病院経営を語るとき、大学病院や数百床の急性期病院が思い浮かびがちです。しかし実際の日本の病院は、その大半が100床未満の中小病院です。そして、その多くが開設から30年以上を経過しています。
この記事では、公的データから日本の病院がどういう構造になっているかを確認し、経営が行き詰まる前に取れる手が何かを整理します。診療所とは違う、病院特有の事情を扱います。
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病院の53%は99床以下
厚生労働省 関東信越厚生局が公開している「保険医療機関・保険薬局の指定状況(コード内容別一覧表)」から、関東信越10都県の現存する病院2,259件(地域医療支援病院・特定機能病院を含む)を集計しました。
| 病床規模 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 〜99床 | 1,202件 | 53.2% |
| 100〜199床 | 517件 | 22.9% |
| 200〜399床 | 358件 | 15.8% |
| 400床以上 | 182件 | 8.1% |
半数以上が99床以下です。400床以上は8.1%しかありません。
開設者の内訳も、一般のイメージとは違います。
| 開設者 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 医療法人 | 1,613件 | 71.4% |
| 公的・自治体 | 356件 | 15.8% |
| 公益法人等 | 161件 | 7.1% |
| その他・個人 | 78件 | 3.5% |
| 大学 | 43件 | 1.9% |
7割が医療法人、つまり民間病院です。自治体病院や大学病院は少数派で、日本の病院医療の主力は中小の民間病院が担っています。
常勤医師数は中央値8人。3人以下の病院が376件(16.6%)あります。100床未満で常勤医が数人という体制が、日本の病院の標準的な姿です。
病院の52.9%が、指定から30年以上
より深刻なのは経過年数です。同じデータで、保険医療機関の指定からの年数を出しました。診療所と並べると差が際立ちます。
| 経過年数 | 病院 | 診療所 |
|---|---|---|
| 〜9年 | 12.0% | 38.0% |
| 10〜19年 | 16.2% | 26.3% |
| 20〜29年 | 19.0% | 22.7% |
| 30〜39年 | 13.4% | 10.0% |
| 40年以上 | 39.5% | 2.9% |
| 30年以上の合計 | 52.9% | 12.9% |
病院の39.5%が指定から40年以上を経過しています。診療所は2.9%です。桁が違います。
さらに、医療法人が開設する病院1,613件のうち、49.5%(798件)が指定から30年以上です。民間病院のおよそ半数が、開設から30年を超えた状態で運営されています。
これが意味するのは2つです。
① 建物と設備が更新期に入っている。30年を超えた建物は、耐震・空調・電気容量のいずれかで大規模改修が必要になります。診療報酬の水準では、この資金を自己資金だけで賄うのが難しい病院が多くあります。
② 経営者が交代期に入っている。40歳前後で開設したとすれば、40年後には80歳前後です。医療法人の理事長が交代せずに続いているケースでは、後継者の問題が同時に来ます。
なぜ100床未満の病院は経営が難しいのか
構造的な理由が3つあります。
固定費の比率が高い。病床が少なくても、当直体制・給食・医療安全管理・院内感染対策は必要です。100床でも400床でも同じ体制が要る部分があり、病床あたりの固定費は小規模ほど重くなります。
医師の確保が難しい。常勤医3人以下の病院が16.6%あります。この規模では、1人が辞めた時点で当直が回らなくなります。医師の紹介に頼れば紹介料がかかり、非常勤で埋めれば単価が上がります。
診療報酬の加算が取りにくい。施設基準の多くは人員配置を要件にしています。医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などを揃えられない規模では、算定できる加算が限られます。同じ医療を提供しても、収入が低くなる構造です。
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経営が厳しくなったときの4つの選択肢
どれが優れているという順位はありません。病院の状態と、地域での役割で決まります。
① 機能を転換する ── 病床は残せるが、いまの機能では採算が合わない場合
急性期から地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、療養病床への転換です。
条件は、転換後の需要が地域にあること。高齢化が進んだ地域では、急性期より回復期・慢性期の需要が高いことが多くあります。地域医療構想の調整会議で、地域の病床機能の過不足を確認できます。
転換には施設基準の届出と、人員配置の組み替えが必要です。改修を伴う場合は数千万円規模になります。
② 他の医療法人と統合する ── 単独では規模の不利を解消できない場合
近隣の医療法人と合併する、あるいはグループに入る形です。
条件は、機能が補完関係にあること。同じ機能の病院同士が統合しても、単に病床が増えるだけです。急性期と回復期、あるいは病院と介護施設のように、患者の流れが繋がる組み合わせで効果が出ます。
購買・人事・システムの共通化でコストが下がり、医師の相互派遣で当直体制が安定します。
③ 第三者に承継する ── 後継者がいないが、地域で必要とされている場合
医療法人ごと、あるいは病院単体を引き継ぐ形です。買い手は他の医療法人、医療系の事業会社などです。
成立する条件は次のとおりです。
| 引き継ぎやすい | 引き継ぎにくい |
|---|---|
| 立地(人口動態が支える地域) | 特定の医師にしか行えない診療 |
| 病床(許可病床は新規取得が困難) | 大規模改修が直前に迫っている建物 |
| 継続勤務する医師・看護師 | 未整理の借入・係争 |
| 施設基準の届出実績 |
許可病床は新規に取得するのが難しいため、それ自体が価値になります。「建物は古いが病床がある」病院に買い手が付くのは、この理由です。
④ 縮小・閉院する ── 地域の需要そのものが縮小している場合
次のいずれかなら、規模を縮小するか閉じる判断が必要です。
- 商圏の人口が減少を続け、回復の見込みがない
- 建物の更新に必要な資金を、将来の収益で回収できない
- 医師の確保が構造的に不可能(地理的条件など)
閉院は失敗ではありません。ただし入院患者の転院先確保、職員の再就職、カルテの保存義務など、準備に1年以上かかります。資金が尽きてからでは、これらを整えられません。
判断の前に確認すること
まだ動かなくてよい病院もあります。次の条件が揃っているなら、いま構造を変える必要はありません。
- 建物の更新が10年以上先で、修繕積立の目処が立っている
- 常勤医が5人以上で、当直体制に余裕がある
- 商圏人口が横ばい以上
何から手を付けるか
順序があります。
- 建物の更新時期と必要額を出す。これが最も大きな支出で、他の判断の前提になります
- 常勤医の年齢構成を確認する。5年後に何人残るかで、維持できる機能が決まります
- 地域医療構想の病床機能報告を見る。自院と同じ機能の病床が地域で過剰か不足かが分かります
- その上で、転換・統合・承継・縮小のどれかを選ぶ
1と2を出さずに相談しても、話は前に進みません。逆に、この2つが揃っていれば選択肢は具体的に絞れます。
よくある質問
Q. 赤字ですが、承継の相手は見つかりますか。
赤字の理由によります。建物の減価償却や、一時的な医師の欠員による赤字なら、体制を整えれば改善する見込みとして評価されます。一方、商圏人口の減少による患者数の構造的な減少は、承継後も続きます。
Q. 病床を減らしてから承継したほうがよいですか。
多くの場合、減らさないほうが有利です。許可病床は新規取得が難しく、それ自体が価値になります。稼働率が低いなら、病床を減らすより機能転換を検討してください。
Q. 職員の雇用は守られますか。
第三者承継では、雇用の継続が条件に入ることが一般的です。医師・看護師が残ることは、承継する側にとって最大の価値だからです。逆に、承継のタイミングで大量に辞める前提だと、引き継げる資産が減ります。
Q. 医療法人ごと引き継ぐと、借入も移りますか。
移ります。法人を引き継ぐということは、資産も負債も一括で引き継ぐということです。事業譲渡なら引き継ぐ範囲を選べますが、その場合は病床の承継に別途手続きが必要になります。
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まとめ
- 病院の53.2%は99床以下。400床以上は8.1%しかない
- 開設者の71.4%が医療法人。日本の病院医療の主力は中小の民間病院
- 病院の52.9%が指定から30年以上、39.5%が40年以上(診療所は2.9%)。建物と経営者が同時に更新期に入っている
- 常勤医師数は中央値8人、3人以下が16.6%。1人抜けると当直が回らない規模
- 選択肢は機能転換・統合・第三者承継・縮小の4つ。地域の需要と建物の更新時期で決まる
- 許可病床は新規取得が難しく、それ自体が価値。稼働率が低くても安易に減らさない
- 動く前に「建物の更新時期と必要額」「常勤医の年齢構成」の2つを出す
参考
- 厚生労働省 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定状況(コード内容別一覧表)」(本記事の病院2,259件の集計はこの公開データによる)
- 厚生労働省「地域医療構想」
- 厚生労働省「医療施設調査」
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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