M&Aの相談を始めると、必ず出てくる指標がEBITDA(イービットディーエー、イービットダー)です。
「営業利益ではなくEBITDAで見ます」と言われて、なぜわざわざ別の指標を使うのか腑に落ちなかった——そんな経験のある経営者は少なくありません。
本記事ではEBITDAの定義と計算式を確認し、営業利益との違いがどこにあるのか、そしてなぜM&Aの現場でこの指標が使われるのかを整理します。倍率を使った価格算定については既存記事へ譲り、ここでは指標そのものの理解に絞ります。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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EBITDAとは
何の略か
EBITDAは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の頭文字を取ったものです。
直訳すると「利息・税金・減価償却前の利益」。つまり、次の4つを差し引く前の利益を指します。
- Interest — 支払利息
- Taxes — 税金
- Depreciation — 有形固定資産の減価償却費
- Amortization — 無形固定資産の償却費
計算式
実務でよく使われるのは、次の簡便式です。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
より厳密には次のように表すこともあります。
EBITDA = 経常利益 + 支払利息 - 受取利息 + 減価償却費
中小企業のM&Aでは、「営業利益+減価償却費」で計算するのが一般的です。決算書から2つの数字を拾うだけで算出できます。
簡単な例
営業利益3,000万円、減価償却費1,500万円の会社であれば、
EBITDA = 3,000万円 + 1,500万円 = 4,500万円
となります。
営業利益との違い
減価償却費を足し戻す意味
最大の違いは、減価償却費を利益に足し戻している点です。
減価償却費は、過去に取得した設備の費用を耐用年数にわたって配分したものです。その期に現金が出ていくわけではありません。 つまり会計上の費用であって、キャッシュの流出を伴わない項目です。
これを足し戻すことで、EBITDAは「本業で現金をどれだけ稼いだか」に近い数字になります。
何が見えるようになるか
具体的に、次のような違いが埋まります。
設備投資の時期による差
大型の設備投資をした直後の会社は、減価償却費が重く営業利益が小さく出ます。しかし現金を稼ぐ力が落ちたわけではありません。EBITDAで見ればこの歪みが消えます。
償却方法による差
定額法か定率法か、耐用年数をどう設定しているか。会計方針の違いで営業利益は変わりますが、EBITDAはその影響を受けにくくなります。
資本構成による差
支払利息は借入の多寡で決まります。同じ収益力でも、借入の多い会社は経常利益が小さく出ます。EBITDAは利息の影響を除くため、事業そのものの力を比較できます。
だから「比較可能性」が高い
EBITDAが重宝される理由は、この一点に集約されます。会計方針・資本構成・設備投資のタイミングという、事業の実力とは別の要因を取り除けるからです。
異なる会社を横並びで比べるとき、あるいは買い手が複数の候補を評価するとき、この性質が効いてきます。
M&Aで重視される理由
買い手は「買った後に稼げるか」を見ている
買い手にとっての関心は、買収後にその事業がどれだけ現金を生むかです。
売り手の借入は買収時に整理されることが多く、支払利息はそのまま引き継がれるとは限りません。 税金も買い手の資本構成によって変わります。減価償却も、資産の評価替えによって金額が変わることがあります。
つまり買い手にとって、I・T・D・Aの4つは「自分側の事情で変わる要素」です。これらを除いたEBITDAこそが、事業そのものの稼ぐ力を表す——という理屈になります。
中小企業では「役員報酬の調整」とセットで見る
中小企業のM&Aでは、EBITDAをそのまま使わないことがあります。オーナー経営者の役員報酬が、実態より高い(あるいは低い)ケースが多いためです。
そこで実務では、役員報酬を市場水準に置き換える、生命保険料や個人的な支出を除くといった調整を加えた「調整後EBITDA」を用いることがあります。
この調整をどこまで認めるかは交渉の対象です。 売り手側は「本来は不要な支出だった」と主張し、買い手側は「事業に必要だった」と見る——ここが価格交渉の実質的な争点になることがあります。
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EBITDAの限界
万能な指標ではありません。使うときに意識しておくべき点が3つあります。
1. 設備投資の必要性が見えない
減価償却費を足し戻すということは、将来の設備更新に必要な資金を無視しているということでもあります。設備が老朽化していて近い将来に大型投資が必要な事業と、そうでない事業を同じEBITDAで評価すると誤ります。
2. 運転資本の増減が反映されない
売掛金や在庫が膨らんでいれば、EBITDAが同じでも手元の現金は残りません。EBITDAは営業キャッシュフローそのものではありません。
3. 借入返済の負担が見えない
支払利息を除いている以上、返済負担は別途評価する必要があります。
EBITDAは「比較のための指標」であって、「その会社の全体像」ではない——この理解が使い方を誤らせない前提になります。
よくある質問
Q. EBITDAはどう計算しますか?
実務では「営業利益+減価償却費」で算出するのが一般的です。決算書から2つの数字を拾えば計算できます。
Q. 営業利益とEBITDAはどちらを見るべきですか?
目的によります。自社の期間比較なら営業利益、他社との比較やM&Aの評価ならEBITDAが使いやすくなります。会計方針や設備投資のタイミングの違いを除けるためです。
Q. EBITDAが高ければ高く売れますか?
企業価値評価の重要な要素ですが、それだけで決まるわけではありません。成長性、事業の継続性、キーパーソン依存、簿外債務の有無など、価格を左右する要素は複数あります。
Q. EBITDA倍率とは何ですか?
企業価値をEBITDAの何倍と見るかという評価手法です。算定の考え方はマルチプル法とは?と自社はいくらで売れるか——EBITDAとのれん倍率で試算する方法で詳しく扱っています。
Q. 調整後EBITDAとは何ですか?
オーナー経営者の役員報酬や個人的支出など、買収後には発生しない費用を調整したEBITDAです。中小企業のM&Aでよく用いられますが、どこまで調整を認めるかは交渉の対象になります。
Q. 赤字でもEBITDAはプラスになりますか?
なり得ます。減価償却費が大きい事業では、営業赤字でもEBITDAがプラスになることがあります。設備投資の重い事業では珍しくありません。
まとめ
EBITDAとは「利息・税金・減価償却前の利益」であり、実務では「営業利益+減価償却費」で計算します。
営業利益との最大の違いは、現金の流出を伴わない減価償却費を足し戻している点です。これにより、会計方針・資本構成・設備投資のタイミングといった事業の実力とは別の要因を取り除いて比較できるようになります。
M&Aで重視されるのは、買い手にとってI・T・D・Aの4つが「自分側の事情で変わる要素」だからです。買収後に事業がどれだけ現金を生むかを見るうえで、これらを除いた数字のほうが実態に近くなります。
ただし万能ではありません。将来の設備投資、運転資本の増減、借入返済の負担——これらはEBITDAには表れません。比較のための指標として使い、会社の全体像は別途評価する。この使い分けが前提になります。
まずは自社の決算書を開いて、営業利益と減価償却費を足してみてください。 それが交渉のテーブルに乗る最初の数字になります。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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