運送会社のM&A|株式譲渡と事業譲渡で一般貨物の許可の扱いが違う、運行管理者・車両・2024年問題と未払残業代の判定表

運送会社の売却で最初に決めるのは、株式譲渡にするか、事業譲渡にするかです。一般貨物自動車運送事業の許可は、この選択で扱いがはっきり分かれます。

株式譲渡なら許可は会社に付いたまま続きます。事業譲渡と合併・分割は、国土交通大臣の認可を受けなければ効力が生じません。

もう一つ、運送会社ならではの論点が労務です。2024年4月からドライバーの時間外労働に年960時間の上限がかかり、買い手はデューデリジェンスで未払残業代がどれだけ眠っているかを必ず調べます。この記事では、引き継げるもの・引き継げないものを判定表にし、許可と人員(運行管理者・整備管理者)、車両とリース、未払残業代の見積もり方を整理します。

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目次
  1. 運送会社のM&Aは株式譲渡か事業譲渡かで一般貨物の許可の扱いが変わる
  2. 運送会社のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  3. 運行管理者・整備管理者と営業所の人員
    1. 運行管理者
    2. 整備管理者
    3. 車両数と営業所・車庫
  4. 車両・リース・営業所の引き継ぎ
  5. 2024年問題と未払残業代:買い手が必ず見る労務リスク
    1. 計算例:未払残業代の見込み額
  6. 運送会社を売る前のチェックリスト
  7. よくある質問
    1. Q. 株式譲渡なら運輸局に何も届け出なくてよいですか。
    2. Q. 事業譲渡の認可が下りる前に運行を始めてもよいですか。
    3. Q. 物流会社で倉庫業も営んでいる場合はどうなりますか。
  8. まとめ
  9. 参考

運送会社のM&Aは株式譲渡か事業譲渡かで一般貨物の許可の扱いが変わる

一般貨物自動車運送事業を営むには、国土交通大臣の許可が必要です(貨物自動車運送事業法第3条)。手続きの窓口は各地方運輸局です。許可は事業者(会社)に与えられるので、M&Aの手法によって次のように変わります。

手法 許可の扱い 根拠
株式譲渡 会社が変わらないので許可はそのまま。役員の変更は運輸局へ届け出る 第3条(許可は事業者に付く)
事業譲渡 譲渡し・譲受けは国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じない 第30条第1項
合併・会社分割 認可を受けなければ効力を生じない。運送事業者が存続する合併、運送事業を移さない分割は除く 第30条第2項
相続(個人事業者) 死亡後60日以内に認可を受ける 第31条

認可の審査では、許可のときと同じ基準(第6条)と欠格事由(第5条)が準用されます(第30条第3項)。つまり、事業譲渡の買い手は、新規に許可を取るのに近い審査を受けるということです。認可が下りるまで事業譲渡の効力は生じないので、クロージング日は認可の見通しから逆算して決めます。

株式譲渡では認可は要りませんが、新しく就任する役員が欠格事由に当たると、許可の取消しの対象になり得ます。買い手側から役員を送り込む前に、その人が欠格事由に当たらないかを確認するのは株式譲渡でも同じです。

なお、2025年6月に公布された貨物自動車運送事業法の改正で、許可を5年ごとの更新制にすることが決まっています。施行は公布から3年以内とされており、施行後に引き継いだ会社は、更新の審査に耐える体制ごと買うことになります。

運送会社のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は認可・届出・同意が要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡 合併・会社分割
一般貨物自動車運送事業の許可 ○ 継続。役員の変更は届出 △ 国土交通大臣の認可(第30条第1項) △ 国土交通大臣の認可(第30条第2項)
事業計画(営業所・車両数・車庫) ○ そのまま △ 認可の中で買い手の事業計画として審査 △ 同左
運行管理者・整備管理者 ○ 在籍していれば継続。辞めれば選任し直して届出 △ 買い手の会社として選任し直して届出 △ 選任の届出
事業用自動車(緑ナンバー) ○ そのまま △ 移転登録と事業計画上の手続き △ 移転登録
リース車両 △ 契約に支配権変更の条項があればリース会社の承諾 △ リース会社の承諾で契約を引き継ぐ △ 契約の条項を確認
荷主との運送契約 ○ そのまま(支配権変更条項に注意) △ 荷主ごとに同意を得て契約を移す △ 契約の条項を確認
ドライバー・従業員 ○ そのまま △ 本人の同意が必要(民法第625条) ○ 包括承継(分割は労働契約承継法の手続き)
未払残業代などの簿外債務 ○ 会社に残る(買い手が引き受ける) × 契約で引き受けたものだけ移る ○ 合併は包括承継

判定表の最後の行が、手法選びの分かれ目です。株式譲渡は手続きが軽い代わりに、未払残業代や運行中の損害賠償といった簿外債務も会社ごと引き継ぎます。事業譲渡は認可の手間がかかる代わりに、引き受ける債務を契約で絞れます。買い手が労務リスクを嫌って事業譲渡を求めてくるのは、この理由です。

運行管理者・整備管理者と営業所の人員

運送会社の許可は、人と車と場所がそろって初めて維持できます。M&Aで抜けやすいのは人の要件です。

運行管理者

一般貨物自動車運送事業者は、運行管理者資格者証を持つ人の中から運行管理者を選任し、その氏名を届け出なければなりません(第16条)。選任すべき人数は、営業所ごとの車両数で決まります。

  • 運行管理者が売り手の親族や役員だけという会社は珍しくありません。オーナーの引退と同時に運行管理者もいなくなると、営業所の要件を欠きます
  • 株式譲渡でも、運行管理者が退職すれば選任し直す必要があります
  • 買い手は、クロージング日に営業所ごとの運行管理者が名簿上そろっているかを確認します

整備管理者

一定台数以上の事業用自動車を使う営業所には、整備管理者の選任が必要です(道路運送車両法第50条)。こちらも、特定の個人に依存していることが多い役割です。

車両数と営業所・車庫

一般貨物自動車運送事業の許可には、営業所ごとに原則5両以上の車両が必要とされています。事業譲渡で一部の営業所だけを切り出す場合は、切り出した後も5両以上を確保できるか、車庫と休憩・睡眠施設の要件を満たすかを先に確かめます。

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車両・リース・営業所の引き継ぎ

運送会社の資産の中心は車両です。価格の議論の前に、車両ごとの状態を一覧にしておきます。

確認すること なぜ要るか
車両ごとの所有かリースか リースは契約の引継ぎに承諾が要り、残債は実質的な借入として価格から差し引かれる
年式・走行距離・車検の時期 近いうちに入れ替えが必要な車両は、将来の設備投資として評価に影響する
車庫・営業所の土地建物が自社か賃借か 賃借なら支配権変更条項と、賃貸人の承諾の要否
デジタルタコグラフ・点呼記録 労働時間と運行の実態を裏付ける資料になる

車両の簿価と時価は大きくずれることがあります。中古トラックの相場が高い時期は、簿価より時価が高く、純資産の評価が上がります。

2024年問題と未払残業代:買い手が必ず見る労務リスク

2024年4月から、自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用され、上限は年960時間とされています(労働基準法第140条)。あわせて、トラックドライバーの拘束時間などを定める改善基準告示も改められました。

買い手が調べるのは、上限を守れているかだけではありません。過去に払うべき残業代を払っていたかです。賃金の請求権の時効は、当分の間3年とされています(労働基準法第115条・第143条)。つまり、クロージングの時点で過去3年分の未払いが請求され得ます。

未払いが生まれやすい給与の形は、おおむね決まっています。

  • 歩合給・運行手当に残業代が含まれているという扱いで、時間外の計算をしていない
  • 固定残業代を払っているが、実際の残業時間がそれを大きく超えている
  • 荷待ち・荷積みの時間を労働時間に数えていない

計算例:未払残業代の見込み額

ドライバー20人の会社で、1人あたり月20時間分の時間外労働が未払いだった場合を仮に計算します。

項目 数字
残業代の基礎となる1時間あたりの賃金 1,800円
時間外の割増(25%) 1,800円×1.25=2,250円
1人あたりの月の未払い(20時間) 45,000円
20人×36か月(時効3年分) 3,240万円

月60時間を超える部分の割増率は50%で、裁判になれば付加金(労働基準法第114条)や遅延損害金が加わることもあります。この見込み額は、そのまま価格から差し引かれるか、表明保証と補償の条項で売り手に戻ってきます。

売り手にできるのは、売却を決めた時点で給与体系を点検し、必要なら是正と精算を先に済ませることです。未払いを抱えたまま株式譲渡をしても、クロージング後の補償請求で結局は売り手の負担になります。

運送会社を売る前のチェックリスト

  • [ ] 一般貨物自動車運送事業の許可証と、最新の事業計画(営業所・車両数・車庫)
  • [ ] 営業所ごとの運行管理者・整備管理者の氏名と、退職の予定
  • [ ] 役員の中に欠格事由に当たる人がいないか(買い手側から就任する役員も)
  • [ ] 車両の一覧(所有・リース、年式、走行距離、車検時期)とリース契約
  • [ ] 荷主との契約書と、支配権変更条項の有無
  • [ ] ドライバーの給与体系(歩合・固定残業代)と、直近3年の労働時間の記録
  • [ ] 交通違反・重大な運行トラブルの履歴と、行政処分の有無
  • [ ] 車庫・営業所の土地建物の権利関係

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

よくある質問

Q. 株式譲渡なら運輸局に何も届け出なくてよいですか。

許可は会社に付いているので認可は要りませんが、役員が変われば届出が要ります。新しい役員が欠格事由に当たらないことも前提になります。

Q. 事業譲渡の認可が下りる前に運行を始めてもよいですか。

事業の譲渡し・譲受けは、認可を受けなければ効力を生じません(第30条第1項)。認可が下りるまでは売り手の許可で運行し、認可の日を基準にクロージングを組みます。

Q. 物流会社で倉庫業も営んでいる場合はどうなりますか。

倉庫業には倉庫業法に基づく登録が別にあり、手法によって扱いが変わります。運送の許可とは別に、倉庫業の手続きも並べて確認してください。

まとめ

運送会社のM&Aは、手法で許可の手続きが決まり、労務の実態で価格が決まる取引です。

株式譲渡なら許可はそのまま続くが、未払残業代も会社ごと引き継ぐ。事業譲渡と合併・分割は国土交通大臣の認可が要るが、引き受ける債務を契約で絞れる。

運行管理者が残るか、過去3年の残業代をどう精算するかを、価格の交渉より先に固めてください。株式譲渡と事業譲渡の違いは「事業譲渡と株式譲渡の違い」で整理しています。

参考

  • 貨物自動車運送事業法(第3条・第5条・第6条・第16条・第30条・第31条)https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
  • 労働基準法(第114条・第115条・第140条・第143条)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
  • 道路運送車両法(第50条)https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000185
  • 国土交通省「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律 概要」https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001992449.pdf
  • 関東運輸局「トラック事業を始めるには」https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/jidou_koutu/kamotu/kamotu_jigyoukaisi/index.html

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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