美容室のM&A|株式譲渡と事業譲渡で美容所の届出がどう変わるか、スタイリストと指名客の引き継ぎ、テナント契約と売り方の判定表

美容室の売却で最初に決めるのは、株式譲渡にするか、事業譲渡にするかです。この選択で、保健所に出す書類と、お店に残る人・契約の範囲が変わります。

2023年12月13日から、美容室を事業譲渡で買った人は、新しく開設届を出し直さずに「地位の承継届」で営業を引き継げるようになりました。以前の「事業譲渡なら廃止届と新規の開設届」という手順は、いまは原則ではありません。

この記事では、美容室を売りたいオーナーと、美容室を買いたい経営者・異業種の買い手に向けて、美容師法の届出、管理美容師、スタイリストと指名客、業務委託(面貸し)、テナント契約、価格の見方を順に整理します。エステサロンは美容師法の対象外で、国家資格も開設届も要らない点が美容室と違います。エステの手続きはこの記事では扱いません。

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目次
  1. 美容室のM&Aは株式譲渡か事業譲渡かで保健所への届出が変わる
    1. 地位の承継が使えない事業譲渡
  2. 美容室のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  3. 美容室のM&Aで確かめる管理美容師と開設届の従業者
  4. 美容室のM&Aでスタイリストと指名客をどう引き継ぐか
    1. 退職後の競業避止と顧客の持ち出し
  5. 美容室の業務委託・面貸しの契約で確かめること
  6. 美容室のテナント契約と原状回復は誰が負うか
  7. 美容室のM&Aの価格は1店舗の利益とリピートで決まる
  8. 美容室の売り方を決める判定表
  9. よくある質問
    1. Q. 事業譲渡で美容室を買ったら、開設届を出し直す必要がありますか。
    2. Q. 株式譲渡なら保健所への手続きは要りませんか。
    3. Q. 美容室を売るときに、スタイリストにいつ伝えればよいですか。
    4. Q. 美容師免許がなくても美容室を買えますか。
  10. まとめ
  11. 参考

美容室のM&Aは株式譲渡か事業譲渡かで保健所への届出が変わる

美容室は、美容師法では「美容所」です。美容所を開くには、位置・構造設備・管理美容師・従業者などを、あらかじめ都道府県知事(保健所を置く市・特別区では市長・区長)に届け出ます(美容師法第11条第1項)。届け出た後、構造設備の検査と確認を受けるまで、お店は使えません(同法第12条)。

M&Aの手法ごとの手続きは次のとおりです。

手法 開設者 保健所への手続き
株式譲渡 法人のまま変わらない 代表者が替われば変更届(美容師法第11条第2項。届出事項に法人の代表者の氏名がある)
事業譲渡 買い手に替わる 買い手が地位の承継届を出す(美容師法第12条の2、同法施行規則第20条の2)
合併・会社分割 存続会社・承継会社に替わる 地位の承継届(同法施行規則第22条・第22条の2)
相続 相続人に替わる 地位の承継届(同法施行規則第21条)

事業譲渡の承継届には、譲渡の年月日、譲渡した人、美容所の名称と所在地を書き、譲渡契約書など譲渡が行われたことを証する書類を付けます。届出は「遅滞なく」とされ、手数料は自治体が決めます(川崎市は無料)。保健所は、承継の日から6か月以内に少なくとも1回、お店の状況を調べます(令和5年法律第52号附則第9条第2項)。

地位の承継が使えない事業譲渡

承継届で済まないケースもあります。厚生労働省の通知(令和5年11月29日)では、次の点が示されています。

  • 2023年12月12日以前の事業譲渡には、承継の規定は適用されない
  • 届け出た事業の一部だけを譲渡する場合は、承継の対象外
  • 売り手が届出なしに増改築をしていて、元のお店と同じと言えないほど変わっていれば、新規の届出が要る。届け出ていないまま営業していたなら、買い手は無届の営業を引き継ぐことになりかねない
  • 個人事業主が法人成りする場合も、法人の登記事項証明書だけでは足りず、譲渡を証する書類が要る

買い手は、開設届の控えと検査確認済書(自治体により名称が違う)を、いまの間取りと見比べるところから始めます。シャンプー台を増やした、隣の区画に広げたといった変更の届出が漏れていないかを確かめます。

美容室のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は届出・同意・契約のやり直しが要る、×は引き継げない(買い手が用意する)、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡
美容所の届出 ○ そのまま(代表者などが替われば変更届) △ 地位の承継届
管理美容師 ○ 本人が残れば続く △ 本人が転籍すれば続く。替わるなら変更届
雇用しているスタイリスト・アシスタント ○ 雇用はそのまま △ 本人の同意で転籍(民法第625条第1項)
業務委託のスタイリスト ○ 契約はそのまま(解除条項に注意) △ 一人ずつ契約を結び直す
テナントの賃貸借契約 ○ そのまま(支配権変更の条項に注意) △ 貸主の承諾が要る(民法第612条)
屋号・顧客台帳・予約サイトのアカウント ○ そのまま △ 契約で移す。顧客台帳は個人情報の扱いを確かめる
未払残業代・社会保険の未加入などの簿外債務 ○ 会社ごと引き継ぐ × 契約で引き受けたものだけ

美容室の多くは個人経営です。個人事業主のお店には株式がないので、売る方法は事業譲渡になります。法人のお店でも、オーナー個人の借入や私物の器具が会社の資産と分かれていないことが多いので、どこまでが会社の資産かを先に分けます。株式譲渡と事業譲渡の一般的な違いは「株式譲渡と事業譲渡の違い」で扱っています。

美容室のM&Aで確かめる管理美容師と開設届の従業者

厚生労働省の衛生行政報告例では、2024年度末の美容所は全国に277,752施設、そこで働く美容師は588,291人です。1施設あたり平均2人ほどで、小さなお店が大半を占めます。

美容師が常時2人以上いるお店は、お店ごとに管理美容師を置かなければなりません(美容師法第12条の3第1項)。管理美容師になれるのは、免許を受けてから3年以上美容の業務に従事し、都道府県知事が指定した講習会を修了した人です(同条第2項)。

M&Aで問題になるのは、オーナー自身が管理美容師を兼ねているお店です。オーナーが売却と同時に退くと、管理美容師がいなくなります。管理美容師を置かずに営業すると、知事は期間を定めてお店の閉鎖を命じることができます(同法第15条第1項)。

確かめること 理由
いまの管理美容師は誰か。売却後も残るか オーナーが兼ねていれば、後任を決めてから引き渡す
後任の候補が講習会を修了しているか 修了していなければ、講習の日程が引き渡しの日を左右する
開設届に載っている美容師と、実際に働いている美容師が一致しているか 美容師の新たな使用は変更届の対象(同法施行規則第20条)
無資格の人に施術をさせていないか 美容師でない人に美容の業を行わせると閉鎖命令の対象(同法第15条第1項)

アシスタントに美容師免許のない人がいる場合、シャンプーやブローの範囲で何をさせているかも確かめます。

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美容室のM&Aでスタイリストと指名客をどう引き継ぐか

美容室の売上の大半は、スタイリストについている指名客から生まれます。お店を買っても、スタイリストが辞めて近くで独立すれば、指名客はそちらに移ります。美容室のM&Aで最も大きいリスクはここです。

売り手は、スタイリストごとに次の数字を出しておきます。

  • 月の売上と指名客の数、指名の割合
  • 新規客のうち、3回以上来店した人の割合(再来店率)
  • 勤続年数と、独立の意向を聞いたことがあるか

売上が1人のスタイリストに偏っているお店ほど、価格は下がり、買い手は条件を付けます。たとえば、売上の半分を店長が持っているお店なら、買い手は店長の残留を譲渡の前提条件にする、店長に一定期間の在籍を約束してもらう、といった手当てを求めます。

退職後の競業避止と顧客の持ち出し

スタイリストとの雇用契約や誓約書に、退職後の競業避止(近くで開業しない約束)を入れているお店もあります。ただ、退職者の職業選択の自由とぶつかるので、期間・地域・代償の有無によっては無効とされることがあります。顧客台帳を持ち出させない約束のほうが、争いになったときに守られやすいのが一般的です。競業避止の考え方は「競業避止義務」で扱っています。

売り手であるオーナー自身にも、事業譲渡では同じ市町村と隣接する市町村で20年間、同じ事業をしない義務がかかります(会社法第21条第1項。個人事業主なら商法第16条第1項)。売却後に近くで小さなお店を開くつもりなら、契約で範囲を決めておきます。

美容室の業務委託・面貸しの契約で確かめること

最近の美容室では、雇用ではなく業務委託でスタイリストと契約する形や、席だけを貸して売上の一部を受け取る形(面貸し)が増えています。買い手が確かめるのは2点です。

1つ目は、契約は業務委託でも、実態が雇用に近くないかです。出勤時間や施術のメニュー・価格をお店が決め、断る自由もないなら、労働者と判断されるおそれがあります。そうなれば、未払の残業代や社会保険料を後から求められることがあり、株式譲渡ではその負担も会社ごと引き継ぎます。

2つ目は、2024年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)への対応です。個人のスタイリストに業務を委託するお店は、委託の内容・報酬の額・支払期日などを書面かメールなどで明示しなければなりません(同法第3条)。

確かめること 見る資料
業務委託契約書があるか、条件を明示しているか 契約書、報酬の明細
出勤・メニュー・価格を誰が決めているか シフト表、料金表、店内ルール
解除の条件と予告期間。オーナーが替わったら解除できる条項はないか 契約書の解除条項
顧客台帳と予約サイトのアカウントは誰のものか 契約書、予約システムの管理者

業務委託のスタイリストは、雇用よりも移籍がしやすい立場です。事業譲渡では契約を一人ずつ結び直すので、売上の大きい業務委託スタイリストとは、譲渡の発表より前に条件を話しておきます。

美容室のテナント契約と原状回復は誰が負うか

美容室の多くは、ビルの区画を借りて営業しています。株式譲渡なら借主の会社は変わりませんが、契約に「株主や代表者の変更を通知する」「貸主の承諾が要る」とする条項があれば、それに従います。事業譲渡では賃借権を移すので、貸主の承諾が要ります(民法第612条第1項)。承諾なしに移すと、契約を解除されることがあります。

確かめること 理由
契約の残り期間と更新の条件、定期借家かどうか 定期借家なら期間満了で出ていくことになり、更新の保証がない
原状回復の範囲(スケルトン戻しか、内装を残してよいか) 退去時にシャンプー台の給排水やボイラーの撤去まで求められると、費用が大きくなる
保証金・敷金の額と償却の条件 事業譲渡では、保証金を買い手に引き継ぐか、売り手に返して入れ直すかを貸主と決める
給湯・排水の容量、営業時間の制限 セット面やシャンプー台を増やせるかが、買い手の売上計画を左右する

借主は、借りた物を受け取った後に生じた損傷を、退去時に元に戻す義務を負います(民法第621条)。前の借主から居抜きで内装を引き継いだお店では、原状回復の範囲がどこまでかが契約書で曖昧なことがあります。貸主との覚書で範囲を決めてから売ると、買い手の不安が一つ減ります。

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美容室のM&Aの価格は1店舗の利益とリピートで決まる

美容室の価格は、一般的に「お店の実力で出せる利益の数年分」に、内装・設備などの資産を加味して決めます。利益を見るときは、決算書の数字をそのまま使わず、次のように直します。

直す項目 理由
オーナーの役員報酬・事業主の取り分 オーナーが現場に立っているなら、代わりのスタイリストや店長の給与に置き換える
オーナーの私的な経費 車両費・交際費などのうち、お店の運営に要らない分を足し戻す
業務委託スタイリストへの報酬 歩合の率が相場から外れていないか
家賃 更新で上がる予定がないか

計算例を仮の数字で示します。決算書の営業利益が年300万円、オーナーが自分の報酬を年600万円取っていて、オーナーが退いた後は年450万円の店長を置く必要があるとします。私的な経費は年50万円とします。

  • 直した後の利益 = 300万円 + 600万円 - 450万円 + 50万円 = 500万円
  • この利益の何年分とするかは、次の指標で上下します
指標 価格が上がる方向 価格が下がる方向
客単価 カラー・パーマ・トリートメントの比率が高い カットだけの比率が高い
再来店率 新規客が3回目まで来ている 割引の新規客が1回で終わる
売上の偏り 複数のスタイリストに分散している オーナーか1人のスタイリストに集中している
新規客の集め方 紹介と再来店が中心 予約サイトの広告に頼っている
店舗の数 2店舗以上で店長が育っている オーナーが全店を見ている

オーナーが現場に立っているお店は、オーナーが抜けた後の売上を買い手がどう見積もるかで価格が決まります。引き継ぎ期間としてオーナーが半年〜1年残る条件を付けると、価格が上がることがあります。価格の決め方の全体は「M&Aの価格の算定方法」で扱っています。

美容室の売り方を決める判定表

自分のお店の状態に当てはまる行を探してください。

美容室の状態 向く進め方 先にやること
個人経営の1店舗で、オーナーが現場に立っている 事業譲渡。オーナーが一定期間残る条件を付ける スタイリストごとの売上・指名客の一覧、テナントの契約書
法人で複数店舗、各店に店長がいる 株式譲渡 店舗ごとの損益と、管理美容師の一覧
売上の半分以上を1人のスタイリストが持っている 本人の残留の意向を確かめてから売る。または本人への譲渡を考える 本人との面談、雇用条件の見直し
業務委託のスタイリストが多いが、実態は雇用に近い 売る前に契約か働き方を直す 契約書の見直し、フリーランス法の明示
届出なしにお店を広げた、間取りを変えた 売る前に変更届を出す 開設届の控えと現在の図面の見比べ
テナント契約の残りが短い、定期借家で満了が近い 貸主と再契約の見込みを確かめてから売る 貸主への相談、原状回復の範囲の確認
黒字で人も育っているが、後継者がいない すぐに売らなくてもよい。店長への承継も含めて比べる スタイリスト別の数字を毎月出す仕組み

買い手の側から見るなら、同じ表で「オーナーと看板スタイリストが抜けた後に何が残るか」「届出とテナントに過去の未了がないか」「業務委託の実態が雇用でないか」を確かめる、という読み方になります。

よくある質問

Q. 事業譲渡で美容室を買ったら、開設届を出し直す必要がありますか。

2023年12月13日以降の事業譲渡なら、原則として出し直す必要はありません。買い手が地位の承継届を、譲渡を証する書類を付けて保健所に出します。ただし、届け出た事業の一部だけを譲り受けた場合や、元のお店と同じと言えないほど改装した場合は、新規の届出が要ります。手続きは自治体で細部が違うので、譲渡の前に保健所に相談します。

Q. 株式譲渡なら保健所への手続きは要りませんか。

開設者である法人は変わらないので、承継届は要りません。ただし、開設届には法人の代表者の氏名が載っているので、代表者が替われば変更届を出します。管理美容師や働く美容師が替わった場合も、変更届の対象です。

Q. 美容室を売るときに、スタイリストにいつ伝えればよいですか。

基本合意の後、買い手との条件が固まってから伝えるのが一般的です。早すぎると、不安から退職や独立が起き、価格に響きます。ただし、売上の大きいスタイリストについては、買い手が残留を条件にすることが多いので、基本合意の前後で個別に話すことになります。

Q. 美容師免許がなくても美容室を買えますか。

買えます。美容室の開設者に美容師免許は要りません。ただし、美容の施術は美容師しかできず(美容師法第6条)、美容師が常時2人以上いれば管理美容師を置く必要があります。異業種の買い手は、管理美容師を任せられる店長がいるお店を選ぶのが現実的です。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

美容室のM&Aは、保健所の届出は手法で決まり、価格は人と指名客が残るかで決まる取引です。

株式譲渡なら届出は変更届で済むが、簿外債務も会社ごと引き継ぐ。事業譲渡でも2023年12月13日以降は承継届で営業を引き継げるが、スタイリスト・業務委託・テナントの契約は一つずつ結び直す。

売り手は、スタイリストごとの売上と指名客の一覧、開設届の控えと現在の図面を、価格の交渉より先にそろえてください。

参考

  • 美容師法(昭和32年法律第163号)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC1000000163
  • 美容師法施行規則(平成10年厚生省令第7号)https://laws.e-gov.go.jp/law/410M50000100007
  • 厚生労働省「旅館業法等における事業譲渡に係る規定の運用上の疑義について(通知)」(令和5年11月29日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8097&dataType=1&pageNo=1
  • 川崎市「美容所の地位の承継」https://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000156768.html
  • 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
  • 厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/24/dl/gaikyo.pdf

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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