学習塾のM&A|許可は要らないが特定商取引法・フランチャイズ契約・教室の賃貸借で引き継ぎ方が変わる、前受金と売る時期の判定表

学習塾には開業の許可がありません。そのため、学習塾のM&Aで許認可の承継に悩むことはほぼありません。

その代わりに、生徒・保護者との受講契約、教室の賃貸借、フランチャイズの加盟契約、塾長という「人」をどう移すかが、取引の中身になります。受講契約には特定商取引法の規制がかかるので、買い手は書面が正しく出ているかを必ず確かめます。

この記事では、個人塾・中小塾のオーナーと、教室を増やしたい塾・教育事業者に向けて、手法の選び方、引き継げるものの判定表、特定商取引法の確認点、フランチャイズ契約、塾長依存度、前受金、売る時期を順に整理します。

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目次
  1. 学習塾のM&Aは個人塾か法人かで手法が決まる
  2. 学習塾のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  3. 学習塾に許認可は要らないが特定商取引法の特定継続的役務提供は確認する
    1. 対象になる学習塾・ならない学習塾
    2. 買い手が確かめる3つの義務
  4. フランチャイズ加盟の学習塾は本部の承諾が前提になる
  5. 塾長・講師への依存度と生徒の継続率で価格の考え方が変わる
    1. 買い手が見る4つの数字
    2. 学年構成で見る「残る生徒」の例
  6. 教室の賃貸借契約と前受金(月謝・講習費)の扱い
    1. 教室の賃貸借契約
    2. 前受金の扱い
    3. 講師の採用・研修体制
  7. 学習塾を売る時期は受験期と新年度の募集を避ける
  8. 学習塾を売るか・続けるかの判定表
  9. よくある質問
    1. Q. 生徒数が数十人の個人塾でも売れますか。
    2. Q. 生徒・保護者にはいつ伝えればよいですか。
    3. Q. 株式譲渡なら保護者の同意は要りませんか。
  10. まとめ
  11. 参考

学習塾のM&Aは個人塾か法人かで手法が決まる

最初の分かれ目は、塾を個人事業で営んでいるか、会社で営んでいるかです。

運営の形 使える手法 何が移るか
個人事業(塾長が個人で開業) 事業譲渡のみ 教室・生徒との契約・講師・塾名などを1つずつ移す
株式会社など法人 株式譲渡/事業譲渡 株式譲渡なら会社ごと。事業譲渡なら選んだ教室だけ
法人で複数教室のうち一部だけ売る 事業譲渡(会社分割も可) 対象の教室の契約・人・設備

個人塾には株式がないので、会社ごと渡すという選択肢がありません。事業譲渡では、生徒との契約、教室の賃貸借、講師の雇用を1本ずつ結び直すことになります。法人の塾で株式譲渡を選べば、契約の当事者は会社のまま変わらないので、手続きは軽くなります。

株式譲渡と事業譲渡の一般的な違いは「株式譲渡と事業譲渡の比較」で整理しています。

学習塾のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は相手の承諾や手続きが要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡
生徒・保護者との受講契約 ○ 会社が当事者のまま △ 保護者の承諾で契約上の地位を移す(民法第539条の2)
受講料の前受金(講習費・年払い) ○ 会社に残る(返金義務も残る) △ どちらが授業を行い返金義務を負うかを契約で決める
教室の賃貸借契約 ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) △ 賃貸人の承諾が要る(民法第612条)
フランチャイズの加盟契約 △ 支配権変更で本部の承諾が要る契約が多い △ 本部の承諾がなければ移せない
講師(正社員・アルバイト) ○ 雇用はそのまま △ 本人の同意で転籍(民法第625条)
生徒・保護者の個人情報 ○ 会社に残る ○ 事業の承継に伴う提供は第三者提供に当たらない(個人情報保護法第27条第5項第2号)
塾名・Webサイト・電話番号 ○ そのまま △ 商標・ドメイン・電話番号の名義変更。FC塾は本部のもので移せない
未払残業代・返金トラブルなどの簿外債務 ○ 会社ごと引き継ぐ × 契約で引き受けたものだけ移る

表の最後の行が、手法選びの分かれ目です。株式譲渡は手続きが軽い代わりに、講師の未払残業代や過去の返金トラブルまで会社ごと引き継ぎます。事業譲渡は保護者一人ひとりへの案内と承諾が要る一方で、引き受ける債務を契約で絞れます。

個人情報は、事業の承継に伴って渡す場合には本人の同意は要りません。ただし、承継前の利用目的の範囲で使う必要があり、買い手が自社の別サービスの営業に使うことはできません。

学習塾に許認可は要らないが特定商取引法の特定継続的役務提供は確認する

学習塾の受講契約のうち、期間が2か月を超え、入学金・受講料・教材費などの総額が5万円を超えるものは、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たります。この規制は、会社が変わっても過去の契約に付いて回ります。

対象になる学習塾・ならない学習塾

消費者庁の説明では、対象の学習塾は「入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学力の教授」で、対象は小学生から高校生までです。

塾のコース 特定継続的役務提供か
中学受験・高校受験・大学受験の準備、学校の補習(2か月超・5万円超) 対象
高校生と浪人生が一緒のコース 対象
浪人生だけのコース 対象外
小学校受験のための教室・幼児教室 対象外
2か月以内の短期講習だけ、または総額5万円以下 対象外

月謝制の塾でも、年間の契約や講習のパックで2か月超・5万円超になっていれば対象です。契約の組み方で判断するので、コースごとに確かめます。

買い手が確かめる3つの義務

義務 内容 根拠
書面の交付 契約前に概要書面、契約後に契約書面を渡す。前受金の保全措置の有無も記載する 第42条
クーリング・オフ 契約書面を受け取った日から8日以内なら、保護者は無条件で解除できる 第48条
中途解約 期間中いつでも解約でき、塾が請求できる額に上限がある 第49条

中途解約で塾が請求できる額の上限は、学習塾では次のとおりです。

  • 授業の開始前:1万1,000円
  • 授業の開始後:提供済みの授業の対価に、2万円または1か月分の授業料相当額のいずれか低い額を加えた額

買い手が気にするのは、書面が出ていない、または記載が欠けている契約です。クーリング・オフの期間は書面を受け取った日から数えるので、書面に不備があると期間が進んでいないと扱われるおそれがあります。売り手は、契約書のひな形と実際に渡した控えを並べて、記載事項が欠けていないかを売る前に点検しておきます。

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フランチャイズ加盟の学習塾は本部の承諾が前提になる

フランチャイズに加盟している塾は、本部との加盟契約をどう扱うかで取引の形が決まります。加盟契約は法律で承継が決まっているものではなく、契約書の条項しだいです。

確認する条項 取引への影響
地位の譲渡の制限 事業譲渡で加盟者の地位を移すには、本部の承諾が要るのが一般的
支配権変更の条項 株式譲渡でも、オーナーが変わると本部への通知や承諾が要る場合がある
加盟金・研修の再実施 新しい加盟者として加盟金や研修費を求められることがある
契約終了後の競業避止 本部を抜けて独自の塾にする場合、同じ場所・一定期間の塾経営が禁じられていることがある
生徒情報・教材の帰属 生徒の名簿や教材が本部のものとされていると、脱退時に持ち出せない

買い手候補として現実的なのは、同じ本部の既存加盟者です。本部の承諾が得やすく、教材や指導の方法もそのまま使えます。異業種の買い手が本部を抜けて看板を替えるつもりなら、競業避止の条項で計画ごと成り立たないことがあるので、交渉の前に条項を読みます。

売主側の競業避止義務の決め方は「競業避止義務」で扱っています。

塾長・講師への依存度と生徒の継続率で価格の考え方が変わる

個人塾・中小塾の価値は、教室や設備よりも翌年度に何人の生徒が残るかで決まります。そして、その人数を左右するのが塾長です。

買い手が見る4つの数字

見るもの なぜ見るか
学年別の生徒数 中3・高3が多いと、3月の卒業で生徒が一気に減る
直近3年の退塾率と、退塾した時期 塾長が替わった後にどれだけ抜けるかの目安になる
紹介・兄弟での入塾の割合 塾長個人の評判に付いた生徒がどれだけいるか
授業のうち塾長が担当している割合 塾長が抜けたとき、誰が授業と保護者面談を引き継ぐか

学年構成で見る「残る生徒」の例

生徒80人の個人塾で、学年構成が次のとおりだとします。

学年 生徒数
小学生 15人
中1・中2 30人
中3 25人
高校生 10人

3月に中3の25人が卒業し、高校生のうち高3が5人いれば、その5人も抜けます。4月の時点で残るのは50人です。ここに新入塾の見込みを足したものが、買い手の見る「翌年度の生徒数」です。いまの生徒数80人で売上を見積もると、買い手との間で大きく目線がずれます。

価格は、翌年度の生徒数から見込む利益と、教室の設備・保証金などをもとに交渉で決まります。塾長がどれだけの期間残って授業と保護者対応を引き継ぐかで、見込みの確度が変わるので、引き継ぎ期間と塾長の処遇(顧問契約・雇用)を価格と一緒に決めるのが一般的です。

教室の賃貸借契約と前受金(月謝・講習費)の扱い

教室の賃貸借契約

教室が賃貸なら、事業譲渡では賃貸人の承諾がなければ賃借権を移せません(民法第612条)。承諾がもらえないと、同じ場所で塾を続けられず、生徒の多くを失います。株式譲渡でも、契約書に代表者や株主の変更を届け出る条項があれば従います。

確認しておくのは、敷金・保証金の額と返還の条件、原状回復の範囲、残りの契約期間です。

前受金の扱い

夏期講習・冬期講習の費用や、年払い・半年払いの受講料は、授業をする前に受け取るお金です。会計上は、授業を終えるまで前受金(負債)として扱います。

手法 前受金の扱い
株式譲渡 会社に残る。受け取った時に全額を売上にしている塾では、貸借対照表に負債が出ていないので、未消化の授業分を数え直す
事業譲渡 未消化の授業は買い手が行うのが通常。その分の前受金を売り手から買い手に渡すか、価格から差し引く

特定商取引法の書面には前受金の保全措置の有無を書くので、保全措置を取っているかどうかも確かめます。中途解約の返金を、クロージング後にどちらが負担するかも契約で決めておきます。

講師の採用・研修体制

2026年12月25日に、こども性暴力防止法が施行されます。学校などには義務がかかる一方、学習塾は、国の認定を受けたときに制度の対象になる任意の仕組みです。認定を目指す買い手は、講師の採用時の確認や研修の体制が売り手の塾にあるかを見ます。

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学習塾を売る時期は受験期と新年度の募集を避ける

学習塾には、生徒が入れ替わる時期と、お金が先に入る時期がはっきりあります。

時期 塾で起きていること 引き継ぎの向き・不向き
12月〜2月 受験の直前期。塾長と受験生の関係が最も濃い 向かない。この時期に塾長が替わると退塾と評判の悪化につながる
3月〜4月 受験生が卒業し、新年度の生徒が入る 受験が終わった3月に保護者へ案内し、4月から新体制にしやすい
7月〜8月 夏期講習。前受金が最も膨らむ 講習の最中は避け、前受金の精算を契約で決めておく
9月〜11月 通常授業。受験生は追い込み前 中3・高3の少ない塾なら引き継ぎやすい

逆算すると、買い手探しと交渉は前年の夏から秋に始め、受験が終わった後に保護者へ知らせるのが一つの目安です。講師への告知は、保護者への案内より先に行い、辞める人がいないかを確かめておきます。

学習塾を売るか・続けるかの判定表

自分の塾の状態に当てはまる行を探してください。

自分の塾の状態 向く進め方 先にやること
個人事業・1教室で、授業の大半を塾長が担当 事業譲渡。塾長が半年〜1年残る条件をつける 保護者への案内文と、講師の転籍の意向確認
法人で複数教室、各教室に教室長がいる 株式譲渡(一部の教室だけなら事業譲渡) 教室ごとの生徒数と損益を分けて示す
フランチャイズに加盟している 同じ本部の加盟者への譲渡を先に検討 加盟契約の譲渡・競業避止の条項を読む
受講契約の書面が古い、控えが無い 売る前に書面を整えてから 現行のひな形を特定商取引法の記載事項と見比べる
講習費・年払いを受け取った時に全額売上にしている 未消化の授業分を数えてから価格交渉 前受金の残高を月ごとに出す
中3・高3の比率が高い 3月の卒業後に引き継ぐ 学年別の生徒数と新入塾の見込みを出す
生徒数が3年続けて減り、塾長も引退したい 売却と閉塾を比べる 閉塾した場合の返金額と賃貸借の解約費用を出す

買い手の側から見るなら、同じ表で「塾長が抜けた後に残る生徒」と「引き受ける負債」を確かめる、という読み方になります。

閉塾を選ぶ場合の手続きは「会社の廃業手続き」で整理しています。

よくある質問

Q. 生徒数が数十人の個人塾でも売れますか。

売れることはあります。買い手になりやすいのは、近隣で教室を増やしたい塾や、同じフランチャイズ本部の加盟者です。価格は生徒数よりも、翌年度に残る生徒と、塾長がどれだけ引き継ぎに関わるかで決まります。

Q. 生徒・保護者にはいつ伝えればよいですか。

契約が固まり、講師への説明が終わった後に伝えます。受験の直前期は避け、受験が終わった3月ごろに、新しい運営者と授業の体制を一緒に案内するのが一般的です。事業譲渡の場合は、この案内で受講契約を移す承諾をもらいます。

Q. 株式譲渡なら保護者の同意は要りませんか。

契約の当事者は会社のまま変わらないので、受講契約を移す承諾は要りません。ただし、塾長が替わることは生徒の継続に直結するので、同意の要否にかかわらず保護者への説明は欠かせません。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

学習塾のM&Aは、許可の承継ではなく、契約と人の引き継ぎが中身になる取引です。

個人塾は事業譲渡で契約を1本ずつ移し、法人なら株式譲渡で会社ごと渡せる。どちらでも、特定商取引法の書面と前受金は買い手が必ず確かめる。

学年別の生徒数、受講契約の書面、フランチャイズと賃貸借の条項を先にそろえ、受験期を外して引き継ぎの時期を決めてください。

参考

  • 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供」https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/
  • 特定商取引に関する法律(第42条・第48条・第49条)https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057
  • 民法(第539条の2・第612条・第625条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 個人情報の保護に関する法律(第27条)https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
  • こども家庭庁「こども性暴力防止法」https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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