放課後等デイサービスの売却で最初に決めるのは、株式譲渡にするか、事業譲渡にするかです。障害児通所支援事業者の指定は、この選択で扱いがはっきり分かれます。
株式譲渡なら指定は会社に付いたまま続きます。事業譲渡では、売り手が事業所の廃止を届け出て、買い手があらためて指定を受けるのが自治体の通常の扱いです。新しく指定を受けるということは、総量規制の地域では指定が下りない可能性と向き合うということでもあります。
この記事では、放課後等デイサービスの運営法人のオーナーと、障害福祉・介護・保育から参入を考える買い手に向けて、指定の扱い、引き継げるものの判定表、総量規制、人員基準、2024年度報酬改定後の加算、利用者との契約を順に整理します。認可保育所の譲渡は「保育園のM&A」で扱っており、ここでは障害児通所支援に絞ります。
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放課後等デイサービスのM&Aは株式譲渡か事業譲渡かで指定の扱いが変わる
放課後等デイサービスは、児童福祉法に基づく障害児通所支援の一つです。都道府県知事(指定都市・中核市などでは市長)の指定を受けた事業者だけが、障害児通所給付費を受け取れます(児童福祉法第21条の5の3)。
指定は、事業者ごと・事業所ごとに行われます(第21条の5の15第1項)。運営する法人が変われば、別の事業者になるということです。
| 手法 | 指定の扱い | 自治体への手続き |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 法人が変わらないので指定はそのまま | 代表者・役員などの変更は10日以内に届出(第21条の5の20第3項) |
| 事業譲渡 | 指定は移らない。売り手の廃止と買い手の新規指定 | 廃止は1か月前までに届出(同条第4項)。買い手は新規の指定申請 |
| 合併・会社分割 | 法律に承継の定めがなく、自治体の運用による | 扱いが自治体で分かれる。事前相談で確かめる |
事業譲渡では、利用者も職員も同じまま運営法人だけが替わる場合でも、書類の上では一度事業所を閉じて新しく開くことになります。サービスを途切れさせないために、売り手の廃止日と買い手の指定日を同じ日に合わせて組みます。
新規指定には時間がかかります。たとえばさいたま市は、遅くとも事業開始の2か月前から事前相談を求め、申請の締切は毎月10日、指定は翌月1日としています。クロージング日は、この指定日から逆算して決めます。
指定には6年ごとの更新があります(第21条の5の16)。株式譲渡でも、更新の時期が近い事業所は、更新の審査に耐える体制かどうかを買い手が確かめます。
放課後等デイサービスのM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
○は手続きなしで続く、△は届出・同意・やり直しが要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 障害児通所支援事業者の指定 | ○ 継続。役員変更などは届出 | × 買い手が新規指定を受ける |
| 加算の体制届 | ○ そのまま | △ 買い手の事業所として出し直す |
| 児童発達支援管理責任者・児童指導員・保育士 | ○ 雇用はそのまま | △ 本人の同意で転籍(民法第625条)。転籍しないと人員基準を満たせない |
| 利用者(保護者)との利用契約 | ○ そのまま | △ 買い手と契約し直し、受給者証の記載を書き換える |
| 事業所の建物(賃貸) | ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) | △ 賃貸人の承諾が要る(民法第612条) |
| 送迎車両 | ○ そのまま | △ 名義変更。リースはリース会社の承諾 |
| 過去の給付費の返還・未払残業代などの簿外債務 | ○ 会社ごと引き継ぐ | × 契約で引き受けたものだけ移る |
最後の行が、手法選びの分かれ目です。運営指導で加算の算定要件を満たしていなかったと分かると、過去にさかのぼって給付費の返還を求められることがあります。株式譲渡では、この返還の義務も会社ごと買い手に移ります。
事業譲渡は指定を取り直す手間がかかる代わりに、引き受ける債務を契約で絞れます。介護事業の指定の扱いと比べたい場合は「介護事業のM&A」も参考になります。
買い手の側の欠格にも注意する
新規指定の審査では、申請者の欠格事由が確かめられます(第21条の5の15第3項)。対象は申請する法人だけではありません。役員や、株式の所有を通じて申請者を実質的に支配する親会社なども含まれます。
グループ内の別の事業所が過去5年以内に指定を取り消されていると、事業譲渡で新規指定を受けられないことがあります。異業種から参入する買い手は、自社グループの処分歴を最初に確かめておきます。
総量規制の地域では放課後等デイサービスの新規指定が取りにくい
放課後等デイサービスは、児童福祉法でいう「特定障害児通所支援」に当たり、指定のときにサービスの量(定員)も決められます(第21条の5の15第2項)。
都道府県障害児福祉計画で定めた必要な量に、地域のサービス量がすでに達している場合などは、都道府県知事は指定をしないことができます(同条第5項)。これがいわゆる総量規制です。定員を増やすための指定の変更も、同じ考え方で審査されます(第21条の5の20第1項・第2項)。
M&Aにとって総量規制は、売り手と買い手で意味が変わります。
| 立場 | 総量規制の意味 |
|---|---|
| 売り手 | 新規参入が難しい地域では、既存の指定を持つ事業所そのものに価値がつきやすい |
| 買い手(株式譲渡) | 指定ごと買えるので、総量規制の影響を受けずに地域に入れる |
| 買い手(事業譲渡) | 新規指定が必要になるので、総量規制で指定が下りないおそれがある |
事業譲渡の場合でも、合併や事業譲渡の前後で事業所の種別・定員・所在地・職員が変わらず、実質的に同じ事業所が続くと認められれば、総量規制をかけないと定めている自治体があります(姫路市など)。ただし、運用は自治体ごとに違います。事業譲渡を選ぶなら、契約を結ぶ前に、総量規制の例外に当たるかを指定権者に相談します。
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放課後等デイサービスの人員基準(児童発達支援管理責任者・児童指導員・保育士)
人員基準は、厚生労働省令の基準(児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第66条)をもとに、都道府県などの条例で定められています。
| 職種 | 必要な人数 |
|---|---|
| 児童指導員または保育士 | 障害児10人までは2人以上。10人を超えると、5人またはその端数ごとに1人を加える。うち1人以上は常勤 |
| 児童発達支援管理責任者 | 1人以上。うち1人以上は専任かつ常勤 |
| 機能訓練担当職員・看護職員 | 機能訓練や医療的ケアを行う場合に置く |
| 管理者 | 1人(支障がなければ他の職務と兼ねられる) |
利用定員は原則10人以上です(同基準第69条)。主として重症心身障害児を通わせる事業所は、別の基準になります。
M&Aで抜けやすいのは児童発達支援管理責任者です。実務経験と研修の修了が要件なので、急に代わりを採用することが難しい職種です。オーナー本人や、オーナーの親族が務めている事業所も珍しくありません。
- 株式譲渡でも、児童発達支援管理責任者が辞めれば人員基準を欠き、減算の対象になります
- 事業譲渡では、児童発達支援管理責任者が買い手に転籍しないと、新規指定の申請そのものができません
- 買い手は、クロージング日に職員の名簿上で基準がそろっているかと、転籍の同意書を確かめます
保育園を運営する法人が買い手になる場合、保育士は「児童指導員または保育士」として人員基準に数えられます。保育の人材を持つ法人が参入しやすいのは、この点です。
2024年度報酬改定後の放課後等デイサービスの加算と減算
2024年度の報酬改定で、放課後等デイサービスの報酬の組み立ては大きく変わりました。買い手は、売り手の事業所が改定後の要件に合わせて運営しているかを見ます。
| 改定の内容 | M&Aで確かめること |
|---|---|
| 基本報酬に支援時間の区分を新設。「30分以上1時間30分以下」「1時間30分超3時間以下」「3時間超5時間以下(学校休業日のみ)」の3区分。30分未満は原則算定しない | 個別支援計画の支援時間と、実際の提供時間・算定区分が合っているか |
| 「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5領域を含めた総合的な支援を求める | 個別支援計画で5領域とのつながりが書かれているか |
| 事業所の支援プログラムの作成・公表を求め、未公表なら所定単位数の85%で算定(2025年4月1日から適用) | 支援プログラムを公表しているか、いつから公表しているか |
| 児童指導員等加配加算を、常勤専従か・経験5年以上かで評価する形に見直し | 加配の職員の勤務形態と経験年数の記録 |
| 専門的支援加算と特別支援加算を統合し、体制と実施の2段階で評価 | 専門職の配置と、支援の実施記録 |
| 延長支援加算を、預かりニーズに対応した支援として見直し | 延長の時間と職員配置の記録 |
放課後等デイサービスの売上は、基本報酬と加算の積み上げで決まります。加算の比重が大きい事業所ほど、要件を満たしていなかった場合の返還額も大きくなります。
たとえば、基本報酬が月300万円の事業所で支援プログラムを公表していなかった場合、基本報酬が85%での算定となり、月45万円の差が出ます。公表していない期間が長ければ、その分の過誤調整が売却の交渉に乗ってきます。
売り手は、売却を考え始めた時点で、算定している加算ごとに根拠の書類(勤務表・資格証・研修修了証・支援記録)がそろっているかを自己点検しておきます。
放課後等デイサービスの利用者との契約と受給者証
放課後等デイサービスを利用するには、保護者が市町村から通所給付決定を受け、通所受給者証の交付を受けます。事業者は利用契約を結んだら、契約した支給量などを受給者証に記載し、市町村に報告します(同基準第13条を第71条で放課後等デイサービスに準用)。
| 手法 | 利用者の契約と受給者証 |
|---|---|
| 株式譲渡 | 契約の当事者は変わらない。法人名などに変更があれば、重要事項の説明と受給者証の記載を見直す |
| 事業譲渡 | 買い手の事業所と契約を結び直し、重要事項を説明し、受給者証の事業所欄・契約支給量を書き換えて市町村に報告する |
事業譲渡では、利用者が買い手との契約を選ばず、近くの別の事業所に移ることもあります。売り手が廃止を届け出るときには、利用者の引き継ぎ先の状況を報告するよう求める自治体もあります(八尾市など)。保護者への説明は、契約の締結より前に、職員の体制が変わらないことを示しながら行うのが通常です。
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放課後等デイサービスの売り方を決める判定表
自分の事業所の状態に当てはまる行を探してください。
| 事業所の状態 | 向く進め方 | 先にやること |
|---|---|---|
| 総量規制の地域にあり、法人が放課後等デイサービスだけを営む | 株式譲渡で指定を残す | 役員変更の届出の準備と、過去の算定の自己点検 |
| 法人が介護・保育など他の事業も営み、放課後等デイサービスだけを売る | 事業譲渡または会社分割 | 指定権者への事前相談(総量規制の例外に当たるか、指定日はいつか) |
| 児童発達支援管理責任者がオーナー本人か親族 | 後任を確保してから売る。または一定期間残る条件をつける | 後任候補の実務経験と研修の修了状況 |
| 加算の根拠書類が欠けている、運営指導で指摘を受けた | 売る前に自己点検と過誤調整を済ませる | 加算ごとに要件と記録を見比べる |
| 支援プログラムを公表していない | 公表してから売る | 5領域を含めた支援プログラムの作成と公表 |
| 指定の更新が1年以内に来る | 更新を済ませてから売る、または更新の見通しを示す | 更新申請の書類一式 |
| 買い手が異業種で、グループに障害福祉の処分歴がある | 事業譲渡は避け、株式譲渡を検討 | 親会社・役員の欠格事由の確認 |
買い手の側から見るなら、同じ表で「指定が自分の手元に残るか」「人員基準を初日から満たせるか」「過去の給付費の返還をどこまで引き受けるか」を確かめる、という読み方になります。
よくある質問
Q. 株式譲渡なら自治体に何も届け出なくてよいですか。
指定は法人に付いたままなので、新規の指定申請は要りません。ただし、代表者や役員、管理者、児童発達支援管理責任者などが変われば、10日以内に変更の届出が要ります。業務管理体制の届出事項が変わる場合は、その届出も別に要ります。
Q. 事業譲渡で、利用者へのサービスを途切れさせずに引き継げますか。
売り手の廃止日と買い手の指定日を同じ日に合わせれば、途切れずに引き継げます。そのためには、指定権者との事前相談を早めに始め、申請の締切と指定日から逆算して契約とクロージングの日を決めます。
Q. 保育園や介護事業を営む法人が買う場合、何が有利ですか。
保育士は児童指導員または保育士として人員基準に数えられるので、保育の人材を持つ法人は人員を確保しやすくなります。介護事業の法人は、指定・運営指導・加算の管理に慣れている点が強みです。いずれの場合も、児童発達支援管理責任者は別に確保が要ります。
まとめ
放課後等デイサービスのM&Aは、指定を残せるかどうかで手法が決まり、人員と加算の実態で価格が決まる取引です。
株式譲渡なら指定はそのまま続くが、過去の給付費の返還も会社ごと引き継ぐ。事業譲渡は新規指定のやり直しになり、総量規制の地域では指定権者への事前相談が欠かせない。
児童発達支援管理責任者が残るか、加算の根拠書類がそろっているか、支援プログラムを公表しているかを、価格の交渉より先に固めてください。
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ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
参考
- 児童福祉法(第21条の5の3・第21条の5の15・第21条の5の16・第21条の5の20)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000164
- 児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(第7条・第13条・第66条・第69条・第71条)https://laws.e-gov.go.jp/law/424M60000100015
- こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/shisaku/hoshukaitei
- こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(障害児関係)」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/36cf8614-0cc4-4e0b-aa54-308fbae2714a/7aa07e04/20240327_councils_shingikai_shougaiji_shien_36cf8614_02.pdf
- 姫路市「総量規制」https://www.city.himeji.lg.jp/kurashi/0000027460.html
- さいたま市「事業者指定の手続(障害児通所支援・障害児入所支援・障害児相談支援)」https://www.city.saitama.lg.jp/002/003/004/003/007/p018259.html
- 八尾市「【障がい児通所支援】各種変更・廃止手続き等」https://www.city.yao.osaka.jp/sangyou_business/hukushi_kaigo_shougai/1012303/1012323/1012331/1012334.html
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
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