吸収合併とは、2社以上の会社が合併するにあたって、そのうちの1つの会社が別の会社を取り込むという、M&Aの手法です。企業の経営効率向上や、シナジー効果の早期実現が期待できることなどメリットが大きい一方、会計や税務の処理が複雑なことなどはデメリットともいえます。そこで今回は、吸収合併時の会計処理や仕訳方法について、詳しく解説していきます。
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吸収合併の会計処理が複雑な理由
吸収合併の会計処理が複雑な主な理由は次の2つです。
それぞれ詳しく解説していきます。
吸収合併のケースによって会計処理の方法が異なる
吸収合併と一言にいっても、合併の仕方はいくつかのパターンにわけられます。たとえば、存続会社にあたる「取得企業」が、消滅会社にあたる「被取得企業」を吸収する「通常取得」もあれば、消滅会社側が「取得企業」となる「逆取得」もあります。また、親会社が子会社を吸収するケースもあれば、子会社同士で吸収合併するケースもあります。それぞれのケースにおける仕訳方法については、追って詳しく解説していきます。
取得企業、被取得企業とは
前述の通り、一般的には「存続会社=取得会社、消滅会社=非取得企業」ですが、次の要素を総合的に勘案した結果、「存続会社=(会計上の)非取得会社、消滅会社=取得会社」となる場合もあります。
【取得企業、被取得企業を決める要素】
なお、「存続会社=取得会社、消滅会社=非取得企業」となる場合、「存続会社=(会計上の)非取得会社、消滅会社=取得会社」となる場合それぞれの仕訳については追って詳しく解説します。
「のれん」と「負ののれん」を計上する必要がある
消滅会社が存続会社に吸収されるにあたって、消滅会社の資産や権利義務はすべて存続会社に引き継がれることになります。その際、合併の対価の金額が消滅企業の純資産(資産と負債の差額)より大きい部分に関しては「のれん」、小さい部分に関しては「負ののれん」として計上することになります。
のれん
消滅会社が受け取る対価が純資産を上回る場合の差額。「無形固定資産」の一部として計上され、日本の会計基準では20年以内の期間で定額償却します。
負ののれん
消滅会社が受け取る対価が純資産を下回る場合の差額。合併時に一括して「特別利益(負ののれん発生益)」として計上します。
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【吸収合併の仕訳方法】通常取得の場合
ここからは、吸収合併のケースごとに仕訳方法を解説していきます。
まずは、吸収合併における存続会社にあたる「取得企業」が、消滅会社にあたる「被取得企業」を吸収して合併する「通常取得」の場合について解説します。
通常取得における仕訳を正しく理解するために、「取得企業」「取得企業の株主」「被取得企業」「被取得企業の株主」それぞれの仕訳を確認していきましょう。
取得企業(通常取得の場合、存続会社)の仕訳
取得企業の仕訳においては、資産と負債を移転させるため、被取得企業の現預金と売掛金は取得企業の資産として増加して、借入金は取得企業の負債として増加します。また、合併の対価として発行した株式を、取得企業の資本金として計上します。この際、対価が被取得企業の純資産を上回る場合は「のれん」、下回る場合は「負ののれん」を計上します。
(正の)のれんが発生するケース
被取得企業の現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として1株2万円の株式を300万株発行した場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 現預金 | 400億円 | 借入金 | 100億円 |
| 売掛金 | 200億円 | 資本金 | 600億円 |
| のれん | 100億円 | ||
負ののれんが発生するケース
被取得企業の現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として1株2万円の株式を200万株発行した場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 現預金 | 400億円 | 借入金 | 100億円 |
| 売掛金 | 200億円 | 資本金 | 400億円 |
| 負ののれん | 100億円 | ||
被取得企業(通常取得の場合、消滅会社)の仕訳
合併の対価として受け取る株式が、被取得企業の株主資本として計上されることになります。この際、対価が被取得企業の純資産を上回る場合、その差額を「合併差益」として処理します。対価が被取得企業の純資産を下回る場合は、差額を「合併差損」として処理します。
合併差益が発生するケース
被取得企業の現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として1株2万円の株式を300万株受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借入金 | 100億円 | 現預金 | 400億円 |
| 取得企業株式 | 400億円 | 売掛金 | 200億円 |
| 合併差益 | 100億円 | ||
合併差損が発生するケース
被取得企業の現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として1株2万円の株式を200万株受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借入金 | 100億円 | 現預金 | 400億円 |
| 取得企業株式 | 600億円 | 売掛金 | 200億円 |
| 合併差益 | 100億円 | ||
取得企業(通常取得の場合、存続会社)の株主の仕訳
取得企業の株主は、吸収合併において取引をしてはいないため、通常は会計処理が不要です。
ただし、吸収合併によって、取得企業の株式の株価が変動した場合、株式の時価評価をおこなって、その結果に基づいて処理する必要があります。その際、自社における取得企業の株式の保有区分に基づいて会計処理をおこないます。
被取得企業(通常取得の場合、消滅会社)の株主の仕訳
被取得企業の株主は、吸収合併の対価として受け取った株式を仕訳処理する必要があります。この際、取得企業の株主を借方、被取得企業の株式を貸方に記載します。
また、取得企業の株式以外の対価を受け取った場合、借方には「取得企業の株式を含む合併対価」として印、貸方にはみなし配当の金額を記します。譲渡益がある場合は差額を借方、譲渡損がある場合は差額を貸方に記します。
取得企業(存続会社)の株式のみ受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 取得企業株式 | 400億円 | 被取得企業株式 | 400億円 |
取得企業(存続会社)の株式以外の対価を受け取った場合
譲渡益がある場合は差額を借方に、譲渡損があるときは差額を貸方に記載します。
| 借方 | 貸方 | ||
| 取得企業株式を含む合併対価 | 700億円 | 現預金 | 400億円 |
| 譲渡益(ある場合) | 300億円 | ||
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【吸収合併の仕訳方法】逆取得の場合
吸収合併において、消滅会社側が取得企業となるケースは、「逆取得」または「逆さ合併」と呼ばれます。逆取得の場合も、通常取得の場合同様、取得企業の株主と被取得企業の株主が異なります。
取得企業(逆取得の場合、消滅会社)の仕訳
取得企業が、取得企業である消滅会社に現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として現金500億円を受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借入金 | 100億円 | 現預金 | 400億円 |
| 現金 | 500億円 | 売掛金 | 200億円 |
被取得企業(逆取得の場合、存続会社)の仕訳
被取得企業の現預金=400億円、売掛金=200億円、借入金=100億円、合併の対価として1株2万円の株式を200万株受け取った場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借入金 | 100億円 | 現預金 | 400億円 |
| 取得企業株式 | 600億円 | 売掛金 | 200億円 |
| 合併差益 | 100億円 | ||
取得企業(逆取得の場合、消滅会社)の株主の仕訳
逆取得においては、取得企業である消滅会社の株主は取引をしていないため、通常は会計処理が不要です。
被取得企業(逆取得の場合、存続会社)の株主の仕訳
被取得企業である存続会社の株主の仕訳においては、対価として受け取った株式の処理が重要です。
取得企業である消滅会社の株式を借方にして、みなし配当の額を貸方に記載します。この際の対価が、被取得企業である存続会社の純資産を下回る場合、その差額を「譲渡損」として計上します。
計上に関して注意すべきことは、通常取得とは異なり、時価ではなく簿価をそのまま計上することです。
なお、資産が負債を上回れば、その差額を「資本金等」として計上して、資産が負債を下回れば、その差額を「その他利益剰余金」としてマイナス計上します。
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【吸収合併の仕訳方法】親会社が100%完全子会社を吸収合併する場合
親会社が子会社を吸収合併する場合、これは「共通支配下の取引」に該当します。会計上、受け入れる資産・負債は子会社の帳簿価額をそのまま引き継ぎます。
この際、親会社が保有していた子会社株式の帳簿価額と、引き継いだ子会社の純資産額との間に差額が生じた場合、その差額は損益(利益・損失)ではなく、「その他資本剰余金」として処理します。
親会社の仕訳
親会社が子会社を吸収する場合、子会社の現預金と売掛金が親会社の資産として増加します。一方、子会社の借入金は親会社の負債として加えることになります。親会社が子会社の株式を取得した金額と、「現預金+売掛金」との差額は「抱合せ株式消滅差」という勘定科目で計上します。
子会社の現預金=300億円、売掛金=400億円、借入金=100億円、当期利益=100億円の場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 現預金 | 300億円 | 借入金 | 100億円 |
| 売掛金 | 400億円 | 子会社の株式 | 500億円 |
| その他資本剰余金 | 100億円 | ||
子会社の仕訳
子会社側からみると、親会社から株式を取得されることによって株主資本が減少することとなります。その差額分は「抱合せ株式消滅差益」として計上します。
子会社の現預金=300億円、売掛金=400億円、借入金=100億円、当期利益=100億円の場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 借入金 | 100億円 | 現預金 | 300億円 |
| 子会社の株式 | 500億円 | 売掛金 | 400億円 |
| 抱合せ株式消滅差損 | 100億円 | ||
100%完全子会社が債務超過状態に陥っている場合
100%完全子会社が債務超過に陥っている場合に関しては、旧商法では吸収合併が不可能とされていましたが、現在の会社法では明確に記載されていないため、“不可能ではない”ということになります。ただし、株主総会において、債務超過会社を吸収することに対して承認を得る必要はあります。
債務超過の100%完全子会社を吸収合併した場合の親会社の仕訳例は次の通りです。
| 借方 | 貸方 | ||
| 現預金 | 100億円 | 借入金 | 200億円 |
| 売掛金 | 400億円 | 子会社の株式 | 500億円 |
| 抱合せ株式消滅差益 | 200億円 | ||
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【吸収合併の仕訳方法】非支配株主が存在するケースにおいて、親会社が子会社を吸収合併する場合
親会社が子会社の発行済株式総数の80%を保有していて、吸収合併のために親会社が子会社の被支配株主に新株300株(=時価30億円相当)を発行したと想定します。
また、合併期日前日の親会社と子会社の貸借対照表を次の通りとします。
合併期日前日
【親会社】
| 借方 | 貸方 | ||
| 諸資産 | 300億円 | 諸負債 | 60億円 |
| 子会社の株式 | 80億円 | 資本金 | 300億円 |
| 利益剰余金 | 20億円 | ||
【子会社】
| 借方 | 貸方 | ||
| 諸資産 | 200億円 | 諸負債 | 80億円 |
| 資本金 | 50億円 | ||
| 利益剰余金 | 70億円 | ||
合併後
親会社の仕訳
吸収合併においては、持分比率にかかわらず子会社の資産および負債の全額(100%)を親会社の帳簿に引き継ぎます。
| 借方 | 貸方 | ||
| 諸資産(子会社資産の全額) | 200億円 | 諸負債(子会社の全負債) | 80億円 |
| 子会社株式(親会社持分) | 80億円 | ||
| 資本金等(非支配株主への対価) | 30億円 | ||
| その他資本剰余金(差額) | 10億円 | ||
子会社の仕訳
吸収合併によって子会社のすべての資産と負債が親会社に移転するため、吸収合併後の子会社の会計帳簿は閉じられ、最終的に帳簿残高がゼロとなります。子会社が解散すると、子会社の資本金と利益剰余金は親会社に移転します。
| 借方 | 貸方 | ||
| 諸負債 | 80億円 | 諸資産 | 200億円 |
| 資本金 | 50億円 | ||
| 利益剰余金 | 70億円 | ||
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【吸収合併の仕訳方法】子会社同士で吸収合併する場合
子会社同士で吸収合併する場合、同一の親会社によって支配されていることから、親会社による子会社の吸収合併同様、基本的には“共通支配下の取引”として扱われることになります。
なお、子会社同士で合併する場合、合併実施前に最終決算をおこなって、資産と負債の帳簿価額を確定します。
→取得対価を差し引いた金額を「払込資本」として帳簿に記載します
→払込資本は「ゼロ」として、差額を「のれん」として記載します
→その資産に関する処理は、消滅企業の合併前の帳簿価額をもとに引き継ぎます
→株主資本自体は変化しないため、増加した資本については追加処理する必要がありません
存続会社の会計処理
合併の対価が存続企業の株式である場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 受け入れた資産 | XX億円 | 払込資本 | XX億円 |
| 受け入れた負債 | XX億円 | ||
合併の対価が現金などの財産である場合
| 借方 | 貸方 | ||
| 受け入れた資産 | XX億円 | 受け入れた負債 | XX億円 |
| のれん | XX億円 | 現金 | XX億円 |
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吸収合併の会計仕訳の注意点
吸収合併の会計仕訳に関しては、次の4点を忘れないようにする必要があります。
それぞれ詳しく解説していきます。
(正の)のれんの消却・負ののれんの処理
消滅企業から取得した「のれん」は、会計上は、20年以内の一定期間で規則的に償却する必要があります。一方、「負ののれん」が発生した場合、発生時に一括して利益として計上する必要があります。
“20年以内の一定期間”については各社で自由に決めることができますが、予め会社の方針を決めていないと、償却年数を何年に設定すべきかで悩んでしまう場合があるので、社内ルールを整備しておくことが望ましいといえるでしょう。
税務上の「適格合併」か「非適格合併」の確認
吸収合併が、法人税法で定められた一定の要件を満たしている場合、「適格合併」ということになり、税務上、資産や負債を簿価で引き継ぐことが認められます。簿価で引き継げば譲渡損益が発生しないため、課税が繰り延べられて税負担が生じないメリットがあります。
法人税法で定められている主な要件は次の通りです。
など
なお、非適格合併である場合、資産や負債は時価で引き継がれるため、譲渡損益が発生して、課税対象となります。含み益のある資産については、差額分に法人税が課税されますし、資本金が増加する場合には、増加額に対して登録免許税も課税されます。さらに、移転資産に不動産が含まれる場合は不動産取得税、課税資産の譲渡がある場合は消費税が発生する可能性があります。
また、被合併法人の繰越欠損金は承継できないことから、税務上の損失が消滅するため、合併後の節税効果を得ることができません。
合併契約書・株主総会議事録・登記などの整理
吸収合併を実施するためには、経理・法務・総務などがきちんと連携する必要があります。
また、合併契約書、合併承認の株主総会の議事録などをそろえて、登記を完了させて、税務署に必要書類の届出をおこなう必要があります。
連結会計との整合性チェック
親会社が連結決算をおこなっている場合、合併の影響が「連結財務諸表」にも出ます。そのため、子会社を吸収する場合などは、資本連携の処理も必要になります。
吸収合併の会計処理には専門家の知見が不可欠
吸収合併の会計処理は、ケースごとに異なることから複雑なうえ、合併前後の財務の透明性や企業価値の正しい評価を実現することも簡単ではありません。さらに、会計処理の精度が低いと、吸収合併後に問題が起きて、自社の成長に向けて全力を尽くせなくなることも考えられます。そのため、吸収合併を実施するにあたっては、M&Aのサポート経験が豊富な専門家を頼ることをおすすめします。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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