病院経営はいま何が起きているか|半数が指定から30年、53%が99床以下

病院経営を語るとき、大学病院や数百床の急性期病院が思い浮かびがちです。しかし実際の日本の病院は、その大半が100床未満の中小病院です。そして、その多くが開設から30年以上を経過しています。

この記事では、公的データから日本の病院がどういう構造になっているかを確認し、経営が行き詰まる前に取れる手が何かを整理します。診療所とは違う、病院特有の事情を扱います。

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目次
  1. 病院の53%は99床以下
  2. 病院の52.9%が、指定から30年以上
  3. なぜ100床未満の病院は経営が難しいのか
  4. 経営が厳しくなったときの4つの選択肢
    1. ① 機能を転換する ── 病床は残せるが、いまの機能では採算が合わない場合
    2. ② 他の医療法人と統合する ── 単独では規模の不利を解消できない場合
    3. ③ 第三者に承継する ── 後継者がいないが、地域で必要とされている場合
    4. ④ 縮小・閉院する ── 地域の需要そのものが縮小している場合
    5. 判断の前に確認すること
  5. 何から手を付けるか
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 参考

病院の53%は99床以下

厚生労働省 関東信越厚生局が公開している「保険医療機関・保険薬局の指定状況(コード内容別一覧表)」から、関東信越10都県の現存する病院2,259件(地域医療支援病院・特定機能病院を含む)を集計しました。

病床規模 件数 割合
〜99床 1,202件 53.2%
100〜199床 517件 22.9%
200〜399床 358件 15.8%
400床以上 182件 8.1%

半数以上が99床以下です。400床以上は8.1%しかありません。

開設者の内訳も、一般のイメージとは違います。

開設者 件数 割合
医療法人 1,613件 71.4%
公的・自治体 356件 15.8%
公益法人等 161件 7.1%
その他・個人 78件 3.5%
大学 43件 1.9%

7割が医療法人、つまり民間病院です。自治体病院や大学病院は少数派で、日本の病院医療の主力は中小の民間病院が担っています。

常勤医師数は中央値8人。3人以下の病院が376件(16.6%)あります。100床未満で常勤医が数人という体制が、日本の病院の標準的な姿です。

病院の52.9%が、指定から30年以上

より深刻なのは経過年数です。同じデータで、保険医療機関の指定からの年数を出しました。診療所と並べると差が際立ちます。

経過年数 病院 診療所
〜9年 12.0% 38.0%
10〜19年 16.2% 26.3%
20〜29年 19.0% 22.7%
30〜39年 13.4% 10.0%
40年以上 39.5% 2.9%
30年以上の合計 52.9% 12.9%

病院の39.5%が指定から40年以上を経過しています。診療所は2.9%です。桁が違います。

さらに、医療法人が開設する病院1,613件のうち、49.5%(798件)が指定から30年以上です。民間病院のおよそ半数が、開設から30年を超えた状態で運営されています。

これが意味するのは2つです。

① 建物と設備が更新期に入っている。30年を超えた建物は、耐震・空調・電気容量のいずれかで大規模改修が必要になります。診療報酬の水準では、この資金を自己資金だけで賄うのが難しい病院が多くあります。

② 経営者が交代期に入っている。40歳前後で開設したとすれば、40年後には80歳前後です。医療法人の理事長が交代せずに続いているケースでは、後継者の問題が同時に来ます。

なぜ100床未満の病院は経営が難しいのか

構造的な理由が3つあります。

固定費の比率が高い。病床が少なくても、当直体制・給食・医療安全管理・院内感染対策は必要です。100床でも400床でも同じ体制が要る部分があり、病床あたりの固定費は小規模ほど重くなります。

医師の確保が難しい。常勤医3人以下の病院が16.6%あります。この規模では、1人が辞めた時点で当直が回らなくなります。医師の紹介に頼れば紹介料がかかり、非常勤で埋めれば単価が上がります。

診療報酬の加算が取りにくい。施設基準の多くは人員配置を要件にしています。医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などを揃えられない規模では、算定できる加算が限られます。同じ医療を提供しても、収入が低くなる構造です。

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経営が厳しくなったときの4つの選択肢

どれが優れているという順位はありません。病院の状態と、地域での役割で決まります。

① 機能を転換する ── 病床は残せるが、いまの機能では採算が合わない場合

急性期から地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病床への転換です。

条件は、転換後の需要が地域にあること。高齢化が進んだ地域では、急性期より回復期・慢性期の需要が高いことが多くあります。地域医療構想の調整会議で、地域の病床機能の過不足を確認できます。

転換には施設基準の届出と、人員配置の組み替えが必要です。改修を伴う場合は数千万円規模になります。

② 他の医療法人と統合する ── 単独では規模の不利を解消できない場合

近隣の医療法人と合併する、あるいはグループに入る形です。

条件は、機能が補完関係にあること。同じ機能の病院同士が統合しても、単に病床が増えるだけです。急性期と回復期、あるいは病院と介護施設のように、患者の流れが繋がる組み合わせで効果が出ます。

購買・人事・システムの共通化でコストが下がり、医師の相互派遣で当直体制が安定します。

③ 第三者に承継する ── 後継者がいないが、地域で必要とされている場合

医療法人ごと、あるいは病院単体を引き継ぐ形です。買い手は他の医療法人、医療系の事業会社などです。

成立する条件は次のとおりです。

引き継ぎやすい 引き継ぎにくい
立地(人口動態が支える地域) 特定の医師にしか行えない診療
病床(許可病床は新規取得が困難) 大規模改修が直前に迫っている建物
継続勤務する医師・看護師 未整理の借入・係争
施設基準の届出実績

許可病床は新規に取得するのが難しいため、それ自体が価値になります。「建物は古いが病床がある」病院に買い手が付くのは、この理由です。

④ 縮小・閉院する ── 地域の需要そのものが縮小している場合

次のいずれかなら、規模を縮小するか閉じる判断が必要です。

  • 商圏の人口が減少を続け、回復の見込みがない
  • 建物の更新に必要な資金を、将来の収益で回収できない
  • 医師の確保が構造的に不可能(地理的条件など)

閉院は失敗ではありません。ただし入院患者の転院先確保、職員の再就職、カルテの保存義務など、準備に1年以上かかります。資金が尽きてからでは、これらを整えられません。

判断の前に確認すること

まだ動かなくてよい病院もあります。次の条件が揃っているなら、いま構造を変える必要はありません。

  • 建物の更新が10年以上先で、修繕積立の目処が立っている
  • 常勤医が5人以上で、当直体制に余裕がある
  • 商圏人口が横ばい以上

何から手を付けるか

順序があります。

  1. 建物の更新時期と必要額を出す。これが最も大きな支出で、他の判断の前提になります
  2. 常勤医の年齢構成を確認する。5年後に何人残るかで、維持できる機能が決まります
  3. 地域医療構想の病床機能報告を見る。自院と同じ機能の病床が地域で過剰か不足かが分かります
  4. その上で、転換・統合・承継・縮小のどれかを選ぶ

1と2を出さずに相談しても、話は前に進みません。逆に、この2つが揃っていれば選択肢は具体的に絞れます。

よくある質問

Q. 赤字ですが、承継の相手は見つかりますか。

赤字の理由によります。建物の減価償却や、一時的な医師の欠員による赤字なら、体制を整えれば改善する見込みとして評価されます。一方、商圏人口の減少による患者数の構造的な減少は、承継後も続きます。

Q. 病床を減らしてから承継したほうがよいですか。

多くの場合、減らさないほうが有利です。許可病床は新規取得が難しく、それ自体が価値になります。稼働率が低いなら、病床を減らすより機能転換を検討してください。

Q. 職員の雇用は守られますか。

第三者承継では、雇用の継続が条件に入ることが一般的です。医師・看護師が残ることは、承継する側にとって最大の価値だからです。逆に、承継のタイミングで大量に辞める前提だと、引き継げる資産が減ります。

Q. 医療法人ごと引き継ぐと、借入も移りますか。

移ります。法人を引き継ぐということは、資産も負債も一括で引き継ぐということです。事業譲渡なら引き継ぐ範囲を選べますが、その場合は病床の承継に別途手続きが必要になります。

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まとめ

  • 病院の53.2%は99床以下。400床以上は8.1%しかない
  • 開設者の71.4%が医療法人。日本の病院医療の主力は中小の民間病院
  • 病院の52.9%が指定から30年以上、39.5%が40年以上(診療所は2.9%)。建物と経営者が同時に更新期に入っている
  • 常勤医師数は中央値8人、3人以下が16.6%。1人抜けると当直が回らない規模
  • 選択肢は機能転換・統合・第三者承継・縮小の4つ。地域の需要と建物の更新時期で決まる
  • 許可病床は新規取得が難しく、それ自体が価値。稼働率が低くても安易に減らさない
  • 動く前に「建物の更新時期と必要額」「常勤医の年齢構成」の2つを出す

参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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