まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
会社を売る・買う場面で、FCFの数字を聞かれて答えられない
M&A仲介会社との初回面談で、「御社のフリーキャッシュフローはどのくらいですか」と聞かれて即答できなかった経営者は少なくない。決算書は毎年見ているし、営業利益や当期純利益の数字は頭に入っている。しかしフリーキャッシュフロー(FCF)は決算書のどこにも「この行の数字です」という形では載っていない。自分で足し算・引き算をして作る数字だからだ。
さらに厄介なのは、M&Aの実務では計算式が1つではないという点にある。過去の実績を基に計算する式と、将来の企業価値を評価するために予測ベースで計算する式は、使う項目も出発点も違う。買収監査(デューデリジェンス)の場面では前者、DCF法による企業価値評価の場面では後者が使われる。この違いを知らないまま「フリーキャッシュフローとは」で検索して定義だけ覚えても、実際に自社の数字を当てはめる段になって手が止まる。
本稿では、辞書的な定義には深入りせず、実務で使う2つの計算式・使い分け・自社に当てはめる際の注意点・マイナスになった場合の読み方・DCF法での使われ方まで、中小企業の経営者・後継者が実際に判断できるレベルまで具体的に解説する。
フリーキャッシュフローの計算式は2種類ある
フリーキャッシュフローの計算式には、大きく分けて次の2種類がある。どちらも最終的に求めているものは近いが、出発点になる資料と、使う場面がまったく違う。
1. キャッシュフロー計算書から出す実績ベースの計算式
過去の決算に基づいて実際のFCFを算出する場合は、キャッシュフロー計算書(C/F)の数字をそのまま使う。
フリーキャッシュフロー = 営業活動によるキャッシュフロー + 投資活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、商品の販売や仕入、人件費の支払いなど本業から実際に出入りした現金の増減を示す。投資活動によるキャッシュフローは、設備投資や有価証券の取得・売却など、投資に伴う現金の増減を示す(設備投資などの支出はマイナスの符号で計上される)。
この方法の利点は、会計上の利益ではなく実際の現金の動きを反映している点にある。売掛金がいくら計上されていても、まだ入金されていなければキャッシュフローには乗らない。黒字なのに資金繰りが苦しい会社と、利益は薄いが現金が積み上がっている会社の違いは、この計算式でしか見えてこない。
この計算式が向いている場面:過去3〜5期の実績FCFを算出し、自社の資金創出力の推移を把握したいとき。買い手側がデューデリジェンスで対象会社の実態を検証するとき。
2. 損益計算書・貸借対照表から出す予測ベースの計算式(簡易計算式)
DCF法で将来のFCFを予測する場合は、キャッシュフロー計算書がまだ存在しない未来の数字を扱うため、損益計算書・貸借対照表の項目を組み合わせて計算する。これが「フリーキャッシュフロー 計算式 簡易」で検索される、実務でよく使われる簡易計算式にあたる。
フリーキャッシュフロー = 営業利益 ×(1-実効税率)+ 減価償却費 - 設備投資額 - 運転資本増加額
営業利益に(1-実効税率)を掛けた部分は「税引後営業利益」(NOPAT:Net Operating Profit After Tax)と呼ばれ、支払利息などの財務活動の影響を除いた、事業そのものが生み出す税引後の利益を表す。ここに、現金の支出を伴わない費用である減価償却費を足し戻し、実際に現金が出ていく設備投資額と、売掛金・在庫の増加や買掛金の減少によって事業に滞留する運転資本の増加額を差し引く。
この計算式が向いている場面:中期経営計画や事業計画から将来5〜10年分のFCFを見積もり、DCF法で企業価値を算出するとき。M&Aの譲渡価格交渉で、将来の稼ぐ力を根拠として示したいとき。
どちらを使うべきか判定表
| 場面 | 使う計算式 | 出発点になる資料 |
|---|---|---|
| 過去の実績FCFを確認したい | 実績ベース(営業CF+投資CF) | キャッシュフロー計算書 |
| 買収監査で対象会社の実態を検証したい | 実績ベース(営業CF+投資CF) | キャッシュフロー計算書・総勘定元帳 |
| 将来の企業価値をDCF法で算出したい | 予測ベース(簡易計算式) | 事業計画・損益計算書・貸借対照表 |
| 譲渡価格交渉で将来の稼ぐ力を示したい | 予測ベース(簡易計算式) | 事業計画・損益計算書・貸借対照表 |
中小企業の場合、そもそもキャッシュフロー計算書を作成していない会社も多い。その場合は損益計算書と貸借対照表の2期分の差分から、簡易計算式に必要な項目(減価償却費、設備投資額、運転資本の増減)を逆算して求めることになる。
架空の製造業A社で計算してみる
具体的な数字で計算の流れを確認する。従業員30名、年商8億円の製造業A社(架空)を例にする。
A社の決算数値(直近期)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業利益 | 4,000万円 |
| 実効税率 | 30% |
| 減価償却費 | 800万円 |
| 設備投資額 | 1,200万円 |
| 売上債権・棚卸資産の増加額 | 500万円 |
| 仕入債務の増加額 | 200万円 |
まず運転資本増加額を求める。運転資本の増加額は「売上債権・棚卸資産の増加額-仕入債務の増加額」で計算するため、500万円-200万円=300万円が運転資本増加額になる。
簡易計算式でのFCF計算
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業利益×(1-実効税率) = 4,000万円×0.7 | 2,800万円 |
| + 減価償却費 | +800万円 |
| - 設備投資額 | -1,200万円 |
| - 運転資本増加額 | -300万円 |
| フリーキャッシュフロー | 2,100万円 |
A社は営業利益4,000万円に対してFCFは2,100万円と、営業利益の半分程度になった。差の主な要因は設備投資額の大きさである。この年に新規の生産設備を導入していたため投資額が膨らみ、FCFを押し下げている。翌期以降、この設備投資が一巡すればFCFは回復する見込みがある、という説明が譲渡価格交渉の場でも使える材料になる。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
フリーキャッシュフローがマイナスになったらどう読むか
計算した結果、フリーキャッシュフローがマイナスになる中小企業は珍しくない。マイナスそのものを即座に悪材料と決めつけるのは早計で、原因によって評価はまったく変わる。
一時的な設備投資によるマイナス:成長のための工場増設や設備更新で投資キャッシュフローが大きく膨らんだ結果のマイナスであれば、むしろ将来の収益力拡大を示す先行投資として説明できる。買い手側にも、投資が一巡した後の回復シナリオを事業計画とセットで示せば、マイナスの評価は限定的になる。
本業の稼ぐ力の低下によるマイナス:営業活動によるキャッシュフロー自体がマイナス、あるいは大きく減少している場合は話が別になる。本業で現金を生み出せていないことを意味し、資金繰りの継続性そのものに疑義が持たれる。M&Aの交渉では、譲渡価格の引き下げ要因や、買い手側による詳細なデューデリジェンス要求の引き金になりやすい。
運転資本の悪化によるマイナス:売上は伸びているのに売掛金や在庫が先行して増え、運転資本増加額が大きくなっているケースもある。この場合は成長に伴う一時的な資金需要として説明できることが多いが、回収サイトや在庫回転率の改善余地を併せて示せるかどうかで、買い手側の印象は変わる。
いずれのケースでも重要なのは、マイナスの「金額」だけでなく「原因」と「継続性」をセットで説明できるかどうかである。単年度の数字だけで判断せず、直近3期分のFCFの推移を並べて、マイナスが一時的なものか構造的なものかを見せる準備をしておきたい。
企業価値評価(DCF法)でのフリーキャッシュフローの使い方
M&Aの譲渡価格交渉で最終的にフリーキャッシュフローが使われる場面が、DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)による企業価値評価である。DCF法は、事業計画から予測した将来複数年分のフリーキャッシュフローを、一定の割引率(多くの場合は加重平均資本コスト:WACC)で現在価値に割り引き、さらに計画期間後の継続価値を加えて事業価値を算出する手法である。
計算の骨格は次の形になる。
事業価値 = 各年のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計 + 計画期間後の継続価値(ターミナルバリュー)
ここで使われるフリーキャッシュフローは、前述の予測ベースの簡易計算式で、事業計画の各年度について算出したものである。事業計画の精度がそのままDCF法による評価額の精度に直結するため、精緻な事業計画を作れるかどうかが評価の説得力を左右する。
ただし中小企業のM&A実務では、DCF法が単独で使われることは少ない。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」も、複数の評価手法を併用して試算することを促しており、実際の現場でも純資産法や類似会社比較法など他の手法と併用し、複数の評価額のレンジを重ねて交渉価格を形成するのが一般的である。理由は、中小企業では5〜10年先までの精緻な事業計画の作成が難しいこと、WACCの算定根拠となる市場データが限定的であること、計画期間後の継続価値の見積もりに評価額全体が大きく左右されやすいことにある。
そのため、DCF法によるFCFベースの評価額は「絶対値」としてではなく、他の評価手法と付き合わせて交渉のレンジを作るための材料として使うのが実務的な位置づけになる。自社のFCFを計算し、その数字が交渉の場でどう使われるかを理解しておくことが、譲渡側・譲受側どちらの立場でも交渉を有利に進める前提になる。
まとめ
フリーキャッシュフローの計算式は、過去の実績を確認する「営業CF+投資CF」と、将来を予測する「NOPAT+減価償却費-設備投資額-運転資本増加額」の2種類があり、M&Aの場面によって使い分ける。マイナスになった場合は金額そのものより原因と継続性を見て、一時的な投資によるものか本業の悪化によるものかを見極める。そしてDCF法による企業価値評価では、予測ベースのFCFが評価の核になるが、中小企業M&Aでは単独の絶対値としてではなく、他の評価手法と併用する交渉材料として使われる。この構造を理解した上で自社の数字を計算しておくことが、M&Aの初回面談で数字を問われたときの備えになる。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
参考
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(令和6年8月)
- 企業会計審議会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
他の関連記事はこちら