会社分割の仕訳|分社型・分割型、適格・非適格で変わる処理を数値例で解説

会社分割(事業の一部または全部を、別の会社に包括的に引き継がせる組織再編)の仕訳は、一つの型では書けません。誰に分割するか(自社グループ内か、第三者か)、対価を誰が受け取るか(分割会社か、その株主か)、そして税務上適格か非適格かで、計上する金額も科目も変わります。

この記事では、事業を切り出す側の「分割会社」と、受け取る側の「承継会社」(新設分割なら「設立会社」)の両側について、数値入りの仕訳例を4つ並べます。会計処理は企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」と、その適用指針(企業会計基準適用指針第10号)に従います。

手続き面(債権者保護手続きや労働契約の承継)は、別記事「会社分割の債権者保護手続きと労働契約の承継」で扱っています。ここでは会計処理だけに絞ります。

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目次
  1. 最初に決まる3つの分岐
  2. 仕訳の前提となる「株主資本相当額」
  3. 仕訳例1:100%子会社をつくる新設分割(分社型・グループ内)
  4. 仕訳例2:第三者へ現金対価で事業を切り出す吸収分割(分社型・第三者)
  5. 仕訳例3:兄弟会社をつくる分割型分割(グループ内)
  6. 仕訳例4:非適格の分社型分割で会計と税務がずれる例
  7. 処理の判定表
  8. 仕訳を組む前のチェックリスト
  9. よくある質問
  10. まとめ
  11. 参考

最初に決まる3つの分岐

仕訳を書く前に、案件が次のどこに当たるかを確定させます。ここがずれると、以降の仕訳がすべて変わります。

分岐 選択肢 仕訳への影響
① 対価を受け取るのは誰か 分割会社自身(分社型分割)/分割会社の株主(分割型分割) 分割型では、受け取った株式を株主へ配る仕訳が追加される
② 分割先との関係 自社の子会社・グループ内(共通支配下の取引)/第三者 グループ内は帳簿価額で移す。第三者なら時価と「のれん」が出てくる
③ 税務上の区分 適格分割/非適格分割 非適格なら税務上は時価で譲渡したものとされ、会計と税務の差を申告書で調整する

①の「分社型」は物的分割、「分割型」は人的分割とも呼ばれます。法人税法では、分割の日に分割対価の株式等を分割法人の株主に交付するものが分割型分割、それ以外が分社型分割と定義されています(法人税法第2条第12号の9・第12号の10)。

会計処理を最も大きく分けるのは②です。企業会計基準第7号は、分離元企業(分割会社)が移転した事業に対する投資を続けているか、清算したかで、移転損益を認識するかどうかを決めます。子会社株式として持ち続けるなら投資は続いていると見て損益を出さず、現金で売り切ったなら投資は清算されたと見て損益を出します。

仕訳の前提となる「株主資本相当額」

以降の仕訳で何度も出てくるのが株主資本相当額です。移転する事業に属する資産の帳簿価額から、負債の帳簿価額を差し引いた額を指します。

例として、次の事業を切り出すとします。

項目 帳簿価額
売掛金 1,500万円
棚卸資産 1,000万円
建物・設備 2,500万円
資産合計 5,000万円
買掛金 800万円
借入金 1,200万円
負債合計 2,000万円
株主資本相当額 3,000万円

以下、仕訳例1〜3ではこの事業(資産5,000万円・負債2,000万円)を使います。仕訳例では資産・負債の個別科目をまとめて「諸資産」「諸負債」と書きます。

仕訳例1:100%子会社をつくる新設分割(分社型・グループ内)

事業部門を分社化して、100%子会社を新しく設立するケースです。中小企業でも、事業ごとの損益を見える化したい、将来その事業だけを売れる形にしておきたい、といった理由でよく使われます。

分割会社の仕訳

借方 金額 貸方 金額
諸負債 2,000万円 諸資産 5,000万円
子会社株式 3,000万円

受け取った子会社株式の取得原価は、移転した事業の株主資本相当額(3,000万円)で計上します。事業分離等会計基準は、分離先企業が子会社になる場合、分離元企業は個別財務諸表上で移転損益を認識しないとしています。事業の価値が1億円あっても、利益は出ません。

設立会社(承継会社)の仕訳

借方 金額 貸方 金額
諸資産 5,000万円 諸負債 2,000万円
資本金 1,000万円
その他資本剰余金 2,000万円

設立会社は、資産と負債を分割会社の移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぎます。増えた株主資本3,000万円を、資本金・資本準備金・その他資本剰余金にどう割り振るかは、分割計画(吸収分割なら分割契約)で定めます。ここでは資本金1,000万円、残りをその他資本剰余金とした例です。

資本金をいくらにするかは、登録免許税(増加した資本金の額の1,000分の7、最低3万円)と、資本金1億円を境に変わる法人税・地方税の扱いに響きます。全額を資本金にする必要はありません。

税務との関係

100%の完全支配関係にある子会社への分割で、対価が株式だけなら、通常は適格分社型分割になります。この場合、税務上も帳簿価額で移転したものとされるので(法人税法第62条の3)、会計の仕訳と税務の数字がほぼそろいます。

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仕訳例2:第三者へ現金対価で事業を切り出す吸収分割(分社型・第三者)

実質的には事業の売却です。事業譲渡ではなく会社分割を選ぶのは、契約や許認可、従業員の承継を包括的に動かせる場面が多いためです。

分割会社は上の事業(株主資本相当額3,000万円)を、資本関係のない会社へ移し、対価として現金5,000万円を受け取るとします。

分割会社の仕訳

借方 金額 貸方 金額
諸負債 2,000万円 諸資産 5,000万円
現金預金 5,000万円 事業移転利益 2,000万円

現金だけを受け取って子会社・関連会社以外へ事業を移した場合、分離元企業は受け取った現金を時価で計上し、株主資本相当額との差額を移転損益として認識します(事業分離等会計基準)。移転損益は、実務上は特別損益に表示するのが一般的です。

承継会社の仕訳

承継会社側から見ると、これは事業の「取得」にあたり、企業結合会計基準のパーチェス法で処理します。受け入れた資産・負債を時価で計上し、支払った対価との差額をのれんとします。

仮に、資産の時価が5,600万円(建物・設備の含み益600万円)、負債の時価が2,000万円だったとします。

  • 時価純資産:5,600万円 − 2,000万円 = 3,600万円
  • 支払対価:5,000万円
  • のれん:5,000万円 − 3,600万円 = 1,400万円
借方 金額 貸方 金額
諸資産 5,600万円 諸負債 2,000万円
のれん 1,400万円 現金預金 5,000万円

会計上ののれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他合理的な方法で規則的に償却します。

税務との関係

現金を対価とする分割は、原則として非適格分割です。分割会社は、税務上も移転資産を時価で譲渡したものとして譲渡損益を計上します(法人税法第62条)。

承継会社では、非適格分割の対価の額が移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える部分が「資産調整勘定」となります(法人税法第62条の8)。税務上ののれんに当たるもので、60か月で均等に損金算入します。会計ののれん(20年以内で償却)とは償却期間が違うため、毎期、申告書で差額を調整することになります。

のれんの考え方そのものは「事業譲渡における「のれん」とは」で詳しく扱っています。

仕訳例3:兄弟会社をつくる分割型分割(グループ内)

オーナーが持つA社から事業を切り出し、A社と並ぶ「兄弟会社」B社を作るケースです。相続や後継者ごとの事業の分け方として使われます。

分割型分割は、会計上「分社型分割で承継会社株式を受け取り、それを直ちに株主へ配当した」ものとして処理します。仕訳は2本に分かれます。

分割会社の仕訳(1本目:事業の移転)

借方 金額 貸方 金額
諸負債 2,000万円 諸資産 5,000万円
承継会社株式 3,000万円

分割会社の仕訳(2本目:株主への分配)

借方 金額 貸方 金額
その他資本剰余金 1,000万円 承継会社株式 3,000万円
繰越利益剰余金 2,000万円

受け取った株式が株主へ移るので、分割会社の株主資本は3,000万円減ります。減らす内訳(その他資本剰余金か、繰越利益剰余金か)は会社の意思決定で定めます。上は1,000万円と2,000万円に分けた例です。

承継会社の仕訳は、仕訳例1の設立会社と同じく、帳簿価額で資産と負債を受け入れ、増えた株主資本を資本金などに割り振ります。

税務との関係

適格分割型分割であれば、承継会社は資産・負債を帳簿価額で引き継ぎ(法人税法第62条の2)、分割会社の株主にみなし配当は生じません。

ただし、税務上は分割会社の資本金等の額と利益積立金額が法人税法施行令の計算式で減るため、会計上の「その他資本剰余金1,000万円・繰越利益剰余金2,000万円」という内訳とは一致しないことがあります。差は法人税申告書の別表五(一)で調整します。

非適格の分割型分割になると、分割会社では時価による譲渡損益が出て、株主側にはみなし配当が生じます。株主に課税が及ぶ点が、分社型との大きな違いです。

仕訳例4:非適格の分社型分割で会計と税務がずれる例

最も差が出やすいのが、グループ内なのに税務上は非適格になるケースです。たとえば、支配関係(50%超)はあるが、従業員の引継ぎや事業継続の要件を満たせず、非適格になった分社型分割です。

移転事業は仕訳例1と同じ(帳簿価額の株主資本相当額3,000万円)、税務上の時価純資産は4,500万円、承継会社株式の時価も4,500万円とします。

区分 会計 税務
子会社株式の計上額 3,000万円(株主資本相当額) 4,500万円(時価)
移転損益 認識しない 譲渡利益1,500万円
承継会社の資産受入額 帳簿価額 時価

会計では共通支配下の取引として利益を出しませんが、税務では1,500万円の譲渡利益に法人税がかかります。会計上は利益ゼロなのに納税だけが発生するので、資金繰りの面から適格要件を満たせるかを先に詰めておく必要があります。

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処理の判定表

ここまでの4例を、判断の順にまとめます。自社の案件がどの行に当たるかを確認してから仕訳を組みます。

案件の形 分割会社の受取資産の計上額 分割会社の移転損益 承継会社の受入額 のれん 税務の原則
100%子会社へ分社型(株式対価) 株主資本相当額 認識しない 帳簿価額 生じない 適格なら簿価移転
第三者へ分社型(現金対価) 現金を時価で計上 認識する 時価 生じうる 非適格・時価譲渡
第三者へ分社型(承継会社株式を受け取り、関連会社にもならない) 株式の時価 認識する 時価 生じうる 要件次第
兄弟会社へ分割型(株式対価) 株主資本相当額→株主へ分配 認識しない 帳簿価額 生じない 適格なら簿価引継・みなし配当なし
グループ内だが非適格 会計は帳簿価額 会計は認識しない 帳簿価額 生じない 時価譲渡。別表で調整

適格か非適格かは、完全支配関係(100%)、支配関係(50%超)、共同事業のどれに当たるかで要件が変わります。100%関係なら対価が株式だけであることなどが中心ですが、50%超の関係では、移転事業の従業員のおおむね80%以上が引き継がれること、主要な事業が継続すること、主要な資産・負債が移ることといった要件が加わります。要件の判定は、分割計画を固める前に税理士と確認してください。

仕訳を組む前のチェックリスト

  • 分社型か分割型か(対価を受け取るのは会社か株主か)
  • 分割先は子会社・関連会社・第三者のどれか
  • 対価は株式だけか、現金を含むか
  • 移転する資産・負債の範囲と、分割期日時点の帳簿価額は確定しているか
  • 税務上、適格要件(株式以外の対価がないか、従業員・事業継続の要件など)を満たすか
  • 承継会社で増える株主資本を、資本金・資本準備金・その他資本剰余金にどう配分するか
  • 資本金の額が1億円を超えないか(税務上の中小法人の扱いが変わる)
  • 分割型分割の場合、分割会社で減らす株主資本の内訳を決めたか
  • 会計と税務の差(資本金等の額・利益積立金額・資産調整勘定)を別表五(一)でどう調整するか

よくある質問

Q. 会社分割と事業譲渡で、仕訳は変わりますか。

第三者へ現金対価で移す場合、分割会社の仕訳(資産・負債を落として現金と移転損益を計上)は事業譲渡とほぼ同じ形になります。違いは手続きと税務です。会社分割は包括承継なので契約や従業員が原則そのまま移り、事業譲渡は個別に移します。また、会社分割は適格要件を満たせば簿価移転にできますが、事業譲渡は税務上常に時価による譲渡です。

Q. 分割の対価を受け取らない「無対価分割」の仕訳はどうなりますか。

100%親子会社間などで、対価の交付を省略する分割があります。会計上は、分割会社と承継会社の資本関係によって、分社型に準じる処理か分割型に準じる処理かが決まります。税務でも、分割の直前に分割法人が承継法人の株式を持っていない場合は分割型分割として扱うなど、区分のルールが別に置かれています。個別性が高いので、手順を決める前に税理士へ確認してください。

Q. 吸収合併の仕訳とどこが違いますか。

合併は会社全体が消滅会社から存続会社へ移るのに対し、会社分割は事業の一部を切り出し、分割会社は残ります。そのため分割会社の側に「子会社株式」や「移転損益」が出てくる点が合併と違います。合併の仕訳は「吸収合併の「合併仕訳」完全ガイド」で解説しています。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

  • 会社分割の仕訳は、分社型/分割型、グループ内/第三者、適格/非適格の3つの分岐で決まる
  • グループ内なら帳簿価額(株主資本相当額)で移し、分割会社は移転損益を認識しない
  • 第三者へ現金対価で移すなら、分割会社は移転損益を認識し、承継会社は時価で受け入れてのれんを計上する
  • 分割型分割は「分社型+株主への配当」の2本の仕訳で処理する
  • 会計上は利益ゼロでも、税務上非適格なら譲渡益課税が生じる。適格要件は分割計画の前に確認する

参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。


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