ストックオプションは、あらかじめ決めた価格で自社株を買える権利を役員・従業員に与える制度です。会社法上は新株予約権にあたります。
制度の骨格はシンプルですが、実務の難しさはすべて税金にあります。同じ設計に見えても、税制適格か非適格かで手取りが大きく変わるからです。
そして令和6年度税制改正で、適格の要件のひとつが3倍に緩和されました。ここを知らないまま古い前提で設計すると、使える枠を取り逃がします。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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仕組み
- 会社が役員・従業員に新株予約権を無償で付与する
- 権利行使価額(例:1株1,000円)と、行使できる期間を決めておく
- 会社が成長し、株価が上がる(例:1株5,000円)
- 権利を行使して1,000円で取得し、5,000円で売却する
- 差額の4,000円が受け取る側の利益になる
会社は現金を出さずにインセンティブを設計できる——これが最大の利点です。一方で、株式が希薄化する(既存株主の持分比率が下がる)という負担が生じます。
税制適格と非適格で手取りが変わる
ここが最重要です。
| 税制適格 | 非適格 | |
|---|---|---|
| 権利行使時 | 課税されない | 給与所得として課税(最高税率が適用されうる) |
| 株式売却時 | 譲渡所得として課税(申告分離) | 譲渡所得として課税 |
| 課税のタイミング | 売却時の1回だけ | 行使時と売却時の2回 |
非適格の何が問題か。権利行使した時点では、まだ株を売っておらず現金は手元にありません。それなのに給与所得として課税されるため、納税資金を別に用意する必要が生じます。未上場企業では株式を売る市場がないため、これは現実的な負担です。
税制適格を満たせるなら、満たすほうがよい——結論としてはここに落ち着きます。
税制適格の主な要件
租税特別措置法第29条の2に定められています。設計時に外しやすいものを挙げます。
- 無償で発行すること(有利発行でないこと)
- 権利行使価額が、契約締結時の1株あたりの価額以上であること……ここを下回ると適格になりません
- 権利行使期間が、付与決議の日後2年を経過した日から10年(一定の会社は15年)を経過する日までであること
- 譲渡が禁止されていること
- 付与対象者の範囲(自社およびその子会社の取締役・執行役・使用人など。大口株主とその特別関係者は除かれる)
- 株式の保管委託、または一定の要件を満たす発行会社自身による株式管理
- 年間の権利行使価額が限度額を超えないこと(次項)
とくに「権利行使価額が契約時の時価以上」は、未上場企業で判断が難しい部分です。株価算定の根拠を残しておかないと、後から適格性を問われます。
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🔴 令和6年度改正——年間の権利行使価額の限度額が最大3倍に
改正前は、年間の権利行使価額は一律1,200万円が上限でした。この枠を超えた分は適格の扱いを受けられません。
令和6年度税制改正により、会社の状況に応じて次のように引き上げられました(令和6年4月1日施行)。
| 発行会社の区分 | 年間の権利行使価額の限度額 |
|---|---|
| 設立の日以後の期間が5年未満の株式会社 | 2,400万円 |
| 設立の日以後の期間が5年以上20年未満で、非上場会社または上場後5年未満の上場会社 | 3,600万円 |
| 上記以外(設立から20年以上経過した会社など) | 1,200万円(従来どおり) |
背景は、成長段階の後半にあるスタートアップが、1,200万円の枠では人材を確保しきれないという課題です。
この表で確認すべきは、自社がどの区分に当たるかです。設立から20年以上経過している中小企業は、枠は1,200万円のまま変わっていません。「限度額が3,600万円に上がった」という情報だけを受け取ると、設計を誤ります。
なお、令和6年3月31日以前に締結された契約についても、令和6年4月1日から同年12月31日までに契約の変更をすれば改正後の取扱いが適用されるという経過措置が設けられていました。
信託型ストックオプションの取扱い
一時期広く使われた信託型ストックオプションについては、権利行使時に給与課税されるという整理が国税庁から示されています。「課税されない」という前提で導入した企業が、遡って対応を求められた経緯があります。
設計を検討する際は、この整理を前提にしてください。
M&Aのときストックオプションはどうなるか
事業承継やM&Aの局面では、未行使のストックオプションが必ず論点になります。
- 買い手は、買収後に希薄化が起きる権利を放置できません。未行使分をどう処理するかを、契約前に決めます
- 一般的な処理は、①クロージング前に行使してもらう ②会社が買い取る(有償取得して消却する) ③買い手が引き継ぐのいずれかです
- ②の買取価額をいくらにするかで、実質的に譲渡対価の分配が変わります。株主間で揉めやすい論点です
譲渡を考えている会社が新たにストックオプションを発行する場合、M&A時の取扱いを付与契約に書いておくと、後の交渉が簡単になります。
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導入すべき会社・しないほうがよい会社・まだ早い会社
導入する意味が大きい会社
- IPOまたは高い成長を目指しており、株価が上がる見込みが具体的にある
- 現金報酬で市場水準の人材を採れないが、株式の値上がりで報いる余地がある
- 設立20年未満で、上の限度額の緩和を使える
導入しないほうがよい会社
- 株式の売却機会が見込めない(IPOもM&Aも予定していない)……権利を持っていても現金化できません。インセンティブとして機能しない
- 株主構成を動かしたくない同族企業
- 数年内に事業承継としてのM&Aを予定している……未行使分の処理が交渉の負担になります
まだ早い会社
- 株価算定の根拠を作れる体制がない。「権利行使価額が時価以上」を証明できないと適格性が揺らぎます
- 付与の基準(誰に、どれだけ)を説明できない。基準がないまま配ると、社内の不公平感が先に立ちます
よくある質問
Q. 中小企業でも導入できますか。
制度上は可能です。ただし上記のとおり、株式を現金化する機会がなければインセンティブとして機能しません。同族の非上場企業では、株式報酬より業績連動の賞与のほうが実効性が高い場面が多くあります。
Q. 有償ストックオプションとは何ですか。
発行時に対価を払って取得する新株予約権です。税制適格とは別の枠組みで、金融商品として扱われます。税制適格の要件は「無償で発行すること」なので、有償SOは税制適格ではありません。
Q. 退職したらどうなりますか。
付与契約の定めによります。多くの契約では、退職時に権利が失効するか、行使できる範囲が制限されます。この条項の設計が、実務上もっとも争いになりやすい部分です。
Q. 発行にはどんな手続きが必要ですか。
新株予約権の発行には株主総会の決議(または取締役会決議)が必要で、登記事項でもあります。会社法の手続きに沿って進める必要があります。
まとめ
- ストックオプションはあらかじめ決めた価格で自社株を買える権利(会社法上の新株予約権)
- 税制適格なら課税は売却時の1回、非適格なら行使時にも給与課税される
- 適格の要件で外しやすいのは「権利行使価額が契約時の時価以上」と年間の行使価額の限度額
- 🔴 令和6年4月1日から限度額は、設立5年未満2,400万円/設立5年以上20年未満で非上場等3,600万円/それ以外は1,200万円のまま
- 信託型SOは権利行使時に給与課税される整理が国税庁から示されている
- M&Aでは未行使分の処理が必ず論点になる。付与契約に取扱いを書いておく
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参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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