中小企業の株式はほぼすべてが譲渡制限株式である。定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない」と書いてあれば、株主が誰にいくらで売ろうと決めても、会社の承認がなければ会社に対しては効力を主張できない。その承認を求める書面が株式譲渡承認請求書である。
M&Aの実務でこの書面が意味を持つのは、中身より日付である。請求書を出した日から2週間、会社が何もしなければ承認したものとみなされる。逆に言えば、この1枚を出す日を決めることが、クロージングの日程を決めることになる。
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誰が誰に出す書面か
請求できる人は2通りあり、根拠条文も記載事項も分かれる。
| 株主(譲渡人)が出す | 株式取得者(譲受人)が出す | |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法136条 | 会社法137条 |
| 出す時点 | 譲渡する前(これから譲り渡そうとするとき) | 取得した後(すでに取得したとき) |
| 単独でできるか | できる | 原則できない。株主名簿上の株主と共同で請求する(137条2項) |
| M&Aでの使い方 | 売り手主導。株式譲渡契約の締結前後に出す | 相続や競売で株式が移った後の名義整理 |
| 宛先 | 発行会社(代表取締役宛て) | 発行会社(代表取締役宛て) |
M&Aで通常使うのは136条の、株主から出すほうである。株式譲渡契約を結ぶ前後に売り手が会社へ提出し、承認を得てから決済と名義書換に進む。
出さないとどうなるか
承認を得ずに譲渡しても、当事者間では有効だが会社に対しては主張できない。その結果、次が止まる。
- 株主名簿の名義書換ができない。買い手は株主として扱われない
- 議決権を行使できない。取締役の選任も決議もできず、経営権が動かない
- 配当を受け取れない。会社は名簿上の株主へ払う
M&Aで株式を買っておきながら経営に関与できないという状態になるため、買い手側のデューデリジェンスでは、過去の株式移動について承認手続の記録があるかを必ず確認される。過去に承認を経ていない譲渡が見つかると、現在の株主構成そのものが疑わしくなり、譲渡の前提が崩れる。
記載事項は会社法138条で決まっている
書式は自由だが、書くべき事項は法定されている(会社法138条)。株主から請求する場合は次の3点である。
| 記載事項 | 条文の表現 | 具体的に書くこと |
|---|---|---|
| 株式の数 | 譲り渡そうとする譲渡制限株式の数 | 普通株式○○株。種類株式発行会社なら種類と種類ごとの数 |
| 譲受人 | 譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称 | 個人なら氏名、法人なら商号。住所も書くのが実務 |
| 買取請求の有無 | 会社が承認しない旨の決定をする場合において、会社または指定買取人が買い取ることを請求するときは、その旨 | 不承認なら買い取れと求めるかどうか |
3つ目が判断どころである。この「その旨」を書いていないと、不承認になった時点で手続が終わる。書いておけば、会社は不承認にしたうえで買い取るか、指定買取人を指定しなければならない。
| 買取請求を書くか | 不承認だったときに起きること |
|---|---|
| 書く | 会社または指定買取人が買い取る義務を負う。価格は協議、まとまらなければ裁判所が決める |
| 書かない | 不承認で終わり。株式は手元に残り、売却は成立しない |
M&Aで第三者へ売る前提なら書く。同族内で譲渡先を調整している段階なら、あえて書かずに出して相手の反応を見るという使い方もある。
株式譲渡承認請求書のひな形
買取請求を併記した形が、M&Aでは標準である。
令和○年○月○日
○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
住所 東京都○○区○○一丁目2番3号
氏名 ○○ ○○ 印
株式譲渡承認請求書
私は、貴社の株式を下記のとおり譲渡いたしたく、会社法第136条に基づき、
ご承認くださるよう請求いたします。
なお、本譲渡をご承認いただけない場合は、会社法第138条第1号ハに基づき、
貴社または貴社が指定する買取人が下記株式を買い取ることを請求いたします。
記
1.譲渡する株式の種類および数
普通株式 1,000株
2.譲受人
住所 東京都○○区○○四丁目5番6号
氏名 △△株式会社 代表取締役 △△ △△
3.譲渡の理由(任意)
事業承継のため
以上
株式取得者の側から出す場合は、表題を同じにしたうえで根拠条文を会社法137条1項に置き換え、「取得した株式」と書き、株主名簿上の株主と連名で押印する。
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記入例でつまずきやすい箇所
| 欄 | 書き方 | 注意すること |
|---|---|---|
| 日付 | 提出日 | ここが起算日になる。2週間の数え方はこの日から |
| 宛先 | 発行会社と代表取締役 | 取締役会設置会社でも宛先は会社。承認機関が取締役会でも、請求は会社に出す |
| 株式の数 | 普通株式○○株 | 一部だけ譲渡するなら、その株数だけ書く。保有全株を書かない |
| 譲受人 | 氏名または名称 | 「第三者」「未定」は不可。特定した相手を書く。相手が決まっていないと請求できない |
| 買取請求の記載 | 不承認なら買い取れという1文 | 後から追加できない。出し直しになると2週間が振り出しに戻る |
| 譲渡の理由 | 任意 | 法定事項ではない。書くと承認の判断材料にされるので、書かない選択もある |
| 押印 | 記名押印 | 実印と印鑑証明書の添付を求める会社が多い。定款や株式取扱規程を先に確認する |
提出は内容証明郵便が確実である。2週間の起算日を後から争わせないためで、配達証明を付けておく。
出してから結論が出るまでの日数
株式譲渡承認請求書の実務上の価値は、この日数表に集約される。期限を過ぎると、会社が何も返さなくても承認したものとみなされる(会社法145条)。
| 起算点 | 期限 | 過ぎるとどうなるか |
|---|---|---|
| 請求書を出した日 | 2週間(定款で短縮可) | 承認するか否かの通知が来なければ、承認したものとみなされる(145条1号) |
| 不承認の通知の日 | 40日(定款で短縮可) | 会社が買取りの通知をしなければ、承認したものとみなされる(145条2号) |
| 不承認の通知の日 | 10日(指定買取人の場合) | 指定買取人がこの期間内に通知すれば、40日のみなし承認は適用されない(145条2号かっこ書) |
| 買取りの通知があった日 | 20日 | 売買価格が協議でまとまらないとき、裁判所へ売買価格決定の申立てができる(144条2項) |
会社が買い取る場合、1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた額を本店所在地の供託所に供託し、供託を証する書面を請求者へ交付しなければならない(会社法141条2項)。中小企業では、この供託金の用意ができずに40日を過ぎ、結果としてみなし承認になることがある。
承認するかどうかを決めるのは、取締役会設置会社なら取締役会、それ以外は株主総会である(会社法139条1項)。定款で別の機関を定めているケースもあるため、請求を受けた側は定款を先に見る。
M&Aの日程をどう組むか
売り手が株式譲渡契約を結び、決済日を決める。そこから逆算して、承認請求書をいつ出すかを決める。
- 承認が得られる見込みが高い(同族会社で売り手が支配株主)なら、契約締結と同日に出し、2週間後の承認を決済の前提条件に置く
- 少数株主が反対しそうなら、2週間のみなし承認を待つ設計にする。会社が動かないほうが売り手に有利に働く
- 買い手が急いでいるなら、定款で2週間を短縮していないかを確認する。短縮されていれば早く結論が出る
臨時株主総会や取締役会の開催日を、2週間の期限内に置けるかどうかが最初の関門になる。役員の日程が合わず総会が開けないまま2週間が過ぎれば、それはそれで承認になる。
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提出前のチェックリスト
- [ ] 定款で承認機関(株主総会か取締役会)を確認した
- [ ] 定款で2週間の期間が短縮されていないか確認した
- [ ] 株式取扱規程で書式や添付書類の指定がないか確認した
- [ ] 譲受人を特定した(氏名・名称と住所)
- [ ] 譲渡する株数を確定した(全株か一部か)
- [ ] 不承認の場合の買取請求を書くか決めた
- [ ] 株主名簿の記載と請求者の氏名が一致しているか確認した
- [ ] 内容証明郵便+配達証明で出す手配をした
- [ ] 2週間後の日付が株式譲渡契約の決済日より前に来るか確かめた
- [ ] 過去の株式移動について承認手続の記録が残っているか確認した
よくある質問
Q. 承認されたら、それで株主になれるのか。
ならない。承認は名義書換をするための前提にすぎない。別途、株主名簿の名義書換請求(会社法133条)を譲渡人と譲受人の共同で行う。
Q. 会社が承認しない理由を説明する義務はあるか。
ない。会社法は決定の内容を通知することしか求めていない(139条2項)。理由の開示は義務ではない。
Q. 2週間を過ぎたが、会社は「知らなかった」と言っている。
みなし承認は会社の認識とは関係なく生じる。請求書が届いた日を証明できることが前提なので、内容証明と配達証明が根拠になる。
Q. 定款で2週間より長い期間を定められるか。
できない。条文は「これを下回る期間を定款で定めた場合」としか認めていない。短縮のみが可能である。
Q. 一人会社や全株を持つ株主でも請求は要るか。
定款に譲渡制限がある限り必要である。形式を踏まないまま譲渡すると、後のデューデリジェンスで株主構成の瑕疵として指摘される。
まとめ
株式譲渡承認請求書は1枚の紙だが、M&Aでは日程を決める書面である。
- 記載事項は会社法138条の株式数・譲受人・買取請求の有無の3点
- 買取請求の記載がないと、不承認で手続が終わる
- 請求日から2週間で会社が通知しなければ承認とみなされる(145条1号)
- 不承認から40日で買取りの通知がなければ、これも承認とみなされる(145条2号)
- 提出日が起算日なので、内容証明郵便で出して日付を固める
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参考・一次情報
- 会社法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 中小企業庁 事業承継 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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