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のれんとは
M&Aにおける「のれん」とは、企業を買収する際に支払う対価が、その企業の純資産(帳簿上の資産から負債を差し引いた金額)を超えた部分のことだ。
たとえば、純資産が1億円の会社を3億円で買収したとする。このとき、差額の2億円が「のれん」として計上される。
のれん = 買収価格 − 純資産(時価)
飲食店でいう「暖簾(のれん)」と同じ語源で、長年の商売で培ったブランド・顧客・技術・人材などの「目に見えない価値」を意味する。英語では「Goodwill(グッドウィル)」と呼ばれる。M&Aの実務で「のれん代」と呼ばれるのも、この超過収益力に対して支払う対価のことを指す。
中小企業M&Aにおけるのれんの相場(年買法)
中小企業の実務では、企業価値を「時価純資産 + 営業利益の3〜5年分」で算出する「年買法(時価純資産法)」が最もよく使われる。この場合、「営業利益の3〜5年分」にあたる部分が、そのままのれんの評価額となる。利益が安定している企業ほど、こののれん部分が厚く評価される。
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なぜのれんが発生するのか
買い手がなぜ純資産を上回る価格を払うのか。それは、企業の価値が「帳簿上の資産」だけで決まらないからだ。
無形の資産が帳簿に載っていない
中小企業の価値のうち、帳簿に計上されていない無形の資産は多い。
これらは「貸借対照表には載らないが、事業の収益を生み出す源泉」だ。買い手はこの無形の価値を含めて対価を支払うため、純資産を上回る買収価格になる。
将来の収益期待
のれんは「過去の資産」への対価だけでなく、「将来の収益期待」への先払いでもある。買い手は「この会社を買うことで、今後○年間でこれだけのキャッシュフローが得られる」という期待値を計算した上で買収価格を決める。
EBITDAの倍率(EV/EBITDA倍率)で算定する場合、業界ごとの相場倍率をもとに「この会社の利益の○倍を払う」という形になる。純資産よりEBITDA倍率に基づく価格のほうが高くなることが多く、その差がのれんになる。
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売り手にとってのれんが重要な理由
売り手の立場から見ると、のれんは「自分の会社がどれだけ高く評価されるか」に直結する概念だ。
純資産が少なくても高く売れる
設備や不動産を多く持つ製造業は純資産が大きくなりやすいが、サービス業・IT業・知識集約型の会社は有形資産が少ない分、純資産は小さい。
しかし、のれんが大きければ純資産が小さくても高い買収価格がつく。顧客基盤・リピート率・特定分野での専門性が評価される業種では「純資産は少ないが、のれんが大きい」という形で高額買収が成立するケースは多い。
自分の「見えない価値」を交渉材料にできる
「のれん」の概念を理解しておくと、売却交渉の場で自社の強みを正確に説明できる。
「我が社の純資産は○億円だが、30年かけて築いた○○業界での仕入れルートと○千社の顧客リストがある。この無形の価値を含めた評価をしてほしい」という交渉が可能になる。
これを言語化できない売り手は、純資産ベースの低い評価で終わってしまうリスクがある。
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のれん償却とは——のれんの会計処理と買い手にとってのリスク
売り手の立場ではあまり関係しないが、「買い手がのれんをどう扱うか(=のれん償却)」を知っておくと、交渉で相手の立場を理解しやすくなる。のれん償却とは、計上したのれんを一定期間にわたり費用として配分する会計処理のことだ。
日本基準:のれんは20年以内に償却
日本の会計基準(J-GAAP)では、のれんは取得後20年以内に規則的に償却する義務がある。たとえば2億円ののれんを10年で償却すれば、毎年2,000万円が費用として計上される。これが買い手の利益を圧迫する。
IFRS(国際財務報告基準):償却しないが減損テストが必要
上場企業の多くが採用するIFRSでは、のれんは定期償却せず、「減損テスト」を毎年行う。買収後に期待した収益が得られない場合、一括で大きな損失(のれんの減損)が発生するリスクがある。
この「のれんの減損リスク」を買い手は気にするため、買収後の事業計画の実現可能性が交渉での重要な論点になる。「この収益は買収後も継続できるか」を説得力を持って説明できる売り手は、より高い評価を引き出しやすい。
負ののれんとは
「負ののれん」とは、買収価格が純資産を下回った場合に発生する、通常とは逆ののれんのことだ。純資産1億円の会社を8,000万円で買収すれば、差額の2,000万円が負ののれんになる。業績不振・簿外債務の懸念・早期売却の事情などで純資産割れの価格がつくケースで生じ、日本基準では発生した期に一括して「利益」として計上される。売り手にとっては「純資産を下回る評価しかつかない状態」を意味するため、負ののれんが出る前に企業価値を整えることが重要だ。
【実務上の注意】事業譲渡における「営業権」と消費税リスク
M&Aスキームとして「株式譲渡」ではなく、特定の事業のみを売却する「事業譲渡」を用いた場合、のれんは税務上「営業権(資産調整勘定)」という名称で扱われる。ここで売り手が絶対に知っておくべきなのが、営業権(のれん)には消費税が課税されるという点だ。
株式の売買は非課税だが、事業譲渡におけるのれんは「無形固定資産の譲渡」とみなされる。たとえばのれん代が1億円と評価された場合、売り手は別途1,000万円の消費税を買い手から預かり、納税しなければならない。一方で買い手側は、この営業権を税務上5年間で定額償却できるため、大きな法人税の節税効果を得られる。このように、スキームによってのれんの扱いが「会計上の概念」から「税務上のリアルな資産」へと変わる点は、交渉において極めて重要なポイントとなる。
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のれんを高める:自社の無形資産を可視化する
M&Aで高い評価を得たい経営者がやるべきことは、「自社ののれんを可視化すること」だ。
可視化の具体的な方法
顧客の質と継続性: 顧客リストの件数だけでなく、リピート率・解約率・顧客あたりの年間売上を数値化する。「この顧客基盤はM&A後も継続する」という根拠を示す。
属人化の排除: 「社長一人がいなくなったら事業が回らない」という状態はのれんを下げる。マニュアル化・組織体制の整備・幹部への権限委譲を進めることで「会社としての価値」を高める。
ブランドや許認可の整理: 業界特有の許認可・特許・独占契約・フランチャイズ権などを整理し、その価値を言語化する。
収益の安定性: 長期契約・サブスクリプション収益・繰り返し発生する受注の割合を高めると、「将来の収益予測が立てやすい」として評価が高まる。
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のれんと企業価値評価の計算例
具体的な数字で見てみよう。
ある地方のクリニック(医療法人)のケースを例にする。
EBITDAベースの企業価値 = 3,000万円 × 6倍 = 1億8,000万円
のれん = 1億8,000万円 − 5,000万円 = 1億3,000万円
この場合、純資産の約2.6倍の価格がつき、そのほとんどがのれん(無形価値)として評価されている。
同じ純資産でも、EBITDAが高いクリニック(収益性が高い)ほどのれんが大きくなり、最終的な売却価格が上がる。「利益率を上げることが売却価格を上げる」という直接的な連動関係がここにある。
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まとめ
のれんは「帳簿に載らない会社の価値」を買い手が認めて支払う対価だ。売り手の立場では、のれんの概念を理解することで「なぜ自社がこの価格で評価されるのか(あるいは評価されていないのか)」を判断できるようになる。
自社の無形資産——顧客基盤・ブランド・技術・人材・収益の継続性——を具体的な言葉と数字で説明できる経営者は、交渉で主導権を持てる。売却を考え始めたら、まず「自社のどこがのれんになるか」を棚卸しすることから始めてほしい。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
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