非上場会社の株式には市場価格がない。そこで相続税・贈与税の申告では、国税庁の財産評価基本通達に沿って株価を「計算」する。
その中心にあるのが類似業種比準価額である。上場会社の平均株価を物差しに、自社の配当・利益・純資産を比べて株価を出す方式だ。
本稿は定義の説明ではなく、実際に数字を入れて計算を追う。あわせて、事業承継やM&Aの場面でこの数字をどこまで信用してよいかの境界線を示す。税務の個別判断は、必ず税理士など専門家に確認してほしい。
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類似業種比準価額の計算式
財産評価基本通達180は、類似業種の株価と、評価会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額(帳簿価額)」を基に計算すると定めている。
式にすると次のとおりである。
類似業種比準価額 = A ×(b/B + c/C + d/D)÷ 3 × 斟酌率
| 記号 | 中身 |
|---|---|
| A | 類似業種の株価 |
| B・C・D | 類似業種の1株当たり配当金額・年利益金額・純資産価額 |
| b・c・d | 評価会社の1株当たり配当金額・利益金額・純資産価額 |
| 斟酌率 | 大会社0.7/中会社0.6/小会社0.5 |
斟酌率(しんしゃくりつ)は、上場会社と比べた非上場会社の流通性の低さなどを割り引く係数である。会社が小さいほど強く割り引かれる。
3要素はそれぞれ「何年分」で取るか
通達183が、評価会社側の数字の取り方を決めている。
| 要素 | 取り方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 配当(b) | 直前期末以前2年間の配当の平均 | 記念配当など継続性のないものは除く |
| 利益(c) | 直前期末以前1年間の法人税の課税所得を基に計算。2年平均も選択可 | 固定資産売却益など非経常的な利益は除く。マイナスは0 |
| 純資産(d) | 直前期末の資本金等の額+利益積立金額 | 別表五(一)の数字を使う。帳簿価額ベース |
計算の前提として、各数字は「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合」に換算する。上場会社側の数字も同じ基準で揃えてあるためである。
類似業種の株価Aは「低いもの」を選べる
通達182により、Aは次のうち最も低いものを使える。
- 課税時期の属する月の株価
- その前月の株価
- その前々月の株価
- 前年平均株価
- 課税時期の属する月以前2年間の平均株価
業種目別の株価や配当・利益・純資産の数字は、国税庁が毎年の法令解釈通達で公表している。令和8年分は「令和8年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」(令和8年6月5日付課評2-41、最終改正同年8月5日)で、月ごとの株価が順次追加される。
業種目は、直前期末以前1年間の取引金額で判定する(通達181-2)。複数事業がある場合は、取引金額の割合で決まる。
会社規模の判定表
斟酌率とLの割合は、会社規模で決まる。判定は通達178の表による。
従業員70人以上なら業種を問わず大会社である。70人未満の場合は、「総資産価額(帳簿価額)と従業員数」と「取引金額」の2軸で判定し、どちらか上位の区分を採る。
| 区分 | 業種 | 総資産価額と従業員数 | 取引金額 |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 卸売業 | 20億円以上(35人以下を除く) | 30億円以上 |
| 小売・サービス業 | 15億円以上(35人以下を除く) | 20億円以上 | |
| 上記以外 | 15億円以上(35人以下を除く) | 15億円以上 | |
| 中会社 | 卸売業 | 7,000万円以上(5人以下を除く) | 2億円以上30億円未満 |
| 小売・サービス業 | 4,000万円以上(5人以下を除く) | 6,000万円以上20億円未満 | |
| 上記以外 | 5,000万円以上(5人以下を除く) | 8,000万円以上15億円未満 | |
| 小会社 | 卸売業 | 7,000万円未満または5人以下 | 2億円未満 |
| 小売・サービス業 | 4,000万円未満または5人以下 | 6,000万円未満 | |
| 上記以外 | 5,000万円未満または5人以下 | 8,000万円未満 |
従業員数は、週30時間以上の継続勤務者を1人とし、それ以外は年間労働時間を1,800時間で割って加える。社長や一定の役員は従業員に含めない。
中会社は純資産価額方式と併用する(Lの割合)
通達179は、会社規模ごとに評価方法を分けている。
| 規模 | 評価方法 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額(純資産価額の方が低ければそちらを選べる) |
| 中会社 | 類似業種比準価額×L + 純資産価額×(1-L) |
| 小会社 | 純資産価額(Lを0.50とした併用方式も選べる) |
中会社のLは、次のイとロのうち大きい方を採る。
| L | 総資産価額と従業員数(イ)小売・サービス業の場合 | 取引金額(ロ)小売・サービス業の場合 |
|---|---|---|
| 0.90 | 5億円以上(35人以下を除く) | 5億円以上20億円未満 |
| 0.75 | 2億5,000万円以上(20人以下を除く) | 2億5,000万円以上5億円未満 |
| 0.60 | 4,000万円以上(5人以下を除く) | 6,000万円以上2億5,000万円未満 |
卸売業とそれ以外の業種には別の基準額がある。Lが大きいほど類似業種比準価額の比重が高くなるので、利益が厚く純資産も大きい会社では、規模が大きいほど評価額が下がることがある。
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数値例:サービス業の中会社で計算する
仮の会社で計算を追う。数字はすべて説明用の架空値である。
前提
- サービス業、従業員30人、総資産3億円、年間取引金額4億円
- 資本金等の額1,000万円、発行済株式20万株(1株当たり資本金等の額=50円)
- 直前2期の配当合計200万円、直前期の利益(課税所得ベース)1,200万円
- 帳簿価額ベースの純資産1億円
- 類似業種の数字(仮):A=300円、B=6.0円、C=30円、D=350円
ステップ1:会社規模とL
総資産3億円・取引金額4億円は、小売・サービス業の中会社に当たる。Lはイ(2億5,000万円以上・21人以上)もロ(2億5,000万円以上5億円未満)も0.75である。
ステップ2:1株当たりの3要素
- b = 200万円÷2÷20万株 = 5.0円
- c = 1,200万円÷20万株 = 60円
- d = 1億円÷20万株 = 500円
ステップ3:比準割合
| 要素 | 計算 | 割合 |
|---|---|---|
| 配当 | 5.0÷6.0 | 0.83 |
| 利益 | 60÷30 | 2.00 |
| 純資産 | 500÷350 | 1.42 |
| 平均 | (0.83+2.00+1.42)÷3 | 1.41 |
ステップ4:類似業種比準価額
300円 × 1.41 × 0.6(中会社) = 253.8円(1株当たり)
仮に大会社なら0.7で296.0円、小会社なら0.5で211.5円になる。同じ会社でも規模区分だけで2割以上動く。
ステップ5:純資産価額と併用する
相続税評価額ベースの純資産を1億5,000万円とする(土地の含み益など)。帳簿ベースとの差額5,000万円に38%を掛けた1,900万円を控除する(通達186-2)。
- 純資産価額 =(1億5,000万円-1,900万円)÷20万株 = 655円
併用すると、253.8円×0.75 + 655円×0.25 = 354.1円。20万株で約7,082万円である。
この38%は、防衛特別法人税の創設に伴い37%から改められた割合で、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式に適用される。それより前の取得は37%で計算する。
実際の申告では、各割合の端数処理などを「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の記載方法に沿って行う。
この計算が使えない会社
次の「特定の評価会社」は、類似業種比準方式を原則として使えない(通達189、タックスアンサーNo.4638)。
| 該当する会社 | 原則の評価 |
|---|---|
| 比準要素数1の会社(3要素のうち直前期末で2つがゼロ、かつ直前々期末で2つ以上がゼロ) | 純資産価額方式 |
| 株式等保有特定会社・土地保有特定会社 | 純資産価額方式 |
| 開業3年未満の会社、直前期末の3要素がすべてゼロの会社 | 純資産価額方式 |
| 開業前・休業中の会社 | 純資産価額方式 |
| 清算中の会社 | 清算分配見込額 |
無配を続けている会社は要注意である。配当がゼロで、利益もゼロの期が重なると比準要素数1に落ち、評価額が跳ね上がることがある。
M&Aの価格交渉で使える場面・使えない場面
類似業種比準価額は、あくまで相続税・贈与税のための評価額である。売買価格を決めるための計算ではない。
使える場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 親族への贈与・相続で自社株を渡す | 通達評価そのものが申告の基準になる |
| 事業承継の前に、相続税負担の目安をつかむ | 株価対策(役員退職金の支給時期など)の効果を試算できる |
| 後継者や親族内での売買の「下限の目安」を考える | 税務上の時価から大きく外れた価格を避ける参考になる |
そのまま使えない場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 第三者へのM&A(株式譲渡) | 価格は将来の収益力や時価純資産、買い手の事情で交渉して決まる |
| 個人株主が法人(買い手)へ売る | 所得税基本通達59-6により、評価方法が読み替えられる |
所得税基本通達59-6は、個人が法人に株式を譲渡したときの時価を、財産評価基本通達を修正して使うよう定めている。
- 売り手が「中心的な同族株主」なら、会社は常に小会社として計算する
- 土地や上場株式は譲渡時の時価で評価する
- 純資産価額から評価差額に対する法人税額等を控除しない
つまり、相続税評価額をそのまま売買価格にすると、税務上の時価より低いと判断されるおそれがある。個人から法人への譲渡で時価の2分の1未満の対価なら、時価で譲渡したものとみなされる(所得税法59条、所得税基本通達59-3)。
親族外への承継ほど、この数字から離れて交渉が進むと考えておくのが安全である。
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よくある質問
Q1. 類似業種比準価額の業種目別株価はいつ公表されるか
国税庁の法令解釈通達で年分ごとに公表される。令和8年分は令和8年6月5日付で出され、その後の改正で月ごとの株価が追加されている。課税時期の月の数字が載っているかを確認してから計算する。
Q2. 赤字の会社は評価額がゼロになるのか
ならない。利益(c)がゼロでも、配当(b)と純資産(d)が残る。むしろ3要素のうち2つがゼロになると比準要素数1の会社となり、純資産価額方式で評価されるため、評価額が上がることがある。
Q3. M&Aで提示された買収価格が類似業種比準価額より高いのはおかしいか
おかしくない。M&Aの価格は、将来の収益や事業のシナジーを反映して交渉で決まる。相続税評価額は流通性の低さを斟酌率で割り引いた数字なので、第三者間の売買価格より低く出ることが多い。
まとめ
- 類似業種比準価額は、上場会社の株価を物差しに、配当・利益・純資産の3要素で比べる計算である
- 斟酌率とLの割合は会社規模で決まるため、判定表で規模を先に確定させる
- 中会社は純資産価額方式と併用し、Lが大きいほど類似業種比準価額の比重が上がる
- 純資産価額の法人税額等相当額は、令和8年4月1日以後の取得分から38%になった
- 第三者へのM&Aや個人から法人への譲渡では、この評価額はそのまま売買価格にならない
自社株の評価額は、承継の方法を選ぶ段階で結果が変わる。株価の試算は税理士に依頼し、M&Aを検討する場合は売買価格の考え方と分けて整理してほしい。
参考
- 国税庁「財産評価基本通達 第8章第1節 株式及び出資(178・179)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/02.htm
- 国税庁「財産評価基本通達(類似業種比準価額 180〜184)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/03.htm
- 国税庁「財産評価基本通達(純資産価額 185・186-2)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm
- 国税庁「令和8年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/r08/2606/index.htm
- 国税庁「『財産評価基本通達の一部改正について』通達のあらましについて(情報)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/r0803/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- 国税庁「所得税基本通達 法第59条関係(59-3・59-6)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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