産業廃棄物の処理業者を売るときに最初に決めるのは、許可を会社ごと残す株式譲渡にするか、それ以外の手法にするかです。
収集運搬業と処分業の許可は、事業譲渡でも合併・会社分割でも、相手の会社には移りません。移した先の会社が新しく許可を取ります。一方で、焼却炉や最終処分場などの処理施設の設置許可は、都道府県知事の許可・認可を受ければ引き継げます。業の許可と施設の許可で、ルールが違うのです。
この記事では、産業廃棄物の収集運搬業・処分業の会社のオーナー・後継者と、同業や異業種からの買い手に向けて、手法ごとの許可の扱い、株式譲渡で問題になる役員の欠格要件、最終処分場の維持管理積立金、委託契約とマニフェスト、土壌汚染・不法投棄の簿外債務の調べ方を順に整理します。一般廃棄物の許可(市町村長の許可)と、個別の売買価格の相場は扱いません。
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産業廃棄物処理業のM&Aで許可がどう移るかは手法で決まる
産業廃棄物の処理に関わる許可は、大きく3つあります。どれも都道府県知事(政令市では市長)の許可です。
- 収集運搬業の許可(廃棄物の処理及び清掃に関する法律〔以下、廃棄物処理法〕第14条第1項)
- 処分業の許可(同条第6項)。中間処理と最終処分の両方を含む
- 処理施設の設置許可(同法第15条第1項)。一定規模以上の焼却施設・破砕施設・最終処分場など
業の許可は、新規取得から5年ごとの更新が要ります。優良産廃処理業者の基準を満たして更新した場合は7年です(同法第14条第2項・第7項、施行令第6条の9)。
手法ごとの扱いは次のとおりです。
| 許可 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 合併・会社分割 |
|---|---|---|---|
| 収集運搬業の許可 | 会社に残る。役員・5%以上の株主の変更届が要る | 移らない。買い手が新規に取得する | 移らない。存続会社・承継会社が新規に取得する |
| 処分業の許可 | 同上 | 同上 | 同上 |
| 処理施設の設置許可 | 会社に残る | 知事の譲受けの許可を受ければ地位を承継する(第15条の4で準用する第9条の5) | 合併・分割の前に知事の認可を受ければ地位を承継する(第15条の4で準用する第9条の6) |
業の許可が移らないことは、環境省の通知「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて」(令和2年3月30日、環循規発第2003301号)に明記されています。事業譲渡や合併・分割で業を引き継ぐ者は「新規の許可の取得を要する」とされています。
ただし同じ通知で、手続きの負担を軽くする扱いも示されています。
- 事業計画の概要や施設の図面など一部の書類は、元の許可業者が出した書類で代えてよい
- 吸収合併・吸収分割・事業譲渡では、効力発生日より前に申請して審査を進めてよい。許可が出るのは効力発生日以降
- 新設合併・新設分割では、設立登記の前は申請できないが、事前協議として実質的な審査は始められる
つまり、事業譲渡や吸収分割を選ぶなら、効力発生日と許可の日がずれて、業を止める日が出ないように、譲渡の前から自治体と事前協議を始めることになります。
処理施設の合併・分割の認可は、承継する法人の能力、施設の技術上の基準、欠格要件の3つを満たせば、知事は認可しなければならないとされています(同通知)。設置許可を受けていても、まだ施設の建設に着手していない段階では、承継する施設が無いので認可されません。
株式譲渡で産業廃棄物処理業の許可を守るための役員の欠格要件と変更届
株式譲渡は、許可を会社ごと残せる唯一の手法です。その代わり、買い手側から送り込む役員と、新しい株主が欠格要件に当たらないかが、取引の成否を分けます。
欠格要件に当たると許可は必ず取り消される
業の許可の欠格要件は、廃棄物処理法第14条第5項第2号で定められ、第7条第5項第4号イからチを引いています。主なものは次のとおりです。
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 拘禁刑以上の刑を受け、執行を終えてから5年を経過しない者
- 廃棄物処理法や浄化槽法などの環境法令、暴力団対策法に違反し、または傷害・暴行・脅迫などの罪で罰金刑を受けてから5年を経過しない者
- 廃棄物処理業などの許可を取り消されてから5年を経過しない者
- 暴力団員、または暴力団員でなくなってから5年を経過しない者
法人の場合、役員や政令で定める使用人のうち一人でも当てはまれば、法人そのものが欠格になります(同号ニ)。役員には、取締役だけでなく、相談役・顧問など名称を問わず「取締役と同等以上の支配力を有する者」が含まれます(第7条第5項第4号ホ)。
許可業者が欠格要件に当たるに至ったときは、知事は許可を取り消さなければなりません(第14条の3の2第1項)。環境省の「行政処分の指針について」(令和3年4月14日、環循規発第2104141号)は、次の点を示しています。
- 役員が欠格要件に当たった後に辞任・解任しても、取消しは免れない
- 発行済株式の5%以上を持つ株主は、取締役と同等以上の支配力を持つ者に当たる蓋然性が高い
- 役員を辞めた者でも、株式の保有や債権を通じて支配力を持ち続けている場合がある
買い手の会社や、その役員・大株主が過去に罰金刑を受けていれば、株式を取得した時点で売り手の会社の許可が取り消されるおそれがあります。異業種の買い手ほど、この点を確かめないまま交渉を進めがちです。
株式譲渡の後に出す変更届と期限
株式譲渡で役員や株主が替わったら、知事に変更届を出します(第14条の2第3項で準用する第7条の2第3項)。届け出る事項と期限は施行規則で決まっています。
| 届け出ること | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 役員の変更 | 施行規則第10条の10第1項第2号ロ | 変更の日から30日以内(登記事項証明書を付けるため) |
| 発行済株式の5%以上を持つ株主の変更 | 同号ハ | 変更の日から10日以内(株主が法人で登記事項証明書を付ける場合は30日以内) |
| 政令で定める使用人(事業場の責任者など)の変更 | 同号ニ | 同上 |
| 役員などが欠格要件に当たるに至ったこと | 第14条の2第3項で準用する第7条の2第4項、施行規則第10条の10の3 | 該当した日から2週間以内 |
変更届を出さないと罰則の対象になります(第30条第2号)。処理施設の設置許可も、欠格要件の考え方は同じです(第15条の2第1項第4号)。
株式譲渡契約には、次の手当てを入れておきます。
- 買い手が、自社・役員・5%以上の株主が欠格要件に当たらないことを表明保証する
- クロージングの前に、新しい役員の候補者の経歴と、刑事罰・行政処分の有無を確かめる
- クロージングの後、変更届の提出を売り手と買い手のどちらが担うかを決めておく
最終処分場を持つ産業廃棄物処理業のM&Aで確かめる維持管理積立金
最終処分場は、埋立てが終わった後も、浸出水の処理や地下水の監視を続けなければなりません。そのための費用として、環境省令で定める最終処分場の設置者は、埋立処分が終わるまで毎年度、知事が通知する額を維持管理積立金として独立行政法人環境再生保全機構に積み立てます(第15条の2の4で準用する第8条の5)。
| 手法 | 維持管理積立金の扱い |
|---|---|
| 株式譲渡 | 会社の積立金としてそのまま残る |
| 事業譲渡(施設の譲受けの許可) | 譲り受けた者が積み立てたものとみなされる(第8条の5第7項の準用) |
| 合併・会社分割(認可) | 承継した法人が積み立てたものとみなされる(同上) |
積立金は、埋立てが終わった後の維持管理に使うために取り戻すお金です。買い手が確かめるのは、次の3点です。
- 毎年度、通知どおりの額を積み立てているか。未積立の年度がないか
- 残りの埋立容量と、埋立てが終わる見込みの時期
- 埋立てが終わった後、施設の廃止まで何年かかりそうか。積立金でまかなえない維持管理の費用がどれくらい残るか
最終処分場は、埋立てが終わっても、水質などが基準に適合して廃止の確認を受けるまで、設置者の管理責任が続きます。埋立ての終わった処分場を抱える会社を株式譲渡で買うと、その管理費用も会社ごと引き継ぎます。
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産業廃棄物の委託契約とマニフェストはM&Aの手法でどう変わるか
処理業者の売上は、排出事業者との委託契約で成り立っています。排出事業者は、許可を持つ業者に、書面の委託契約で処理を委託しなければなりません(第12条第5項・第6項、施行令第6条の2)。
| 手法 | 委託契約 | マニフェスト |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 契約当事者は会社のまま。支配権の変更を解除事由にしている条項がないかを確かめる | 運用はそのまま |
| 事業譲渡・合併・会社分割 | 新しく許可を取った会社と、排出事業者が契約を結び直す。契約書に書く許可番号も変わる | 新しい会社の名称・許可番号で交付を受ける |
事業譲渡などで許可が切り替わる手法では、取引先の排出事業者全員に、新しい許可証の写しを渡し、契約を結び直してもらうことになります。取引先が数百社ある業者では、この作業だけで数か月かかります。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)は、処分を受託した業者も写しを5年間保存しなければなりません(第12条の3第10項、施行規則第8条の30の2)。委託契約書も、契約の終了の日から5年間の保存が義務です(施行規則第8条の4の3)。
買い手はDDで次を確かめます。
- 受託している廃棄物の種類が、許可証の「事業の範囲」に収まっているか
- マニフェストの記載と、実際の受入量・処分量が合っているか
- 処分終了の報告(写しの送付)を期限内に返しているか
- 保管量が、許可で定めた保管上限を超えていないか
許可の範囲外の廃棄物を受けていた、保管上限を超えていた、という事実は、改善命令や事業停止命令の理由になります。行政処分の履歴は、自治体に情報公開を請求すれば確かめられることがあります。
土壌汚染・不法投棄の簿外債務を産業廃棄物処理業のM&Aで調べる方法
処理業者のDDで最も重いのは、決算書に載っていない環境の債務です。廃棄物処理法は、処理基準に合わない処分で生活環境に支障が出るおそれがあるとき、知事が処分した者に支障の除去等の措置命令を出せるとしています(第19条の5)。過去に受けた廃棄物を不適正に保管・埋立てしていれば、その除去費用は会社が負います。
株式譲渡では、この責任も会社ごと引き継ぎます。調べ方は次のとおりです。
| 調べる対象 | 調べ方 |
|---|---|
| 敷地の土壌汚染 | 過去の土地利用の履歴、水質汚濁防止法の有害物質使用特定施設の有無を確かめる。施設を廃止したときは土壌汚染対策法第3条の調査が要る。必要なら指定調査機関に調査させる |
| 3,000㎡以上の土地の形質の変更 | 買収後に造成・増設するなら、着手の30日前までの届出が要る(土壌汚染対策法第4条) |
| 敷地の地下の廃棄物 | 過去の最終処分場の跡地が、廃棄物処理法の指定区域(第15条の17)に入っていないかを都道府県の台帳で確かめる |
| 不適正保管・不法投棄の疑い | 保管場所の現地確認、ドローンなどによる測量で、許可上の保管上限と実際の山の量を比べる |
| 行政指導・処分の履歴 | 自治体からの指導文書、改善命令・措置命令、立入検査の記録の提出を求める |
土壌と地下の廃棄物は、売り手の表明保証だけでは足りません。汚染が見つかったときの補償の上限と期間、調査費の負担を、株式譲渡契約で決めておきます。リスクが大きければ、汚染のある土地を譲渡の対象から外すために、事業譲渡や会社分割を選ぶこともあります。その場合は、上で見たとおり業の許可の新規取得が前提になります。
DDの全体の進め方は「デューデリジェンスとは」で扱っています。
産業廃棄物処理業のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
○は手続きなしで続く、△は届出・許可・同意が要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 合併・会社分割 |
|---|---|---|---|
| 収集運搬業・処分業の許可 | △ 役員・株主の変更届 | × 新規に取得 | × 新規に取得 |
| 処理施設の設置許可 | ○ 会社に残る | △ 知事の譲受けの許可 | △ 合併・分割の前に知事の認可 |
| 最終処分場の維持管理積立金 | ○ 会社に残る | △ 施設の譲受けの許可で承継 | △ 認可で承継 |
| 排出事業者との委託契約 | ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) | △ 結び直し | △ 結び直し |
| 収集運搬の車両・処分場の土地 | ○ そのまま | △ 名義変更・所有権移転登記 | △ 合併は包括承継、分割は分割契約で定める |
| 運転手・処理施設の技術管理者 | ○ 雇用はそのまま | △ 本人の同意で転籍 | ○ 合併は包括承継、分割は労働契約承継法の手続き |
| 措置命令のおそれがある不適正処理・土壌汚染 | ○ 会社ごと引き継ぐ | × 原則は引き継がない(土地を譲り受ければ土地の汚染は付いてくる) | △ 分割は承継の範囲による |
株式譲渡は手続きが少なく、許可も施設も会社ごと残ります。その代わり、過去の不適正処理の責任と、買い手側の欠格要件のリスクを引き受けます。事業譲渡や会社分割は、債務を絞れる代わりに、業の許可を取り直し、取引先との契約を結び直すことになります。
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産業廃棄物処理業の売り方を決める判定表
自分の会社の状態に当てはまる行を探してください。
| 会社の状態 | 向く進め方 | 先にやること |
|---|---|---|
| 許可・施設に問題がなく、行政処分の履歴もない | 株式譲渡 | 買い手の役員・5%以上の株主の欠格要件を確かめる。変更届の段取りを決める |
| 処理業のほかに別の事業を持ち、処理業だけを売る | 会社分割(処理業を新会社に切り出してから株式譲渡)または事業譲渡 | 業の許可を新しく取る前提で、自治体と事前協議を始める。施設は分割の認可を申請する |
| 埋立ての終わった最終処分場、または汚染のある土地を抱えている | 株式譲渡なら補償条項を厚くする。土地を切り離せるなら事業譲渡・会社分割も検討する | 土壌調査、維持管理積立金と廃止までの費用の試算 |
| 保管上限の超過、許可範囲外の受託などの指摘を受けたことがある | 売る前に改善を終えてから進める | 指摘への改善報告と、マニフェスト・委託契約の整理 |
| 役員や大株主に、罰金刑などで欠格要件に当たるおそれのある人がいる | 進める前に弁護士に相談する | 欠格要件に当たるかの確認。当たるなら許可の取消しが先に来る |
| 業の許可の更新が近い | 更新を済ませてから売る | 更新申請。優良認定(有効期間7年)を受けられるかの確認 |
| 黒字で許可も安定しているが、後継者がいない | すぐに売らなくてもよい。社内の後継者か、株式譲渡の準備から始める | 許可証・委託契約・マニフェストの一覧と、行政処分の履歴をそろえておく |
買い手の側から見るなら、同じ表で「自社が欠格要件に当たらないか」「許可を新しく取る間に業が止まらないか」「過去の処理の責任をどこまで引き受けるか」を確かめる、という読み方になります。
よくある質問
Q. 産業廃棄物の収集運搬業の許可だけを買うことはできますか。
できません。業の許可は、許可を受けた会社のものです。許可そのものを売買したり、事業譲渡で移したりはできません。許可を持つ会社の株式を買う株式譲渡なら、会社ごと許可を引き継げます。
Q. 合併すれば処分業の許可も引き継げますか。
引き継げません。合併・会社分割で引き継げるのは、処理施設の設置許可(事前の認可が要る)です。処分業の許可は、存続会社や承継会社が新しく取ります。吸収合併なら、効力発生日の前から申請して審査を進めてもらえます。
Q. 株式を買った後、役員を入れ替えるときに気をつけることは何ですか。
新しい役員が欠格要件に当たらないかを、就任の前に確かめます。役員が一人でも当たれば、会社の許可は取り消されます。就任した後は、変更の日から30日以内に変更届を出します。
Q. 最終処分場の維持管理積立金は、売り手に戻りますか。
株式譲渡では会社の積立金のまま残るので、売り手に戻るわけではありません。積立金の残高と、廃止までに要る費用の見込みを、株式の価格の交渉に反映させるのが通常です。
まとめ
産業廃棄物処理業のM&Aは、業の許可を会社ごと残す株式譲渡か、許可を取り直す他の手法かで進め方が分かれます。処理施設の設置許可は、事業譲渡でも合併・分割でも、知事の許可・認可で引き継げます。
株式譲渡では、買い手側の役員と大株主の欠格要件が、許可そのものを左右します。売り手は、許可証・委託契約・マニフェスト・行政処分の履歴の一覧を、価格の交渉より先にそろえてください。
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参考
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)https://laws.e-gov.go.jp/law/346CO0000000300
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)https://laws.e-gov.go.jp/law/346M50000100035
- 環境省「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて(通知)」(令和2年3月30日、環循規発第2003301号)https://www.env.go.jp/content/900479532.pdf
- 環境省「行政処分の指針について(通知)」(令和3年4月14日、環循規発第2104141号)https://www.env.go.jp/hourei/add/k104.pdf
- 土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000053
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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