役員報酬の税金|所得税・住民税・社会保険の手取りシミュレーションと、報酬を上げるか会社に残すかの判定表(事業承継・M&A前後の決め方つき)

オーナー経営者の役員報酬は、自分で金額を決められる代わりに、個人の税金と会社の税金の両方を同時に動かす数字です。報酬を1円増やせば会社の利益は1円減り、個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。

判断の軸は、「その1円を個人で受け取ったときの負担」と「会社に残したときの負担」のどちらが軽いかです。さらに、いずれ会社を売るか引き継ぐつもりなら、会社に残したお金は株式の価値や退職金として、別の税率で受け取り直すことになります。

この記事では、役員報酬にかかる税金と社会保険の全体像、年収別の手取り、法人税で損金になる役員報酬の型、報酬を上げるか会社に残すかの判定表、事業承継・M&Aの前後で報酬をどう決めるかを整理します。

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目次
  1. 役員報酬にかかる税金と社会保険の全体像
  2. 役員報酬の手取りシミュレーション(年収別の計算例)
  3. 法人税で損金になる役員報酬の3つの型
  4. 役員報酬を上げるか会社に残すかの判定表
  5. M&A・事業承継の前後で役員報酬をどう決めるか
    1. M&Aの前:報酬の高さで株価は大きく変わらない
    2. M&Aの後:顧問・役員として残る場合
    3. 親族へ承継する場合
  6. 役員退職金と役員報酬の税金の比較
  7. 役員報酬を決める前のチェックリスト
  8. よくある質問
    1. Q. 役員報酬を期の途中で上げてもよいですか。
    2. Q. 役員報酬をゼロにして会社に全部残す方が得ですか。
    3. Q. 社会保険料を下げるために賞与を多くするのは有効ですか。
  9. まとめ
  10. 参考

役員報酬にかかる税金と社会保険の全体像

役員報酬には、受け取る個人の側と、支払う会社の側で、それぞれ次の負担がかかります。

負担 個人(役員)の側 会社の側
所得税・復興特別所得税 給与所得として課税。税率5〜45%の累進に2.1%の復興特別所得税 ―
住民税 所得割10%+均等割。翌年に課税 ―
健康保険・介護保険 標準報酬月額に保険料率をかけ、労使で折半 同額を負担
厚生年金保険 標準報酬月額(上限あり)に18.3%をかけ、労使で折半 同額を負担
法人税など ― 損金になる形で払えば、会社の課税所得が減る

気づきにくいのは、社会保険料は会社も同じ額を負担していることです。役員報酬を増やすと、会社が払う総額は「報酬+会社負担の社会保険料」になります。一方で厚生年金保険の標準報酬月額には上限があり、報酬が一定額を超えると保険料は頭打ちになります。

給与所得は、収入から給与所得控除を引いて計算します。令和8年分・9年分の給与所得控除は、収入が850万円を超えると195万円で上限になります。

役員報酬の手取りシミュレーション(年収別の計算例)

3つの年収で、役員本人の手取りと会社の総負担を計算します。前提は次のとおりです。

  • 令和8年分の所得税(基礎控除62万円)。住民税は基礎控除43万円で所得割10%+均等割5,000円として概算
  • 東京都・協会けんぽ、40歳以上65歳未満(健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金を合わせて11.70%)
  • 厚生年金保険は18.3%、標準報酬月額の上限は65万円
  • 毎月同額の報酬のみ(賞与なし)、扶養親族なし、社会保険料控除以外の控除なし
項目 月50万円(年600万円) 月100万円(年1,200万円) 月200万円(年2,400万円)
社会保険料(本人負担) 90.0万円 140.2万円 168.9万円
所得税・復興特別所得税 19.0万円 123.6万円 520.7万円
住民税 30.8万円 82.7万円 199.8万円
手取り 460.2万円 853.6万円 1,510.6万円
手取り率 76.7% 71.1% 62.9%
会社の総負担(報酬+会社負担の社会保険料) 690.0万円 1,340.2万円 2,568.9万円

年2,400万円では、会社が2,569万円を出して、本人の手取りは1,511万円です。会社の総負担に対する手取りは6割を切ります。報酬が高くなるほど所得税の限界税率が上がり、社会保険料の上限による軽減を打ち消していきます。

住民税の調整控除などは省いた概算です。実際の額は、扶養・生命保険料控除・ふるさと納税などで変わります。

法人税で損金になる役員報酬の3つの型

役員報酬を払っても、法人税法の型に当てはまらない部分は会社の損金になりません(法人税法第34条第1項)。損金にならなければ、個人でも課税され、会社でも法人税がかかる二重の負担になります。

型 中身 オーナー会社での使い方
定期同額給与 1か月以下の一定の期間ごとに、事業年度中同額で払う給与 基本はこれ。改定は事業年度開始から3か月以内が原則
事前確定届出給与 所定の時期に確定した額を払う旨を、事前に税務署へ届け出た給与 役員賞与を損金にしたいときに使う。届出どおりに払わないと損金にならない
業績連動給与 利益などの客観的な指標で算定する給与 同族会社は、同族会社以外の法人に完全支配されている場合に限られる。オーナー会社では実質的に使えない

定期同額給与の改定は、事業年度開始から3か月以内に行うのが原則です(法人税法施行令第69条第1項第1号)。期中に増額すると、増額分は損金になりません。例外として、役員の職制上の地位の変更などの臨時改定事由や、経営状況が著しく悪化したことによる減額は認められます。

事前確定届出給与の届出期限は、株主総会等の決議の日(決議の日が職務執行の開始の日より後なら、職務執行の開始の日)から1か月を経過する日と、事業年度開始から4か月を経過する日のいずれか早い日です。

いずれの型でも、職務の内容に照らして不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法第34条第2項)。

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役員報酬を上げるか会社に残すかの判定表

報酬を上げるか、会社に利益を残すかは、次の1円にかかる負担の比べっこです。

  • 個人側:報酬を増やした分に、所得税・住民税の限界税率と、上限に達していなければ社会保険料(本人・会社の両方)がかかる
  • 会社側:利益として残した分に、法人税・住民税・事業税がかかる。中小法人の法人税率は所得800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%で、住民税・事業税を合わせた負担はおおむね20%台半ばから30%台半ば
状況 向いている選択 理由
報酬が低く、所得税の限界税率が20%以下 報酬を上げる 個人の負担が法人の負担より軽いことが多い
課税所得が1,800万円を超え、限界税率40%以上 会社に残す 所得税・住民税で5割を超え、法人の負担より重い
数年以内にM&Aで株式を売る予定 会社に残す(ただし現金の置き方に注意) 残した利益は株価に反映され、株式の譲渡益(20.315%)として受け取り直せる
数年以内に退任し退職金を受け取る予定 最終の報酬を適正な水準に保つ 役員退職金の適正額は最終報酬を基準に計算されることが多い
生活費以上の報酬を受け取って個人で貯めている 会社に残すことを検討 個人の限界税率で課税されたうえで貯まっている

会社に残す判断には前提があります。残した利益を、いつ、どの形で個人に移すかです。配当で受け取れば、配当所得として改めて課税されます。有利になるのは、株式の譲渡や役員退職金のように、低い税率や優遇のある形で受け取り直せる出口があるときです。

M&A・事業承継の前後で役員報酬をどう決めるか

M&Aの前:報酬の高さで株価は大きく変わらない

オーナーの役員報酬が高いと会社の利益は小さく見えますが、買い手はデューデリジェンスでオーナーの報酬を相場の水準に置き直して利益を計算し直します。報酬を下げて利益を大きく見せても、買い手は同じ調整をするので、評価はそれほど変わりません。

M&Aの前に意識したいのは次の2点です。

  • 期中の報酬の増減は、定期同額給与の要件を外れないように、事業年度開始から3か月以内に決める
  • 退職金を受け取るつもりなら、最終報酬を極端に下げない。役員退職金の適正額は「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で考えられることが多い

M&Aの後:顧問・役員として残る場合

株式を売った後も、引き継ぎのために一定期間役員や顧問として残ることがあります。この場合の報酬は、買い手と合意して決めます。代表取締役を退任して取締役になるなど、職制上の地位が変わるときは臨時改定事由として期中に報酬を改定できます。

親族へ承継する場合

後継者へ代表を譲るときは、先代の報酬を下げ、後継者の報酬を上げる調整が必要になります。先代が代表を退いても実質的に経営に関わり続けていると、役員退職金が退職の事実を欠くとして否認されるおそれがあるので、退任後の報酬と関与の程度を分けて設計します。

役員退職金と役員報酬の税金の比較

同じ1億円を受け取るとして、役員退職金と役員報酬では税負担が大きく違います。

退職所得は、収入から退職所得控除を引いた額の2分の1が課税対象になり、ほかの所得と分けて課税されます。在任30年の役員が1億円の退職金を受け取る場合を計算します。

項目 金額
退職金 1億円
退職所得控除(800万円+70万円×10年) 1,500万円
課税退職所得((1億円−1,500万円)×1/2) 4,250万円
所得税・復興特別所得税 約1,463万円
住民税 425万円
手取り 約8,112万円(税負担は約18.9%)

年2,400万円の役員報酬の手取り率が約63%だったことと比べると、退職金として受け取る方が負担はずっと軽いことが分かります。ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1の計算が使えないなど、制限があります。退職金とM&Aでの株式譲渡の組み合わせ方は「退職金の税金の計算方法」で、株式を売ったときの手取りは「株式譲渡の税金」で詳しく扱っています。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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役員報酬を決める前のチェックリスト

  • [ ] 事業年度の開始日と、報酬改定の期限(開始から3か月)
  • [ ] 現在の報酬での所得税の限界税率と、厚生年金保険の上限に達しているか
  • [ ] 賞与を出すなら事前確定届出給与の届出期限
  • [ ] 会社に残した利益を受け取る出口(株式譲渡・退職金・配当)と時期
  • [ ] 退職金規程の有無と、功績倍率・在任年数
  • [ ] M&Aや承継の予定時期と、その前後の役職
  • [ ] 家族を役員にしている場合、職務の実態に見合う報酬か

よくある質問

Q. 役員報酬を期の途中で上げてもよいですか。

上げることはできますが、定期同額給与の要件を外れた増額分は損金になりません。原則は事業年度開始から3か月以内に改定します。

Q. 役員報酬をゼロにして会社に全部残す方が得ですか。

会社の法人税は減らせませんし、生活費を払うために会社からお金を借りると、役員貸付金として別の問題が生じます。個人の限界税率が低いうちは、報酬として受け取る方が負担が軽い場合もあります。判定表の「報酬が低い」ケースに当たるかどうかを先に確かめてください。

Q. 社会保険料を下げるために賞与を多くするのは有効ですか。

賞与にも標準賞与額に応じた社会保険料がかかり、上限もあります。事前確定届出給与の届出が必要で、届け出た額どおりに払わないと損金になりません。税額だけでなく、将来の年金額も変わる点を踏まえて判断します。

まとめ

役員報酬は、個人の税負担と会社の税負担のどちらを取るかの選択です。

報酬が低いうちは受け取った方が軽く、限界税率が4割を超えたら会社に残す方が軽くなりやすい。会社に残すなら、株式の譲渡や退職金という出口とセットで考える。

報酬の改定は事業年度開始から3か月以内という期限があるので、M&Aや承継の予定がある方は、次の期首までに税理士と一緒に設計してください。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

参考

  • 法人税法(第34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
  • 法人税法施行令(第69条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
  • 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.1199「基礎控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
  • 全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/rate_prefectures/r08/index.html

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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