株式移転とは、会社法上の組織再編手法の一つです。具体的には、1社あるいは2社以上の会社が発行済のすべての株式を、新規で設立する完全親会社に取得させることをいいます。組織再編にはいくつかの手法がありますが、そのなかから株式移転を採用するのはどのような場合であるのか、どのようなメリット・デメリットがある手法であるのかなど、株式移転について詳しく解説していきます。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転とは? 基本的な定義と仕組み
株式移転とは、企業が発行済の自社株のすべてを、新設する会社に取得させる組織再編手法です。
株式移転の定義は会社法第2条32号において次のように定められています。
「1または2以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう」

既存の株式会社の株主が保有する株式を新たに設立する会社へ移すことによって、その新会社は完全親会社となります。一方、完全子会社となった企業のもとの株主は、対価として完全親会社の株式を受け取ります。会社そのものを移転するのではなく、株主が持つ株式を新設会社へ移す点が特徴です。つまり、完全親会社は「持株会社」ということになります。
株式移転の2つのパターン
会社法の定義の通り、株式移転は、1社が単独で新たな親会社を設立するパターンと、2社以上が共同で新たな親会社を設立するパターンがあります。
単独株式移転
前者は、「単独株式移転」と呼ばれるパターンで、主に上場企業が持株会社体制に移行する際に用いられる手法です。
共同株式移転
後者は、「共同株式移転」と呼ばれるパターンで、複数の企業が対等な立場で経営統合を図る際に活用される手法です。たとえば、法人格やブランド、雇用関係などを各企業それぞれが維持しながら経営統合することもできます。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転の主な目的
株式移転は、主に次のような目的で利用されます。
- 持株会社(ホールディングスカンパニー)の設立
- 複数企業の対等な立場での経営統合
- 事業承継・資本政策
- グループ組織再編(親会社新設)
- グループ内での人事・財務の最適化
- 段階的な統合の検討
など
それぞれ詳しく解説していきます。
持株会社(ホールディングスカンパニー)の設立
もっとも一般的な利用例です。
株式移転によって持株会社体制に移行することによって、親会社である持株会社は経営戦略やグループ全体管理に専念して、子会社である各事業会社は、それぞれの会社の事業運営に専念することができます。
なお、上場している事業会社が株式移転で持株会社を設立すると、持株会社が上場を維持できます。
持株会社が各事業子会社を管理する体制に移行することによって、グループのコーポレートガバナンス強化・資本の効率化・迅速な意思決定などが叶います。
複数企業の対等な立場での経営統合
競合同士、あるいは補完関係にある企業同士が、対等な立場で経営統合を図りたい場合、共同株式移転の手法が活用されることがあります。
合併では1社を残して他の会社は消滅しますが、共同株式移転だとすべての会社が存続するため、対等な立場を保ちながら経営統合することが可能です。
そのため、法人格、ブランド、従業員の雇用関係などを維持しながら経営資源を統合したいときにはうってつけの選択となります。
事業承継・資本政策
オーナー企業は、後継者への承継などを目的に株式移転を利用することがあります。後継者あるいは承継先のグループなどが持株会社を設立して、承継させる予定の事業会社を完全子会社として傘下に収めることによって、承継の手続きを進めていきます。
なお、事業承継や相続への効果は個別の状況などによって異なるため、検討に当たっては税理士やM&Aの専門家などに相談することが大切です。
グループ組織再編(親会社新設)
複数の子会社を整理・統括したい場合に活用されます。
持株会社
├─ 子会社A
├─ 子会社B
└─ 子会社C
こうすることによって、経営管理を一元化しやすくなります。
グループ内での人事・財務の最適化
持株会社体制を構築すれば、グループ内で人事を最適化させやすくなります。また、グループファイナンスを整備しやすくすることを目的に持株会社体制を構築することもあります。
段階的な統合の検討
まずは共同株式移転によって持株会社を設立しておいて、その後のPMIの進捗や成否を見極めながら、事業・機能・人事などの統合をどこまで進めていくかを検討するというパターンもあります。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転と株式交換の違い
株式移転も株式交換も「会社を完全子会社化するための制度」です。ただし、「親会社を新しく作るか、既存の会社を親会社にするか」という点に大きな違いがあります。
| 項目 | 株式移転 | 株式交換 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 持株会社の設立・経営統合など | 既存会社による完全子会社化 |
| 親会社 | 新設会社 | 既存会社 |
| 既存会社の法人格 | 存続(完全子会社として) | 存続(完全子会社として) |
| 対価 | 新設親会社の株式 | 既存親会社の株式・現金・社債など |
| 複数社の統合 | ○(共同株式移転) | △(原則は1対1) |
| 主な利用場面 | ホールディングス化、共同持株会社設立など | 買収、グループ再編など |
| 手続きの特徴 | 新会社設立が必要 | 新会社設立不要 |
| コスト・手間 | 比較的大きい | 比較的小さい |
| 上場廃止について | 子会社は上場廃止になるが、代わりに新設持株会社が上場する(=上場を維持しながら持株会社体制に移行する)ケースが多い | 完全子会社は上場廃止 |
株式移転と株式交換、どちらを選ぶべきかの判断基準
株式移転と株式交換の一番の判断基準は、「何をしたいか」の目的です。
株式移転が向いているケース
株式移転が向いているケースとしては、先に典型的例として解説した通り、「複数企業で対等統合したい場合」「ホールディングス体制に移行したい場合」などが挙げられます。
株式交換が向いているケース
一方、株式交換が向いているのは次のようなケースです。
- ① 特定の会社を子会社化したい
たとえば次のような、単純なグループ化です。
C社(親会社)
↓
A社(子会社)
M&Aでもっともよく利用されます。
- ② 既存グループ内を再編したい
既に親会社が存在する場合、次のような体制に整理するために使われます。
持株会社
↓
子会社A
子会社B
- ③ 手続きをシンプルにしたい
株式交換は新会社設立が不要なため、登記、定款作成、設立関連手続きなどの必要な手続きが少ないです。
株式移転or株式交換のシンプルな判断目安
シンプルな判断目安としては次の通りです。
- 新たな持株会社を作りたい→株式移転
- 複数社を統合したい→株式移転
- 対等な経営統合をしたい→株式移転
- 既存会社を親会社にしたい→株式交換
- M&Aで子会社化したい→株式交換
- 手続きを簡単にしたい→株式交換
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転のメリット
続いては、株式移転のメリットを確認していきましょう。
持株会社体制を構築できる
株式移転の最大のメリットは、新たな持株会社を設立してグループ経営をおこなえることです。
株主
↓
持株会社
├─ 事業会社A
├─ 事業会社B
└─ 事業会社C
これによって、持株会社と子会社とで、次のように役割を分担させることができます。
持株会社:経営戦略・資本政策
子会社:事業運営
既存会社を存続させながら組織再編できる
会社上場の組織再編手法のなかには合併もありますが、株式移転の場合、合併とは異なり、子会社となる事業会社の法人格は消滅しません。
そのため、取引先との契約、許認可、ブランド、従業員との雇用関係などを維持しやすいというメリットがあります。ブランドを維持しながら経営資源を統合できることで、既存顧客を不安にさせずに済むことも大きなメリットであるといえます。
複数企業の経営統合に向いている
複数企業が新しい親会社の傘下に入ることができます。「どちらかが親会社になる」という形を避けられるため、対等な統合を演出しやすくなります。
どちらか一方が買収したことによって上下関係が生じると、従業員・取引先・株主に心理的な影響が及ぶことがありますが、その心配もありません。
さらに、PMI(M&A実施後の統合作業)が円滑に進みやすくなります。
グループ経営の効率化・ガバナンス強化
持株会社が子会社を一元管理できるため、グループ戦略の統一や資金調達の効率化、M&Aの推進、子会社管理の強化などがしやすくなります。
また、特定の事業が不採算になった場合は子会社を切り離すなど、事業ポートフォリオの組み換えも柔軟におこないやすくなります。反対に、成長事業の子会社を新たにグループに追加することなどもできます。
将来のM&A(事業の切り売り)をスムーズに進めやすくなる
将来的なM&Aを見据えた「プレM&A(準備段階)」の戦略としても株式移転は有効です。複数の事業を展開している企業が、株式移転を通じて持株会社を設立し、事業ごとに子会社を分割・整理しておけば、将来「後継者がいない特定の事業だけを第三者に売却したい」と考えた際に、該当する子会社の株式譲渡をおこなうだけでスムーズにM&Aを実行できます。事業譲渡の手法と比べて、取引先との契約や従業員の雇用、許認可などをそのまま引き継ぎやすいため、買い手にとってもリスクの少ない魅力的な買収対象となります。
上場会社でも利用しやすい
前述の通り、株式移転は、上場会社が持株会社体制へ移行する際によく利用されます。
実務上は、子会社となる事業会社の株式を新設の親会社に移転させることによって、親会社が上場を維持することになる場合が多く、株主は持株会社株式を受け取ることによって投資を継続できます。
現金調達が不要
株式移転の対価は新設される持株会社の株式であるため、現金を用意する必要がありません。キャッシュフローへの影響を最小限に抑えながら組織再編を実現できるため、大規模な経営統合においても活用されるケースが多いです。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転のデメリット・注意点
続いて、株式移転のデメリットおよび注意点もみていきます。
手続きが複雑
株式交換と異なり、必要な手続きが多く複雑です。たとえば、次のような手続きが必要です。
- 株式移転計画の作成
- 株主総会特別決議
- 持株会社設立登記
- 上場審査対応(上場会社の場合)
など
しかも、複数社が関係する共同株式移転の場合、各社の株主総会の日程調整・統合比率の合意・新設持株会社の設計などに大幅に時間がかかります。
なお、株式交換の場合、要件を満たしていれば、株主総会の承認を省いて簡易手続きとできる場合がありますが、株式移転の場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。
株式移転の実施にコストがかかる
株式移転には、主に次のようなコストがかかります。
- 弁護士費用
- 税理士費用
- 登記費用
- 証券会社への支払費用
- 上場関連費用
など
企業規模によっては、数千万円以上になることもあります。
統合後の管理コストが増加する
持株会社体制に移行後は、持株会社の運営コストが新たに発生することになるため、グループ全体で見ると、管理コストが増加するということになります。具体的には、持株会社の役員・スタッフなどの人件費・オフィス費用・法務・会計対応などのコストが必要になります。
PMIがうまくいかない場合がある
株式移転の場合、合併などとは異なり、それぞれの会社の法人格は維持されますが、経営方針・人事制度・システムなどを最低限統合させることが大切です。なぜかという、各自が「自分たちは独立した会社であって他の会社とは関係ない」という意識でいると、グループとしての一体感が生まれないためです。
また、PMIがうまくいっていないことから、グループ内の意思疎通が滞ると、かえって経営効率が悪くなる場合もあります。
グループ構造が複雑になる
持株会社が増えることで、次のような段階構造になります。
株主
↓
持株会社
↓
事業会社
その結果、次のようなことが起こる場合があります。
- 意思決定に時間がかかる
- 管理コストが増える
- 子会社との距離が広がる
少数株主から反対されることがある
株式移転には通常、株主総会の特別決議(原則として議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
株主が経営統合や持株会社化に反対した場合、手続きが難航することがあります。
(共同株式移転の場合)株主構成・議決権比率が変化する
共同株式移転の場合、それぞれの会社の株主は、交換比率に応じた割合で新設持株会社の株式を受け取ることになるため、株式移転前と比べて議決権比率が変わる場合があります。つまり、特定の株主の影響力が変わる可能性があるということです。
(上場会社の場合)上場廃止・再上場の手続きが発生することがある
上場会社が株式移転をおこなう場合、一般的に次の流れを踏むことになります。
- 既存会社は上場廃止
- 新設持株会社が上場
そうなると、投資家への説明や証券取引所との調整が必要になるため、事務負担が大きくなります。
(上場会社の場合)市場評価によって株価に影響が及ぶ場合がある
完全子会社となる会社が上場会社の場合、統合発表後に、期待されるシナジーや交換比率、統合後のガバナンス体制に対する市場評価によって、株価に影響が及ぶ可能性があります。つまり、評価が芳しくなく、株価が下落するリスクもあるということです。
なお、株価の買取価格は会社と株主との協議によって決められます。決定した株価は、株式移転の効力発生日から60日以内に支払う必要があります。市場評価の株価への影響を最小限に抑えるには、統合の目的や期待されるシナジー、交換比率などの根拠についての情報を開示して、株主と真摯に向き合って対話することが役立ちます。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転の手続きと流れ
株式移転は、一般的に次の流れで手続きを進めます。
- ① 株式移転計画の作成
- ② 事前開示書類の備置
- ③ 株主総会の特別決議
- ④ 債権者保護手続・反対株主対応
- ⑤(必要に応じて)株券提出手続き
- ⑥ 新会社(持株会社)の設立・登記
- ⑦ 事後開示書類の備置
それぞれ詳しくみていきましょう。
株式移転計画の作成
最初に「株式移転計画」を作成します。
計画書には、主に次の内容を定めます。
- 新設持株会社の商号・本店所在地・事業目的
- 発行可能株式総数
- 定款の内容
- 設立時取締役・監査役等
- 株主へ交付する持株会社株式の数
- 資本金・資本準備金の額
- 株式移転の効力発生日 など
事前開示書類の備置
株主や債権者が内容を確認できるよう、会社は事前開示書類を本店に備え置きます。
主な内容は次の通りです。
- 株式移転計画
- 株式割当の算定根拠
- 財務情報 など
備置期間は、株主総会の2週間前または株主・債権者への公告・通知日のいずれか早い時期から、効力発生日(設立日)後6カ月を経過する日までとされています。
株主総会の特別決議
株式移転完全子会社となる会社では、原則として株主総会の特別決議が必要です。
特別決議とは一般的に、次の要件を満たす必要があります。
- 議決権の過半数を有する株主が出席
- 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成
債権者保護手続・反対株主対応
反対株主への対応
株式移転に反対する株主は、株式買取請求権を行使できます。会社は一定の条件で株式を買い取る必要があります。
債権者保護手続
債権者に対して公告や催告をおこない、異議申述の機会を与えます。異議があった場合は弁済や担保提供などの対応が必要です。
(必要に応じて)株券提出手続き
完全子会社となる会社が紙の株券を発行している場合、株式移転の効力発生日の1か月前までに、株主に対して株券の提出を求める公告・通知をおこなわなければなりません。ただし、株券を発行していない場合や、すべての株主から「株券を所持していない」との申し出があった場合、この手続きは不要です。なお、2009年の株券電子化以降、上場会社は原則として紙の株券を発行していないため、上場会社の場合は株券提出手続き不要ということになります。
参照:金融庁「株券電子化が平成21年1月5日より実施されました!」
新会社(持株会社)の設立・登記
株式移転計画に定めた効力発生日に、完全親会社が設立されます。設立日から2週間以内に、完全親会社・完全子会社それぞれで登記申請をおこないます。この際、資本金や発行済株式数などを法務局に登録する必要があります。
事後開示書類の備置
効力発生後は、株式移転の結果・登記事項・実施状況などを記載した事後開示書類を備え置きます。備置期間は、設立日から6か月間です。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転の税務:①適格株式移転・非適格株式移転の判定
株式移転は、税務上、「適格株式移転」と「非適格株式移転」に区分されます。
「適格株式移転」とは、一定の要件を満たす組織再編について、税務上、“事業の継続”とみなして課税を繰り延べる制度です。非適格株式移転の場合、課税を繰り延べることができません。
適格株式移転の要件は、株式移転をおこなう企業同士の関係性によって異なり、大きく次の3パターンにわけられます。
| 類型 | 資本関係 | 主な要件 |
|---|---|---|
| ①完全支配関係 | 100%支配 | 金銭等不交付要件、株式継続保有要件 |
| ②支配関係 | 50%超~100%未満支配 | 上記+従業員業務要件+事業継続要件 |
| ③共同事業関係 | 50%以下または資本関係なし | 上記+事業関連性要件+同等規模要件または双方経営参画要件 |
- ①完全支配関係にある場合
- ②支配関係にある場合
- ③共同事業関係にある場合
それぞれ詳しく解説します。
完全支配関係にある場合:適格株式移転をおこなう企業が株式を100%保有している場合
完全支配関係にある企業が適格株式移転と認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。
- ①金銭等不交付要件
- ②株式継続保有要件
金銭等不交付要件
株式移転の完全親会社は、完全子会社に対して株式“のみ”交付する場合に適格株式移転の要件を満たします。ただし、次の場合に関しては、株式“以外”を交付しても適格株式移転と認められます。
- ①完全子会社株主の単元未満株を現金で買い取る場合
- ②株式移転の反対株主から買取請求があって、現金で買い取る場合
株式継続保有要件
株式移転前から当事会社が100%親子会社関係であるか、あるいは、当事会社に同じ親会社がいる兄弟会社関係で、株式移転後も関係が変わらない場合、適格株式移転と認められます。自社のみで株式移転をおこなう単独株式移転のケースでも、株式移転前後で親子関係が変わらない場合、適格株式移転の要件を満たすということになります。
支配関係にある場合:株式を50%超100%未満保有している場合
支配関係にある企業が適格株式移転と認められるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- ①金銭等不交付要件
- ②株式継続保有要件
- ③従業員業務要件
- ④事業継続要件
金銭等不交付要件
株式移転の完全親会社は、完全子会社に対して株式“のみ”交付する場合に適格株式移転の要件を満たします。ただし、次の場合に関しては、株式“以外”を交付しても適格株式移転と認められます。
- ①完全子会社株主の単元未満株を現金で買い取る場合
- ②株式移転の反対株主から買取請求があって、現金で買い取る場合
株式継続保有要件
株式移転前から当事会社が親子会社関係あるいは兄弟会社関係であって、株式移転後も関係が変わらない場合は適格株式移転の要件を満たします。自社だけで株式移転を行う単独株式移転のケースでも、適格株式移転の要件を満たすとされるのは株式移転前後で親子関係が変わらない場合です。
従業員業務要件
完全子会社となる企業の約80%以上の従業員が、株式移転後も同じ会社で働き続けるか、あるいは完全親会社で働き続ける場合、適格株式移転の要件を満たすことになります。“約80%以上”であればOKなので、80%を超えていなくても認められる場合があります。
事業継続要件
完全子会社となる企業のメイン事業が、株式移転後もメイン事業として引き続き経営される場合、適格株式移転の要件を満たします。
共同事業関係にある場合:株式保有率が50%以下保の関係(資本関係がない場合も含む)
共同事業関係にある企業が適格株式移転を適用するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- ①金銭等不交付要件
- ②株式移転完全子会社の株主の株式継続保有要件
- ③株式移転完全親会社の株式継続保有要件
- ④従業員業務要件
- ⑤事業継続要件
- ⑥事業関連性要件
- ⑦同等規模要件、もしくは双方経営参画要件
金銭等不交付要件
株式移転の完全親会社は、完全子会社に対して株式“のみ”交付する場合に適格株式移転の要件を満たします。ただし、次の場合に関しては、株式“以外”を交付しても適格株式移転と認められます。
- ①完全子会社株主の単元未満株を現金で買い取る場合
- ②株式移転の反対株主から買取請求があって、現金で買い取る場合
株式移転完全子会社の株主の株式継続保有要件
完全子会社となる企業の株式を20%以上保有している支配株主が、株式移転で完全親会社から株式を交付された後も、株式の売却などをおこなうことなく保有し続けている場合、適格株式移転の要件を満たします。
株式移転完全親会社の株式継続保有要件
完全親会社と完全子会社の関係が株式移転後も続くことが明確な場合、適格株式移転の要件を満たします。
従業員業務要件
完全子会社となる企業の約8割以上の従業員が株式移転後もそのまま同じ会社に従事するか、完全親会社で働き続ける場合は、適格株式移転の要件を満たします。
事業継続要件
完全子会社となる企業のメイン事業が、株式移転後もメイン事業として引き続き経営される場合は、適格株式移転の要件を満たします。
事業関連性要件
株式移転によって完全子会社となる企業同士のメイン事業が同業種であるか、事業をおこなううえで欠かせない関係である場合、適格株式移転の要件を満たします。
選択要件(同等規模要件もしくは双方経営参画要件)
選択要件は、同等規模要件あるいは双方経営参画要件のいずれかに該当している必要があります。
完全子会社となる企業同士の売上高や従業員数を比較した場合に、その数に5倍以上の差がなければ、適格株式移転の要件を満たします。これを「同等規模要件」といいます。
株式移転前の完全子会社で、社外取締役などの外部役員ではなく、自社の経営に直接関わっている「特定役員」が、株式移転後、同じ会社に1人でも残っていれば適格株式移転の要件を満たします。これを「双方経営参画要件」といいます。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転の税務:②適格株式移転の場合・非適格株式移転の場合
適格株式移転の要件を確認したところで、続いて、適格株式移転の場合と非適格株式移転の場合の税務について説明していきます。
適格株式移転の場合、非適格株式移転の場合それぞれについて、次の3つの主体に課される税務を解説していきます。
- ①株式移転完全親会社の税務
- ②株式移転完全子会社の税務
- ③株式移転完全子会社の旧株主の税務
【適格株式移転・非適格株式移転の税務比較】
| 対象者 | 適格株式移転 | 非適格株式移転 |
|---|---|---|
| 株式移転完全親会社 | 完全子会社株式の取得価額は、・株主数50人未満:簿価+取得費用等・株主数50人以上:簿価純資産価額+取得費用等 | 完全子会社株式の取得価額は、株式移転完全親会社設立時の時価で算定 |
| 株式移転完全子会社 | 資本金等に変動がないため、原則として課税関係なし | 一定の資産について時価評価が行われ、評価損益を損益計上する必要がある |
| 株式移転完全子会社の旧株主 | 対価が親会社株式のみなら課税なし(簿価引継ぎ) | 適格・非適格にかかわらず、対価の内容によって課税関係が決まる |
【株式移転完全子会社の旧株主に対する課税】
| 受け取る対価 | 税務上の取扱い |
|---|---|
| 株式のみ | 簿価で引き継がれるため、譲渡益は認識されず課税なし |
| 株式以外(現金等)も受領 | 株式以外の部分は時価で譲渡したものとみなされ、その部分について譲渡損益課税が発生 |
株式移転完全親会社の税務。
適格株式移転の場合
適格株式移転によって、完全親会社が完全子会社の株主から株式を取得する場合、完全子会社の株主の人数によって取得価額が変わります。
- 完全子会社の株主数が50人未満の場合
簿価に株式取得にかかった費用などを加えて算出します。
- 完全子会社の株主数が50人以上の場合
簿価純資産に株式の取得にかかった費用などを加えて算出します。
非適格株式移転の場合
非適格株式移転の場合で、完全親会社が完全子会社の株主から株式を取得する場合の取得価額算出にはは、完全親会社設立日の時価を用います。
株式移転完全子会社の税務
適格株式移転の場合
適格株式移転の場合、完全子会社の資本金などは株式移転前後で変わることがないため、税務は発生しません。
非適格株式移転の場合
非適格株式移転の場合、完全子会社の資産の一部を時価評価します。なお、時価評価された資産は損益算入する必要があります。
株式移転完全子会社の旧株主の税務
株主に対する課税は、適格株式移転/非適格株式移転に関係なく、「完全親会社から交付されたものは株式のみか、あるいは株式以外の交付もあったか」によって異なります。
対価が株式のみの場合
完全子会社株主が、完全親会社から受け取った対価が株式のみの場合、簿価での引き継ぎとなるため、株主には課税されません。
株式以外にも対価があった場合
完全子会社株主が、完全親会社から株式交付以外にも対価を受け取った場合、株式以外の対価については“時価での取得”とみなされるため、譲渡損益による課税が発生します。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
適格株式移転の税務メリット
先に解説した通り、適格株式移転とは、一定の要件を満たす組織再編について、税務上、“事業の継続”とみなして課税を繰り延べる制度です。
主なメリットは次のとおりです。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 含み益への課税を繰り延べできる | 完全子会社の保有資産に含み益があっても、株式移転時点では課税されない |
| 資産の時価評価が不要 | 非適格株式移転のような時価評価課税が発生しない |
| 法人税負担を抑えられる | 組織再編時に多額の法人税が発生することを防ぐことができる |
| ホールディングス化を円滑に進められる | オーナー企業の持株会社化やグループ再編を、税負担を抑えて実施することができる |
| 資金流出を防げる | 納税資金を確保する必要がないため、再編後の事業投資や運転資金に資金を回せる |
(具体例)
たとえば、帳簿価額1億円・時価3億円の土地を保有する会社が株式移転をおこなう場合、
- 適格株式移転 → 土地の含み益2億円に課税されない
- 非適格株式移転 → 含み益2億円に課税される可能性がある
このため、グループ再編や持株会社設立では適格要件を満たすことが重要になります。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
非適格株式移転の税務リスク
非適格株式移転と判定されると、税務上は実質的な資産譲渡に近い取扱いとなることから、さまざまな課税が発生する可能性があります。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 資産の時価評価課税 | 保有資産の含み益が実現したものとみなされる場合がある |
| 法人税負担の発生 | 時価評価によって生じた利益に法人税等が課税される |
| 想定外の納税資金が必要になる | 現金収入がないにもかかわらず納税が必要になることがある |
| 組織再編コストが増加する | 税負担により再編の経済的メリットが小さくなる |
| 株主に譲渡益課税が発生する可能性 | 株式以外の対価(現金など)が交付された場合、株主に課税されることがある |
(具体例)
A社株式
- 簿価:1億円
- 時価:10億円
↓ 非適格株式移転
持株会社H設立
⇒ 9億円の譲渡益が認識される
法人税等の課税対象となる
この場合、かなりの課税額となります。そのため、株式移転を実施する際は、事前に税理士や公認会計士とともに適格要件を確認して、税務上の取扱いを十分に検討することが重要です。
なお、適格株式移転、非適格株式移転の主な違いをまとめると次の表の通りです。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 資産の時価評価課税 | 保有資産の含み益が実現したものとみなされる場合がある |
| 法人税負担の発生 | 時価評価によって生じた利益に法人税等が課税される |
| 想定外の納税資金が必要になる | 現金収入がないにもかかわらず納税が必要になることがある |
| 組織再編コストが増加する | 税負担により再編の経済的メリットが小さくなる |
| 株主に譲渡益課税が発生する可能性 | 株式以外の対価(現金など)が交付された場合、株主に課税されることがある |
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
中小企業が株式移転を検討すべきケースと注意点
株式移転は、既存会社の上に新たな持株会社を設立する組織再編手法です。特に、オーナー企業や同族企業では、次のような場面で活用されます。
| ケース | 株式移転を検討する理由 |
|---|---|
| ホールディングス化したい場合 | 持株会社を設立し、グループ経営を行いやすくするため |
| 事業承継を進めたい場合 | 後継者に持株会社株式を承継することで、グループ全体の経営権をまとめて引き継ぎやすくなる |
| 複数事業を整理したい場合 | 事業ごとに子会社化して、管理・責任体制を明確にできる |
| M&Aを見据えている場合 | 買収や売却を子会社単位でおこないやすくなる |
| グループ会社が増えてきた場合 | 経営管理機能を持株会社に集約できる |
| 資金調達を柔軟にしたい場合 | 持株会社と事業会社をわけることで、資本政策を立てやすくなる |
株式移転の注意点
中小企業が株式移転を検討する場合、次の点に注意することが大切です。
適格要件を満たさないと税負担が発生する
適格株式移転に該当すれば課税が繰り延べられますが、非適格となると時価課税が発生する場合があります。特に、株式以外の対価を交付するケースや、要件判定を誤るケースには注意が必要です。
手続きが比較的複雑
株式移転では、次のような手続きが必要になります。
- 株式移転計画の作成
- 株主総会特別決議
- 債権者保護手続(不要な場合もある)
- 登記申請 など
そのため、通常の会社設立よりも専門家の関与が必要になることが多いです。
持株会社の維持コストが発生する
持株会社を設立すると、次のような管理コストが増加します。
- 法人住民税均等割
- 会計・税務申告
- 株主総会開催
そのため、グループ規模が小さい場合は、メリットよりコストが上回ることもあります。
金融機関との調整が必要になる
融資を受けている状態で、株式移転の実施、持株会社設立をおこなう場合、事前説明を求められることがあります。契約内容によっては承諾が必要なケースもあります。
人員の異動(転籍・出向)と許認可の取り消しリスクに注意する
株式移転において事業会社の法人格は存続するため、事業用の契約や許認可は基本的に引き継がれます。しかし、新設した持株会社でグループ管理をおこなうためには、事業会社から経営陣や管理部門のスタッフを異動(転籍または出向)させる実務が発生します。
ここで最大の注意点となるのが許認可への影響です。たとえば、建設業や宅地建物取引業など特定の事業において、「経営業務の管理責任者」や「専任の技術者」として登録されている人材を持株会社へ異動させてしまうと、事業会社の要件を満たせなくなり、許認可が取り消されるという致命的なリスクがあります。また、従業員を転籍・出向させる際の人事制度の整備や労働条件のすり合わせも必要になるため、組織図の設計段階で法務・労務面の入念な確認が欠かせません。
中小企業が株式移転を検討する際のチェックリスト
中小企業が株式移転を検討する際には、まずは次の項目についてチェックすることが大切です。
□ 目的が明確か :事業承継、グループ化、M&A準備などについて確認します
□ 適格株式移転の要件を満たすか:税務上の課税繰延べが可能であるかを確認します
□ 持株会社設立後のメリットがあるか:単なる会社増設になるようではメリットがあるとはいえません
□ 維持コストを負担できるか:税務・法務・管理コストが増大する場合があります
□ 金融機関との調整が必要か:融資契約を見直す必要があります
□ 将来のグループ戦略に合っているか:M&Aや事業承継の計画との整合性についても考えます
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
ジョブカンM&Aなら、専任アドバイザーに無料で壁打ちできます。「まだ具体的じゃないけど話を聞きたい」でもOK。
株式移転の実施判断は慎重に!
株式移転は、事業承継を見据えてホールディングス化を進めたい場合や、複数事業を束ねるグループ経営に移行したい場合などに有効な手段です。ただし、ここまで解説してきた通り、持株会社をつくることによって得られるメリットが限定的なこともあるため、税務・法務・経営面を総合的に検討して判断することが重要です。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
他の関連記事はこちら