労働契約承継法|会社分割で従業員が移る範囲と、2条通知・5条協議・7条措置を承認株主総会から逆算する日程表

会社分割では、分割契約(新設分割なら分割計画)に書いた権利義務が、承継会社へまとめて移ります。従業員の労働契約も例外ではなく、本人の同意がなくても勤務先の会社が変わります。

その代わりに、労働契約承継法が手続きを決めています。誰に通知し、誰と協議し、誰が異議を述べられるか。手順を飛ばすと、分割の効力そのものを争われることがあります。

この記事は、事業の一部を会社分割で切り出して売る、またはグループ内で分社する分割会社の経営者に向けて、従業員が移る範囲の判定と、承認株主総会の日から逆算した日程の組み方を整理します。分割の会計処理は「会社分割の仕訳」、債権者への公告と催告は「会社分割の債権者保護手続き」で扱っています。

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目次
  1. 労働契約承継法が適用されるのは会社分割だけ(事業譲渡・株式譲渡との境界)
  2. 労働契約承継法の主従事労働者の判定と、間接部門の計算例
    1. 主従事労働者に当たるかの判定表
    2. 間接部門の判定の計算例
  3. 労働契約承継法の異議申出で承継・不承継が覆る2つのケース
  4. 労働契約承継法の7条措置・5条協議・2条通知の順番と中身
    1. 2条通知に書く事項
  5. 承認株主総会の日から逆算する労働契約承継法の日程表
  6. 労働契約承継法で労働条件はそのまま移る、転籍合意でも手続きは省けない
    1. 転籍合意・出向に切り替えても手続きは残る
    2. 解雇と労働協約
  7. 労働契約承継法の手続きを欠いた会社分割で起きること
  8. 会社分割の前に売り手の経営者が用意する労働契約承継法のチェックリスト
  9. よくある質問
    1. Q. 従業員が10人ほどの会社でも、7条措置と5条協議は必要ですか。
    2. Q. 承継させない従業員にも通知は要りますか。
    3. Q. 事業譲渡に切り替えれば、この手続きはすべて不要になりますか。
    4. Q. 承継会社に移った従業員の勤続年数は引き継がれますか。
  10. まとめ
  11. 参考

労働契約承継法が適用されるのは会社分割だけ(事業譲渡・株式譲渡との境界)

労働契約承継法が適用されるのは、株式会社または合同会社が、会社法に基づいて吸収分割・新設分割をするときです(同法第2条第1項)。同じく事業を手放す取引でも、手法が違えば従業員の扱いはまったく変わります。

手法 従業員の労働契約 本人の同意 労働契約承継法
株式譲渡 会社が雇用主のまま。何も移らない 不要 適用なし
会社分割 分割契約等の定めに従って承継会社へ移る 原則不要(主従事労働者の場合) 適用あり
事業譲渡 譲受会社と結び直す 必要(民法第625条第1項) 適用なし(厚生労働省の事業譲渡等指針あり)
合併 存続会社へ包括的に移る 不要 適用なし

会社分割は、事業譲渡より手続きが軽く見えます。従業員一人ひとりの同意を取らなくてよいからです。ただ、同意を取らない分だけ、通知・協議・異議の手続きが法律で決まっている、と考えてください。

株式譲渡で会社ごと売るなら、この記事の手続きは要りません。事業の一部だけを売りたい、承継会社の側に不要な債務を持ち込みたくない、という理由で会社分割を選ぶときに初めて関わります。

なお、「従業員」にはパートや嘱託も含まれます。法律上の「労働者」は分割会社と労働契約を結んでいる人すべてで、正社員に限りません。

労働契約承継法の主従事労働者の判定と、間接部門の計算例

手続きの中身は、その従業員が承継される事業に「主として従事」しているかどうかで分かれます。この判定を最初に済ませないと、通知書も協議の相手も決まりません。

主従事労働者に当たるかの判定表

厚生労働省の指針とパンフレットは、次のように整理しています。判定の基準日は、分割契約を締結する日(新設分割なら分割計画を作成する日)です。

従業員の状況 主従事労働者か
承継される事業に専ら従事している 当たる
承継される事業と他の事業を兼ねている 従事する時間、果たしている役割などを総合して判断
総務・人事・経理などの間接部門で、承継される事業のためだけに働いている 当たる
間接部門で、どの事業のためか区別なく働いている 下の計算で判定
研修・応援で一時的に承継される事業にいて、終われば戻ることが明らか 当たらない
一時的に他部門に応援に出ているが、戻れば承継される事業に主として従事することが明らか 当たる
休業中だが、復帰後は承継される事業に主として従事することが明らか 当たる
採用内定者で、承継される事業への配属が明らか 当たる

分割の直前に、承継させたくない人を別部署へ動かす、承継させたい人を寄せる、という配置転換は通りません。合理的な理由なく排除する目的で配置転換した場合は、過去の勤務の実態で判断されると、厚生労働省は説明しています。

間接部門の判定の計算例

どの事業のためか区別なく働く間接部門の人は、判定できない人を除いた従業員の過半数が承継会社へ移る場合に限って、主従事労働者になります。

従業員120人の会社で考えます。

部門 人数
製造事業(分割会社に残す) 60人
小売事業(会社分割で切り出す) 40人
総務・経理(両事業の区別なく担当) 20人

小売事業の40人と、総務・経理のうち5人を承継会社へ移す計画とします。

  1. 判定できない間接部門の人数:20人
  2. それを除いた従業員:120人 − 20人 = 100人
  3. その過半数:51人
  4. その100人のうち承継会社へ移る人数:小売事業の40人(判定できない総務・経理の5人は数に入れない)

40人は51人に届かないので、総務・経理の5人は主従事労働者に当たりません。この5人は「承継される事業に主として従事していないのに、承継の定めがある人」になり、次の節の異議申出ができます。

小さな会社の会社分割では、経理担当や事務員を一緒に移したいことが多いはずです。その人たちが異議を述べれば分割会社に残る、という前提で人員の計画を立ててください。

労働契約承継法の異議申出で承継・不承継が覆る2つのケース

異議を述べられるのは、次の2つの場合だけです(同法第4条・第5条)。

ケース 分割契約の定め 異議を述べた結果
① 主従事労働者を分割会社に残す 承継の定めがない 労働条件を維持したまま承継会社へ移る
② 主従事労働者でない人を承継会社へ移す 承継の定めがある 労働条件を維持したまま分割会社に残る
主従事労働者を承継会社へ移す 承継の定めがある 異議は述べられない(そのまま移る)
主従事労働者でない人を分割会社に残す 承継の定めがない 対象外(何も変わらない)

主従事労働者を承継会社へ移す場合に異議の権利がないのは、労働条件を維持したまま、今の仕事と一緒に移るからです。「仕事から切り離される人」にだけ、拒む権利があると覚えると整理しやすくなります。

異議は書面で、分割会社が指定した受付先に出します。異議の効果は分割の効力発生日に生じます。異議を述べたこと、述べようとしていることを理由に、解雇などの不利益な扱いをしてはいけません。

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労働契約承継法の7条措置・5条協議・2条通知の順番と中身

手続きは3つあり、実務では次の順番で進めます。呼び名が条番号なので、根拠になる法律を取り違えないようにしてください。

呼び名 根拠 相手 中身
7条措置 労働契約承継法第7条 全事業場の過半数組合(なければ過半数代表者) 分割の背景と理由、債務の履行の見込み、主従事かどうかの判断基準、労働協約の承継、問題が起きたときの解決手続きを説明し、理解と協力を求める
5条協議 平成12年商法等改正法附則第5条 承継される事業に従事する一人ひとり(承継の定めがある他の人も) 移った後の会社の概要と債務の履行の見込みを説明し、本人の希望を聞いたうえで承継の有無と、移った後の仕事・勤務地を協議する
2条通知 労働契約承継法第2条 主従事労働者、承継の定めがある他の人、労働協約を結んでいる労働組合 承継の定めの有無、異議申出期限日、主従事かどうかの別などを書面で通知する

「5条協議」の5条は、労働契約承継法の第5条ではありません。会社分割の制度ができた平成12年の商法改正法の附則の条文です。労働契約承継法の第5条は、上の表②の異議申出の規定です。

2条通知に書く事項

従業員への通知には、厚生労働省令と指針に沿って次の事項を書きます。

  • 承継会社に承継されるかどうかの、分割契約等の定めの有無
  • 異議申出期限日
  • 主従事労働者か、それ以外で承継される人かの別
  • 承継される場合、労働条件はそのまま維持されること
  • 承継される事業の概要
  • 効力発生日以後の分割会社と承継会社の商号・住所・事業内容・雇用予定の人数
  • 効力発生日
  • 効力発生日以後に従事する予定の業務・就業場所などの就業形態
  • 効力発生日以後の分割会社と承継会社の債務の履行の見込み
  • 異議を申し出られることと、異議を受け付ける部署・担当者

債務の履行の見込みは、7条措置・5条協議・2条通知のすべてで説明を求められています。業績の悪い事業を切り出すときほど、従業員はここを見ます。

承認株主総会の日から逆算する労働契約承継法の日程表

株主総会の承認が要る会社分割では、通知期限日は承認株主総会の日の2週間前の日の前日です(同法第2条第3項第1号)。総会の承認が要らない簡易分割や、合同会社の分割では、分割契約の締結日(分割計画の作成日)から起算して2週間を経過する日になります(同項第2号)。

承認株主総会を2026年12月18日、効力発生日を2027年2月1日とした場合の日程です。

時期 手続き 根拠・目安
10月中 7条措置を始める(過半数組合・過半数代表者との協議) 遅くとも5条協議を始めるまでに着手
10月下旬〜11月 5条協議(対象者一人ひとりと面談) 通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間に余裕を持って始める
11月20日 2条通知(事前開示書類の備置開始日にそろえる) 備置開始日か招集通知の発出日の早いほうと同じ日が望ましい
12月3日 通知期限日 12月18日の2週間前の日(12月4日)の前日
12月14日 異議申出期限日(会社が定める) 通知期限日の翌日から総会の前日までの日で、通知日との間を13日以上空ける
12月18日 承認株主総会
2027年2月1日 効力発生日。労働契約が移る(異議の効果もこの日に生じる)

日付の数え方でつまずきやすいのは2か所です。

  • 通知期限日は「2週間前の日の前日」。12月18日から14日さかのぼった12月4日のさらに前日、12月3日が期限です
  • 異議申出期限日は、通知した日との間に13日以上を空ける。通知期限日ぎりぎりの12月3日に通知すると、異議申出期限日は12月17日しか取れません。通知を早めるほど、期限日を自由に置けます

債権者保護手続きの公告・催告(1か月以上の異議申述期間)も、同じ時期に並行して進みます。2つの日程を1枚の表にまとめておけば、どちらかが総会に間に合わないという失敗を防げます。

労働契約承継法で労働条件はそのまま移る、転籍合意でも手続きは省けない

会社分割で承継された労働契約は、労働条件もそのまま承継会社へ移ります。賃金、退職金の計算に使う勤続年数、就業規則や労働協約で決めた福利厚生も含みます。会社分割を理由に、一方的に労働条件を下げることはできません。

分割の前後で条件を変えるなら、労働契約法第10条の要件を満たす就業規則の変更か、本人や労働組合との合意が必要です。承継会社の制度に統一したい場合も、この手順を踏みます。

転籍合意・出向に切り替えても手続きは残る

会社分割の対象から外し、本人の同意を取って承継会社へ転籍させる「転籍合意」という方法があります。ただ、厚生労働省は、転籍合意や出向を使っても、2条通知と5条協議は省略できないと明記しています。

さらに、主従事労働者が分割契約で承継の対象から外されているなら、異議を述べれば元の労働条件のまま承継会社へ移れます。そうなると、条件を下げる内容の転籍合意は効力を否定されます。条件を下げるために転籍合意へ切り替える、という使い方は成り立たないと考えてください。

解雇と労働協約

会社分割だけを理由にした解雇はできません。解雇の有効性は、労働契約法第16条と整理解雇の判例法理で判断されます。

労働組合と労働協約を結んでいる場合、組合員の労働契約が承継会社へ移ると、承継会社と組合の間で同じ内容の労働協約が結ばれたものとみなされます(同法第6条第3項)。組合事務所の貸与のような債務的な部分は、組合と合意すれば分割契約で分け方を決められます。

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労働契約承継法の手続きを欠いた会社分割で起きること

労働契約承継法には罰則がありません。そのため軽く見られがちですが、手続きを欠いた代償は分割の効力に及びます。

  • 5条協議を全く行わなかった、または実質的にそれと同じといえる場合は、会社分割の無効の原因になり得ると、厚生労働省は説明しています
  • 最高裁は日本アイ・ビー・エム事件(平成22年7月12日判決)で、協議が全く行われなかったときや、行われても著しく不十分で法の趣旨に反することが明らかなときは、主従事労働者が労働契約の承継の効力を個別に争えると判断しました
  • 2条通知を欠けば、異議を述べる機会そのものを奪うことになります。通知を出し忘れた人がいると、その人から承継の効力を争われる典型的な原因になります

買い手(承継会社)から見ると、手続きに不備のある会社分割で受け入れた従業員は、後から「移っていない」と主張されるおそれがあるということです。買い手は、7条措置の記録、5条協議の面談記録、2条通知の控えと受領の記録を、クロージングの前に確かめます。

会社分割の前に売り手の経営者が用意する労働契約承継法のチェックリスト

分割契約の案を固める前に、次の項目を埋めてください。

  • [ ] 会社分割を選ぶ理由が説明できる(株式譲渡・事業譲渡と比べたうえで)
  • [ ] 承継される事業の範囲を決め、全従業員を「主従事」「承継させる非主従事」「残す」に分けた
  • [ ] 兼務者・間接部門・休業中の人・内定者の判定理由を書面に残した
  • [ ] 直近の配置転換に、承継の範囲を操作したと見られるものがない
  • [ ] 異議を述べたら残る人(承継させる非主従事)を、残った場合の配置まで考えてある
  • [ ] 全事業場の過半数組合、または過半数代表者を確認した
  • [ ] 7条措置で説明する債務の履行の見込みを、数字で示せる
  • [ ] 5条協議の面談の日程と、記録の様式を決めた
  • [ ] 承認株主総会の日から通知期限日・異議申出期限日を逆算した
  • [ ] 2条通知の書面を、従業員用と労働組合用で分けて作った
  • [ ] 承継会社に移したあと、就業規則・退職金規程をどう扱うか(維持か、合意による変更か)を決めた
  • [ ] 債権者保護手続きの日程と重ねて、1枚の工程表にした

よくある質問

Q. 従業員が10人ほどの会社でも、7条措置と5条協議は必要ですか。

必要です。会社の規模による例外はありません。過半数組合がなければ過半数代表者と協議し、5条協議は対象者一人ひとりと行います。人数が少ない分、面談の記録を残す手間は大きくありません。

Q. 承継させない従業員にも通知は要りますか。

主従事労働者なら、承継させない場合も通知が要ります。異議を述べれば承継会社へ移れるからです。主従事でも承継対象でもない人には2条通知は要りませんが、7条措置の対象には含まれます。

Q. 事業譲渡に切り替えれば、この手続きはすべて不要になりますか。

労働契約承継法の手続きは不要になります。その代わり、移ってもらう従業員一人ひとりの同意が必要になり、同意しない人は移せません。どちらが軽いかは、移したい人数と、同意が取れる見込みで決まります。

Q. 承継会社に移った従業員の勤続年数は引き継がれますか。

会社分割では労働契約がそのまま移るので、勤続年数も引き継がれます。退職金や有給休暇の計算は、分割会社での勤続を通算するのが前提です。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

労働契約承継法は、会社分割で従業員を移すときにだけ働く法律です。株式譲渡なら関係がなく、事業譲渡なら本人の同意で置き換わります。

最初に全従業員を主従事かどうかで分け、承認株主総会の日から通知期限日を逆算する。7条措置、5条協議、2条通知はこの順に進めます。

分割契約の案を作る前に、従業員の区分表と工程表を用意してください。

参考

  • 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(第2条〜第8条)https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000103
  • 厚生労働省「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要」(平成28年8月)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000135994.pdf
  • 厚生労働省 労働契約承継法に基づく指針(平成12年労働省告示第127号)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000141999.pdf
  • 厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」労働契約承継法等の改正経緯 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084679.html
  • 民法(第625条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 労働契約法(第10条・第16条)https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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