M&Aにかかる費用の中心は「仲介会社・FAに払う手数料」であり、その多くはレーマン方式(取引金額に応じて料率が段階的に下がる計算方式)で算定される。手数料の相場観と、支払った費用が税務上どこまで損金になるかを、あわせて押さえておきたい。
M&Aが成立した後に、思わぬ税務調査の指摘を受けることがある。
M&Aにかかる費用(デューデリジェンス費用・仲介手数料・法務費用・アドバイザリー費用)を全額損金として計上していたが、税務当局から「一部は損金にならない」と指摘されるケースだ。
M&Aの費用は決して小さくない。数千万円規模になることも珍しくないため、税務処理を誤ると相当の追徴課税につながる。この記事では、M&Aにかかる費用の損金算入の可否と、リスクを減らすための実務上の対策を整理する。
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M&Aにかかる主な費用の種類
まず、M&Aで発生する費用の種類を整理しておく。
① デューデリジェンス(DD)費用
対象企業の財務・税務・法務・ビジネス等を調査するための費用。公認会計士・税理士・弁護士・コンサルタントに支払う。買い手が負担するケースが一般的だが、売り手がVDD(Vendor DD)を実施する場合もある。
② 仲介会社・FA(フィナンシャルアドバイザー)手数料
M&Aの仲介会社またはFAに支払う報酬。成功報酬(クロージング時に支払い)と着手金・中間報酬の組み合わせが多い。数百万〜数千万円規模になる。
③ 法務費用
M&A契約書(株式譲渡契約・SPA)の作成・レビューにかかる弁護士費用。
④ その他コスト
交通費・出張費・デューデリジェンス実施に伴う資料作成費用など。
M&A仲介手数料の相場と「レーマン方式」の仕組み
M&Aの手数料の中でも最も大きな割合を占めるのが仲介会社やFAに支払う成功報酬だ。この成功報酬の算定には、取引金額が大きくなるほど料率が段階的に下がる「レーマン方式」が広く採用されている。
一般的なレーマン方式の料率テーブル
5億円以下の部分:5%
5億円超〜10億円以下の部分:4%
10億円超〜50億円以下の部分:3%
50億円超〜100億円以下の部分:2%
100億円超の部分:1%
(計算例)取引金額が8億円の場合
5億円×5% + 3億円×4% = 2,500万円 + 1,200万円 = 3,700万円(税抜)となる。
要注意1:基準額は「株式価値」か「移動総資産」か
レーマン方式の料率を掛ける「基準額」の定義には注意が必要だ。主に「株式価値(実際の譲渡金額)ベース」と「移動総資産(譲渡金額+負債)ベース」の2種類がある。
多額の借入金がある企業を売却する場合、負債も含めた「移動総資産ベース」を採用する仲介会社に依頼すると、手元に残る現金に対して手数料が非常に割高になるため、契約前に必ず確認すべきである。
要注意2:スモールM&Aの罠「最低手数料(ミニマムフィー)」
もう一つ、実務上で見落とされがちなのが「最低手数料(ミニマムフィー)」の存在だ。レーマン方式での計算結果にかかわらず、「最低でも〇〇万円を申し受ける」という下限が設定されている。大手仲介会社では2,000万円〜2,500万円、中堅では1,000万円程度に設定されていることが多い。
譲渡金額が数千万円規模のスモールM&Aの場合、この最低手数料が重くのしかかり、売り手の手取りが大きく目減りする原因となる。
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損金算入の基本的な考え方
法人税法上、費用が損金に算入できるかどうかは「その費用がどの資産・収益に対応するか」によって判断される。
損金算入できるケース(費用処理)
その年度の事業活動に関連する費用は、発生時に損金算入できる。
損金算入できないケース(資産計上)
取得した資産(株式・事業など)の取得原価に算入すべき費用は、資産計上して減価償却や売却時の原価に含める必要がある。
問題はここだ。M&Aにかかる費用が「費用処理できる」のか「取得原価に含めるべきか(資産計上)」かの判断が、一律には決まらないのだ。
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税務当局が問題にしやすいポイント
① 買い手のDD費用:「取得した株式の取得原価に含めるべき」という指摘
買い手がM&Aで支払ったDD費用について、税務当局から「株式の取得に直接関連する費用であり、株式の取得原価に含めるべき」と指摘されることがある。
この場合、DD費用は損金にならず、株式の帳簿価額に加算される。株式を保有し続ける限り、費用が税務上で「浮いた」ままになる(売却時にはじめて原価として認識される)。
判断の境界線:
つまり、「M&Aが成立するか不確かな段階で支払った費用」と「成立が確定的な段階での費用」で、税務処理が変わりうる。
② 仲介手数料の成功報酬:「取得原価の一部」として処理すべきか
FA・仲介会社への成功報酬も同様の問題がある。M&A成立時に支払われる成功報酬は「株式取得のために要した費用」として、取得原価に含めるべきという見方がある。
一方、「仲介サービスへの対価であり、取得した株式の原価ではない」として費用処理できるという考え方もある。税務当局と見解が割れやすい論点だ。
③ 売り手の費用:「事業収益に対応するか」という論点
売り手側のFA費用や法務費用についても、「どの期の損金になるか」という論点がある。成功報酬は株式譲渡の年度に損金算入できるが、着手金・中間報酬は支払い時点での処理が認められることが多い。
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リスクを減らすための実務上の対策
対策1:DD費用の目的・フェーズを明確に記録しておく
「いつ、何のためにDDを実施したか」を明確に文書化しておく。M&Aが確定的ではない探索段階での費用であれば、損金算入しやすくなる。契約書・見積書・メール記録などを保存しておくことが重要だ。
対策2:M&A前から税理士・弁護士と費用処理の方針を決める
M&Aの費用処理をどうするかは、M&Aが始まる前または進行中に税理士と相談して方針を決めておく。事後に「どう処理しようか」と考えると、記録が不十分で説明が難しくなる。
対策3:費用の内訳を細かく記録する
一括で請求されたDD費用やアドバイザリー費用でも、「どの作業に何の費用か」を明細として残しておく。M&Aに必須の費用と、M&Aとは関係のない調査(例:将来的な事業拡大のための市場調査)を分けることで、損金算入できる範囲を確保しやすくなる。
対策4:税務調査を想定した根拠資料を整備する
M&Aの費用を損金処理した場合、税務調査で確認される可能性が高い。「なぜ損金処理したのか」を説明できる根拠(条文・過去の裁決事例・専門家の意見書など)を整備しておくことで、調査への対応がスムーズになる。
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売り手が見落としやすい注意点
売り手側では、M&Aにかかった費用を「株式譲渡の費用」として譲渡収入から控除できる場合がある。
ただし、「株式の譲渡に直接要した費用」という要件を満たす必要がある。仲介手数料・法務費用・DDの費用は控除対象になりやすいが、M&Aと関係のない費用を混入させると問題になる。
また、個人オーナーが株式を譲渡する場合と、法人が株式を譲渡する場合では税務処理が異なる点にも注意が必要だ。
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まとめ
M&Aにかかる費用の税務処理は、「全額損金」「全額資産計上」とシンプルには決まらない。費用の種類・発生時期・M&Aのフェーズによって、損金算入できるかどうかが変わる。
見落とされがちだが、数千万円規模の費用の税務処理を誤ると、数百万〜数千万円の追徴課税につながることもある。M&Aの検討を始めた段階から、費用の記録と税務処理の方針を税理士と決めておくことが、M&Aの「見えにくいコスト」を管理する上で不可欠だ。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
ジョブカンM&Aは、株式会社DONUTSが運営するM&Aアドバイザリーサービスです。主に企業の事業承継、成長戦略、出口戦略(イグジット)といった多様なニーズに応えることを目的としています。最大の特徴は、累計導入社数20万社以上を誇るバックオフィス支援クラウドERPシステム「ジョブカン」の広範なネットワークを活用している点です。この強力な顧客基盤を生かし、効率的なマッチングを実現します。
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