病院のM&Aは何が違うのか|許可病床・医療法人・非営利性という3つの制約

病院のM&Aは、一般企業のM&Aと同じようには進みません。株式を買えば会社が手に入る、という構造がそもそも成立しないからです。

医療法人には株式がありません。病床は行政の許可がないと増やせません。そして医療法人は非営利法人であり、利益の配当が禁じられています。この3つが、病院M&Aの形を決めています。

この記事では、病院M&Aで実際に取られる手法と、どの条件ならどの手法を採るのかを整理します。

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目次
  1. 前提:日本の病院は「中小の医療法人」が主力
  2. 3つの制約が手法を決める
    1. ① 医療法人に株式がない
    2. ② 許可病床は増やせない
    3. ③ 医療法人は非営利
  3. 実際に取られる4つの手法
    1. ① 出資持分の譲渡 ── 持分あり医療法人で、法人ごと引き継ぐ場合
    2. ② 社員・理事の交代 ── 持分なし医療法人の場合
    3. ③ 事業譲渡 ── 引き継ぐ範囲を選びたい場合
    4. ④ 合併 ── 2つの医療法人を1つにする場合
    5. 手法の選び方
  4. まだ動かなくてよい病院もある
  5. 病院M&Aで特に確認されること
  6. よくある質問
  7. まとめ
  8. 参考

前提:日本の病院は「中小の医療法人」が主力

厚生労働省 関東信越厚生局が公開している「保険医療機関・保険薬局の指定状況(コード内容別一覧表)」から、関東信越10都県の現存する病院2,259件(地域医療支援病院・特定機能病院を含む)を集計しました。

開設者 件数 割合
医療法人 1,613件 71.4%
公的・自治体 356件 15.8%
公益法人等 161件 7.1%
その他・個人 78件 3.5%
大学 43件 1.9%

7割が医療法人です。そして規模は小さく、53.2%が99床以下、常勤医師数は中央値8人です。

さらに、医療法人が開設する病院の49.5%(798件)が、保険医療機関の指定から30年以上を経過しています。建物の更新期と経営者の交代期が重なっている病院が、民間病院のおよそ半数を占めます。

病院M&Aの実務は、この「中小の医療法人」をどう引き継ぐかという話になります。

3つの制約が手法を決める

① 医療法人に株式がない

株式会社なら株式を買えば経営権が移ります。医療法人にはこれがありません。

医療法人は、設立時期で2つに分かれます。

種類 設立時期 引き継ぎの形
持分あり医療法人 2007年3月以前 出資持分の譲渡。持分に財産的価値がある
持分なし医療法人 2007年4月以降 社員の入れ替えと役員交代。持分が存在しない

2007年の医療法改正で、新設される医療法人はすべて持分なしになりました。それ以前に設立された持分あり法人は「経過措置型」として残っていますが、新たに設立することはできません。

この違いが、M&Aの形をまったく変えます。持分あり法人なら、持分を買うことで実質的な支配権が移ります。持分なし法人では買う対象が存在しないため、社員総会の構成を入れ替え、理事長を交代させるという形になります。対価は、退職金や事業譲渡の代金として設計されます。

② 許可病床は増やせない

病床は、都道府県が地域ごとに「基準病床数」を定めており、既に基準を超えている地域では新規の許可が下りません。日本の多くの地域がこの状態にあります。

つまり、病床が欲しければ、既にある病院を引き継ぐしかない。これが病院M&Aの最大の動機です。

「建物は古く、赤字が続いている病院に買い手が付く」という現象は、この構造から説明できます。買われているのは建物でも収益でもなく、許可病床です。

③ 医療法人は非営利

医療法人は剰余金の配当が禁止されています。株主に利益を還元するという設計になっていないため、投資回収の考え方が一般企業と違います。

買い手が得るのは、配当ではなく事業そのものです。自法人のグループに組み込み、患者の流れや人材配置を最適化することで価値を出します。

また、役員は医師でなくてもよいが、理事長は原則として医師または歯科医師でなければなりません(都道府県知事の認可があれば例外あり)。この点も、買い手の候補を限定します。

実際に取られる4つの手法

どれが優れているという順位はありません。法人の種類と、引き継ぎたい範囲で決まります。

① 出資持分の譲渡 ── 持分あり医療法人で、法人ごと引き継ぐ場合

最も手続きが軽い形です。持分を譲り受けることで、法人の資産・負債・許認可がそのまま移ります。

引き継がれる 注意点
保険医療機関の指定 取り直し不要
許可病床 そのまま
施設基準の届出 原則そのまま
職員の雇用契約 継続
借入金・未払金 これも引き継ぐ

負債も簿外債務も一緒に移るため、デューデリジェンスの重要度が最も高い手法です。未払残業代、係争中の医療事故、設備の更新義務などが後から出てくることがあります。

② 社員・理事の交代 ── 持分なし医療法人の場合

持分が存在しないため、法人の意思決定機関である社員総会の構成を入れ替え、理事長を交代させます。

対価の設計が独特です。持分を買うわけではないので、前理事長への退職金という形をとることが一般的です。この金額が過大だと税務上の問題になるため、役員退職金規程と勤続年数に基づく合理的な水準に収める必要があります。

手続き自体は軽い(登記と届出)ものの、対価の設計に専門的な検討がいります。

③ 事業譲渡 ── 引き継ぐ範囲を選びたい場合

病院という事業単位で、資産と契約を個別に移す形です。

引き継ぐものを選べるのが最大の利点です。不要な資産、簿外債務のリスクを切り離せます。

一方で手続きは最も重くなります。保険医療機関の指定は取り直し、施設基準は届け直し、職員は再雇用、契約は個別に巻き直し。病床の承継にも別途の手続きが必要です。

④ 合併 ── 2つの医療法人を1つにする場合

医療法人同士が統合する形です。都道府県知事の認可が必要で、手続きに数か月から1年かかります。

機能が補完関係にある場合に効果が出ます。急性期と回復期、あるいは病院と介護施設のように、患者の流れが繋がる組み合わせです。同じ機能の病院同士が合併しても、病床が増えるだけで効率は上がりません。

手法の選び方

状況 適した手法
持分あり法人・法人ごと引き継ぎたい ① 出資持分の譲渡
持分なし法人 ② 社員・理事の交代
簿外債務のリスクを避けたい ③ 事業譲渡
2法人を統合して規模の効果を出したい ④ 合併
上のどれも急がない まだ動かなくてよい(下記)

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まだ動かなくてよい病院もある

次の条件が揃っているなら、いまM&Aを検討する必要はありません。

  • 建物の更新が10年以上先で、修繕の目処が立っている
  • 常勤医が5人以上いて、当直体制に余裕がある
  • 後継者となる医師が院内または親族にいる
  • 商圏人口が横ばい以上

この段階で相談しても、判断材料が揃わないため話が前に進みません。先にやるべきは、建物の更新時期と必要額を出すこと、常勤医の年齢構成を確認することです。

病院M&Aで特に確認されること

買い手側が必ず見る項目です。売り手として先に整理しておくと、話が早く進みます。

① 許可病床と稼働状況。許可病床数、実稼働病床数、病床機能(急性期・回復期・慢性期)、直近の稼働率。

② 施設基準の届出状況。どの基準を届け出ているか。人員配置要件を満たし続けられるか。基準を満たせなくなると収入が直接減るため、最重要項目のひとつです。

③ 常勤医の年齢と契約形態。5年後に何人残るか。特定の医師に依存している診療科はどれか。

④ 建物の状態と更新時期。築年数、耐震診断の有無、大規模改修の要否と概算費用。

⑤ 借入金と担保設定。残高、返済スケジュール、担保に入っている資産。持分譲渡なら、これらもそのまま引き継ぎます。

⑥ 未整理の債務・係争。未払残業代、医療事故の係争、行政指導の履歴。

よくある質問

Q. 赤字の病院でも買い手は付きますか。

許可病床があれば付くことがあります。基準病床数を超えた地域では、病床を新規に取得できないためです。ただし赤字の理由が商圏人口の減少による構造的なものであれば、承継後も改善しません。建物の減価償却や一時的な医師の欠員による赤字は、体制を整えれば改善する見込みとして評価されます。

Q. 持分なし法人は売れないのですか。

売れます。ただし「持分を売る」形にはならず、社員の入れ替えと役員交代、そして退職金による精算が中心になります。評価の考え方が持分あり法人とまったく違うため、早い段階で整理してください。

Q. 職員の雇用は守られますか。

出資持分の譲渡と社員交代では、雇用契約はそのまま継続します。事業譲渡では原則として再雇用の形になります。いずれの場合も、医師・看護師が残ることは買い手にとって最大の価値であるため、条件に含まれることが一般的です。

Q. 理事長が医師でなければならないのはなぜですか。

医療法により、医療法人の理事長は原則として医師または歯科医師と定められています。都道府県知事の認可を受ければ非医師でも就任できますが、その分だけ買い手の候補は限られます。

Q. どれくらいの期間がかかりますか。

出資持分の譲渡なら6か月〜1年、事業譲渡は1年以上、合併は認可を含めて1年〜1年半が目安です。デューデリジェンスの結果によって延びます。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

  • 病院の71.4%は医療法人が開設。53.2%が99床以下、常勤医は中央値8人
  • 医療法人が開設する病院の49.5%が指定から30年以上。建物と経営者が同時に更新期にある
  • 病院M&Aを規定するのは3つの制約 ── 株式がない/許可病床は増やせない/非営利で配当できない
  • 買われているのは許可病床であることが多い。基準病床数を超えた地域では新規取得ができないため
  • 手法は4つ。持分ありなら持分譲渡、持分なしなら社員・理事の交代、範囲を選ぶなら事業譲渡、統合なら合併
  • 持分譲渡は手続きが軽い代わりに負債も簿外債務も引き継ぐ。デューデリジェンスの重要度が最も高い
  • 建物の更新が10年以上先で常勤医5人以上なら、いま動かなくてよい

参考

ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部

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