常勤役員と非常勤役員の違い|役員報酬・社会保険・役員退職金の比較と、事業承継で先代が非常勤に退くときの判定表

常勤役員と非常勤役員は、会社法で定められた区分ではありません。会社に毎日のように出て経営の実務を担うのが常勤役員、取締役会などに出て意見を述べる程度の関わり方をするのが非常勤役員という、実態による呼び分けです。

呼び方に法律上の定めは無くても、実態が常勤か非常勤かで、社会保険に入るか、役員報酬がいくらまで認められるか、役員退職金をいつ出せるかが変わります。中小企業で最もよく問題になるのは、事業承継で先代の社長が代表を譲り、非常勤の取締役や会長に退く場面です。

この記事では、常勤役員と非常勤役員の違いを3つの観点で比べたうえで、先代が非常勤に退くときに何を決めるべきかを判定表で整理します。

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目次
  1. 常勤役員と非常勤役員の違いを一覧で比較
  2. 常勤役員と非常勤役員の役員報酬の決め方
  3. 常勤役員と非常勤役員の社会保険の加入判断
    1. 先代が非常勤に退くときの年金の論点
  4. 常勤役員と非常勤役員の役員退職金の算定
    1. 計算例:非常勤に退いた後で退職金を出すと、最終報酬月額が下がる
    2. 非常勤になった時点で退職金を出せる条件
  5. 先代が常勤役員から非常勤役員に退くときの判定表
    1. 非常勤に退く前のチェックリスト
  6. よくある質問
    1. Q. 非常勤役員の報酬に相場はありますか。
    2. Q. 非常勤役員は従業員の数に含まれますか。
    3. Q. 非常勤役員でも社会保険に入る場合はありますか。
  7. まとめ
  8. 参考

常勤役員と非常勤役員の違いを一覧で比較

項目 常勤役員 非常勤役員
関わり方 会社に常時勤務し、担当業務の決裁や職員の指揮監督をする 取締役会などに出席し、求めに応じて意見を述べる
役員報酬の水準 職務に見合う額。同業同規模の会社の水準が目安 出席回数や助言の範囲に見合う額。常勤より低いのが通常
社会保険(健康保険・厚生年金) 報酬を受けていれば原則として加入 経営への参画が経常的でなければ加入しない
役員退職金 在任年数と最終報酬を基に算定 常勤から非常勤に変わった時点で、条件を満たせば支給できる
会社法上の責任 取締役としての責任は同じ 取締役としての責任は同じ

最後の行は誤解されやすいところです。非常勤でも取締役である以上、善管注意義務や第三者への責任は常勤と変わりません。非常勤は「責任が軽い役員」ではなく、「会社への関わり方が限られた役員」です。

なお、監査役会を置く会社は、監査役の中から常勤の監査役を選ぶ必要があります(会社法第390条第3項)。常勤という言葉が法律に出てくるのは、主にこの場面です。

常勤役員と非常勤役員の役員報酬の決め方

常勤でも非常勤でも、役員報酬を会社の損金にするには、定期同額給与などの法人税法の型に当てはめる必要があります(法人税法第34条第1項)。

違いが出るのは次の2点です。

  • 金額の相当性。職務の内容に照らして不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法第34条第2項、法人税法施行令第70条第1号)。月に1回の取締役会に出るだけの非常勤役員に、常勤と同じ報酬を払うと、この点を指摘されます
  • 払い方。非常勤役員に年1回や半年に1回まとめて報酬を払う場合、同族会社では事前確定届出給与として税務署への届出が要ります。届出どおりに払わないと損金になりません

先代が常勤から非常勤に変わって報酬を減らすのは、期中でも認められます。役員の職制上の地位が変わったことによる改定は、臨時改定事由に当たるからです(法人税法施行令第69条第1項第1号ロ)。

常勤役員と非常勤役員の社会保険の加入判断

役員は労働者ではありませんが、法人から労務の対価として報酬を受けていれば、健康保険と厚生年金保険の被保険者になります。問題は非常勤役員をどう扱うかです。

厚生労働省は令和8年3月18日の通知で、役員の被保険者資格を次の2つの基準で判断すると明確にしました。

  1. その業務が、実態として法人の経営への参画を内容とする経常的な労務の提供か
  2. その報酬が、その業務の対価として法人から経常的に支払われるものか

そのうえで、基本的に次のどれかに当たれば社会保険の適用はないとしています。

基準 適用がないとされる例
業務が経常的な労務の提供に当たらない 役員会等に出席しているが、役員への連絡調整や職員の指揮監督をしていない/求めに応じて意見を述べる立場にとどまる
報酬が経常的な対価に当たらない 役員会等への出席について払われる報酬/旅費などの実費弁償/退職手当

判断にあたっては、指揮命令する職員がいるか、決裁権のある担当業務があるか、代表者への報告をしているか、会議以外の業務のためにどれくらい出勤しているか、といった事実を総合的に見ます。「非常勤」という肩書きではなく、実際の関わり方で決まるということです。

先代が非常勤に退くときの年金の論点

先代が60歳以上で老齢厚生年金を受け取っている場合、常勤のまま報酬を受けて厚生年金に入っていると、在職老齢年金の仕組みで年金が減ることがあります。令和8年4月以降は、報酬(総報酬月額相当額)と年金の月額の合計が65万円を超えると、超えた分の2分の1が支給停止になります。

非常勤になって社会保険の適用から外れれば、この調整はかかりません。70歳以上になると厚生年金の被保険者ではなくなりますが、報酬を受けている間は在職老齢年金の調整は続きます。

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常勤役員と非常勤役員の役員退職金の算定

役員退職金の適正額は、実務では次の功績倍率法で考えられることが多くあります。

役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

法人税法施行令第70条第2号は、退職金が不相当に高額かどうかを、業務に従事した期間、退職の事情、同業で規模が似た法人の支給状況に照らして判断するとしています。功績倍率の数字そのものは法令に定めが無く、代表取締役で3倍前後が目安といわれるのは、過去の裁判例や実務の積み重ねによるものです。

計算例:非常勤に退いた後で退職金を出すと、最終報酬月額が下がる

先代が代表取締役を28年務めた後、非常勤の取締役に4年とどまってから役員を退任する例です。功績倍率は3.0と仮に置きます。

支給のタイミング 最終報酬月額 在任年数 役員退職金(×3.0)
代表から非常勤に変わる時点で支給 150万円 28年 1億2,600万円
非常勤の4年後、完全退任時に支給 30万円 32年 2,880万円

最終報酬月額をそのまま使うと、非常勤の期間を経た後の退職金は大きく下がります。実務では非常勤期間の報酬の下げ方や、1年当たりの平均額で計算する方法も検討されますが、常勤から非常勤に変わる時点で退職金を出すかどうかは、先に決めておくべき論点です。

非常勤になった時点で退職金を出せる条件

役員が辞めずに非常勤になるだけでも、地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同じ事情にあれば、退職給与として扱えます(法人税基本通達9-2-32)。例として次が挙げられています。

  • 常勤役員が非常勤役員になった(非常勤でも代表権を持つ人や、実質的に経営上主要な地位にいる人を除く)
  • 取締役が監査役になった
  • 分掌変更の後の報酬がおおむね50%以上減った(経営上主要な地位にいる人を除く)

名目上は非常勤でも、重要な経営判断に関わり続けていると、退職金は退職給与と認められず役員賞与として損金にならないおそれがあります。また、原則として実際に払った退職金に限られ、未払金として計上しただけのものは含まれません。退職金の税金の計算は「退職金の税金の計算方法」で扱っています。

先代が常勤役員から非常勤役員に退くときの判定表

事業承継で先代がどう退くかは、経営への関わりを残すか、退職金を先に受け取るかの組み合わせで決まります。

先代の状況 向いている形 社会保険 退職金
後継者がまだ若く、取引先や銀行との関係を数年かけて引き継ぐ 代表を外れて常勤の会長・取締役に残る 加入を続ける 分掌変更の要件を満たしにくい。完全退任時に支給
後継者が実務を回せており、先代は相談役程度で残りたい 非常勤の取締役(代表権なし) 役員会出席と助言だけなら適用なし 報酬を50%以上下げ、経営判断から離れれば、この時点で支給できる
経営からは離れるが、後継者の監督役として関わりたい 監査役に就く 業務の実態で判断 取締役から監査役への変更として支給できる
M&Aで株式を売り、引き継ぎ期間だけ残る 買い手と合意した期間だけ顧問または非常勤の役員 契約の中身による 売却と同時に支給し、株式の譲渡代金と組み合わせる
経営に一切関わらない 役員を退任する 適用なし 退任時に支給

判定で迷うのは2行目です。非常勤にしたつもりでも、取引先との重要な交渉に出る、銀行の借入の判断をする、後継者の決裁をひっくり返すといった関わりが残ると、退職金も社会保険も「実態は常勤」と判断されかねません。関わり方を変えられないなら、無理に非常勤にせず、常勤のまま残って完全退任時に退職金を受け取るほうが安全です。

非常勤に退く前のチェックリスト

  • [ ] 代表権を後継者に移したか(代表取締役の変更登記)
  • [ ] 先代の報酬を、非常勤の職務に見合う水準まで下げたか(目安はおおむね50%以上の減額)
  • [ ] 先代が担当していた決裁・指揮監督を後継者に移したか
  • [ ] 退職金を非常勤になる時点で支給するか、完全退任時にするか
  • [ ] 退職金の支給を株主総会で決議し、議事録を残したか
  • [ ] 社会保険の資格喪失の届出が要るか
  • [ ] 在職老齢年金で年金が止まっていないか

よくある質問

Q. 非常勤役員の報酬に相場はありますか。

法令上の相場はありません。出席する会議の回数、助言の範囲、同業同規模の会社の水準を踏まえて決めます。常勤のときと同じ額を払い続けると、職務に照らして高額だと指摘されるおそれがあります。

Q. 非常勤役員は従業員の数に含まれますか。

使用人兼務役員を除き、役員は従業員ではないので、雇用保険や労働基準法の対象にはならず、多くの制度で従業員の数には含まれません。ただし補助金や各種制度の要件によって扱いが違うので、それぞれの要件を確認します。

Q. 非常勤役員でも社会保険に入る場合はありますか。

あります。肩書きが非常勤でも、担当業務の決裁や職員の指揮監督をし、経常的に報酬を受けていれば、被保険者になります。判断は実態で行われます。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

常勤役員と非常勤役員の違いは、肩書きではなく、経営に経常的に関わっているかという実態で決まります。その実態が、社会保険の加入、役員報酬の相当性、退職金を出せる時期をまとめて左右します。

事業承継で先代が退くなら、関わり方を本当に減らせるかを先に決める。減らせるなら非常勤にして、その時点で退職金を受け取る選択肢がある。減らせないなら常勤のまま残り、完全退任時に受け取る。

退職金の額は最終報酬月額に大きく左右されるので、報酬を下げる前に、支給の時期と金額を税理士と一緒に決めてください。

参考

  • 厚生労働省 保保発0318第1号・年管管発0318第1号「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日)https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260319S0080.pdf
  • 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/zairoukaisei.html
  • 法人税法(第34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
  • 法人税法施行令(第69条・第70条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
  • 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第7款「退職給与」(9-2-32)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
  • 会社法(第390条)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

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