会社分割は、事業を切り出して別の会社へ承継させる手法である。事業譲渡と違い、個々の契約について相手方の同意を取らなくても、権利義務が包括的に移る。
そのぶん、関係者を保護するための手続きが法定されている。実務で日程を決めるのは、次の2つである。
- 債権者保護手続き(会社法)
- 労働契約の承継に関する手続き(労働契約承継法)
この2つは並行して進む。片方だけ見ていると日程が崩れる。
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① 債権者保護手続き
誰に対して必要か
すべての債権者に必要なわけではない。分割後も分割会社へ債務の履行を請求できる債権者は、原則として異議を述べられない。
| 債権者 | 異議を述べられるか |
|---|---|
| 承継会社(新設会社)へ債務が移る債権者 | 述べられる |
| 分割会社に残るが、分割後は履行を請求できなくなる債権者 | 述べられる |
| 分割後も分割会社へ請求できる債権者 | 原則として述べられない |
| 分割の対価が株主へ交付される場合(人的分割に相当する処理)の債権者 | 述べられる |
🔴 判断を誤ると手続きのやり直しになる。どの債権者が対象かは、分割契約・分割計画の内容で決まる。契約の設計と一体で検討する。
手続きの中身
- 官報に公告する。分割の内容、計算書類に関する事項、一定の期間内に異議を述べられる旨
- 知れている債権者へ各別に催告する
- 異議を述べられる期間は1か月を下ることができない
- 異議を述べた債権者には、弁済・担保提供・信託のいずれかで対応する
⚠️ 定款で日刊新聞紙または電子公告を定めていれば、官報公告とあわせて行うことで各別の催告を省略できる。ただし、不法行為によって生じた債務の債権者には省略できない。
🔴 各別の催告を怠ると、その債権者は分割会社・承継会社の双方に請求できることになりうる。債権者リストの作り込みが実務の山場である。
② 労働契約の承継に関する手続き
会社分割では労働契約も包括的に移る。従業員の同意なしに勤務先が変わるため、労働契約承継法が別に手続きを定めている。
通知の対象と期限
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 承継される事業に主として従事する労働者 | 承継の有無を通知する |
| それ以外で、承継される労働者 | 同上 |
| 労働組合 | 労働協約の承継に関する事項を通知する |
🔴 通知には期限がある。分割の承認を行う株主総会の日の2週間前の日の前日までが原則となる(株主総会を要しない場合は別の起算になる)。株主総会の日程から逆算して動く。
異議を申し出られる場合
- 主として従事しているのに承継の対象になっていない労働者 → 異議を申し出れば承継される
- 主として従事していないのに承継の対象になっている労働者 → 異議を申し出れば承継されない
異議の申出期間は、通知の日から起算して13日を下らない範囲で会社が定める。
事前の協議も要る
法定の通知とは別に、労働者と協議を行うことが求められている(商法等改正法附則5条に基づく協議)。
🔴 この協議を欠くと、承継の効力が争われる。実際に裁判で争点になっている。通知を出せば済む、ではない。
日程の組み方
2つの手続きの期限が重なるため、株主総会の日を基点に組む。
D-70 分割契約・計画の作成/債権者リストの確定
D-50 労働者・労働組合への通知(総会の2週間前の日の前日まで)
+ 事前の協議は通知より前から実施
D-45 官報の公告 / 知れている債権者への各別の催告
↓ 異議申述期間(1か月以上)/ 労働者の異議申出期間(13日以上)
D-35 株主総会(分割の承認・特別決議)
D-15 異議申述期間の満了・対応
D 効力発生日
D+14 登記
⚠️ 官報は申し込みから掲載まで15日程度かかる。最短でも2か月を見込む。
⚠️ 簡易分割・略式分割に該当すれば株主総会を省略できるが、債権者保護手続きと労働者への手続きは省略できない。
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事前開示・事後開示
分割契約等に関する書面を本店に備え置く義務がある。備置きの開始時期と、効力発生後の事後開示の期間が定められている。株主・債権者・労働者が閲覧できる状態にしておく。
つまずきやすい点
- 債権者リストが不完全。取引先だけを見て、リース・保証・係争中の相手を落とす
- 「主として従事する労働者」の判定。兼務者や間接部門の扱いで割れる
- 協議を通知に置き換えてしまう。協議は別に必要である
- 許認可が移らない。会社分割でも、許認可は個別の法令で承継の可否が決まる。移らないものは取り直しになる
- 契約書のチェンジ・オブ・コントロール条項。包括承継でも、契約に定めがあれば相手方の同意が要る場合がある
よくある質問
Q. すべての債権者に催告が要るか
A. 要らない。異議を述べられる債権者に限られる。ただし判定を誤ると効力に影響する。
Q. 従業員が異議を出したらどうなるか
A. 異議の内容に応じて、承継される/されないが逆転する。会社が拒むことはできない。
Q. 事業譲渡のほうが簡単か
A. 手続きは軽いが、個々の契約と債務について相手方の同意が要る。取引先や従業員が多いほど、会社分割のほうが早いことがある。
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まとめ
- 会社分割では債権者保護手続きと労働契約承継法の手続きが並行して走る
- 債権者の異議申述期間は1か月を下れない。官報の掲載準備を含め最短2か月
- 各別の催告は省略できる場合があるが、不法行為債権者には省略できない
- 労働者への通知は株主総会の2週間前の日の前日まで。異議申出期間は13日以上
- 通知とは別に事前の協議が要る。欠くと承継の効力が争われる
- 許認可は自動では移らない。個別の法令で確認する
参考
- 会社法(第789条、第810条、第782条、第794条)
- 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律
- 厚生労働省「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割に伴う労働契約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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