「うちの純資産は1億円あるから、1億円では売れるだろう」
——決算書の数字をそのまま売却価格の目安にしている経営者は少なくありません。
しかし買い手は、その1億円をそのままでは見ていません。
簿価と時価の差を洗い出したうえで、
「実際にはいくらの資産があるのか」を組み直してから価格を検討します。
この記事では、簿価と時価の違いを整理し、
簿価をそのまま使ってよい場面と、使うと判断を誤る場面を分けて示します。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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簿価とは、帳簿に記録されている金額のこと
簿価(ぼか)とは、資産や負債が会計帳簿に計上されている金額です。
「帳簿価額」の略で、取得したときの金額を基礎に、
減価償却などの調整を加えた値が載っています。
時価は、いま売買するとしたらいくらになるか、という金額です。
| 簿価 | 時価 | |
|---|---|---|
| 何を表すか | 帳簿に載っている金額 | 現時点で売買される金額 |
| 基礎になる考え方 | 取得原価 | 市場での評価 |
| いつ変わるか | 償却や評価替えのタイミング | 常に変動する |
| 確認方法 | 決算書を見れば分かる | 個別に調べる必要がある |
両者が一致することはむしろ稀です。
そして、ずれの向きは資産の種類によって決まっています。
簿価と時価がずれる典型的な5項目
1. 土地
最もずれが大きい項目です。
土地は減価償却をしないため、取得したときの金額がそのまま残り続けます。
バブル期に取得した土地なら時価は簿価を大きく下回り、
逆に数十年前から保有している都市部の土地なら時価が簿価を上回ることがあります。
2. 建物・機械
減価償却が進んで簿価がほぼゼロになっていても、まだ現役で稼働している設備があります。
この場合、時価は簿価を上回ります。
逆に、稼働していない設備が簿価で残っていれば、時価はゼロに近づきます。
3. 売掛金
回収の見込みが薄い債権が簿価のまま残っていることがあります。
買い手は滞留期間を確認し、回収可能性の低いものを差し引きます。
4. 棚卸資産
長期間動いていない在庫は、簿価で計上されていても実際には売れません。
滞留在庫は評価減の対象になります。
5. 保険積立金
役員保険などの解約返戻金が簿価と異なることがあります。
解約時に受け取れる金額が時価に近い評価になります。
負債側にも同じことが起きます。
退職給付の引当が不足している、未払残業代が計上されていない、
簿外の保証債務がある——といった項目は、
帳簿を見ただけでは分からず、デューデリジェンスで洗い出される部分です。
企業価値評価で「簿価純資産法」が使われる場面
中小企業のM&Aでよく用いられる評価方法を並べると、位置づけがはっきりします。
| 方法 | 計算の考え方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 簿価純資産法 | 決算書の純資産額をそのまま使う | 計算が最も簡単。ずれが大きい |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価に評価替えして純資産を出す | 実態に近い。調査の手間がかかる |
| 年買法(年倍法) | 時価純資産 + 営業利益 × 数年分 | 中小企業の実務で広く使われる |
| DCF法 | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く | 理論的だが将来予測の前提に左右される |
| マルチプル法 | EBITDA など指標に倍率を掛ける | 類似企業との比較。上場企業の情報が必要 |
簿価純資産法を使ってよいのは、次の条件が揃うときだけです。
- 土地・建物などの固定資産をほとんど持っていない
- 設立から日が浅く、簿価と時価が大きくずれていない
- 概算のあたりを付けるための第一歩として使う
逆に、簿価純資産法で判断してはいけない場面は次のとおりです。
- 不動産を保有している — ずれが最も大きい項目を無視することになる
- 設備投資の多い業種である — 償却済みだが稼働中の設備の価値が反映されない
- 交渉のテーブルに数字を出す段階 — 買い手は時価で見るため、話が噛み合わない
- 株式の贈与・相続を検討している — 税務上の株価評価は別の考え方によります
そもそも簿価も時価も見る必要がない場合
会社を売る意思がなく、承継の予定もなく、
金融機関から評価を求められてもいないなら、
いま自社の株価を計算する必要はありません。
企業価値の算定は、目的(売却・承継・資本政策・税務)が決まって初めて
使うべき方法が決まります。目的が無いまま数字だけ出しても、判断には使えません。
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売り手が事前にやっておくと効くこと
簿価と時価のずれは、買い手がどのみち調べます。
先に自分で把握しておくと、交渉の主導権が変わります。
- 土地・建物の時価を把握する — 固定資産税評価額や路線価から概算を出しておく
- 売掛金の滞留を整理する — 回収不能なものは処理しておく
- 在庫の棚卸を実態に合わせる — 動いていない在庫を洗い出す
- 簿外の負債を洗い出す — 未払残業、退職金、保証債務
- 事業に使っていない資産を分ける — 社長個人の車、投資用不動産など
5番目は特に効きます。
事業と無関係な資産が会社に載っていると、
買い手はその分の価格を払いたくないため、
引き算の交渉から始まることになります。
先に切り離しておけば、事業そのものの価値で話が進みます。
よくある質問
Q. 簿価純資産がマイナス(債務超過)だと売れませんか。
売れないとは限りません。
時価に直すとプラスになるケース(土地の含み益がある、など)や、
収益力や取引先・技術・人材といった、
帳簿に載らない価値を買い手が評価するケースがあります。
Q. 簿価と税務上の帳簿価額は同じですか。
必ずしも一致しません。会計上の処理と税務上の処理が異なる項目
(減価償却の方法、引当金など)があるためです。
M&Aの検討では、どちらの数字を見ているかを確認する必要があります。
Q. 時価はどうやって調べますか。
不動産は不動産鑑定士による評価や、路線価・固定資産税評価額からの概算。
機械設備は中古市場の相場や専門業者の査定。
売掛金・在庫は自社での実態確認です。
すべてを外部評価に出す必要はなく、まずは自社で概算を持つことから始めます。
Q. 「のれん」は簿価に含まれますか。
自社で築いた信用やブランド(自己創設のれん)は、原則として帳簿に計上されません。
のれんが計上されるのは、他社を買収した際に、
支払った金額が受け入れた純資産の時価を上回った差額としてです。
まとめ
- 簿価は帳簿の金額、時価は現時点で売買される金額。両者は原則として一致しない
- ずれが大きいのは土地・建物・売掛金・棚卸資産・保険積立金の5項目
- 簿価純資産法は概算の第一歩。不動産や設備を持つ会社では判断を誤る
- 交渉の段階では買い手は時価で見るため、売り手も時価で把握しておく
- 目的(売却・承継・税務)が決まっていないなら、株価を計算する必要はまだない
まず着手するなら、土地・建物の時価の概算と、事業に使っていない資産の切り分けの2つです。
この2つだけで、簿価純資産と実態の差の大部分が見えてきます。
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参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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