ホテル・旅館のM&Aと売却|旅館業許可の承継、所有と運営の分け方、稼働率・ADR・RevPARで見る価格(判定表つき)

ホテルや旅館の売却は、他の業種と比べて「何を売るのか」の選択肢が多いのが特徴です。会社ごと売る、建物と運営をまとめて売る、建物だけを売って運営は続ける、運営だけを別の会社に任せる。どれを選ぶかで、許認可の扱いも価格の決まり方も変わります。

許認可の面では、2023年の旅館業法改正で、旅館業を譲渡する場合も、事前に都道府県知事の承認を受ければ営業者の地位を承継できるようになりました(第3条の2)。一方で、温泉の利用許可には譲渡による承継の規定がなく、手法によっては取り直しになります。

この記事では、ホテル・旅館のM&Aで引き継げるもの・引き継げないものを判定表にし、手法ごとの違い、所有と運営を分ける形、稼働率・ADR・RevPARを使った価格の考え方を整理します。旅館の売却を考えている経営者にも同じ論点が当てはまります。

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目次
  1. ホテル・旅館のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)
  2. 旅館業許可の承継規定(旅館業法第3条の2・第3条の3)
  3. ホテルのオーナーとオペレーターを分けて売る
  4. 株式譲渡・事業譲渡・運営委託の比較表
  5. 稼働率・ADR・RevPARで価格を見る
    1. 計算例:40室の旅館
  6. ホテル・旅館を売る前のチェックリスト
  7. よくある質問
  8. まとめ
  9. 参考

ホテル・旅館のM&Aで引き継げるもの・引き継げないもの(判定表)

○は手続きなしで続く、△は承認・届出・同意などが要る、×は買い手が取り直す、という意味です。

項目 株式譲渡 事業譲渡 合併・会社分割
旅館業許可(旅館・ホテル営業) ○ 継続。代表者などの変更は届出 △ 譲渡人・譲受人が事前に知事の承認を受ければ承継(第3条の2)。承認がなければ新規取得 △ 知事の承認を受ければ承継(第3条の3)
温泉の利用許可(温泉法) ○ 継続 × 譲渡による承継の規定がないため新規に許可を受ける △ 知事の承認を受ければ承継(温泉法第16条)
飲食店営業許可(レストラン・宴会場) ○ 継続 △ 地位を承継し、遅滞なく届出(食品衛生法第56条) △ 同左
建物・土地 ○ 会社に残る △ 移転登記。不動産取得税・登録免許税がかかる △ 移転登記。合併などは不動産取得税が非課税となる場合がある
予約・OTAのアカウント、旅行会社との契約 ○ そのまま △ 契約ごとに相手方の同意 △ 契約の条項を確認
従業員 ○ そのまま △ 本人の同意が必要(民法第625条) ○ 包括承継(分割は労働契約承継法の手続き)
借入金・リース ○ 会社に残る △ 契約で特定したものだけ移る △ 合併は包括承継、分割は定めた範囲

温泉を引いている旅館では、旅館業許可は承継できても温泉の利用許可は取り直しという組み合わせが起きます。温泉が売りの宿で大浴場を止めるわけにはいかないので、温泉旅館の事業譲渡では、温泉利用許可の新規申請の期間をクロージング日の設計に入れておく必要があります。

旅館業許可の承継規定(旅館業法第3条の2・第3条の3)

旅館業を営むには、旅館業法第3条により、都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)の許可が必要です。許可は施設ごと、営業者ごとに与えられます。

以前は、相続と合併・分割には承継の規定があったものの、営業の譲渡では承継ができず、買い手が新たに許可を取るしかありませんでした。2023年の改正で第3条の2が設けられ、次のように変わりました。

  • 営業者が旅館業を譲渡する場合、譲渡人と譲受人がその譲渡について都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人が営業者の地位を承継する
  • 承認の審査では、譲受人が欠格事由(第3条第2項)に当たらないかが見られる
  • 合併・分割(第3条の3)、相続(第3条の4。死亡後60日以内に申請)にもそれぞれ承認の規定がある

承認は譲渡の前に受けるものです。承認が出る前に引き渡すと承継の効果が生じないので、保健所との事前相談から逆算してクロージング日を決めます。

株式譲渡では、許可を持つ法人がそのまま残るので承認は要りません。代表者など届出事項に変更があれば、変更の届出を出します。

ホテルのオーナーとオペレーターを分けて売る

ホテル・旅館には、建物を持つ「オーナー」と、宿を運営する「オペレーター」を分ける形がよく使われます。M&Aでは、この分け方そのものが選択肢になります。

形 オーナーの役割 オペレーターの役割 旅館業許可を持つのは オーナーの収入
所有直営 所有も運営も自社 ― 自社 営業利益そのもの
賃貸借(リース) 建物を貸す 借りて自社の名前で営業 オペレーター 固定賃料(または固定+変動)
運営委託(マネジメント契約) 建物を持ち、自社の名前で営業 運営を受託し、手数料を受け取る 原則オーナー 営業利益から運営手数料を引いた額
フランチャイズ 所有も運営も自社 ブランドと予約網を提供 自社 営業利益からロイヤルティを引いた額

売り手から見ると、選び方は次のようになります。

建物ごと手放したい
会社ごと、または建物と運営をまとめて売ります。株式譲渡か事業譲渡です。

建物は持ち続け、運営だけから離れたい
運営会社にリースで貸すか、運営を委託します。後継者はいないが土地建物は家族に残したい、という旅館で選ばれることが多い形です。M&Aというより、運営の承継にあたります。

運営会社として事業を渡したい
自社がリースで借りて運営しているホテルなら、売るのは運営事業です。この場合、建物の所有者(家主)の承諾が賃借権の譲渡に必要になります(民法第612条)。

どの形でも、旅館業許可を持っているのが誰かを最初に確認します。リースなら許可を持つのはオペレーターなので、オペレーターが替われば許可の承継(または新規取得)が必要です。

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株式譲渡・事業譲渡・運営委託の比較表

項目 株式譲渡 事業譲渡 運営委託・リースへの切り替え
建物の所有 買い手(会社ごと) 買い手 売り手に残る
旅館業許可 そのまま 事前承認で承継 リースなら新オペレーターが承継または取得
温泉の利用許可 そのまま 新規取得 リースなら新オペレーターが取得
簿外債務・老朽化の修繕負担 買い手に残る 契約で切り離せる 修繕は契約で分担(大規模修繕はオーナー負担が多い)
売り手が受け取るもの 株式の対価 事業の対価 毎月の賃料・収益
向いている場面 会社ごと渡す 複数施設の一部だけ渡す、債務を切り離す 土地建物は残し、運営から退く

稼働率・ADR・RevPARで価格を見る

ホテル・旅館の価値は、まず客室がどれだけ稼いでいるかで測ります。使う指標は3つです。

  • 客室稼働率=販売した客室数÷販売可能な客室数
  • ADR(平均客室単価)=客室売上÷販売した客室数
  • RevPAR(販売可能客室1室あたり売上)=客室売上÷販売可能な客室数=ADR×客室稼働率

稼働率が高くても単価を下げて埋めていればRevPARは伸びず、単価が高くても空室が多ければやはり伸びません。RevPARは稼働と単価をまとめて見る指標なので、買い手はまずここを同じエリア・同じ業態の施設と比べます。地域別・施設タイプ別の客室稼働率は、観光庁の宿泊旅行統計調査で確認できます。

計算例:40室の旅館

項目 数値
客室数 40室
年間の販売可能客室数(40室×365日) 14,600室
販売した客室数 9,490室
客室稼働率 65%
ADR(1室あたり) 30,000円
RevPAR 19,500円
客室売上(ADR×販売客室数) 2億8,470万円

RevPARが同じエリアの競合より低ければ、買い手は「運営を変えれば伸ばせる余地」と見ることもあれば、「立地や設備の限界」と見ることもあります。前者なら価格の上振れ要因、後者なら下振れ要因です。

価格そのものは、客室売上に料飲・宴会の売上を加えた全体の営業利益(GOP)から、建物の修繕に必要な支出を差し引いて考えます。築年数の古い旅館では、将来の大規模修繕の見込み額が価格を大きく左右し、配管・空調・耐震の状態によっては、利益に対する倍率よりも修繕費の差し引きのほうが価格を決めることがあります。倍率は業態・立地・建物の状態でまったく違うので、一律の目安はあてになりません。

ホテル・旅館を売る前のチェックリスト

  • [ ] 旅館業許可を持っているのは誰か(自社・オペレーター)
  • [ ] 温泉の利用許可、飲食店営業許可、その他の許可の有無
  • [ ] 過去3年の客室稼働率・ADR・RevPARと、エリアの水準との比較
  • [ ] OTA・旅行会社経由と直販の比率
  • [ ] 建物の築年数、耐震診断の結果、直近の大規模修繕の時期
  • [ ] 消防法令への適合状況(査察で指摘を受けた事項の有無)
  • [ ] 総料理長・女将・支配人など、宿の評価を支えている人の残留意思
  • [ ] 土地建物を残すのか、手放すのか

消防や建築基準の不適合は、買い手の調査で必ず見られます。指摘を受けたまま是正していない事項があれば、売却前に整理しておきます。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

よくある質問

Q. 旅館の売却で、事業譲渡を選ぶと営業が止まりますか。
旅館業許可は、事前に承認を受ければ承継できるので止まりません。ただし温泉の利用許可は譲渡では承継できないため、新規の許可が出るまでの段取りが必要です。

Q. 建物を手放さずに、後継者のいない旅館を続ける方法はありますか。
運営会社に建物を貸す(リース)か、運営を委託する方法があります。建物の所有は残し、日々の運営から退く形です。

Q. 客室稼働率が低い旅館でも買い手はつきますか。
立地や建物に価値があれば、運営を変えて稼働を上げる前提の買い手がつきます。その場合、価格は現在の利益より、土地建物の価値と修繕の見込み額で決まる傾向があります。

まとめ

ホテル・旅館のM&Aは、何を売るかと許可を誰が持つかの組み合わせで設計します。

2023年の改正で、旅館業許可は事業譲渡でも事前承認で承継できるようになった。ただし温泉の利用許可には譲渡の承継規定がない。所有と運営を分ければ、建物を残したまま運営から退く道もある。

価格は稼働率とADRをまとめたRevPARで稼ぐ力を見て、そこから建物の修繕負担を差し引いて考えます。売却を考え始めたら、許可の保有者と建物の状態の確認から始めてください。

参考

  • 旅館業法(第3条・第3条の2・第3条の3・第3条の4)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000138
  • 温泉法(第15条・第16条・第17条)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000125
  • 食品衛生法(第56条)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233
  • 民法(第612条・第625条)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 観光庁「宿泊旅行統計調査」https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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