介護事業のM&Aは、他業種と同じ感覚で進めると必ずどこかで止まります。
理由は3つあります。
指定という許認可があること。加算が事業所単位で紐づいていること。
そして、人員基準を割った瞬間に事業が続けられなくなること。
いずれも「引き継げるかどうか」がスキームによって変わります。
この記事では、その3点を中心に整理します。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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業界の前提——収益構造が制度で決まっている
介護保険サービスの売上は、大部分が介護報酬です。
報酬単価は国が定めるため、事業者が値上げで収益を改善することができません。
一方で費用側は動きます。
人件費は上がり続け、採用は難しくなり、物価も上がる。
収入の天井が制度で決まっていて、費用だけが上がるという構造です。
さらに、介護報酬改定のたびにサービス種別ごとの評価が変わります。
ある改定で基本報酬が引き下げられたサービスでは、
小規模事業者から順に経営が厳しくなります。
小規模の事業者にとって、選択肢は事実上3つしかありません。
規模を広げて効率を上げるか、譲渡するか、たたむか。
M&Aが増えているのは、この構造の帰結です。
論点1:指定は引き継げるのか
介護保険サービスを提供するには、都道府県または市町村から事業所ごとの指定を受ける必要があります。
この指定の扱いが、スキームによって変わります。
株式譲渡なら、指定は継続する
法人格が変わらないため、指定はそのままです。
届出は必要ですが、事業が止まることはありません。
事業譲渡・会社分割なら、原則として指定を取り直す
指定は法人に対して与えられているため、事業だけを移すと引き継げません。
買い手側の法人が、その事業所について新たに指定を受ける必要があります。
指定申請には期限があり、多くの自治体で
前月の中旬までに申請して翌月1日付の指定という運用になっています。
書類の不備で1か月ずれると、その間サービスを提供できません。
利用者にとっては、事業所が変わることになります。
契約の巻き直し、重要事項説明書の再交付、ケアマネジャーへの周知が必要です。
ここを段取りせずに日を迎えると、利用者が離れます。
実務での選び方
| 状況 | 現実的な選択 |
|---|---|
| 法人の全事業を譲る | 株式譲渡 |
| 複数事業のうち一部だけ譲る | 会社分割または事業譲渡(指定は取り直し) |
| 社会福祉法人・医療法人が関わる | 法人形態ごとに手続きが異なるため個別検討 |
社会福祉法人や医療法人が当事者になる場合、
株式が存在しないため株式譲渡というスキーム自体が使えません。
合併や事業譲渡、あるいは理事の交代による経営権の移転といった形になります。
論点2:処遇改善加算は引き継げるのか
介護職員の賃金改善に対する加算は、事業所の収益に対して小さくない比重を占めます。
この加算は事業所ごとに、計画書の提出と実績報告を前提に算定されています。
指定を取り直す形の譲渡では、加算の届出も新たに行う必要があります。
ここで問題になるのが、次の2点です。
1. 賃金改善の実績をどう引き継ぐか
加算は「賃金を改善したこと」を要件としています。
経営主体が変わることで賃金体系を変えると、要件を満たさなくなる可能性があります。
2. 職員に支払う原資の連続性
加算の入金と支払いのタイミングがずれると、
譲渡の前後で職員の手取りが変動する場合があります。
職員の手取りが下がるのは、離職に直結します。
譲渡の条件交渉では、価格と同じ重みでここを詰める必要があります。
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論点3:人員基準を割ると事業が止まる
介護サービスには、サービス種別ごとに人員基準が定められています。
訪問介護なら常勤換算2.5人以上、といった形です。
M&Aの過程で職員が辞めると、この基準を割ります。
基準を割れば、指定の取消しや報酬の返還につながりかねません。
つまり介護事業のM&Aは、「人が残るかどうか」がそのまま事業の存続条件になります。
のれん代を払って買っても、職員が全員辞めれば残るのは利用者名簿だけです。
買い手が必ず確認するのは次の点です。
- 管理者・サービス提供責任者・生活相談員など、基準上必須の職種が誰か
- その人が譲渡後も残る意思があるか
- 直近1年の離職率
- 常勤・非常勤の比率と、夜勤やオンコールの担い手の数
- 資格保有者の構成(介護福祉士の比率は加算にも影響する)
買い手が価格を決めるときに見るもの
介護事業の評価では、次の要素が価格に効きます。
1. 稼働率
訪問系なら1人あたりの訪問件数、施設系なら入居率・利用率です。
定員に対して何割埋まっているかが、そのまま収益力になります。
2. 加算の取得状況
特定事業所加算、処遇改善加算、その他のサービス種別ごとの加算。
取れているかどうかで同じ利用者数でも売上が変わります。
3. 利用者の紹介経路
居宅介護支援事業所からの紹介に依存しているか、複数の経路があるか。
併設の居宅介護支援事業所を持っているかは大きな要素です。
4. 実地指導・監査の履歴
返還が生じた履歴、行政処分の有無。これは価格に直接影響します。
5. 不動産
施設系では、建物を所有しているか賃借かで前提が変わります。
賃借の場合、譲渡に伴う賃貸人の承諾が必要です。
売るか、続けるか、たたむか
続けられる条件
- 稼働率が安定していて、必須職種の人員に余裕がある
- 加算を取れる体制がある、または作れる余力がある
- 同一法人内で他事業と人員を融通できる
譲渡を検討すべき条件
- 管理者やサービス提供責任者が1人しかおらず、その人が高齢
- 人員基準ぎりぎりで運営していて、1人の欠員で事業が止まる
- 稼働率が下がり続けていて、回復の手が見えない
廃業を選ぶ場合の注意
介護事業の廃止には、利用者の移行先を確保する責任が伴います。
廃止届の提出だけでは終わりません。
ケアマネジャーや自治体との調整、利用者・家族への説明に時間がかかります。
譲渡なら利用者と職員がそのまま続きますが、廃業ではその調整をすべて自分で行うことになります。
体力が残っているうちに判断するほうが、関係者の負担は小さくなります。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
よくある質問
Q. 小規模な事業所1つでも買い手はつきますか。
つく場合があります。同一エリアで事業を持つ法人にとっては、
利用者と職員を同時に得られるため意味があります。
ただし人員基準を満たす職員が残るかどうかが前提になります。
Q. 利用者への説明はいつ行いますか。
指定の切り替えを伴う場合、契約の巻き直しが必要になるため、
クロージング前に説明の時期を設計します。
ケアマネジャーへの周知も同時に必要です。
Q. 職員の雇用は守られますか。
株式譲渡なら雇用契約はそのまま継続します。
事業譲渡では、職員1人ひとりの同意を得て新法人と契約を結び直します。
同意しない職員は移りません。ここが事業譲渡の実務上の難所です。
Q. 介護事業と医療事業を両方持っている場合はどうなりますか。
医療法人と介護事業では手続きの根拠法が異なります。
どちらを軸にするかでスキームが変わるため、早い段階で専門家を入れてください。
まとめ
介護事業のM&Aには、3つの固有論点があります。
指定は事業譲渡だと取り直しになる。処遇改善加算も届出をやり直す。
そして人員基準を割ると事業が止まる。
いずれも共通しているのは、人が残るかどうかで結論が変わるという点です。
価格の交渉より、必須職種の職員が譲渡後も働き続ける条件を作るほうが、
案件全体では重い意味を持ちます。
人員基準ぎりぎりの状態が続いているなら、それは判断を先送りできる状況ではありません。
選択肢が残っているうちに、譲渡・継続・廃業のどれを取るかを検討してください。
参考
- 介護保険法(指定居宅サービス事業者等の指定、人員・設備・運営基準)
- 厚生労働省「介護報酬改定」
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算」
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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