CAPEX(キャペックス)は Capital Expenditure の略で、日本語では資本的支出、実務では設備投資と呼ばれます。
会計の用語として理解するだけなら「資産に計上して減価償却する支出」で終わります。ただしM&Aの文脈では、CAPEXは企業価値そのものを動かす数字です。買い手が決算書を見るとき、EBITDAと並んで必ず確認する項目のひとつがここです。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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CAPEXとOPEXの違い
支出は、大きく2つに分かれます。
| CAPEX(資本的支出) | OPEX(営業費用) | |
|---|---|---|
| 会計処理 | 資産に計上し、耐用年数にわたって減価償却する | 支出した期の費用にする |
| 例 | 機械の購入、建物の増築、基幹システムの導入 | 家賃、水道光熱費、消耗品、修繕費 |
| 損益への出方 | 数年〜数十年にわたって少しずつ | その期に全額 |
| キャッシュの出方 | 支出した時点で一括 | 支出した時点 |
重要なのは、CAPEXは「損益にはゆっくり出るが、現金は一度に出ていく」という点です。利益が出ているのに現金がないという状態は、多くの場合ここから生まれます。
修繕費と資本的支出の境界線
中小企業の実務でもっとも判断に迷うのがここです。同じ支出でも、修繕費なら全額が当期の損金、資本的支出なら資産計上になります。
考え方の基本は、「元に戻すもの」か「価値を高めるもの・寿命を延ばすもの」かです。
| 扱い | |
|---|---|
| 壊れた機械を元どおりに直した | 修繕費(当期の損金) |
| 機械に新しい機能を追加した | 資本的支出(資産計上) |
| 建物の壁を塗り替えた(現状維持) | 修繕費 |
| 建物を増築した/用途を変える改造をした | 資本的支出 |
判断がつかない場合のために、法人税の取扱いには形式的な基準が設けられています。支出額が少額である場合や、おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良である場合などは修繕費として処理できる、といった考え方です。金額の基準や適用条件は取扱いの定めによるため、実際の判断は顧問税理士に確認してください。
M&Aの場面では、この線引きが売り手・買い手双方の関心事になります。修繕費として処理してきた支出の中に、本来は資本的支出に当たるものが混ざっていれば、過年度の利益が実態より大きく出ていることになるからです。
M&Aで買い手がCAPEXを見る3つの理由
① フリーキャッシュフローの計算に直接入る
企業価値を収益還元で評価するとき(DCF法)、割り引く対象はフリーキャッシュフロー(FCF)です。FCFは、営業利益から税金を引き、減価償却を足し戻し、そこからCAPEXと運転資本の増加を引いて求めます。
CAPEXが大きい会社は、同じ利益でも手元に残る現金が少なくなります。その分、企業価値は下がります。
EBITDAを使った倍率法(EV/EBITDA)でも同じ問題が起きます。EBITDAは減価償却を足し戻した数字なので、設備投資の重さが消えて見えます。だから買い手は、EBITDAだけでなくCAPEXを別に確認します。
関連する指標はEBITDAとは、WACCとはで整理しています。
② 「維持CAPEX」と「成長CAPEX」を分けて見る
これが買い手の実務です。
- 維持CAPEX……いまの売上を維持するために不可避な投資(老朽化した設備の更新)
- 成長CAPEX……売上を増やすための投資(新工場、新規出店)
買い手が最初に知りたいのは維持CAPEXです。これは事業を続ける限り必ず出ていく現金だからです。成長CAPEXは買い手が自分で判断できますが、維持CAPEXは選べません。
③ 🔴 「先送りされたCAPEX」は価格交渉の材料になる
中小企業のM&Aでもっとも起きやすいのがこれです。
譲渡を考え始めた経営者が、数年前から設備投資を止めている——よくあることです。利益は良く見えます。しかし買い手のデューデリジェンスでは、設備の年齢と稼働状況が確認されます。
- 主要な機械の取得年月と耐用年数の残り
- 直近3〜5年のCAPEXの推移
- 建物・車両・システムの更新時期
「引き渡し後すぐに1億円の設備更新が必要」と分かれば、その分は価格から引かれます。先送りは、価格を守る行為ではなく先送りした金額を買い手に発見させる行為になりがちです。
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売り手として何をしておくか
- 直近5年のCAPEXの推移を、目的別に整理しておく。「なぜその年に投資したか」を説明できる形にする
- 今後3年で必要になる更新を、自分で先に洗い出す。買い手に指摘されるより、こちらから示すほうが交渉で有利になります
- 修繕費と資本的支出の処理方針を一貫させる。年によって処理が揺れていると、利益の実態を疑われます
- リースと購入の使い分けを整理する。リースはCAPEXに出ませんが、実質的な負担は残ります。買い手はここも見ます
投資すべきか、しないほうがよいか、判断を先送りしてよいか
譲渡を数年内に考えている場合、設備投資の判断は次のように分かれます。
いま投資すべき場合
- 止めると売上が落ちる設備(維持CAPEX)。先送りしても価格から引かれるだけ
- 投資回収期間が譲渡までの期間より明確に短いもの
- 法令上の対応が必要なもの(安全基準、環境規制)
投資しないほうがよい場合
- 回収に10年かかる大型の成長投資。買い手の戦略と合わなければ評価されません
- 経営者本人の思い入れが主な理由になっている投資
判断を先送りしてよい場合
- 買い手候補の業種によって要不要が変わる投資。同業なら不要、異業種なら必要、というものは、相手が決まってから決めるほうが無駄がありません
よくある質問
Q. CAPEXは決算書のどこを見れば分かりますか。
キャッシュフロー計算書の投資活動によるキャッシュフローに「有形固定資産の取得による支出」として表れます。作成していない中小企業では、固定資産台帳の当期取得分を集計するのが実務的です。
Q. ソフトウェアやシステム導入もCAPEXですか。
自社利用のソフトウェアで、将来の収益獲得または費用削減が確実と認められるものは無形固定資産として計上し、償却します。研究開発の性質が強いものは費用処理になります。
Q. リースにすればCAPEXを抑えられますか。
支出の出方は変わりますが、リース取引の会計処理は契約の内容によって異なります。また買い手はリース料の負担も含めて評価するため、企業価値の観点で有利になるとは限りません。
Q. CAPEXが小さい会社は評価が高くなりますか。
同じ利益なら現金が残りやすいという意味では有利です。ただし、必要な投資を怠っているだけの「小さいCAPEX」は逆に減点されます。前述の維持CAPEXの確認がここで効きます。
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まとめ
- CAPEXは資産計上して減価償却する支出。現金は一度に出て、損益にはゆっくり出る
- 修繕費との境界は「元に戻す」か「価値を高める・寿命を延ばす」か。形式基準もあるが判断は税理士に確認する
- M&Aで見られるのは、①FCFに直接入る ②維持CAPEXと成長CAPEXの区別 ③先送りされた更新の3点
- 設備投資を止めて利益を良く見せても、デューデリジェンスで発見されて価格から引かれる
- 売り手は直近5年の推移と今後3年の更新予定を自分から示すほうが交渉で有利になる
参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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