医療のPMIは何が違うのか|統合してはいけないものが3つある

PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に組織を統合していく工程を指す。一般企業では「早く、深く統合するほどよい」とされることが多い。

医療では、それが逆に働く場面がある。

診療所や病院を承継したあと、統合を急ぐほど患者が減り、有資格者が抜けることがある。この記事では、何を統合し、何を統合してはいけないのかを整理する。

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目次
  1. 統合してよいもの/してはいけないもの
  2. なぜ診療に手を入れてはいけないのか
    1. ① 医師の裁量は法的に保護されている
    2. ② 患者は「その医師」に来ている
    3. ③ 人員配置は報酬に直結する
  3. 承継後90日で何をするか
    1. 最初の30日 ── 止めない
    2. 31〜60日 ── 見える化する
    3. 61〜90日 ── バックオフィスから統合する
  4. 前院長の残留をどう設計するか
  5. スタッフが辞める瞬間
  6. よくある質問
    1. PMIはいつから始めますか。
    2. 電子カルテはいつ統合すべきですか。
    3. 就業規則の統一は必要ですか。
    4. 承継後、患者が減りました。
  7. まとめ
  8. 出典

統合してよいもの/してはいけないもの

領域 扱い
会計・給与・購買 🟢 統合する。効果が出やすく、抵抗も小さい
システム(電子カルテ・レセコン) 🟡 時期を選ぶ。切替は業務が止まる
就業規則・評価制度 🟡 段階的に。不利益変更に注意
診療の方針・裁量 🔴 統合しない。医師の判断に属する
患者との関係 🔴 統合しない。担当医の継続が最優先
有資格者の配置基準 🔴 崩さない。人員基準・施設基準に直結

一般企業のPMIとの最大の違いはここにある。医療では「現場に任せたままにする」ことが正解の領域が存在する。

なぜ診療に手を入れてはいけないのか

① 医師の裁量は法的に保護されている

診療内容の判断は医師が行う。経営側が診療方針を指示することは、医師法上の位置づけと整合しない。

「検査を減らせ」「この薬に統一しろ」といった介入は、医療安全の面でも問題になりうる。

② 患者は「その医師」に来ている

診療所ほど、患者は担当医との関係で通院している。医師が変わると通院をやめる患者が出る。

承継直後に医師を入れ替えると、患者数の減少が価格の前提を壊す。 前院長が一定期間残る条件が付くのはこのためである。

③ 人員配置は報酬に直結する

医科・歯科・介護のいずれも、人員基準や施設基準が報酬の算定要件になっている。効率化のつもりで人員を減らすと、加算が取れなくなり、削減額を上回る減収になることがある。

「まず人件費から」という一般的なPMIの定石が、医療では逆効果になりうる。

承継後90日で何をするか

最初の30日 ── 止めない

この期間の目標は「何も壊さないこと」である。

  • 診療は従前どおり継続する
  • スタッフへの説明を終える(役割・雇用条件・変わらない点を明示)
  • 取引先(医薬品卸、リース、検査委託)へ承継の連絡
  • 行政手続きの完了確認(開設者変更、保険医療機関の指定など)

🔴 システムの切替はこの期間にやらない。 電子カルテやレセコンの入れ替えは、業務が止まるリスクが最も高い。

31〜60日 ── 見える化する

数字とルールを把握する段階。

  • 患者数・レセプト件数の推移を、承継前と比べて見る
  • 加算の算定状況を確認する(届出内容と実態が合っているか)
  • 人員配置が基準を満たしているかを再確認
  • 就業規則・給与規程の差分を洗い出す

この段階で「減っているもの」を早く見つける。 患者数の減少は、気づくのが遅れるほど戻しにくい。

61〜90日 ── バックオフィスから統合する

抵抗が小さく効果が出る順に着手する。

  1. 会計・給与計算の統合
  2. 購買・在庫の共通化(医薬品・材料)
  3. 労務手続きの一本化

就業規則の統一は急がない。 労働条件の不利益変更は労働契約法の制約を受ける。時間をかけて合意を作る。

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前院長の残留をどう設計するか

医療のPMIで最も効くのが、前院長が残る期間と役割である。

期間 役割の例
3か月 引き継ぎ中心。患者への紹介
6か月〜1年 診療を継続しながら段階的に移行
1年超 顧問・非常勤として関与

決めておくこと。

  • 診療日数と時間(週何日、どの時間帯か)
  • 報酬の形(給与か、業務委託か)
  • 診療方針の決定権をどちらが持つか
  • 患者への説明の仕方と時期

🔴 「なんとなく残ってもらう」が最も揉める。 決定権の所在を書面にしておかないと、承継後に方針が二重になる。

スタッフが辞める瞬間

医療機関の承継で最も損失が大きいのは、看護師・医療事務・歯科衛生士の離職である。技術と患者との関係の両方を持っているためで、採り直しても短期間では戻らない。

離職が起きやすいタイミングは3つ。

  1. 承継が公表された直後(不確実性への不安)
  2. 給与・勤務条件が変わったとき
  3. やり方を急に変えられたとき

対策は難しいことではない。変わらない点を先に明示することである。「雇用条件は当面変えない」「勤務シフトは従来どおり」と具体的に伝えるだけで、離職はかなり抑えられる。

よくある質問

PMIはいつから始めますか。

契約の成立後ではなく、交渉の段階から設計を始めます。前院長の残留期間や職員への説明時期は、契約条件そのものに含まれるためです。

電子カルテはいつ統合すべきですか。

承継直後は避けます。切替期間は入力が滞り、レセプト業務にも影響します。患者数と業務が安定してから、閑散期に合わせて計画するのが一般的です。

就業規則の統一は必要ですか。

長期的には必要ですが、急ぐ必要はありません。労働条件の不利益変更には労働契約法上の制約があるため、合意形成に時間をかけます。

承継後、患者が減りました。

まず減少の内訳を見ます。特定の曜日・時間帯・診療内容に偏っているなら運用の問題、全体に均等なら医師の交代が要因である可能性が高くなります。原因により打ち手が変わります。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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まとめ

医療のPMIが一般企業と違うのは、統合してはいけない領域が3つあることである。

  1. 診療の方針・裁量 … 医師の判断に属する
  2. 患者との関係 … 担当医の継続が最優先
  3. 有資格者の配置 … 人員基準・施設基準が報酬に直結する

進め方は、最初の30日は止めないこと、31〜60日で減っているものを見つけること、61〜90日でバックオフィスから統合すること。

そして最大の変数は前院長の残留設計と、職員の離職である。「変わらない点を先に明示する」だけで、失う部分はかなり減らせる。

出典

  • 医師法
  • 医療法
  • 労働契約法
  • 健康保険法

※ 本記事は2026年9月時点の情報にもとづきます。行政手続き・施設基準の取扱いは自治体および地方厚生局により異なります。

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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