不動産会社のM&A|宅建業免許・専任の宅建士・管理戸数で決まる、仲介・管理会社の譲り方(判定表つき)

ここで扱うのは、個人が持っている不動産の売却ではありません。宅地建物取引業(宅建業)を営む仲介会社・管理会社そのものを、M&Aで譲る・買う場面です。

不動産会社のM&Aは、許認可の扱いが他の業種より厳しめです。宅建業免許には、飲食店の営業許可や建設業許可のような「譲渡で地位を承継する」規定がありません。会社(法人格)が残る株式譲渡でなければ、免許は続かないと考えて設計します。

この記事では、不動産会社のM&Aで引き継げるもの・引き継げないものを判定表にし、手法ごとの違い、専任の宅建士の要件、管理戸数を軸にした評価の考え方を整理します。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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目次
  1. 不動産会社のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  2. 宅建業免許は株式譲渡でしか続かない
  3. 専任の宅建士が足りなくなると営業できない
  4. 株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割の比較表
  5. 不動産会社の価格は「管理戸数」と「仲介の再現性」で決まる
    1. 計算例:管理会社の株式価値の考え方
  6. 不動産を「持っている」会社の株式譲渡とは別物
  7. 不動産会社を売る前のチェックリスト
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 参考

不動産会社のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は届出・同意などが要る、×は失効するか買い手が取り直す、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡 吸収合併(売り手が消滅)
宅建業免許 ○ 継続。役員が変われば30日以内に変更の届出(第9条) × 買い手が自社で免許を持っていなければ新規取得 × 消滅会社の免許は失効。30日以内に廃業等の届出(第11条第1項第2号)
免許番号の更新回数(「(3)」などの表示) ○ そのまま × 買い手の番号になる × 存続会社の番号になる
営業保証金・保証協会の加入 ○ そのまま × 買い手側で供託または加入 × 存続会社側で対応。消滅会社の分は取戻し手続き
専任の宅建士 △ 退職すれば2週間以内に補充(第31条の3第3項) △ 本人が移籍に同意すれば移る △ 雇用は存続会社へ移る。人数要件は存続会社全体で判定
賃貸管理の委託契約(オーナーとの契約) ○ 原則継続。契約の条項は要確認 △ オーナーごとに同意が必要 ○ 包括承継で移る。解除条項は要確認
賃貸住宅管理業の登録(200戸以上) ○ 継続 × 買い手が登録 × 存続会社が登録していなければ登録が必要
保有不動産 ○ 会社に残る △ 移転登記。不動産取得税・登録免許税がかかる △ 移転登記。合併は不動産取得税が非課税となる場合がある
従業員 ○ そのまま △ 本人の同意が必要(民法第625条) ○ 包括承継で移る

判定表で目立つのは、事業譲渡でも合併でも、売り手の免許そのものは残らないという点です。買い手がすでに宅建業者なら、買い手の免許で営業を続ければよいので実害は小さくなります。問題になるのは、宅建業者でない会社が不動産会社を買う場合です。

宅建業免許は株式譲渡でしか続かない

宅建業法第3条は、宅建業を営もうとする者に国土交通大臣または都道府県知事の免許を求めています。免許は法人に与えられ、法律には譲渡や承継の規定がありません。

  • 株式譲渡では、免許を持つ法人がそのまま残るので免許も続きます。役員・事務所・専任の宅建士など、免許申請書の記載事項(第4条第1項第1号〜第5号)に変更があれば、第9条により30日以内に変更の届出を出します
  • 事業譲渡では、免許は売り手の法人に残り、買い手には移りません。買い手が宅建業者でなければ、新たに免許を取るまで営業できません
  • 合併では、宅建業法第11条第1項第2号により、合併で消滅した法人の代表役員だった者が30日以内に届け出ます。消滅会社の免許は効力を失います

新規に免許を取るには、申請から免許まで一定の期間がかかり、その後に営業保証金を供託するか保証協会に加入してはじめて営業を始められます(第25条)。事業譲渡で「引き渡し日から営業を続ける」は、買い手が免許を持っていないかぎり成り立たないので、宅建業者でない会社が参入目的で買うなら株式譲渡が現実的です。

免許番号の括弧内の数字(更新回数)は、取引先や顧客からの信用の目安として見られることがあります。株式譲渡ならこれも引き継げます。

専任の宅建士が足りなくなると営業できない

宅建業者は、事務所ごとに、業務に従事する者の5人に1人以上の割合で成年者である専任の宅建士を置かなければなりません(宅建業法第31条の3第1項、同法施行規則第15条の5の3)。案内所などには1人以上です。

M&Aで特に影響が大きいのは、同条第3項です。既存の事務所が要件を欠いたときは、2週間以内に要件を満たすよう措置を取らなければなりません。

小規模な仲介会社では、社長自身が宅建士で、専任の宅建士を兼ねていることがよくあります(役員が宅建士なら、自ら主として業務に従事する事務所では専任の宅建士とみなされます。同条第2項)。株式譲渡で社長が退任すると、その日から専任の宅建士が1人減ります。

買い手が確認するのは次の点です。

  • 事務所ごとの従業者数と、専任の宅建士の人数
  • 専任の宅建士のうち、譲渡後も残る人が何人か
  • 社長が専任の宅建士を兼ねていないか。兼ねているなら、退任の時期と後任

「社長が辞めたら宅建士の数が足りない」会社は、社長の退任を急がない条件で交渉するのが現実的です。

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株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割の比較表

項目 株式譲渡 事業譲渡 吸収合併 会社分割
売り手の免許 続く 売り手に残る(買い手には移らない) 失効 分割会社に残る。承継会社には移らない
買い手が宅建業者でない場合 使える 新規免許まで営業不可 存続会社側が免許を持っていれば可 承継会社が免許を取るまで営業不可
管理委託契約 そのまま オーナーごとの同意 包括承継 包括承継(解除条項に注意)
簿外債務のリスク 買い手に残る 契約で切り離せる 存続会社に移る 承継する範囲を定められる
向いている場面 宅建業者でない会社が参入する/会社ごと渡す 買い手も宅建業者で、一部の店舗や管理物件だけを渡す グループ内の再編 仲介部門と管理部門を分けて渡す

会社分割は、仲介と管理の両方を営む会社が、管理部門だけを別の会社に渡すときに検討されます。ただし承継会社には免許が移らないため、承継会社が宅建業者であるか、管理業務の範囲が宅建業に当たらないかを先に確認します。会社分割の手続きは「会社分割の債権者保護手続きと労働契約の承継」で扱っています。

不動産会社の価格は「管理戸数」と「仲介の再現性」で決まる

不動産会社の収益は、大きく2つに分かれます。

1. 賃貸管理の手数料(ストック収益)
オーナーから受け取る管理委託料は、家賃の数%を毎月受け取る形が一般的です。解約されないかぎり毎月入ってくるので、買い手はここを最も高く評価します。評価の起点は管理戸数と、1戸あたりの管理料、オーナーの解約率です。

2. 売買・賃貸の仲介手数料(フロー収益)
取引が成立したときだけ入る収益で、年によって大きくぶれます。社長や特定の営業担当の人脈に依存していることが多く、その人が抜けると再現できません。買い手はここを割り引いて評価します。

計算例:管理会社の株式価値の考え方

管理戸数1,200戸、1戸あたり月額の管理料が2,500円の会社を例に取ります。

項目 金額
管理料収入(1,200戸×2,500円×12か月) 3,600万円
仲介手数料(直近3年平均) 2,400万円
営業利益(役員報酬を適正水準に置き直した後) 1,200万円
時価純資産 4,000万円

管理業務に紐づく営業利益が800万円、仲介に紐づく営業利益が400万円だとします。管理のように継続性の高い利益には長めの年数を、仲介のように人に依存する利益には短めの年数をかけるのが一般的な考え方です。仮に管理分を4年、仲介分を1年とすると、のれん相当額は3,600万円、時価純資産と合わせて7,600万円が一つの試算になります。

この年数は法令や公的な基準で決まっているものではなく、案件ごとの交渉で決まる目安です。オーナーの高齢化で売却・解約が見込まれる物件が多ければ、年数は短くなります。

不動産を「持っている」会社の株式譲渡とは別物

「不動産 M&A」という言葉は、不動産を保有している会社の株式を売る取引の意味でも使われます。ビルや土地を持つ資産管理会社の株式を売れば、不動産の登記を動かさずに実質的な所有者が替わるためです。

この取引は、ここまで扱った宅建業者のM&Aとは論点がまったく違います。

観点 宅建業者(仲介・管理会社)のM&A 不動産保有会社の株式譲渡
買い手が買っているもの 免許・人・管理契約・顧客 不動産そのもの
評価の軸 管理戸数・営業利益 不動産の時価・含み益
主な論点 免許の継続、専任の宅建士 不動産の含み益にかかる法人税の繰延べ、借入金の扱い
宅建業免許 必須 自社物件の賃貸だけなら不要

自社で所有する物件を貸すだけの事業は宅建業に当たらないため、保有会社は宅建業免許を持っていないのが普通です。どちらの取引なのかを最初に取り違えると、確認すべき項目が丸ごと変わります。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

不動産会社を売る前のチェックリスト

  • [ ] 宅建業免許の免許権者(大臣か知事か)と有効期間
  • [ ] 事務所ごとの従業者数と専任の宅建士の人数、社長の兼任の有無
  • [ ] 営業保証金の供託か保証協会の加入か
  • [ ] 管理戸数、オーナー数、上位オーナーへの集中度、直近の解約率
  • [ ] 管理委託契約の解除条項(経営者交代で解除できる条項がないか)
  • [ ] 賃貸住宅管理業の登録の有無(管理戸数200戸以上)
  • [ ] 預り金(敷金・家賃)の分別管理の状況
  • [ ] 仲介収益のうち、社長個人の人脈に依存している割合

預り金の管理が混在している会社は、買い手のデューデリジェンスで最初に問題になります。

よくある質問

Q. 宅建業者ではない会社が、不動産会社を買うことはできますか。
できます。株式譲渡で免許を持つ会社ごと買えば、免許は続きます。事業譲渡では免許が移らないので、買い手が新たに免許を取る必要があります。

Q. 社長が唯一の宅建士です。株式譲渡後すぐに退任できますか。
退任で専任の宅建士が不足すると、2週間以内に補充しなければなりません。後任の宅建士の採用が決まるまでは、役員として残る条件で交渉するのが一般的です。

Q. 管理戸数が少なくても売れますか。
同じエリアで管理を広げたい会社にとっては、戸数が少なくても意味があります。ただし上位のオーナー数人に戸数が偏っていると、そのオーナーの解約で価値が大きく下がるため、評価は保守的になります。

まとめ

不動産会社のM&Aで最初に決めるのは、免許を続けるかどうかです。

宅建業免許には譲渡の承継規定がなく、続くのは株式譲渡だけ。事業譲渡では移らず、合併では消滅会社の免許が失効する。さらに、専任の宅建士が1人抜けるだけで要件を割ることがある。

価格は、毎月入る管理料を生む管理戸数と、人に依存する仲介収益を分けて考えます。売却を考え始めたら、専任の宅建士の人数と管理委託契約の解除条項から確かめてください。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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参考

  • 宅地建物取引業法(第3条・第9条・第11条・第25条・第31条の3)https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
  • 宅地建物取引業法施行規則(第15条の5の3)https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50004000012
  • 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(第3条)https://laws.e-gov.go.jp/law/502AC0000000060
  • 民法(第625条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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