CAGR(Compound Annual Growth Rate、年平均成長率)は、ある数値が複数年でどれだけ伸びたかを「毎年同じ率で伸びたとしたら何%か」に直した指標です。売上が5年で1.5倍になった会社でも、毎年の伸び方はでこぼこしています。それを1本の率にならすのがCAGRです。
M&Aでは、売り手が出す事業計画の売上成長率を確かめるとき、そして企業価値の算定で将来のキャッシュフローを置くときに、CAGRが繰り返し出てきます。この記事では、計算式とExcelでの出し方を押さえたうえで、事業計画のCAGRが現実的かどうかを判定する見方まで解説します。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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CAGRの計算式
CAGRは次の式で求めます。
CAGR =(最終年の値 ÷ 初年の値)^(1 ÷ 年数)− 1
ここでの「年数」は、データの個数ではなく、初年から最終年までの期間の数です。2021年度から2026年度までなら、データは6期分ありますが、年数は5です。ここを6にしてしまう間違いが最も多いので、最初に確認してください。
計算例1:売上が5年で3億円から4.5億円に
- 初年(2021年度)の売上:3億円
- 最終年(2026年度)の売上:4.5億円
- 年数:5
- 最終年 ÷ 初年 = 4.5 ÷ 3 = 1.5
- 1.5 の 5分の1乗 = 約1.0845
- 1.0845 − 1 = 0.0845
CAGRは約8.45%です。3億円に毎年8.45%ずつ5回掛けると、4.5億円に戻ります。
計算例2:単純平均と比べると
CAGRを使う理由は、単純な平均成長率が実態より高く出るからです。
| 年度 | 売上 | 前年比 |
|---|---|---|
| 1年目 | 100 | — |
| 2年目 | 150 | +50% |
| 3年目 | 105 | −30% |
| 4年目 | 126 | +20% |
前年比を単純に平均すると(50 − 30 + 20)÷ 3 = 約13.3%です。しかし100から126への3年間のCAGRは、(126 ÷ 100)^(1 ÷ 3)− 1 = 約8.0%にとどまります。減収の年が入ると、単純平均は成長を過大に見せます。 事業計画書に「平均成長率」とだけ書かれていたら、どちらの計算かを確かめます。
ExcelでCAGRを出す方法
Excelでは3つの書き方があります。どれも結果は同じです。
| 方法 | 書き方の例 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| RRI関数 | =RRI(5, 300, 450) |
年数・初年値・最終年値が分かっているとき。最も短い |
| POWER関数 | =POWER(450/300, 1/5) - 1 |
式の意味を資料の読み手に見せたいとき |
| べき乗の演算子 | =(450/300)^(1/5) - 1 |
関数を使わずに書きたいとき |
RRI関数は「投資の成長に対する等価利率を返す」関数で、書式は RRI(期間, 現在価値, 将来価値) です(Microsoftサポート)。引数の順番は「年数・初年の値・最終年の値」で、初年と最終年を逆に入れると、マイナスのCAGRが返ります。
売上が表になっている場合は、セル参照で書くと年数の数え間違いを防げます。B列に2021〜2026年度の売上(B2〜B7)が並んでいるなら、次のように書きます。
=RRI(ROWS(B2:B7)-1, B2, B7)
ROWS(B2:B7) はデータの個数6を返すので、1を引いて年数5にしています。
結果はパーセント表示に切り替えてください。小数のままだと 0.0845 と表示されます。
CAGRが計算できないケース
初年の値が0かマイナスだと、CAGRは計算できません。RRI関数は引数の値が無効なとき #NUM! を返します。
M&Aの資料で問題になりやすいのは、営業利益やEBITDAのCAGRです。赤字から黒字に転じた会社は、利益のCAGRを出せません。資料に利益のCAGRが載っていたら、初年が黒字かどうかを確認します。利益の伸びを見たいなら、売上のCAGRと利益率の推移に分けて読むほうが実態をつかめます。
逆算:目標値から必要な成長率を出す
CAGRの式は、目標から逆算するときにも使えます。
「いまの売上4.5億円を、5年後に9億円にする」計画があるとします。
- (9 ÷ 4.5)^(1 ÷ 5)− 1 = 約14.87%
計画を達成するには、毎年14.87%ずつ伸び続ける必要があります。5年で2倍は、年率約15%の成長を5年間一度も落とさないことを意味します。 計算例1の会社は過去5年のCAGRが8.45%なので、計画は過去の実績のほぼ1.8倍の速さを前提にしていることになります。
反対に、過去と同じ8.45%で伸びた場合の5年後の売上は、4.5億円 × 1.0845^5 = 約6.75億円です。計画の9億円との差、2.25億円分をどう埋めるのかが、事業計画を読むときの論点になります。
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M&Aで売上CAGRをどう読むか
M&Aの企業価値評価で、将来の成長を直接使うのはDCF法(将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引く方法)です。事業計画の売上CAGRが1ポイント変わるだけで、5年後の売上、そこから出るキャッシュフロー、ひいては企業価値の算定結果が大きく動きます。
DCF法の手順は「割引現在価値とは?計算式とDCF法の手順」、フリーキャッシュフローの出し方は「フリーキャッシュフローの計算方法」で扱っています。
売り手の立場では、事業計画は自社の価値を高く見せる材料です。一方、買い手はその計画を割り引いて見ます。売り手が楽観的すぎる計画を出すと、買い手のデューデリジェンスで根拠の弱さを指摘され、かえって交渉の信用を落とします。買い手がどこを突くかを先に知っておくことが、計画を作る側にも役立ちます。
見る順番
- 過去の実績CAGRを、計画と同じ年数(3年か5年)で出す
- 計画のCAGRを出す
- 両者の差を見る。差がある場合、その差を説明する具体的な施策(新店、値上げ、新規顧客、新商品)が計画書にあるかを確認する
- 売上と利益のCAGRの差を見る。利益の伸びが売上の伸びを大きく上回る計画は、コスト削減や値上げの前提を置いているはずなので、その根拠を確認する
- 期間の最初と最後の年が特殊な年でないかを確認する(コロナ禍の落ち込みを初年に置くと、その後のCAGRは高く出る)
楽観的な計画を見抜く判定表
以下は、事業計画の売上CAGRを、同じ会社の過去の実績CAGRと比べるときの目安です。業種や規模で妥当な水準は変わるので、閾値は絶対的な基準ではなく、買い手に説明を求められる可能性の高さとして使ってください。
| 計画CAGRと実績CAGRの関係 | 読み方 | 確認すること |
|---|---|---|
| 計画 ≦ 実績 | 保守的。説明はほぼ不要 | 過去の伸びを支えた要因(主要顧客、特定の商品)が今後も続くか |
| 計画が実績を少し上回る(差が数ポイント以内) | 通常の範囲 | 上乗せ分の施策が計画書に書かれているか |
| 計画が実績の1.5倍以上 | 説明が必須 | 施策ごとに売上がいくら増えるかの内訳。人員・設備の増加が計画に入っているか |
| 計画が実績の2倍以上、または実績がマイナスなのに計画がプラス | 楽観的と見られやすい | 過去と何が変わるのか。受注済み・契約済みの裏付けがあるか |
| 最終年だけ急に伸びる(ホッケースティック型) | CAGRでは見えない偏り | 年ごとの前年比を並べる。直近1〜2年の計画が過去並みで、後半だけ伸びていないか |
| 利益CAGRが売上CAGRを大きく上回る | 利益率の改善を前提にしている | 原価率・人件費率の前提。過去に同じ水準の利益率を出したことがあるか |
| 初年が赤字で利益CAGRが出せない | CAGRで評価できない | 売上CAGRと利益率の推移に分けて示す |
中小企業のM&Aでは、買い手は事業計画よりも過去の実績を重く見る傾向があります。計画のCAGRを高く置くより、過去の実績CAGRが安定していることと、計画がその延長にあることを示すほうが、価格交渉では通りやすくなります。
CAGRの限界
CAGRは便利ですが、2つの点しか見ていないという弱点があります。
- 途中の変動が消える。計算例2のように、大きく落ち込んだ年があってもCAGRには出てこない。年ごとの前年比も一緒に見る
- 始点と終点の選び方で変わる。落ち込んだ年を始点にすると高く、好調な年を始点にすると低く出る。資料の作り手が都合のよい期間を選んでいないか確認する
- 規模を表さない。売上1億円の会社の30%成長と、100億円の会社の30%成長は、中身がまったく違う。金額の増加幅と並べて読む
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よくある質問
Q. CAGRは何年分で計算するのが一般的ですか。
決まりはありませんが、M&Aの資料では過去3年または5年、計画は3〜5年がよく使われます。大事なのは、過去の実績と計画を同じ年数で比べることです。
Q. 月次や四半期のデータからCAGRを出せますか。
出せますが、そのままだと月率・四半期率になります。年率にするなら、年数を「月数 ÷ 12」のように年単位に直して計算します。RRI関数の期間に年単位の値を入れれば年率が返ります。
Q. CAGRと、IRR(内部収益率)の違いは何ですか。
CAGRは初年と最終年の2点から出す成長率です。IRRは、途中の年に入ってくる・出ていくお金もすべて含めて、正味現在価値がゼロになる割引率を求めます。途中のキャッシュフローがない投資なら、CAGRとIRRは一致します。IRRの考え方は「IRR・NPV・DCF法とは?」で解説しています。
CAGRを使う前のチェックリスト
- 年数を「データの個数 − 1」で数えたか
- 初年の値は0より大きいか(赤字や0だと計算できない)
- 過去の実績と計画を同じ年数で比べているか
- 始点・終点が特殊な年(コロナ禍、一時的な大型受注)になっていないか
- 年ごとの前年比も並べ、途中の落ち込みや最終年だけの急伸を見たか
- 売上と利益のCAGRの差を確認したか
- 計画が実績を上回る分について、施策ごとの内訳があるか
まとめ
- CAGRは(最終年 ÷ 初年)^(1 ÷ 年数)− 1。年数はデータの個数から1を引く
- Excelでは
RRI(年数, 初年の値, 最終年の値)が最も短い。POWER関数でも同じ結果になる - 単純平均の成長率は、減収年があると実態より高く出る
- M&Aでは、計画CAGRを過去の実績CAGRと同じ年数で比べ、差を説明する施策があるかを見る
- CAGRは2点しか見ないので、年ごとの前年比と金額の増加幅もあわせて確認する
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参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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