「事業承継」と「事業継承」はどちらも誤った言葉ではありません。ただし、状況やシーンによって、どちらを使うことがより適切であるかを考えることは大切です。そこで今回、「事業承継」「事業継承」それぞれの意味について改めて確認するとともに、事業承継あるいは事業継承を成功させるための秘訣についても考えていきましょう。
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「承継」と「継承」の意味の違いと使い分け
「承継」と「継承」は、どちらも「前の人から何かを受け継ぐ」という意味を持つ言葉ですが、受け継ぐ対象や使われる場面に違いがあります。
| 言葉 | 主な対象 | 使用例 |
|---|---|---|
| 承継 | 事業・権利・義務・契約・地位など | 事業承継、権利義務の承継、契約上の地位の承継 |
| 継承 | 身分・技術・伝統・精神・文化など | 王位継承、技術継承、伝統継承、精神の継承 |
それぞれの意味についてより詳しくみていきましょう。
承継(しょうけい):事業・権利・義務・ポジションなどを受け継ぐ
「承継」は、法律上・契約上の地位や、事業などを引き継ぐ場合に使われることが多い言葉です。
たとえば、次のようなケースです。
-
会社や事業を引き継ぐ
-
経営者の地位を引き継ぐ
-
契約上の権利・義務を引き継ぐ
-
財産や事業上の権利を引き継ぐ
特にM&Aや企業経営、法務の分野では、「事業承継」「権利義務の承継」「契約上の地位の承継」など、一定の法的・経済的な関係を引き継ぐことを表す際に「承継」が使われます。
継承(けいしょう):身分・技術・伝統・精神などを受け継ぐ
一方の「継承」は、人から人へ、身分や技術、伝統、考え方などを受け伝えることを表す際に使われます。
たとえば次のような使い方です。
-
王位を継承する
-
伝統芸能を継承する
-
職人の技術を継承する
-
創業者の精神を継承する
-
文化や伝統を継承する
「継承」は、単に財産や権利を引き取るだけではなく、価値観や技術、文化などを次の世代につないでいくというニュアンスがあると理解するといいでしょう。
ビジネスや法務で「事業承継」と書くべき理由
ビジネスや法務の分野において、基本的に「事業継承」ではなく「事業承継」という言葉が使われるのは、単に「事業を受け継ぐ」という意味だけではなく、事業に関連する経営権、資産、契約、取引関係などを次の経営者へ引き継ぐことを含むためです。
たとえば、経営者が引退する際には、会社の株式や経営権だけでなく、事業用資産、従業員、取引先との関係、契約、許認可など、事業を継続するために必要なさまざまな要素を整理して引き継ぐ必要があります。
そのため、企業経営や法務においては、「事業継承」ではなく「事業承継」という表記が一般的です。
ただし、「継承」が誤りというわけではありません。ビジネスに関することで、たとえば経営者が引退する場合であっても、技術・伝統・理念などを受け継ぐ場合、あるいはそのことに重きを置きたい場合には、「継承」が適切です。
事業承継で引き継ぐ3つの要素
事業承継では、単に「会社の経営権」を後継者に渡せば終わりではありません。一般的には、「人(経営権)」「資産」「知的資産」の3つを一体として引き継ぐことが重要です。
特に重要なのが、3つめの「知的資産」です。株式や財産を移転しても、顧客との信頼関係や技術・ノウハウが失われれば、承継後に事業がうまくいかない可能性があります。
そのため、「何を引き継ぐか」を早い段階で洗い出して、後継者に計画的に移していくことが事業承継成功のポイントになります。
| 要素 | 引き継ぐもの | ポイント |
|---|---|---|
| 人(経営権) | 経営権・経営能力・人脈 | 後継者が会社を経営できる状態にする |
| (有形)資産 | 株式・不動産・設備・資金・負債など | 経営に必要な財産を整理して移転する |
| 知的資産 | 技術・ノウハウ・顧客・ブランド・理念など | 目に見えない会社の強みを次世代につなぐ |
人(経営権)の承継
会社を誰が経営するのか、という「経営権」の承継です。
具体的には、次のようなことを後継者に引き継ぎます。
-
経営権・代表者としての地位
-
経営者としての判断力
-
取引先や金融機関との関係
-
従業員との信頼関係
-
経営理念や経営方針
など
単に代表取締役を交代するだけではなく、後継者が経営者として会社を動かせる状態にすることがポイントです。
(有形)資産の承継
会社の経営に必要な財産や権利などを引き継ぐことです。
たとえば次のようなものが、資産として挙げられます。
-
株式(自社株式)
-
現預金
-
土地・建物
-
設備・機械
-
営業上の資産
-
売掛金・買掛金
-
運転資金
-
借入金
など
特に株式の承継は重要です。誰が株式を保有するのかによって、会社の経営権が大きく左右されるため、早い段階から整理しておく必要があります。
なお、「資産」は一般的に「有形資産」と「無形資産」にわけられますが、ここでは、無形資産に該当するものについては、このあとに解説する「知的資産」と捉えています。
知的資産の承継
会社の財産として帳簿に表れにくい、「目に見えない価値」を引き継ぐことです。
たとえば次のようなものが、知的資産に含まれます。
-
知的財産(特許権・商標権・著作権・意匠権・実用新案権など)
-
独自の技術・ノウハウ
-
顧客との信頼関係
-
取引先とのネットワーク
-
ブランド・信用
-
人材
-
組織力
-
経営理念・企業文化
-
長年培ってきた業務の仕組み
など
特に中小企業では、社長自身の経験や人脈、従業員が持つ技術などが会社の大きな強みになっていることがあります。
そのため、知的資産を「社長の頭のなかだけ」に残さず、マニュアル化したり、後継者と一緒に仕事をしたりしながら、次の世代へ伝えていくことが重要です。
中小企業における「事業承継」の3つの選択肢
中小企業の事業承継には、大きく分けて「親族内承継」「役員・従業員承継」「第三者承継」の3つの方法があります。
| 承継方法 | 後継者 | 主なメリット | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子供・親族 | 早期から育成しやすい | 後継者の適性・親族間の調整 |
| 役員・従業員承継 | 役員・従業員 | 会社をよく知る人に引き継げる | 株式取得資金の確保 |
| 第三者承継 | 外部企業・経営者 | 後継者不在でも事業を存続できる | 買い手探し・条件交渉・M&A手続き |
どの方法を選ぶかは、後継者の有無だけでなく、会社の財務状況、経営者の希望、従業員や取引先への影響などを総合的に考えて判断することが重要です。
親族内承継(子ども・親族への引き継ぎ)
親族内承継とは、経営者の子どもや配偶者、兄弟姉妹などの親族に会社や事業を引き継ぐ方法です。
かねてより、中小企業にとっては代表的な事業承継方法です。後継者が早い段階から経営に関わり、時間をかけて経営ノウハウや取引先との関係を引き継げることがメリットです。
一方で、親族だからといって必ずしも経営者として適任とは限りません。また、複数の親族が関係する場合には、株式や経営権をめぐるトラブルが起こる可能性もあります。
【向いているケース】
-
子どもや親族に後継者候補がいる
-
後継者本人に経営意欲がある
-
長期的に後継者を育成できる
-
会社を親族に残したい
なお、親族内承継の代表的な方法としては、「贈与」「相続」「売買」の3つがあります。
| 方法 | 株式の移転 | 後継者の負担 | 主な税金 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 贈与 | 生前に無償で移転 | 原則、贈与税 | 贈与税 | 計画的に承継しやすい |
| 相続 | 死亡後に移転 | 相続税など | 相続税 | 生前の準備が特に重要 |
| 売買 | 生前に有償で移転 | 株式購入資金 | 売却側の所得税等 | 現経営者の資金確保につながる |
贈与による承継
現経営者が、生前に自社株式などの財産を後継者へ無償で譲渡する方法です。
たとえば、社長が保有している自社株式を、後継者である長男へ贈与します。経営者が元気なうちから引き継ぎを進められるため、経営権の移行を計画的に進めやすいのが特徴です。
一方、贈与には原則として贈与税がかかるため、株式の評価額が高い会社では税負担が大きくなる可能性があります。そのため、事業承継税制などの活用を検討することが重要です。
【向いているケース】
-
生前に後継者へ経営権を移したい
-
時間をかけて経営を引き継ぎたい
-
後継者を早い段階から経営に参加させたい
相続による承継
現経営者が亡くなった際に、自社株式などの財産を後継者が相続する方法です。
生前に株式を移転する贈与とは異なり、基本的には経営者の死亡をきっかけとして承継が発生します。
相続税が発生する可能性があるほか、後継者以外にも相続人がいる場合には、自社株式を誰が取得するのか、遺産分割をどうするのかが問題になることがあります。そのため、遺言書の作成などを含め、早い段階から準備しておくことが重要です。
【向いているケース】
-
生前の株式移転を急がない
-
相続を前提として承継計画を立てている
-
遺言や相続対策を含めて事前準備ができている
売買による承継
現経営者が保有する自社株式を、後継者に有償で売却する方法です。
贈与と違って、後継者が株式の対価を支払うため、後継者側に株式を購入するための資金が必要になります。一方、現経営者にとっては株式の売却代金を受け取れるため、引退後の生活資金を確保しやすいというメリットがあります。
ただし、非上場会社の株式は評価が難しく、適正な売買価格を設定する必要があります。また、売却によって現経営者側に所得税等が発生する場合もあるため、税務面の検討も欠かせません。
【向いているケース】
-
後継者に株式購入資金がある
-
現経営者が引退後の資金を確保したい
-
贈与税・相続税だけでなく、売買による承継も含めて比較したい
役員・従業員承継(MBO・EBO)
親族ではなく、現在、会社で働いている役員や従業員に経営を引き継ぐ方法です。
代表的な手法として、役員が会社を買収して経営権を取得するMBO(Management Buyout)や、従業員が買収するEBO(Employee Buyout)があります。
| MBO | EBO | |
|---|---|---|
| 正式名称 | Management Buyout | Employee Buyout |
| 日本語 | 経営陣買収 | 従業員買収 |
| 買い手 | 役員・経営陣 | 従業員 |
| 主な承継者 | 現在の役員・幹部 | 一般従業員など |
| 経営経験 | 既に経営に関わっていることが多い | 経営経験が少ない場合もある |
| 特徴 | 経営の継続性を保ちやすい | 従業員主体で事業を存続させやすい |
MBO:役員・経営陣が会社を買い取る
MBOは、現在の役員や経営陣が、自社の株式を買い取って経営権を取得する方法です。
たとえば、オーナー社長が引退する際に、社長を支えてきた専務や常務などが会社を買い取り、経営を引き継ぐケースです。
すでに会社の事業内容や経営事情を理解しているため、従業員や取引先にとっても承継後の変化が比較的小さく、経営の継続性を保ちやすいというメリットがあります。
EBO:従業員が会社を買い取る
EBOは、会社の従業員が株式を買い取り、経営権を取得して事業を引き継ぐ方法です。
親族にも後継者がおらず、役員のなかにも後継者がいない場合でも、会社の事業や理念を理解している従業員が事業を引き継げる可能性があります。
従業員にとっても、「自分たちで会社を残す」という選択肢になります。
ただし、従業員が株式を買い取るための資金を用意する必要があり、資金調達が大きな課題になることがあります。
【向いているケース】
-
親族に後継者がいない
-
経営を任せられる役員・従業員がいる
-
現在の経営方針や企業文化を維持したい
-
従業員の雇用を守りながら事業を継続したい
第三者承継(M&Aによる会社売却)
親族や社内に後継者がいない場合に、外部の企業や経営者に会社・事業を引き継いでもらう方法です。
M&Aでは、株式譲渡によって会社そのものを譲渡する方法や、事業譲渡によって特定の事業だけを譲渡する方法などがあります。
第三者承継の大きなメリットは、後継者が社内や親族にいなくても、会社を存続させられる可能性があることです。また、買い手企業とのシナジーによって事業をさらに成長させたり、経営者が株式を売却することによって、これまで築いてきた企業価値を金銭化できたりする可能性もあります。
ただし、相手企業との条件交渉や企業価値の評価、デューディリジェンス(DD)、契約手続きなどが必要になるため、M&Aの専門家などのサポートを受けながら進めることが重要です。
【向いているケース】
-
親族にも社内にも後継者がいない
-
事業を第三者に引き継いで存続させたい
-
会社や事業をさらに成長させたい
-
株式売却による経営者の資産形成・リタイアを考えている
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事業承継を成功させるための準備ロードマップ
事業承継を成功へと導くためには、後継者の選定、会社の現状把握、株式や財産の整理、経営ノウハウの引き継ぎ、関係者への説明など、一つひとつの手続きに十分な時間をかけて丁寧に進めていくことが必要不可欠です。
特に中小企業の場合、承継手続きが完了するまでに数年間を要すケースもあります。そのため、経営者が元気なうちから計画的に準備を始めることが重要です。具体的には、5~10年程度の長期的な視点を持って、早めに準備をスタートすることが成功のポイントとなります。
全体的な流れとしては次の通りです。
- ① 事業承継の必要性を認識する
↓
- ② 会社・経営者の現状を「見える化」する
↓
- ③ 後継者を決める
↓
- ④ 後継者を育成する
↓
- ⑤ 株式・財産・税務を整理する
↓
- ⑥ 事業承継計画を作る
↓
- ⑦ 関係者への説明・承継手続きをおこなう
↓
- ⑧ 承継後の経営をサポートする
全体の流れを見ればわかる通り、「後継者を決めること」は、「会社を引き継げる状態にすること」のうちのほんの一部です。後継者が決まっていても、財務状況が不透明だったり、経営ノウハウが引き継がれていなかったり、株式の整理ができていなかったりすれば、スムーズな承継は難しくなります。
それぞれのステップについてさらに詳しく解説していきます。
STEP1:事業承継の必要性を認識する
まずは経営者自身が、「いつまで経営を続けるのか」「その後、会社をどうしたいのか」を考えます。
「まだ先のこと」と考えて先延ばしにすると、後継者の育成や株式の整理が間に合わなくなる可能性があります。
この段階では次のようなことを考えて、準備を進めていきます。
-
引退時期の目安を考える
-
会社を将来どうしたいか整理する
-
親族・役員・従業員に後継者候補がいるか確認する
-
第三者へのM&Aも選択肢に入れる
など
STEP2:会社と経営者の現状を「見える化」する
次に、自社が現在どのような状態にあるのかを整理します。
財務状況だけでなく、人材・顧客・取引先・技術・知的財産・許認可など、会社が持つ経営資源を総合的に把握することが重要です。
特に確認したいのは次の点です。
-
売上・利益・借入金などの財務状況
-
株主構成
-
会社が保有する不動産・設備などの資産
-
主要な取引先
-
従業員・幹部人材
-
主要な技術やノウハウ
-
経営者個人の会社への貸付金・借入金
-
個人保証の状況
など
「自社の価値と課題を客観的に把握する」ことが、事業承継の出発点になります。
STEP3:後継者を決める
現状を把握したら、具体的な後継者候補を検討します。
大きくは、次の3つから選択することになります。
-
①親族内承継
-
②役員・従業員承継
-
③第三者承継(M&A)
後継者を選ぶ際は、「親族だから」「長年働いているから」という理由だけで決めるのではなく、経営能力・意欲・会社との相性・資金面などを総合的に判断することが重要です。
親族や役員・従業員に後継者が見つからない場合は、早い段階でM&Aによる第三者承継を検討することも大切です。
STEP4:後継者を育成する
後継者が決まったら、すぐに社長のポストを譲るのではなく、経営者としての準備期間を設けます。
たとえば、次のような方法があります。
-
(後継者に)営業・製造・管理など各部門を経験してもらう
-
主要な取引先を引き継いでもらう
-
従業員との信頼関係を築いてもらう
-
経営会議に参加してもらう
-
資金繰りや財務について学んでもらう
-
経営判断を徐々に任せる
特に重要なのが、決算書などに表れない「経営者の経験・人脈・判断基準・ノウハウ」の引き継ぎです。
※なお、経営者の経験・人脈・判断基準・ノウハウの引き継ぎは、事業承継においてはかなり重要なポイントであるため、追って詳しく解説していきます。
STEP5:株式・財産・税務を整理する
事業承継では、経営権だけでなく会社の株式を誰が取得するのかも重要なポイントです。
親族内承継なら、相続・贈与・譲渡に伴う税負担などを検討する必要があります。
また、次の点についても確認します。
-
自社株式の評価
-
株式の移転方法
-
相続人間の調整
-
会社所有・個人所有の資産整理
-
経営者の個人保証
-
退職金
など
なお、この段階では、税理士・弁護士・司法書士などの専門家に相談しながら進めると安心です。
STEP6:事業承継計画を作成する
ここまでの内容を整理して、「いつ・誰に・何を・どのように引き継ぐのか」を具体的な計画に落とし込みます。
たとえば次のようなカタチで、数年単位でスケジュールを組んでいきます。
- 1年目:後継者決定・経営状況の整理
↓
- 2年目:後継者育成・取引先への引き継ぎ
↓
- 3年目:株式・財産の移転準備
↓
- 4年目:代表者交代
↓
- 5年目:新経営体制の定着
重要なのは、「社長を交代する日」を事業承継のゴールにしないことです。
後継者が経営を安定させるところまでを含めて計画する必要があります。つまり、上記のスケジュールでいうと、5年目の「新経営体制の定着」を徹底する必要があるということになります。
STEP7:関係者への説明・承継手続きをおこなう
準備が整ったら、従業員、取引先、金融機関などの関係者に適切なタイミングで説明します。
従業員にとっては、経営者が交代することに対する不安が大きなものとなります。
そのため、特に次の点について丁寧に説明して、社内の理解を得ることが重要です。
-
「なぜこの人を後継者に選んだのか」
-
「会社はこれからどうなるのか」
-
「従業員の雇用や待遇はどうなるのか」
そのうえで、代表取締役の交代や株式の移転など、必要な手続きを実施します。
STEP8:承継後の経営をサポートする
事業承継は、社長を交代したら終了ではありません。
むしろ、承継後に新しい経営者が会社を安定させて、成長させていくことが本当の意味での成功です。
承継後は、次のようなことをおこなうことが大切です。
-
新経営者への経営支援
-
従業員との関係構築
-
取引先との関係維持
-
財務・資金繰りの確認
-
新しい経営戦略の策定
-
(必要に応じて)専門家によるサポート
など
「経営者の経験・人脈・判断基準・ノウハウ」を後継者に引き継ぐ方法
後継者に事業を引き継ぐうえでは、「経営者の頭のなかにあるもの」を、後継者が実際に使える形に変えていくことが大切です。「経営者の頭の中を完全にコピーする」ではいけません。「先代がいなくても、後継者が自分で考えて経営判断できる状態」をつくることが重要です。
そのためには、経営者が元気なうちに、「見せる → 説明する → 一緒にやる → 任せる → 振り返る」というプロセスを繰り返していくことが非常に重要です。
具体的なプロセスを解説していきます。
まず「自分しか知らないこと」を洗い出す
経営者自身が、普段どのような仕事をしているのかを書き出します。
たとえば次のようなことを書き出すといいでしょう。
-
重要な取引先との付き合い方
-
仕入先を選ぶときの基準
-
値引き交渉の判断基準
-
クレームが発生したときの対応方法
-
採用する人材を見るポイント
-
資金繰りで注意していること
-
投資や設備購入を決める基準
-
トラブルが起きたときの相談先
-
業界内の人脈やキーパーソン
など
「当たり前すぎて説明していなかったこと」ほど、後継者にとって重要な情報であることがあるので、自らの仕事の仕方を客観的に見つめることが重要です。
後継者に「一緒にやってもらう」
単純にマニュアルを渡すだけでは、経営者としての判断力は身につきません。
たとえば、重要な取引先との面談に後継者を同席させて、「この会社とは20年以上付き合っている」「価格だけでなく、納期対応が早いことを重視している」「この担当者とはこういう関係を築いてきた」など、なぜその判断をしているのかまで説明することが重要です。
最初は「見せる」、次に「一緒にやる」、そして最後は「任せる」という段階を踏むとスムーズです。
「なぜそう判断するのか」を言語化する
ノウハウの承継で特に難しいのが、経営者の判断基準です。
たとえば、「この取引先には値引きしない」だけではなく、「この取引先は価格より納期を重視しているので、値引きより納期対応を優先する」というように、判断の理由まで言葉にすることが大切です。
これを繰り返すことによって、後継者は単なる仕事の手順ではなく、経営者の考え方を学ぶことができます。
重要な人脈を後継者につなぐ
人脈も、事業承継では非常に重要な資産です。
経営者が長年築いてきた取引先、金融機関、専門家、業界関係者などに後継者を紹介して、「今後はこの人を後継者として育てていきます」と、少しずつ関係を移していきます。
いきなり社長交代の日に紹介するのではなく、承継前から後継者の顔と名前を覚えてもらうことがポイントです。
少しずつ「任せる」
最終的には、後継者自身が判断できるようにする必要があります。
つまり、次のように段階的に権限を移していくということです。
- 同行・見学
↓
- 一部を任せる
↓
- 後継者が判断する
↓
- 経営者が確認する
↓
- 最終的に後継者に任せる
なお、ここで大切なのは、先代経営者がいつまでも口を出し続けないことです。
後継者が自分で判断する機会を奪ってしまうと、社長になってからも「前社長に確認しないと決められない」という状態になってしまいます。
事業承継に関するFAQ
続いては、事業承継に関してよくある質問とその答えをみていきましょう。
Q.事業承継はM&Aは同じものですか?
同じではありません。事業承継とM&Aは、次のように、概念が異なります。
-
事業承継=「事業を次の人・企業に引き継ぐこと」
-
M&A=「買収や合併によって事業や経営権を第三者に引き継ぐための手段」
ここまで解説してきた通り、事業承継とは、経営者がこれまで築いてきた会社や事業を、次の経営者へ引き継ぐことで、「親族内承継」「役員・従業員承継」「第三者承継」の3つの方法があります。
このうちの、「第三者承継」を実現する代表的な方法がM&Aです。
つまり、次のように考えるとわかりやすいでしょう。
-
事業承継=目的・取り組み
-
M&A=そのための手段の1つ
Q.会社を売却すると従業員はどうなりますか?
M&Aの方法や契約内容によって異なりますが、従業員の雇用を維持することを条件として交渉することも可能です。
特に中小企業の事業承継M&Aでは、買い手にとっても従業員や技術、人材が重要な資産になるケースがあります。
そのため、売却を検討する際には、「いくらで売れるか」だけでなく「従業員の雇用や待遇をどうするか」も重要な条件として考える必要があります。
Q.会社に借入金がある場合でも事業承継できますか?
可能です。ただし、借入金や経営者個人の保証について整理が必要です。
特に中小企業では、会社の借入について経営者が個人保証をしているケースがあります事業承継の際には、会社の借入金だけでなく、経営者個人の保証をどうするのかについても、金融機関と確認しておくことが重要です。
Q.事業承継の専門家には相談したほうがいいですか?
はい。特に株式・税務・法務・M&Aなどが関係する場合は、専門家への相談がおすすめです。
相談先としてはたとえば次のような候補が挙げられます。
-
税理士・公認会計士
-
弁護士
-
司法書士
-
M&A仲介会社・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
-
金融機関
-
事業承継・引継ぎ支援センター
など
なお、専門家によって得意分野が異なるため、自社の状況に合った専門家を選ぶことが重要です。
Q.事業承継を考えていることを従業員に伝えるべきですか?
伝えるタイミングが重要です。
早すぎる段階で具体的な話をすると、従業員に不要な不安を与える可能性があります。一方で、承継直前まで何も説明しなければ、「会社はどうなるのか」という不安や混乱を招くことがあります。
後継者が決まり、方向性が固まった段階などで、状況に応じて従業員に丁寧に説明することが大切です。
Q.事業承継で一番大切なことは何ですか?
「誰に引き継ぐか」だけでなく、「何を残したいのか」を明確にすることです。
会社には、株式や不動産などの財産だけでなく、従業員、顧客、技術、ノウハウ、ブランド、信用、経営理念など、長年かけて築いてきたさまざまな価値があります。
事業承継を成功させるには、それらを整理したうえで、「誰に」「何を」「いつ」「どのような方法で」引き継ぐのかを早めに考えておくことが重要です。
事業承継は、会社を終わらせるための準備ではなく、これまで築いてきた事業を次の世代につなぎ、会社の未来をつくるための準備です。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。
事業承継は、会社の未来を次の世代につなぐ取り組み
事業承継は、「引退するときに考えればいいもの」ではありません。会社を将来に残したいと考えているのであれば、経営者が元気に経営している今から、少しずつ準備を始めることが大切です。後継者は、子どもや親族だけとは限りません。役員・従業員への承継や、M&Aによって第三者に会社を託すという選択肢もあります。大切なのは、早い段階から「自分が経営を退いた後、この会社をどうしたいのか」を考えておくことです。財務状況や株式、経営ノウハウを整理して、後継者“候補”を育てておけば、いざ承継が必要になったときにも、余裕を持って選択肢を検討できます。そして、事業承継は単なる「社長交代」ではありません。これまで築いてきた従業員との信頼、取引先との関係、技術やノウハウ、そして会社の未来を次の世代につなぐ取り組みです。「まだ早い」と思っている今こそ、事業承継について考え始めるタイミングです。まずは自社の現状を整理して、「誰に、どのような形で会社を残したいのか」を考えることから始めてみましょう。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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