務調査・M&Aの4つの場面で表に出ます。中でも会社を売るときの影響が大きく、買い手はデューデリジェンスで必ず確認し、多くの場合は売却前の解消を条件にします。
この記事では、4つのデメリットを整理したうえで、令和8年の利率での認定利息を計算し、M&Aや事業承継で問題になる理由、解消する5つの方法と税金、売却前にやることのチェックリストをまとめます。
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役員貸付金のデメリットは4つ
| 場面 | 何が起きるか | 影響 |
|---|---|---|
| 利息 | 無利息で貸していると、適正な利息との差額が社長への給与とみなされる | 社長に所得税がかかり、会社は源泉徴収をしていなかったと指摘される |
| 銀行 | 回収の見込みが薄い資産として、決算書の評価から差し引かれることが多い | 融資の審査で実質的な自己資本が小さく見られる |
| 税務調査 | 貸付金の中身が、実は給与や交際費ではないかを確かめられる | 役員給与と認定されると、損金にならず追徴になることがある |
| M&A・事業承継 | 買い手や後継者が、回収できる資産かを確かめる | 株価から差し引かれるか、売却前の返済を求められる |
根本にあるのは、会社のお金と社長個人のお金の区別が曖昧に見えることです。金額そのものよりも、なぜ貸したのか、いつ返すのかが説明できない状態が問題にされます。
役員貸付金の認定利息の計算例(令和8年は1.3%)
会社が役員にお金を貸すときは、利息を受け取る必要があります。無利息や低い利率で貸すと、適正な利息との差額が役員への経済的な利益として給与課税の対象になります。
適正な利率は次の順で決まります(所得税基本通達36-49)。
- 会社が銀行などから借りたお金をそのまま役員に貸した場合:その借入金の利率
- それ以外の場合:貸し付けた年に応じた利率。令和8年中の貸付けは1.3%(令和4年から令和7年は0.9%)
計算例:3,000万円を無利息で貸している場合
令和8年に社長へ3,000万円を貸し、利息を受け取っていない例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 貸付金の残高 | 3,000万円 |
| 適正な利率(令和8年の貸付け) | 1.3% |
| 1年分の適正な利息(3,000万円×1.3%) | 39万円 |
| 実際に受け取った利息 | 0円 |
| 給与として課税される経済的な利益 | 39万円 |
39万円は社長の給与として所得税の対象になり、会社は源泉徴収をしていなかったことになります。受け取るべき利息との差額が1年間で5,000円以下なら課税されないので、残高が数十万円の小さな貸付けなら実際の影響はほとんどありません。
会社の側では、受け取るべき39万円の利息を収益に計上していないことも指摘されます。貸付金が大きいほど、毎年の利息の問題は雪だるま式に増えます。
役員貸付金がM&Aのデューデリジェンスで指摘される理由
M&Aの買い手は、デューデリジェンスで貸借対照表の資産を1つずつ確かめます。役員貸付金は、そのときに必ず質問される科目です。理由は3つあります。
- 回収できる資産か分からない。売り手の社長は株式を売った後、会社から離れます。離れた人に貸したお金を、買い手が回収できる保証はありません
- 中身が経費や給与の可能性がある。使途の記録が無いと、本当は交際費や役員報酬だったのではないかと見られ、過去の税務リスクとして扱われます
- 会社の管理体制の目安になる。個人の支払いを会社の口座から出す習慣があると、ほかの取引も同じではないかと見られます
役員貸付金が株価算定と事業承継に与える影響
株価を純資産で算定するとき、役員貸付金は帳簿上は資産です。しかし買い手は、回収の見込みが立たない部分を資産から除いて評価するのが一般的です。3,000万円の貸付金をゼロと評価されれば、株価はその分下がります。
実務では、買い手が次のどちらかを求めることが多くなります。
- クロージングの前に社長が全額を返す
- 株式の譲渡代金から貸付金の残高を差し引いて払う
親族への事業承継でも同じ問題が出ます。後継者が株式を引き継いだ後に、先代への貸付金をどう回収するかを決めていないと、親子の間で返せ・返さないの話になり、兄弟姉妹の相続にも絡みます。先代が亡くなれば、貸付金の返済義務は相続人が引き継ぎます。
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役員貸付金を解消する5つの方法と税金
どの方法でも、社長個人の手元に返すお金を作る必要があります。違いは、そのお金にどんな税金がかかるかです。
| 方法 | 社長個人の税金 | 会社の税金 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 手元の預金で返す | かからない | かからない | 個人の預金で足りる |
| 役員報酬を増やして返す | 給与所得として累進課税・社会保険料 | 定期同額給与の要件内なら損金 | 数年かけて少しずつ減らす |
| 役員退職金と相殺する | 退職所得(控除後の2分の1に課税) | 適正額なら損金 | 社長が退任する、または売却と同時に退く |
| 個人の資産を会社に売って相殺する | 資産の譲渡所得に課税 | 時価で取得すれば問題は小さい | 会社が使っている社長個人の不動産がある |
| 株式の譲渡代金で返す | 株式の譲渡益に20.315% | かからない | M&Aで株式を売る |
役員報酬で返すのは税負担が重い
役員報酬を増やして返す方法は分かりやすい反面、所得税・住民税・社会保険料を差し引いた手取りで返すことになります。限界税率が高い社長ほど、返すために必要な報酬は膨らみます。報酬の改定は事業年度開始から3か月以内という期限もあります(「役員報酬の税金」)。
退職金との相殺と譲渡代金での返済が、M&Aでは現実的
M&Aと同時に社長が退任するなら、役員退職金と貸付金を相殺する方法が有力です。退職所得は退職所得控除を引いた額の2分の1に課税されるので、給与で返すより負担が軽くなります(「退職金の税金の計算方法」)。
退職金を出さない場合は、株式の譲渡代金から返します。譲渡益の税率は20.315%で、累進課税の役員報酬より低いことがほとんどです。
貸付金を会社が放棄するのは避ける
会社が「返さなくてよい」と債権を放棄すると、放棄した額が社長への給与として扱われます。毎月一定の給与ではないので会社の損金にならず、社長には給与所得として課税されます。会社と個人の両方で税金がかかるので、最後の手段にもなりません。
売却前に役員貸付金を整理する手順とチェックリスト
売却の相談を始める前から、次の順で整理しておくと、デューデリジェンスでの説明が短く済みます。
- 貸付金の中身を洗い出す。いつ、何のために出したお金か。本来は経費や報酬だったものが入っていないか
- 金銭消費貸借契約書を作る。利率・返済期日・返済方法を書き、取締役会(または株主総会)で承認を取る
- 利息を受け取る。令和8年の貸付けなら1.3%以上、会社が借りて貸したならその利率
- 返し方を決める。売却と同時に退任するなら退職金との相殺、残るなら譲渡代金からの返済
- 買い手に先に開示する。後から見つかるより、最初に説明したほうが評価は下がりにくい
役員貸付金のチェックリスト
- [ ] 役員貸付金の残高と、前期からの増減
- [ ] 貸付けごとの日付・金額・使途の記録
- [ ] 金銭消費貸借契約書と、取締役会等の承認の議事録
- [ ] 利息を受け取っているか、利率は通達の水準以上か
- [ ] 仮払金など別の科目に、同じ性質のお金が紛れていないか
- [ ] 社長個人の返済原資(預金・退職金・譲渡代金・不動産)
- [ ] 売却と同時に退任するか、しばらく残るか
- [ ] 会社が社長から借りている役員借入金との相殺ができるか
よくある質問
Q. 役員貸付金はいくらまでなら問題になりませんか。
金額の上限を定めた法令はありません。問題になるのは、金額よりも契約書・利息・返済の実態が無いことです。ただし、M&Aでは金額が大きいほど株価への影響も大きくなるので、売却の予定があるなら早めに減らしておきます。
Q. 役員借入金(社長が会社に貸しているお金)がある場合はどうなりますか。
同じ社長との間で貸付金と借入金の両方があるなら、合意して相殺すれば両方が消えます。相殺した後に借入金が残る場合は、M&Aではその返済や放棄の方法を買い手と決めることになります。
Q. 利息を受け取れば、M&Aでも問題になりませんか。
利息の問題は解消しますが、回収できる資産かどうかという買い手の疑問は残ります。売却の前か、譲渡代金の決済と同時に残高をゼロにするのが確実です。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ
役員貸付金のデメリットは、会社と社長個人のお金の区別が曖昧に見え、利息・銀行・税務調査・M&Aの各場面で説明を求められることです。
売却を考え始めたら、中身の洗い出し、契約書と利息の整備、返し方の決定の順で整理する。M&Aで退任するなら退職金との相殺、残るなら譲渡代金からの返済が現実的。
会社による債権放棄は税金が二重にかかるので選ばず、返済の原資を先に決めてから売却の相談に進んでください。
参考
- 国税庁 タックスアンサー No.2606「金銭を貸し付けたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm
- 法人税法(第34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
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