相続時精算課税制度のデメリット|自社株の承継で「暦年贈与」と使い分ける境界線

自社株を後継者に渡すとき、多くの経営者が最初に検討するのが贈与です。
その贈与に使える課税方式は2つあり、一度選ぶと戻れないほうを選んでしまうと、
後から取り返しがつきません。

2024年1月から相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が設けられ、
使い勝手が大きく変わりました。同時に、暦年課税のほうも
相続前の加算期間が3年から7年へ延長される改正が入っています。

この記事では、相続時精算課税のデメリットを具体的に示したうえで、
どちらを選ぶべきかの境界線を整理します。

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目次
  1. 相続時精算課税制度の仕組み
  2. デメリットは5つある
    1. 1. 一度選ぶと暦年課税に戻れない
    2. 2. 贈与時の価額で相続財産に加算される
    3. 3. 小規模宅地等の特例が使えなくなる
    4. 4. 相続時に必ず精算される
    5. 5. 申告の手間が続く
  3. 暦年課税との比較
  4. 自社株の承継でどちらを選ぶか——3つの境界線
    1. 相続時精算課税が向くケース
    2. 暦年課税が向くケース
    3. そもそも贈与以外を検討すべきケース
  5. よくある質問
  6. まとめ
  7. 参考

相続時精算課税制度の仕組み

相続時精算課税制度は、生前の贈与について贈与税を軽くしておき、
相続のときにまとめて精算する方式です。

項目 内容
贈与者 60歳以上の父母・祖父母
受贈者 18歳以上の子・孫(推定相続人である子など)
特別控除 累計2,500万円まで贈与税がかからない
基礎控除 年110万円(2024年1月1日以降の贈与から)
2,500万円超の部分 一律20%の贈与税
相続時 贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算

2024年からの基礎控除の新設が大きな変更点です。
年110万円までの贈与は、相続財産への加算対象になりません。
それ以前は、精算課税を選ぶと少額の贈与もすべて加算対象だったため、
この改正で使いやすさは明確に上がりました。

デメリットは5つある

1. 一度選ぶと暦年課税に戻れない

最大のデメリットです。
相続時精算課税を選択する届出を出すと、
その贈与者からの贈与について、以後ずっとこの方式が適用されます。
撤回できません。

「今年だけ精算課税で大きく渡して、来年から暦年贈与に戻す」ということはできません。

2. 贈与時の価額で相続財産に加算される

相続時に加算されるのは、贈与したときの価額です。
相続時点の価額ではありません。

これは有利にも不利にもなります。

  • 株価が上がった場合 → 低い価額で固定できるため有利
  • 株価が下がった場合 → 高い価額のまま加算されるため不利

自社株は業績で変動します。
業績が伸びる見込みの会社なら有利に働き、
業績が落ちる局面で渡すと不利になる
——ここが判断の分かれ目です。

なお2024年の改正で、贈与を受けた土地・建物が災害で一定以上の被害を受けた場合に
再計算できる措置が設けられていますが、株式は対象ではありません。

3. 小規模宅地等の特例が使えなくなる

相続時精算課税で贈与した宅地には、
小規模宅地等の特例(評価額を最大80%減額)が適用できません。

事業用の土地・建物を会社ではなく個人で保有しているケースでは、
この影響が大きく出ることがあります。
自社株だけを精算課税で渡し、不動産は相続で渡すという切り分けが必要になる場面です。

4. 相続時に必ず精算される

「贈与税がかからなかった=税負担が無くなった」ではありません。
相続税の計算で必ず戻ってきます。
節税ではなく、課税の繰り延べと理解しておく必要があります。

ただし、贈与時に納めた贈与税は相続税から控除され、
控除しきれない分は還付されます。

5. 申告の手間が続く

基礎控除110万円以内の贈与であれば申告は不要ですが、
それを超える贈与があった年は、贈与税額がゼロでも申告が必要です。
申告を忘れると特別控除が使えず、20%の贈与税が課される場合があります。

暦年課税との比較

相続時精算課税 暦年課税
基礎控除 年110万円 年110万円
特別控除 累計2,500万円 なし
税率 2,500万円超は一律20% 超過累進(10〜55%)
相続財産への加算 贈与時の価額で全額(基礎控除分を除く) 相続開始前7年以内の贈与(段階的に延長)
変更 不可 —
小規模宅地等の特例 使えない 使える

暦年課税の側も、2024年1月1日以降の贈与から、
相続財産への加算期間が3年から7年へ段階的に延長されています。
延長された4年間分については、合計100万円まで加算しない扱いです。

「暦年贈与でコツコツ渡す」戦略の効きは、以前より弱くなっています。
この改正が、精算課税の相対的な有利さを押し上げた面があります。

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自社株の承継でどちらを選ぶか——3つの境界線

相続時精算課税が向くケース

  • 株価が今後上がる見込みがある — 低い価額で固定できる
  • 一度にまとまった株数を渡したい — 議決権を早く集中させたい
  • 後継者が確定している — 撤回できないため、渡す相手が決まっていることが前提
  • 贈与者の年齢が高く、長期の暦年贈与を続ける時間が無い

暦年課税が向くケース

  • 相続まで十分な時間がある — 7年の加算期間を過ぎるだけの年数を確保できる
  • 渡す相手が複数いる、または未確定 — 柔軟性を保ちたい
  • 事業用の不動産を個人で保有している — 小規模宅地等の特例を残したい
  • 株価が下がる局面にある — 低い価額のときに少しずつ渡す

そもそも贈与以外を検討すべきケース

  • 後継者に株を買い取る資金がない、かつ納税資金も無い →
    事業承継税制(納税猶予)の検討が先になります
  • 親族に後継者がいない → 贈与の議論ではなく、
    第三者への譲渡(M&A)が選択肢になります
  • 経営者本人が引退時期を決めていない →
    税制の選択より先に、いつ何を渡すかの計画が必要です

3つ目は実際に多い状況です。
税制の比較を始める前に、「誰に・いつ・何を」が決まっているかを確認してください。
ここが未確定のまま撤回できない制度を選ぶことが、最も避けたい失敗です。

よくある質問

Q. 相続時精算課税を選んだ後で、やめることはできますか。

できません。その贈与者からの贈与については、以後ずっと適用されます。
ただし、贈与者ごとに選択できるため、
父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税、という使い分けは可能です。

Q. 2,500万円を超えたらどうなりますか。

超えた部分に一律20%の贈与税がかかります。
納めた贈与税は相続税から控除され、控除しきれない分は還付されます。

Q. 事業承継税制とは併用できますか。

事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予)は、
相続時精算課税と組み合わせて適用することができます。
制度の要件が細かいため、適用の可否は個別に確認が必要です。

Q. 株価が下がってから渡したほうが有利ですか。

一般的にはそうなりますが、
株価が下がる局面は業績が悪い局面でもあります。
承継の時期は税額だけでなく、事業の状態と後継者の準備状況を含めて判断する必要があります。

Q. 税理士に相談する前に何を準備すればよいですか。

①株主構成(誰が何株持っているか)②直近3期の決算書
③後継者が決まっているか ④個人で保有している事業用資産の有無
——この4点が揃っていれば、具体的な比較ができます。

まとめ

  • 相続時精算課税は課税の繰り延べであり、節税策ではない
  • デメリットは①撤回できない ②贈与時の価額で加算される
    ③小規模宅地等の特例が使えない ④必ず精算される ⑤申告の手間
    の5つ
  • 2024年から年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手は改善した
  • 一方で暦年課税は加算期間が3年→7年へ延長され、相対的に不利になった
  • 自社株では株価が上がる見込みなら精算課税、時間があるなら暦年課税が基本線
  • 後継者が未確定なら、制度選択より先に承継計画を決める

なお、税制の適用は個別の状況で結論が変わります。
実行の前には、必ず税理士など専門家の確認を受けてください。

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参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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