飲食店のM&A・売却|営業許可・深夜酒類の届出・居抜きの賃貸借は何が引き継げるか(判定表つき)

飲食店を手放す方法は、大きく分けて3つあります。会社ごと渡す株式譲渡、店舗の営業一式を渡す事業譲渡、厨房設備や内装だけを売る造作譲渡(居抜き売却)です。

どれを選ぶかで、営業許可をそのまま使えるか、深夜の酒類提供を続けられるか、店舗の賃貸借契約を買い手に渡せるかが変わります。飲食店の売却で実際に止まるのは、価格よりもこの3点です。

この記事では、飲食店のM&Aで「引き継げるもの/引き継げないもの」を判定表にしたうえで、手法ごとの違いと、買い手が価格を決めるときに見る数字を整理します。

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目次
  1. 飲食店のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  2. 飲食店営業許可は事業譲渡でも引き継げる
  3. 深夜酒類提供の届出は「人」についてくる
  4. 居抜き・造作譲渡と店舗の賃貸借契約
  5. 株式譲渡・事業譲渡・造作譲渡の比較表
  6. 飲食店の売却価格はFL比率と客単価で決まる
    1. 計算例:1店舗を事業譲渡する場合
  7. 売るか、居抜きで閉じるか、続けるか
  8. 売る前のチェックリスト
  9. よくある質問
  10. まとめ
  11. 参考

飲食店のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

最初に全体像を示します。○は手続きなしで続く、△は届出・承諾などの手続きが要る、×は買い手が取り直す、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡 造作譲渡(居抜き)
飲食店営業許可(食品衛生法) ○ 法人が同じなので継続。代表者が変われば変更の届出 △ 地位を承継し、遅滞なく届出(第56条) × 買い手が新規に許可を取る
深夜酒類提供飲食店営業の届出(風営法) △ 代表者が変われば変更の届出 × 買い手が新たに届け出る。売り手は廃止の届出 × 買い手が新たに届け出る
風俗営業許可(接待を伴う店) ○ 継続。役員変更は届出 × 譲渡による承継の規定がないため新規取得 × 新規取得
食品衛生責任者 △ 同じ人が残れば継続 × 買い手側で選任し直す × 選任し直す
店舗の賃貸借契約 ○ 原則継続。ただし契約に「経営者交代で解除」等の条項があれば要確認 △ 賃借権の譲渡に家主の承諾が必要(民法第612条) △ 買い手が家主と新規に契約。承諾が得られなければ成立しない
厨房設備・内装(造作) ○ そのまま ○ 契約で特定して移す ○ これが取引の対象
従業員 ○ 雇用契約はそのまま △ 本人の同意が必要(民法第625条) × 移らない
屋号・レシピ・常連客 ○ そのまま ○ 契約で移す × 原則移らない
借入金・未払金 ○ 会社に残るので買い手が実質的に引き継ぐ △ 契約で特定したものだけ移る × 移らない

取り違えやすいのは、営業許可と深夜酒類の届出で扱いが逆になる点です。次の節で理由を説明します。

飲食店営業許可は事業譲渡でも引き継げる

以前は、店を別の経営者に譲ると営業許可を取り直すのが原則でした。これが2023年12月13日施行の改正(令和5年法律第52号による食品衛生法第56条の改正)で変わり、営業の譲渡でも許可営業者の地位を承継できるようになりました。

食品衛生法第56条第1項は、許可を受けた者が「当該営業を譲渡し」たとき、譲り受けた者が許可営業者の地位を承継すると定めています。相続・合併・分割も同じ扱いです。承継した者は、同条第2項により、遅滞なく事実を証する書面を添えて都道府県知事(保健所)に届け出ます。

ここで注意したいのは、承継できるのは許可であって、施設基準への適合まで保証されるわけではない点です。承継後の立入検査で設備の不備が見つかれば、改善を求められます。また、許可には有効期間があるため、承継時に残りの期間を確認しておきます。

株式譲渡の場合は、許可を持っている法人がそのまま残るので、許可に手を付ける必要はありません。代表者の交代など届出事項に変更があれば、変更の届出を出します。

深夜酒類提供の届出は「人」についてくる

深夜0時から日の出までの時間帯に、主に酒類を提供する店を営むには、風営法第33条第1項により、営業所ごとに公安委員会(警察署)への届出が必要です。

この届出には、営業許可のような承継の規定がありません。届出は「営もうとする者」が出すものなので、事業譲渡や造作譲渡で経営者が替われば、買い手が新たに届け出ることになります。売り手は同条第2項にもとづき、営業の廃止を届け出ます。

届出は許可ではないため審査で落ちることは少ないものの、営業所の構造・設備の図面などの添付書類が要ります。引き渡しの日から深夜営業を続けたいなら、書類の準備を逆算して進めます。

さらに、客の隣に座って接待するスナックやキャバクラのように風俗営業許可が必要な業態では、承継の規定は相続(第7条)・合併(第7条の2)・分割(第7条の3)に限られ、譲渡による承継はありません。事業譲渡では買い手が許可を取り直すことになり、審査期間中は営業できません。こうした業態では、株式譲渡を選ぶ実益が大きくなります。一部の店舗だけを切り出したいなら、会社分割について事前に公安委員会の承認を受け、許可を承継する方法もあります(第7条の3)。飲食店営業許可のほうは、会社分割でも事業譲渡と同じく地位を承継し、届出を出します(食品衛生法第56条)。

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居抜き・造作譲渡と店舗の賃貸借契約

飲食店の売却で最も件数が多いのは、会社や事業ごとではなく店舗の造作だけを売る居抜き売却です。厨房設備、ダクト、内装、客席などを「造作」としてまとめて売り、買い手は同じ物件で自分の店を始めます。

居抜きの成否を握るのは、ほぼ例外なく家主です。

  • 事業譲渡で賃借権を買い手に移すには、民法第612条により家主の承諾が要ります
  • 造作譲渡では、売り手が賃貸借契約を解約し、買い手が家主と新しく契約を結ぶ形が一般的です
  • 家主が「原状回復して返してほしい」と言えば、造作を残すこと自体ができません

つまり、買い手が見つかっても、家主が首を縦に振らなければ居抜きは成立しません。解約予告の期間(6か月前など)も契約書で決まっているので、売却の検討を始めた時点で賃貸借契約書を読み直しておきます。

株式譲渡なら、借主である法人は変わらないので、原則として家主の承諾は要りません。ただし契約書に「代表者や株主が変わったら通知・承諾が要る」「解除できる」といった条項が入っていることがあるので、ここは必ず確認します。

造作の売却代金には消費税がかかります。保証金(敷金)は造作とは別に扱われ、家主から売り手に返還されるのが原則です。償却(敷引き)の条件もあわせて確認しておきます。

株式譲渡・事業譲渡・造作譲渡の比較表

手法ごとの違いを、飲食店に関係する項目に絞って並べます。

項目 株式譲渡 事業譲渡 造作譲渡(居抜き)
向いている店 法人で複数店舗を持つ、ブランドごと渡したい 法人の一部店舗だけ渡す、個人事業主が店ごと渡す 1店舗の閉店、業態を変える買い手に物件を渡す
売り手が受け取るもの 株式の対価(オーナー個人) 事業の対価(会社) 造作の代金
家主の承諾 原則不要(条項による) 必要 実質的に必要(新規契約)
許認可 ほぼそのまま 営業許可は承継届、深夜酒類は新規届出 すべて買い手が取り直す
従業員 そのまま 個別に同意を得て移す 移らない
簿外債務のリスク 買い手に残る 契約で切り離せる ない
手間と期間 契約は単純。デューデリジェンスが重い 契約・同意の取り付けが多い 最も軽い

個人事業主の飲食店には株式がないので、株式譲渡は使えません。個人店の選択肢は事業譲渡か造作譲渡のどちらかです。株式譲渡と事業譲渡の一般的な違いは「株式譲渡 vs 事業譲渡 完全比較」で扱っています。

飲食店の売却価格はFL比率と客単価で決まる

飲食店の価格は、会社全体の純資産より店舗単位の稼ぐ力で決まります。買い手が最初に見るのは次の数字です。

1. FL比率
売上に対する食材費(Food)と人件費(Labor)の合計の割合です。一般に60%以内が健全な目安とされ、これを大きく超える店は、買い手が自分で原価や人員配置を立て直す前提で価格を下げます。

2. 客単価と回転
客単価×客数(席数×回転数)で売上が決まります。同じ売上でも、客単価が高く回転が少ない店と、その逆の店では、買い手に必要なオペレーションが違います。

3. 店舗の営業利益
本部費や役員報酬を除いた、店舗そのものの利益です。オーナーが厨房に立って人件費を抑えている店は、買い手が人を雇えば利益が消えます。買い手はここを「オーナーの労働を人件費に置き換えた利益」に直して評価します。

4. 物件の条件
立地、賃料、残りの契約期間、家主の姿勢。賃料が売上の10%を超えると重いとされ、残りの契約期間が短い店は評価が下がります。

計算例:1店舗を事業譲渡する場合

月商400万円、年商4,800万円の店を例に取ります。

項目 金額
年間売上 4,800万円
食材費(32%) 1,536万円
人件費(28%)※オーナーの労働を時給換算して加算済み 1,344万円
家賃(9%) 432万円
その他経費(20%) 960万円
店舗営業利益 528万円

FL比率は60%で、目安の範囲に収まっています。

小規模な飲食店の事業譲渡では、造作・設備の時価に、店舗営業利益の1〜3年分程度を上乗せした水準で話がまとまることが多いとされます(業態・立地・契約残期間で大きく変わる目安です)。この店なら、造作の時価300万円に営業利益1〜2年分を加えて、800万〜1,350万円あたりが交渉の出発点になります。

逆に、オーナーの労働を人件費に置き換えた結果、店舗営業利益がほぼゼロになる店は、造作の時価が価格の上限になります。その場合は居抜き売却に絞るほうが現実的です。

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売るか、居抜きで閉じるか、続けるか

株式譲渡・事業譲渡を検討できる条件
- オーナーが厨房やホールに立たなくても、店舗営業利益が残る
- 店長・料理長など、店を回せる人が残る見込みがある
- 賃貸借契約の残期間が十分にあり、家主が譲渡に協力的

居抜き売却(造作譲渡)が現実的な条件
- オーナーの労働で利益が出ている店で、人に任せると赤字になる
- 1店舗だけで、屋号やレシピに買い手がつく見込みが薄い
- 業態を変えたい買い手が、立地と設備を目当てに探している

続けるほうがよい条件
- 開業から日が浅く、造作の残価と借入残高が近い
- 家主が居抜きに否定的で、売却すると原状回復費がかかる

売る前のチェックリスト

  • [ ] 飲食店営業許可の有効期間と、許可を持っているのが法人か個人か
  • [ ] 深夜酒類提供の届出、風俗営業許可の有無
  • [ ] 賃貸借契約の解約予告期間、原状回復の範囲、譲渡・転貸と経営者交代の条項
  • [ ] 家主に居抜きの可否を打診できる関係か
  • [ ] 造作のリース品(製氷機・食洗機など)の有無と残債
  • [ ] 店舗単位の損益(本部費・オーナーの労働を置き換えた後)
  • [ ] 店長・料理長が残る意思

リース品は売り手の所有物ではないので、造作譲渡の対象から外れます。買い手がリースを引き継ぐにはリース会社の承諾が必要です。

よくある質問

Q. 個人経営の小さな店でも買い手はつきますか。
立地と設備に価値があれば、居抜きの買い手はつきます。店舗の営業利益が残る店なら、事業譲渡として屋号やレシピごと引き継ぐ買い手も見込めます。

Q. 従業員には、いつ伝えればよいですか。
事業譲渡では従業員本人の同意が要るので、クロージング前に説明の場を設けます。早すぎると情報が漏れ、遅すぎると同意が間に合いません。

Q. 飲食店営業許可の承継届は、引き渡しの前に出せますか。
承継は譲渡があった時点で生じるので、届出は引き渡しの後、遅滞なく出します。管轄の保健所によって必要書類が違うため、事前に相談しておくと手戻りが減ります。

Q. 売れなかった場合、閉店にはいくらかかりますか。
原状回復工事、解約予告期間中の家賃、リースの中途解約金がかかります。原状回復は数百万円になることもあり、居抜きで売れればこの費用を避けられます。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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まとめ

飲食店のM&Aで手法を分けるのは、許認可と家主です。

営業許可は、2023年12月の改正で事業譲渡でも承継できるようになった(営業の全部を譲渡する場合に限る)。深夜酒類提供の届出と風俗営業許可は、譲渡では引き継げない。そして、どの手法でも店舗の賃貸借は家主の承諾が鍵を握る。

価格はFL比率と、オーナーの労働を人件費に置き換えた後の店舗営業利益で決まります。売却を考え始めたら、まず賃貸借契約書を読み直し、店舗単位の損益を出すところから始めてください。

参考

  • 食品衛生法(第55条・第56条)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233
  • 厚生労働省「食品衛生法の改正について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197196.html
  • 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(第7条〜第7条の3・第33条)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000122
  • 民法(第612条・第625条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

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