株価は「市場で付いている値段」と説明されます。上場企業ならそのとおりです。しかし日本の会社の大半は非上場で、市場価格が存在しません。
にもかかわらず、事業承継でも、M&Aでも、相続でも、自社株には必ず値段が必要になります。そして同じ会社なのに、目的によって異なる金額が出る——ここが非上場株の株価の本質です。
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上場株の株価 — 市場が決める
上場企業の株価は、証券取引所での売買によって決まります。買いたい人と売りたい人の注文が突き合わされ、価格が形成されます。
代表的な見方は2つです。
| 指標 | 計算 | 何を見るか |
|---|---|---|
| PER(株価収益率) | 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS) | 利益に対して株価が何倍か。利益の何年分で回収できるか |
| PBR(株価純資産倍率) | 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS) | 純資産に対して株価が何倍か。1倍割れは解散価値を下回る状態 |
時価総額 = 株価 × 発行済株式数。買収の規模感はここで測られます。
🔴 非上場株の株価 — 市場が無いので「評価」する
非上場企業には市場価格がありません。そこで、目的に応じた方法で「評価」します。
そして重要なのは、目的が違えば金額も違うという点です。
| 場面 | 使う評価 | 出てくる金額の性格 |
|---|---|---|
| 相続・贈与 | 財産評価基本通達に基づく評価 | 課税のための評価額。低めに出る傾向 |
| M&A(第三者への売却) | DCF法・類似会社比較法・純資産法など | 交渉の出発点。買い手の見方で変わる |
| 同族間の売買 | 税務上の適正価額 | ここを外すと贈与とみなされるリスク |
🔴 「うちの会社の株価はいくら?」という質問には、目的を聞かないと答えられません。相続税評価額とM&Aの譲渡価額が数倍違うことは珍しくありません。
評価の3方式
非上場株式の評価方法は、大きく3つのアプローチに分かれます。
1. コストアプローチ(純資産をもとに)
会社が持っている資産から負債を引いた額を基準にします。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 簿価純資産法 | 貸借対照表の純資産をそのまま使う。簡便だが実態と乖離しやすい |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価に評価し直す。不動産や有価証券を持つ会社で差が出る |
向いている会社:資産を多く持ち、収益力より保有資産に価値がある会社(不動産賃貸業など)。
弱点:将来の収益力が反映されません。利益が出ている会社では低く出すぎます。
2. インカムアプローチ(将来の収益をもとに)
将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引く方法です。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| DCF法 | 将来のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に換算。M&Aで最も使われる |
| 配当還元法 | 将来受け取る配当をもとに評価。少数株主の持分評価に使われる |
向いている会社:収益力があり、事業計画に一定の説得力がある会社。
弱点:🔴 事業計画と割引率の前提で金額が大きく動きます。計画を強気に作れば高く出る。買い手は必ずここを厳しく見ます。
3. マーケットアプローチ(他社と比べて)
類似する上場企業や、過去の類似取引と比較して評価します。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 類似会社比較法(マルチプル法) | 上場している同業他社のPER・EBITDA倍率などを自社に当てはめる |
| 類似取引比較法 | 過去の同業種のM&A事例の倍率を参照する |
向いている会社:同業の上場企業が複数あり、事業内容が比較可能な会社。
弱点:中小企業は上場企業と規模も事業構造も違うため、そのまま当てはめられません。非流動性ディスカウント(すぐ売れないことによる減価)を考慮するのが一般的です。
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実務ではどう決まるか
1つの方法だけで決めることはほとんどありません。
- 複数の方法で算定し、レンジ(幅)を出す
- そのレンジを出発点に、買い手と売り手が交渉する
- 最終的な価格は、シナジー・競合の有無・売り手の事情で動く
🔴 「算定書に書かれた金額で売れる」わけではありません。算定は交渉の材料であって、結論ではない。買い手が1社しかいない状況では、算定額を下回ることは普通に起きます。
株価を上げてから譲るべきか
順位はつけません。条件で分かれます。
譲る前に手を打つ価値がある
- 役員報酬が過大で、利益が実態より小さく見えている — 正常収益力(EBITDA)に引き直すと評価が変わる
- 遊休資産や、事業に関係ない資産を持っている — 切り離すことで事業の価値が見えやすくなる
- 決算書に説明できない項目がある — デューデリジェンスで必ず出る。先に整理するほうが減額を防げる
- 時間がある(2〜3年)
今すぐ動いたほうがいい
- 業績のピークにいる、または今後の見通しが不透明
- オーナーの健康や年齢に不安がある — 交渉には年単位の時間がかかる
- 業界に再編の動きがあり、買い手が積極的な時期
そもそも株価を気にする段階ではない
- 後継者・買い手が決まっていない — 相手が決まってから評価する
- 相続対策と混同している — 相続税評価とM&A評価は別物。目的を先に決める
- 提案された評価額の根拠を自分で説明できない — 分からないまま進めない
よくある質問
Q. 非上場株式に「正しい株価」はありますか?
目的によって異なる金額が正当に存在します。相続税評価額は財産評価基本通達に基づく課税のための評価、M&Aの譲渡価額は交渉の結果です。どちらかが間違っているわけではありません。
Q. 相続税評価額でM&Aの価格を決めてよいですか?
勧められません。相続税評価額は課税のための評価で、低めに出る傾向があります。第三者との取引でこれを基準にすると、売り手が損をする可能性があります。逆に同族間の売買では、税務上の適正価額から大きく外れると贈与とみなされるリスクがあるため、こちらは慎重な検討が必要です。
Q. DCF法の金額が高すぎる気がします。
事業計画の前提を確認してください。成長率・利益率・設備投資の見込みが強気だと、金額は大きく出ます。買い手は必ずここを詰めてきます。自分で説明できない計画は、交渉で崩れます。
Q. 純資産がマイナス(債務超過)でも売れますか?
売れることがあります。収益力・顧客基盤・許認可・人材に価値があれば、純資産がマイナスでも買い手が付きます。ただし方式(株式譲渡か事業譲渡か)と価格の設計は慎重に。負債の扱いが論点になります。
Q. 株価算定は誰に頼めばよいですか?
目的で変わります。相続・贈与なら税理士、M&Aならファイナンシャルアドバイザー(FA)や公認会計士が一般的です。同じ会社でも算定する人と目的で金額が変わることを前提に、複数の意見を取るのが実務的です。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
まとめ
- 上場株の株価は市場が決める。PER・PBRで水準を見る
- 🔴 非上場株には市場価格が無い。目的に応じて「評価」する
- 同じ会社でも、相続税評価額とM&Aの譲渡価額は別物。数倍違うことも珍しくない
- 評価はコストアプローチ(純資産)/インカムアプローチ(DCF)/マーケットアプローチ(類似会社比較)の3つ
- 実務では複数の方法でレンジを出し、そこから交渉する。算定書の金額で売れるわけではない
- 🔴 DCF法は事業計画と割引率で大きく動く。自分で説明できない計画は交渉で崩れる
- 決算書に説明できない項目は、先に整理する。デューデリジェンスで必ず出て、減額の理由になる
参考
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「財産評価基本通達」
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン」
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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