自社株を後継者に渡すとき、多くの経営者が最初に検討するのが贈与です。
その贈与に使える課税方式は2つあり、一度選ぶと戻れないほうを選んでしまうと、
後から取り返しがつきません。
2024年1月から相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が設けられ、
使い勝手が大きく変わりました。同時に、暦年課税のほうも
相続前の加算期間が3年から7年へ延長される改正が入っています。
この記事では、相続時精算課税のデメリットを具体的に示したうえで、
どちらを選ぶべきかの境界線を整理します。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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相続時精算課税制度の仕組み
相続時精算課税制度は、生前の贈与について贈与税を軽くしておき、
相続のときにまとめて精算する方式です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 贈与者 | 60歳以上の父母・祖父母 |
| 受贈者 | 18歳以上の子・孫(推定相続人である子など) |
| 特別控除 | 累計2,500万円まで贈与税がかからない |
| 基礎控除 | 年110万円(2024年1月1日以降の贈与から) |
| 2,500万円超の部分 | 一律20%の贈与税 |
| 相続時 | 贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算 |
2024年からの基礎控除の新設が大きな変更点です。
年110万円までの贈与は、相続財産への加算対象になりません。
それ以前は、精算課税を選ぶと少額の贈与もすべて加算対象だったため、
この改正で使いやすさは明確に上がりました。
デメリットは5つある
1. 一度選ぶと暦年課税に戻れない
最大のデメリットです。
相続時精算課税を選択する届出を出すと、
その贈与者からの贈与について、以後ずっとこの方式が適用されます。
撤回できません。
「今年だけ精算課税で大きく渡して、来年から暦年贈与に戻す」ということはできません。
2. 贈与時の価額で相続財産に加算される
相続時に加算されるのは、贈与したときの価額です。
相続時点の価額ではありません。
これは有利にも不利にもなります。
- 株価が上がった場合 → 低い価額で固定できるため有利
- 株価が下がった場合 → 高い価額のまま加算されるため不利
自社株は業績で変動します。
業績が伸びる見込みの会社なら有利に働き、
業績が落ちる局面で渡すと不利になる——ここが判断の分かれ目です。
なお2024年の改正で、贈与を受けた土地・建物が災害で一定以上の被害を受けた場合に
再計算できる措置が設けられていますが、株式は対象ではありません。
3. 小規模宅地等の特例が使えなくなる
相続時精算課税で贈与した宅地には、
小規模宅地等の特例(評価額を最大80%減額)が適用できません。
事業用の土地・建物を会社ではなく個人で保有しているケースでは、
この影響が大きく出ることがあります。
自社株だけを精算課税で渡し、不動産は相続で渡すという切り分けが必要になる場面です。
4. 相続時に必ず精算される
「贈与税がかからなかった=税負担が無くなった」ではありません。
相続税の計算で必ず戻ってきます。
節税ではなく、課税の繰り延べと理解しておく必要があります。
ただし、贈与時に納めた贈与税は相続税から控除され、
控除しきれない分は還付されます。
5. 申告の手間が続く
基礎控除110万円以内の贈与であれば申告は不要ですが、
それを超える贈与があった年は、贈与税額がゼロでも申告が必要です。
申告を忘れると特別控除が使えず、20%の贈与税が課される場合があります。
暦年課税との比較
| 相続時精算課税 | 暦年課税 | |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 年110万円 | 年110万円 |
| 特別控除 | 累計2,500万円 | なし |
| 税率 | 2,500万円超は一律20% | 超過累進(10〜55%) |
| 相続財産への加算 | 贈与時の価額で全額(基礎控除分を除く) | 相続開始前7年以内の贈与(段階的に延長) |
| 変更 | 不可 | — |
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 使える |
暦年課税の側も、2024年1月1日以降の贈与から、
相続財産への加算期間が3年から7年へ段階的に延長されています。
延長された4年間分については、合計100万円まで加算しない扱いです。
「暦年贈与でコツコツ渡す」戦略の効きは、以前より弱くなっています。
この改正が、精算課税の相対的な有利さを押し上げた面があります。
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自社株の承継でどちらを選ぶか——3つの境界線
相続時精算課税が向くケース
- 株価が今後上がる見込みがある — 低い価額で固定できる
- 一度にまとまった株数を渡したい — 議決権を早く集中させたい
- 後継者が確定している — 撤回できないため、渡す相手が決まっていることが前提
- 贈与者の年齢が高く、長期の暦年贈与を続ける時間が無い
暦年課税が向くケース
- 相続まで十分な時間がある — 7年の加算期間を過ぎるだけの年数を確保できる
- 渡す相手が複数いる、または未確定 — 柔軟性を保ちたい
- 事業用の不動産を個人で保有している — 小規模宅地等の特例を残したい
- 株価が下がる局面にある — 低い価額のときに少しずつ渡す
そもそも贈与以外を検討すべきケース
- 後継者に株を買い取る資金がない、かつ納税資金も無い →
事業承継税制(納税猶予)の検討が先になります - 親族に後継者がいない → 贈与の議論ではなく、
第三者への譲渡(M&A)が選択肢になります - 経営者本人が引退時期を決めていない →
税制の選択より先に、いつ何を渡すかの計画が必要です
3つ目は実際に多い状況です。
税制の比較を始める前に、「誰に・いつ・何を」が決まっているかを確認してください。
ここが未確定のまま撤回できない制度を選ぶことが、最も避けたい失敗です。
よくある質問
Q. 相続時精算課税を選んだ後で、やめることはできますか。
できません。その贈与者からの贈与については、以後ずっと適用されます。
ただし、贈与者ごとに選択できるため、
父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税、という使い分けは可能です。
Q. 2,500万円を超えたらどうなりますか。
超えた部分に一律20%の贈与税がかかります。
納めた贈与税は相続税から控除され、控除しきれない分は還付されます。
Q. 事業承継税制とは併用できますか。
事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予)は、
相続時精算課税と組み合わせて適用することができます。
制度の要件が細かいため、適用の可否は個別に確認が必要です。
Q. 株価が下がってから渡したほうが有利ですか。
一般的にはそうなりますが、
株価が下がる局面は業績が悪い局面でもあります。
承継の時期は税額だけでなく、事業の状態と後継者の準備状況を含めて判断する必要があります。
Q. 税理士に相談する前に何を準備すればよいですか。
①株主構成(誰が何株持っているか)②直近3期の決算書
③後継者が決まっているか ④個人で保有している事業用資産の有無
——この4点が揃っていれば、具体的な比較ができます。
まとめ
- 相続時精算課税は課税の繰り延べであり、節税策ではない
- デメリットは①撤回できない ②贈与時の価額で加算される
③小規模宅地等の特例が使えない ④必ず精算される ⑤申告の手間の5つ - 2024年から年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手は改善した
- 一方で暦年課税は加算期間が3年→7年へ延長され、相対的に不利になった
- 自社株では株価が上がる見込みなら精算課税、時間があるなら暦年課税が基本線
- 後継者が未確定なら、制度選択より先に承継計画を決める
なお、税制の適用は個別の状況で結論が変わります。
実行の前には、必ず税理士など専門家の確認を受けてください。
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参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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