整骨院・接骨院のM&Aで最初に確かめるのは、施術所の開設届(保健所)と、療養費の受領委任(地方厚生局)が別々に動くことです。開設届は「誰がこの場所で施術所を開いているか」、受領委任は「誰の管理の下で健康保険の請求をするか」の届出です。
そして受領委任は、施術管理者ごとの取扱いになっています。院長である売り手本人が施術管理者を務めている院では、株式譲渡でも事業譲渡でも、本人が抜けた時点で受領委任の申出をやり直すことになります。手続きの日程を誤ると、その間は患者の窓口負担だけで施術する、つまり保険の請求が止まる期間が生まれます。
この記事は、院を手放したい柔道整復師のオーナーと、院を増やしたい同業・治療院グループに向けて書いています。手法ごとの開設届と受領委任の扱い、施術管理者の交代、保険と自費の比率、物件の確認を順に整理し、最後に売り手・買い手それぞれの判定表を置きます。
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整骨院のM&Aでは施術所の開設届と受領委任が別々に動く
整骨院が保険を使って施術するには、次の2つの手続きが要ります。
| 手続き | 提出先 | 根拠 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 施術所の開設届 | 都道府県知事(保健所を設置する市・特別区は市長・区長。窓口は保健所) | 柔道整復師法19条 | 開設後10日以内に届け出る。開設者の氏名(法人なら名称)、名称、場所、従事する柔道整復師の氏名、構造設備の概要などを書く(施行規則17条) |
| 療養費の受領委任の申出 | 地方厚生(支)局と都道府県 | 受領委任の取扱規程(厚生労働省保険局長通知) | 施術管理者が規程の遵守を確約し、施術所ごとに届け出る。受理された日から受領委任を取り扱える |
開設は許可制ではなく届出制で、開設者は柔道整復師でなくても構いません。株式会社が開設者になることもできます。一方で受領委任には、施術所ごとに1人の施術管理者を置きます。開設者が柔道整復師で自ら施術するなら開設者本人が、そうでなければ勤務する柔道整復師の中から開設者が選任した人が施術管理者になります。
整骨院の売上の多くを占める療養費は、この受領委任で患者に代わって保険者へ請求するものです。M&Aでは、開設届よりも受領委任が途切れないかどうかが、売上に直結します。
株式譲渡・事業譲渡で整骨院の開設届と受領委任はどうなるか
近畿厚生局が示している手続きをもとに、変わる事項ごとの扱いを表にまとめます。
| 変わる事項 | 保健所(開設届) | 地方厚生局(受領委任) |
|---|---|---|
| 開設者が変わる | 新しい開設者の開設届と、旧開設者の廃止届(それぞれ10日以内) | 届出事項の変更(様式第4号)と誓約書。開設届・廃止届の写しを添える |
| 施術管理者が変わる | 従事する柔道整復師の変更届 | 旧施術管理者の廃止と、新施術管理者の新規の申出の両方が要る |
| 施術所が移転する | 新しい場所の開設届と廃止届 | 廃止と新規の申出の両方が要る |
| 施術所の名称が変わる | 変更届 | 届出事項の変更(様式第4号) |
| 開設者(法人)の株主が変わる | 開設者は同じ法人のまま | 開設者も施術管理者も変わらなければ手続きは生じない |
この表を手法に当てはめると、次のようになります。
| 手法 | 開設者 | 施術管理者 | 受領委任への影響 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡(法人が開設者、施術管理者は勤務の柔道整復師) | 変わらない | 変わらない | ほぼ影響なし |
| 株式譲渡(法人が開設者、施術管理者は売り手本人) | 変わらない | 本人が抜けると変わる | 施術管理者の廃止と新規の申出が要る |
| 事業譲渡(個人開設の院を買い手の法人へ) | 変わる | 売り手本人が残らなければ変わる | 開設者変更の届出に加え、施術管理者が変われば新規の申出も要る |
個人で開業している院は、株式がないので事業譲渡になります。整骨院は個人開設が多いため、実務では事業譲渡の形が中心です。
受領委任の取扱いの開始日は、厚生局(事務所)が届出を受理した日です。さかのぼって取り扱うことはできません。引き継ぎ日と受理日がずれると、その間の施術は受領委任で請求できないので、日程は厚生局の事務所に事前に相談して組みます。手続きは厚生局ごとに細部が異なるため、管轄の事務所の案内を確かめてください。
整骨院の施術管理者が売り手本人のときに起きること
後任の施術管理者には実務経験と研修が要る
施術管理者になるには、柔道整復師として実務に従事した経験と、登録された研修機関が行う施術管理者研修の修了が要ります。実務経験の期間は届け出る時期で段階的に延びていて、令和6年度以降は3年以上(そのうち保険医療機関で従事した期間は2年まで)です。届出には実務経験期間証明書と研修修了証の写しを添えます。
研修は開催日が決まっているため、後任に予定している柔道整復師が未受講なら、受講の日程から逆算して引き継ぎ日を決めます。売り手が「辞める日」を先に決めてしまうと、後任が要件を満たすまで保険請求ができない期間が生まれます。
施術管理者の兼任は原則として認められない
受領委任の取扱規程では、施術管理者は施術所の受領委任の取扱い全般を管理する者なので、複数の施術所の施術管理者になることは原則として認められていません。例外として兼ねる場合は、施術所間の距離などを踏まえ、各院で管理する曜日と時間を明確にします。
院を増やしたい買い手は、「本院の院長が買った院の施術管理者も兼ねる」という前提で計画を立てないことです。買収する院ごとに、要件を満たした施術管理者を確保できるかが、買える院の数の上限になります。
売り手が一定期間残る形も選べる
後任の準備が間に合わないときは、売り手が勤務の柔道整復師や施術管理者として一定期間残る形があります。患者は院長個人に付いていることが多いので、引き継ぎ期間を置くことは、保険請求の面だけでなく患者の継続率の面でも意味があります。残る期間と報酬、施術管理者を交代する日を、譲渡契約に書いておきます。
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整骨院の保険請求と自費の比率、患者の継続率で見る収益
整骨院の売上は、療養費(保険)と自費施術に分かれます。療養費の対象は、急性または亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷で、慢性的な肩こりや疲労回復などは対象外です。骨折・脱臼は、応急手当を除き医師の同意が要ります(柔道整復師法17条)。
買い手が確かめる項目は次のとおりです。
| 確認する項目 | 見る資料 | 注意する状態 |
|---|---|---|
| 保険と自費の比率 | 月別の療養費請求額と自費売上 | 療養費に偏っていて、請求の傾向が院の規模に比べて大きい |
| 請求の中身 | 施術録と支給申請書のサンプル | 多部位・長期・頻回の請求が目立つ、負傷原因の記載が曖昧 |
| 保険者からの照会・返戻 | 返戻・減額の記録、患者照会への対応記録 | 返戻が多い、厚生局の指導を受けている |
| 患者の継続率 | 新患数、再来の比率、回数券・会員の残高 | 新患の大半が院長の紹介や地縁に頼っている |
| 自費メニュー | 価格表、前受金の残高 | 前受けの回数券が多く、譲渡後に施術の義務だけが残る |
保険請求の中身は、特に丁寧に見ます。受領委任の取扱規程では、施術管理者か勤務する柔道整復師が受領委任の取扱いの中止を受けると、原則として中止から5年を経過しないと再び登録されません。開設者がこれまで開設していた施術所で中止を受けた場合や、中止を受けた施術管理者の代わりに選任された人の場合も、登録の対象外になり得ます。買収前の請求の問題が、買い手のほかの院の受領委任にまで及ぶ可能性があるということです。
株式譲渡では、過去の請求について返還を求められた場合の負担も会社に残ります。表明保証と補償の条項で手当てするのが通例です。条項の組み方は「SPA(株式譲渡契約書)とは」で整理しています。
売り手側にも注意点があります。事業譲渡で院を手放しても、受領委任を取り扱っていた期間の施術に関する帳簿・書類は、廃止後5年間、厚生局などが提示や説明、報告を求めた場合に応じることになっています。施術録は施術が完結した日から5年間保存します。院を渡した後も、過去の請求について問われる立場は残るので、書類の保管方法を譲渡契約で決めておきます。
整骨院の物件の賃貸借と構造設備
整骨院の多くは賃貸の物件で営業しています。確かめることは2つあります。
1つ目は賃貸借契約です。事業譲渡では賃借人が変わるので、賃借権の譲渡に貸主の承諾が要ります(民法612条)。承諾が得られなければ新たに契約を結び直すことになり、保証金や賃料の条件が変わることがあります。株式譲渡でも、契約に株主や代表者の変更を貸主に通知・承諾を得る条項がないか読みます。
2つ目は構造設備です。施術所には、6.6平方メートル以上の専用の施術室、3.3平方メートル以上の待合室、換気、器具や手指の消毒設備が求められます(柔道整復師法施行規則18条)。今の場所で引き継ぐなら既に満たしているはずですが、買い手が内装を変えたり、近くへ移転したりすると、開設届と受領委任の手続きがやり直しになります。移転は受領委任では廃止と新規の申出になるため、買収直後の移転は避け、受領委任が落ち着いてから計画するのが無難です。
患者のカルテや連絡先は、事業譲渡に伴って移す場合、個人情報保護法上の第三者提供に当たらず、本人の同意なしで移せます(個人情報保護法27条5項2号)。ただし元の利用目的の範囲内で使います。買収の検討段階で患者名簿をそのまま渡すのは避け、集計データから出します。
整骨院の売却価格の考え方
価格は、純資産(内装・設備・保証金など)に、これから見込める利益を加えて考えます。業界では「年間利益の何年分」といった目安が語られますが、同じ利益でも次の条件で価値は変わります。
- 院長が抜けた後も患者が来る仕組みがある(勤務の柔道整復師が患者を持っている、予約の仕組みがある)
- 後任の施術管理者の候補がいて、受領委任を途切れさせずに引き継げる
- 保険請求の中身に問題がなく、自費の売上も一定ある
- 物件の賃貸借を引き継げ、移転の必要がない
院長1人で施術し、患者の大半が院長個人に付いている院は、利益の額ほどの値は付きません。売り手が一定期間残る条件や、引き継ぎ後の患者数に応じて代金の一部を払う条件で差を埋めることがあります。算定の手法は「M&Aの価格算定4手法と計算例」で整理しています。
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売り手の判定表:整骨院を株式譲渡か事業譲渡か、いま売るか
手法の判定表
| 自院の状況 | 向く手法 | 手続きの要点 |
|---|---|---|
| 個人で開設している | 事業譲渡 | 買い手の開設届と自分の廃止届。受領委任は開設者変更の届出と、施術管理者が変われば新規の申出 |
| 法人が開設者で、施術管理者は勤務の柔道整復師 | 株式譲渡 | 開設者も施術管理者も変わらず、受領委任への影響が小さい |
| 法人が開設者で、施術管理者は自分 | 株式譲渡+施術管理者の交代 | 後任の要件(実務経験3年以上・研修修了)を満たしてから交代し、廃止と新規の申出を同じ時期に出す |
| 複数院のうち1院だけ手放したい | 事業譲渡 | その院の開設者変更。移転を伴わないように引き継ぐ |
| 過去に保険請求で指導や返戻が多かった | 事業譲渡でも慎重に | 買い手の受領委任に影響し得るので、先に請求の状態を整える |
売り時の判定表
| 確認すること | 売りやすい状態 | 先に手を打つ状態 |
|---|---|---|
| 施術管理者の後任 | 実務経験と研修を満たした柔道整復師がいる | 後任がいない、研修が未受講 |
| 患者の付き方 | 勤務の柔道整復師にも患者が付いている | ほぼ院長個人に付いている |
| 保険と自費 | 自費も一定あり、請求の記録が整っている | 療養費に偏り、施術録の記載が不十分 |
| 物件 | 賃貸借を引き継げる見込みがある | 契約期間が残り少ない、貸主との関係が悪い |
| 体力 | 引き継ぎ期間を院に残れる | 急に辞めざるを得ない |
「先に手を打つ状態」が多いなら、勤務の柔道整復師に施術管理者研修を受けてもらい、患者の担当を分けることから始めると、売却の条件が良くなります。
買い手の判定表:買ってよい整骨院か
| 確認すること | 買ってよい状態 | 注意が要る状態 |
|---|---|---|
| 施術管理者 | 要件を満たした後任を自社または売り手側で用意できる | 自社の院長の兼任を前提にしている |
| 受領委任の日程 | 厚生局の事務所に事前に相談し、受理日と引き継ぎ日を合わせた | 引き継ぎ日だけ決まり、届出の段取りが未定 |
| 保険請求の中身 | 施術録と申請書のサンプルに問題がない | 多部位・長期・頻回の請求が目立つ、指導や返戻の記録がある |
| 自社の受領委任への影響 | 売り手側に受領委任の中止の履歴がない | 中止の履歴があり、自社の他院に波及するおそれがある |
| 患者の継続率 | 院長交代後も通う患者の層が見える | 院長個人の紹介と地縁に頼っている |
| 物件 | 貸主の承諾の見込みがあり、移転の予定がない | 承諾が未確認、買収後すぐに移転や改装を予定している |
異業種の会社が買う場合も、開設者になることはできます。ただし自社に柔道整復師がいなければ、施術管理者は勤務の柔道整復師から選任することになり、開設者はその施術管理者の請求について同等の責任を負います。
よくある質問
整骨院を買うと、健康保険の取扱いは切れずに続きますか
開設者と施術管理者が変わらない株式譲渡なら、通常は続きます。施術管理者が変わる場合は、旧施術管理者の廃止と新施術管理者の申出が必要で、受領委任の取扱いは申出の受理日から始まります。受理日と引き継ぎ日を合わせる段取りが要ります。
柔道整復師の資格がない会社でも整骨院を買えますか
買えます。施術所の開設は届出制で、開設者が柔道整復師である必要はありません。ただし柔道整復を行えるのは柔道整復師(医師を除く)に限られるため(柔道整復師法15条)、施術と施術管理者は勤務の柔道整復師に頼ることになります。
院の名前を買い手のグループ名に変えてもよいですか
変えられます。名称の変更は、保健所への変更届と、厚生局への届出事項の変更で足ります。一方で場所を移すと、受領委任は廃止と新規の申出になります。名称と所在地で手続きの重さが違うので、分けて計画します。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ
整骨院のM&Aは、開設届は保健所、受領委任は厚生局、そして受領委任は施術管理者ごと、という3点で手続きが決まります。売り手本人が施術管理者なら、どの手法でも後任の準備と申出の日程が引き継ぎの中心になります。売り手は後任と請求記録の整備を、買い手は施術管理者の確保と過去の請求の中身を、判定表で先に確かめてください。
参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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