「持株会」とは、簡単に説明すると、“従業員が勤め先企業の株式を少額からでも買える仕組み”を利用するために加入する組合です。なぜこのような仕組みが設けられているかというと、企業が、従業員の資産形成をサポートするためです。具体的に、どうすれば従業員はこの仕組みを活用できるのか、活用することにはどんなメリット、デメリットがあるのかなど、持株会について詳しく解説していきます。
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持株会とは? まずは基礎知識と仕組みを知ろう
持株会とは、企業の従業員が、自社株を定期的かつ継続的に共同で購入できる仕組みである「持株会制度」を利用するための組合で、従業員同士で結成されています。
正式名称は「従業員持株会」で、従業員持ち株会は、法人格を持たない「民法上の任意組合」として組織されるのが一般的です。
組合結成の目的は、自社株を買い付けることです。持株会という組合を通じて、従業員同士で株式を購入することが、冒頭で述べた通り個人の資産形成につながるのはなぜかというと、各自が出資した金額の割合に応じて、持分が割り当てられるためです。
持株会を通じた自社株購入のステップ
- ①持株会に加入:社内の持株会事務局や人事部に「加入申込書」を提出するか、あるいは指定されたwebサイトから入会手続きをおこないます。
- ②拠出金の決定:毎月いくら積み立てるかを自分で決めます。たとえば、1口1,000円で4口=4,000円など、一人ひとり自由に決められます
- ③給与から天引き:決定した金額は、毎月の給料やボーナスから自動的に差し引かれます。ただし、採用されている割合としては少ないですが、天引きではなく、手持ち資金から拠出するというパターンもあります。
- ③「奨励金」の上乗せ:(奨励金が用意されている場合)拠出金に奨励金が上乗せされます。
- ④共同購買:持株会が、全加入者から集まった資金をまとめて、市場や株式から自社株を一括で購入します。
- ⑤持分の割り当て:各自が出資した金額(=拠出金)の割合に応じて、一人ひとりに「持分」が分配されます。
なお、③の「奨励金」については追って詳しく解説していきます。
また、⑤持分の割り当ては、毎月おこなわれるケースが多いですが、「毎月積み立てて四半世紀ごとに購入」「賞与分のみ別日に購入」などの運用である場合もあります。毎月割り当てがおこなわれる場合は、たとえば、「1月給与から拠出→2月初旬に自社株購入→2月中旬ごろに持分割り当て」といった流れになります。
持株会の種類
持株会にはいくつか種類がありますが、代表的なものは次の通りです。
- ①従業員持株会
- ②拡大従業員持株会
- ③役員持株会
- ④取引先持株会
それぞれの特徴は次の通りです。
従業員持株会
従業員が給与や賞与から一定額を積み立てて、自社株を購入する制度を利用するための組合です。なお、従業員持株会は、もっとも多くの上場企業で導入されています。
拡大従業員持株会
非上場企業の従業員が、勤務先と密接な関係にある上場企業の株式取得を目的として運営する組合です。「役員従業員持株会」と呼ばれることもあります。
役員持株会
取締役や執行役員などの役員向けの持株会です。子会社の役員も含みます。自社株の購入を目的として運営されます。
取引先持株会
仕入先や販売代理店などの取引先企業が、当該会社の株式の取得を目的として運営する組合のことです。
その他
その他に、「グループ持株会」や「OB持株会」など、在職者以外も参加できる制度を設けている企業もあります。
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持株会と持株会社の違い
「持株会」と「持株会社」は名前が似ていますが、目的も仕組みもまったく異なるものです。
| 項目 | 持株会 | 持株会社 |
|---|---|---|
| 目的 | 従業員の資産形成・福利厚生 | グループ企業の支配・経営管理 |
| 主体 | 従業員の団体 | 会社(法人) |
| 法人格 | 通常なし(任意団体) | あり(株式会社など) |
| 保有する株式 | 自社株が中心 | 子会社株式 |
| 主な利用者 | 従業員 | 企業グループ |
| 設立目的 | 福利厚生・従業員還元 | 経営戦略・組織再編 |
持株会社とは
持株会社(ホールディングス会社)は、他の会社の株式を保有して支配することを目的とした会社です。イメージとしては次の通りです。
持株会社(親会社)
│
┌--────┼────┐
↓ ↓ ↓
子会社A 子会社B 子会社C
持株会社はグループ全体の経営戦略や資金配分を管理します。
持株会社の主な役割
◎グループ経営の統括
たとえば、次の点についてグループ全体で統一できます。
- 人事戦略
- M&A
- 財務戦略
- ブランド管理
◎事業ごとの責任分離
事業ごとに会社を分けることで、利益管理、リスク管理、事業売却などがしやすくなります。
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持株会とストックオプションの違い
持株会とストックオプションは、どちらも従業員が自社の成長によって利益を得られる制度ですが、「株を買う制度」か「株を買う権利をもらう制度か」という大きな違いがあります。
| 項目 | 持株会 | ストックオプション |
|---|---|---|
| 内容 | 自社株を購入する制度 | 自社株を将来一定価格で買う権利 |
| 取得方法 | 自分で拠出金を出して購入 | 会社から付与される |
| 初期負担 | あり | 通常はなし(権利付与時) |
| 利益が出る条件 | 配当や株価上昇 | 株価が権利行使価格を上回る |
| 配当金 | 株主になれば受け取れる | 権利だけでは受け取れない |
| 対象者 | 従業員全般 | 役員・幹部・重要人材が中心 |
| 福利厚生性 | 高い | インセンティブ性が高い |
ストックオプションとは
ストックオプションは、
「将来、あらかじめ決められた価格で自社株を買える権利」です。株そのものではなく、「購入する権利」が与えられます。
(例)
- 権利行使価格:1株1,000円
- 将来の株価:3,000円
この場合、1,000円で買った株を3,000円で売却できるため、将来得られる利益は次の通りです。
(利益)
3,000円 − 1,000円=2,000円/株
持株会とストックオプションの最大の違いは「リスク」
持株会は実際に株を購入するため、購入した時点で投資リスクを負うことになります。
- 株価上昇 → 利益
- 株価下落 → 損失
となります。
一方のストックオプションは権利なので、株価が上がれば権利を行使して、株価が下がれば権利を行使しないという選択ができます。
たとえば、権利価格が1,000円で現在株価が700円なら、権利を使わなければよいため、基本的に損失は発生しません。
持株会とストックオプションの配当金の違い
持株会制度を利用すれば、株主として扱われるため、配当金、株主還元を受けられます。一方、ストックオプションは権利を持っているだけなので株主ではありません。そのため、配当金、株主総会の議決権はありません。ただし、権利を行使して株主になれば、配当金を受けることができます。
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従業員持株会の設立・運営の仕組み
従業員持株会は、従業員が給与や賞与から一定額を拠出して、自社株を共同で購入・保有する制度です。福利厚生制度の一つとして導入されることが多く、運営には規約や管理体制の整備が必要です。
【持株会設立の流れ】
- ①制度設計:加入対象者、拠出方法、奨励金率などを決定する
- ②規約作成:持株会規約や運営ルールを整備する
- ③理事会設置:持株会を運営する役員を選任する
- ④証券会社との契約:株式購入・管理を委託する
- ⑤ 銀行口座開設・覚書締結:持株会で用いる銀行口座を開設して、企業と持株会との間で覚書を締結する
- ⑥加入募集:従業員へ制度説明・募集する(説明会を開く)
- ⑦運営開始:毎月の拠出・株式購入を実施する
奨励金の仕組みと拠出額の設定方法
持株会の奨励金とは、会社が従業員持ち株会の利用促進のために、従業員の拠出金に上乗せして支給するお金のことです。
たとえば、毎月の拠出金が10,000円だとして、奨励金率が10%の場合、従業員は10,000円を拠出することで11,000円分の自社株を購入できるということになります。
ただし、奨励金は課税対象となるので注意が必要です。
拠出額の設定方法
一般的には、次のようなルールが設けられます。
- 最低拠出額:1,000円~5,000円程度
- 拠出単位:1,000円刻み
- 上限額:月3万円~10万円程度
- 賞与時の追加拠出制度あり
(例)
- 毎月の拠出:5,000円~50,000円
- 増額申請:年1~2回
- 賞与拠出:任意で追加可能
規約で定める主な内容
持株会規約には、次のような事項が定められます。
- 入会・退会条件
- 拠出額の変更方法
- 奨励金の支給条件
- 株式の管理方法
- 議決権の取り扱い
- 退職時の持分処理
- 相続時の対応
など
理事会の役割
持株会は、会社とは別の独立した組織として運営されるため、理事会が設置されるのが一般的です。
また、持株会を設立するためには、「設立発起人」も必要です。
理事会の主な役割は次の通りです。
- 規約の改定
- 予算管理
- 運営方針の決定
- 総会の開催
- 会員管理
など
【理事の構成例】
- 理事長=持株会代表
- 副理事長=理事長補佐
- 理事=運営方針の決定
- 監事=会計・運営監査
企業によっては、人事部や総務部の担当者が事務局を兼務します。
管理体制(持株会サービスを利用するとスムーズ)
実務面では、証券会社や信託銀行の持株会サービスを利用するケースがほとんどです。
主な業務は次の通りです。
- 毎月の給与天引き
- 拠出金の集計
- 株式購入
- 会員ごとの持分管理
- 残高報告書の発行
など
つまり、持株会サービスを利用することによって、事務局の負担を大幅に軽減できるということになります。
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持株会の配当金とは? 受け取り方と税務
持株会で保有している株式に配当金が支払われる場合、その配当金は会員(従業員)の持分に応じて分配されます。
ただし、一般の証券口座で株を保有している場合とは異なり、持株会独自の取り扱いがあるため、受け取り方法や税務上の扱いを理解しておくことが大切です。
一般的な配当金の計算方法(持ち株数×1株配当額)
配当金の基本的な計算式は次のとおりです。
配当金 = 保有株数 × 1株当たり配当金
(例)
- 保有株数:500株
- 1株当たり配当金:50円
この場合の配当金総額は、次の計算によって25,000円となります。
500株 × 50円 = 25,000円
配当金総額は25,000円です。
持株会の場合の配当金の計算方法
上記に対して、持株会の場合は、株式を共同保有しているため、会員ごとの持分に応じて配当金が計算されます。
たとえば、
- 持株会全体の保有株数 100,000株
- Aさんの持分 1%
- 1株配当額 50円
の場合、
- 持株会全体の配当金:500万円
- Aさんの取り分:5万円
となります。
配当金の受け取り方
企業や持株会の規約によって異なりますが、主に次の2パターンがあります。
現金で受け取る
もっとも一般的な方法です。
配当金から税金を差し引いた後、次のような方法で受け取ります。
- 指定口座への振込
- 給与と合わせて支給
自動的に再投資する
配当金を現金で受け取らず、次のようなことに充てる方式です。
- 自社株の追加購入
- 持分の増加
少額でも継続的に株数が増えるため、長期的な資産形成効果が期待できます。
受け取り時の課税(配当所得と確定申告)
配当金は「配当所得」
配当金は税法上、配当所得として扱われます。
上場株式の配当では、通常、次の税金が源泉徴収されます。
- 所得税・復興特別所得税:15.315%
- 住民税:5%
- 合計20.315%
(例)
配当金が10,000円の場合
- 配当金:10,000円
- 税額(20.315%):約2,032円
- 手取り:約7,968円
確定申告は必要?
多くの場合は不要です。
上場株式の配当金は源泉徴収されるため、一般的には確定申告をしなくても課税関係は終了します。
ただし、次のケースに該当する場合、申告したほうが有利になることがあります。
配当控除を利用する場合
総合課税を選択すると、一定の税額控除を受けられる場合があります。
株式売却損と損益通算する場合
上場株式等の配当について申告分離課税を選択すると、株式の譲渡損失、配当所得を相殺できる場合があります。
注意点
総合課税、申告分離課税のどちらが有利になるかは、年収、他の所得、株式の売却損益によって変わります。税理士や証券会社に確認するのが確実です。
配当再投資との選択肢
前述した通り、配当は受け取らずに再投資するという選択肢があります。毎月の拠出金、会社の奨励金、配当金再投資の3つを組み合わせると、保有株数が効率的に増加することから、長期勤務を前提とする従業員にとっては、資産形成手段として有効であることが多いです。
配当金を受け取る場合のメリット・デメリット
【メリット】
- 現金収入になる
- 自由に使える
【デメリット】
- 株数は増えない
配当再投資する場合のメリット・デメリット
【メリット】
- 自動的に保有株数が増える
- 複利効果が期待できる
- 長期資産形成に向く
【デメリット】
- すぐに現金化できない
- 自社株への集中投資が進む(他の株にも投資したほうがバランスがよくなる可能性がある)
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持株会のメリット
持株会制度を導入する企業、持株会加入者にとってのメリットは次の通りです。
企業にとってのメリット
安定株主ができる
定期的かつ継続的に自社株を購入してくれる持株会は、企業にとっては“安定株主”であるといえます。しかも、持株会の加入者は自社の従業員や役員であるため、自社の経営方針に概ね賛同しているということになるため、信頼できる株主でもあります。
従業員のモチベーションアップが期待できる
従業員持株会に関しては、自社の業績が向上して自社株の配当が上がれば、株主である従業員に資産として還元されることから、仕事のモチベーションアップにつながることが期待できます。
福利厚生の充実につながる
従業員持株会制度は、一般的に福利厚生制度の一つとして扱われています。そのため、導入することによって、福利厚生の充実につながります。
また、福利厚生が充実していることを採用現場でアピールすれば、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
資金調達の多様化
一般的には、持株会は市場で既存株式を買い付けます。この場合、株式売買は市場で完結するため、自社に資金が入ることはありません。一方、持株会が購入する株式を新株で発行する場合などは、企業に新たな資金が流入することになります。つまり、第三者割当増資の手法として、資金調達機能が果たされることになります。
事業承継対策・相続対策になる
中小企業の株価が高くなると、事業承継や相続の際に支払う株式取得の対価も高額となってしまいます。この対価をできるだけ小さくするためには、持株会に一定の割合の自社株を保有してもらうことが有効です。どういうことかというと、持株会が一定の割合の自社株を保有すれば、経理人が保有する株式比率が下がるため、相続対象となる株式が減り、相続税対策になるというわけです。
M&Aにおける組織統合が円滑化しやすい
M&Aの実施時に、買収先の従業員が自社株を保有している場合、M&Aの手法として株式交換などが採用されると、持株会の保有株式が買収元企業株式に転換されます。これによって、持株会が親会社株を保有することになると、引き続き従業員が株主として企業価値向上に関わることができるため、組織統合がうまくいきやすいといわれています。
加入者にとってのメリット
少額からでも自社株を購入できる
株式の売買は、基本的に100株単位で実施されます。そのため、最低でも100株分を購入する資金がなければ、株式投資をおこなうことはできません。
しかし、従業員持株会に加入すると、自社株を1株単位で購入することができます。つまり、月額1,000円~10,000円程度の少額からでも投資をはじめられるということになります。
奨学金が支給される場合がある
奨励金は支給していない企業もありますが、「2024年度従業員持株会状況調査結果の概要」によると、奨励金を用意している企業は全体の96.6%です。そのうち3.8%の企業は、拠出金1,000円につき250円以上の奨励金を支給しています。拠出金1,000円に対する症例金額でもっとも割合が多いのは100~150円で、全体の43.9%を占めています。
参照:「2024年度従業員持株会状況調査結果の概要について」より「奨励金支給状況」
配当金を得られる・キャピタルゲインを得られる場合がある
「配当金」とは、会社で出た利益の一部を株主に還元するものです。購入時の価格に対して株価が上昇していれば、その差額が収益となりますが、この収益のことを「キャピタルゲイン」といいます。
配当金は、「一株あたりいくら」というかたちでの還元となるため、保有している株式数が多いほどリターンが大きくなりますが、従業員持株会で毎月購入し続けるとまとまった株式数を保有することになるため、受け取れる配当金も、株価上昇時のキャピタルゲインの額も大きくなります。
手続きが簡単
一般的な株式売買の場合、まず、最初のハードルが高いと感じる人は多いでしょう。一方、従業員持株会に加入すると、毎月自動的に給与や賞与から天引きされるため、余計な手間がかかりません。拠出金の金額変更も簡単です。
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持株会のデメリットと注意点
持株会制度を導入する企業、持株会加入者にとってのデメリット、注意点は次の通りです。
企業にとってのデメリット・注意点
継続的なコストの発生
奨励金を設定している場合、企業の福利厚生費として、奨励金の費用が継続的に支出することとなります。また、持株会の運営や管理を証券会社や信託会社に委託する場合、その委託費用も発生します。
インサイダー取引のリスク管理の必要性
持株会を通じた自社株の定額購入は、インサイダー取引規制の適用除外となりますが、従業員が会社の業績に関わるなんらかの重要情報を得たことによって、拠出額を増やしたり、あるいは退会して株式を引き出して売却したりした場合、インサイダー取引規制に抵触する恐れがあります。
そうした事態を防ぐために、会社側で、全従業員に対して定期的な研修を実施する管理責任を負っています。
株式が下落したり配当が維持できなくなったりする可能性がある
会社の業績が悪化した場合などに、株式が下落したり、配当が維持できなくなったりする可能性があります。そうなると、従業員のモチベーションは一気に低下します。
議決権比率の管理の必要性
従業員の持株比率が高くなると、経営が安定化することが期待できる一方、経営陣が意図しない形で議決権が行使されて、経営上の重要な意思決定に影響が及ぶ可能性があります。そのため、持株会に割り当てる株式の比率や種類は慎重に設計する必要があります。なお、株式の“種類”とは、たとえば、議決権制限株式などです。
M&Aが複雑化する場合がある
M&A検討時に持株会が株式を保有している場合、基本的には、すべての従業員から合意を得る必要がありますが、必ずしもスムーズに合意を得られるとは限りません。そのため、M&Aの手続きに時間がかかったり手続きが煩雑になったりする可能性があります。
なお、なぜ基本的にすべての従業員から合意を得る必要があるかというと、M&Aにおいては、買い手企業の多くは対象企業の株式を100%取得したいと考えるためです。
加入者にとってのデメリット・注意点
投資対象が自社株に限定される
これは当たり前といえば当たり前ですが、持株会によって購入できる株式は自社株のみであるため、成長性の高い他銘柄や、異なる資産クラスへの投資機会を逃してしまう可能性があります。
もちろん、月々の生活費などを除いて余力がある分ぶんをすべて持株会のために拠出しなければならないというわけではないので、持株会を活用しながらも、iDeCoやNISAをはじめとするほかの投資商品に分散させてしていくといいでしょう。
「人的資本(給与所得)」と「金融資産(株式)」の両方が勤務先であるため、倒産した際などはリスクが大きい
会社の業績が落ちて株価が下落した場合、保有資産が目減りすることになります。仮に勤務先が倒産した場合、収入と資産の両方を失うことになります。
株式優待は受けられない
一般的な株式投資では、株主優待を受けられる場合があります。しかし、従業員持株会を通じて株式を購入しても、株主優待を受けることはできません。なぜかというと、個人名義の証券口座ではなく、持株会名義で株式を購入しているためです。
ただし、一般的な株式売買における最低売買数量である1単元100株以上を保有している場合は、個人名義の証券口座をつくって株式を出庫することによって株主優待を受けることができます。ただし、出庫すると奨励金を受け取ることができなくなります。つまり、持株会のメリットがあまりないということになってしまいます。
すぐに売却できない
従業員持株会を通じて購入した株は従業員個人の資産にはなりますが、必要なときにいつでも引き出せるというわけではありません。なぜかというと、株の売買は、最低売買数量である1単元ごとと決められており、なおかつ、持株会の株を出庫するための個人名義の証券口座を持っている必要があるためです。つまり、1単元有しており、かつ個人名義の証券口座を持っている場合はすぐに売却することも可能ということではあります 。
なお、最低売買数量に達していない株式を現金に換えたい場合は、持株会の加入を解約して、持株会に買い取ってもらわなくてはなりません。
また、非上場企業の場合はそもそも株式市場が存在しないため、証券口座への出庫や市場での売却ができません。非上場企業の従業員が持株会を退会する場合や退職する際には、「持株会規約」に基づき、持株会そのもの、あるいはオーナー経営者や会社(自己株式の取得)が一定の評価額で株式を買い取ることで現金化(引き出し)をおこなうのが一般的です。
配当金や奨励金は課税対象
先に解説した通り、配当金は「配当所得」として扱われ、課税対象となります。また、奨励金は、多くの場合、「雑所得」あるいは「給与所得」として扱われることとなり、こちらも課税対象となります。
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M&Aにおける持株会の扱い
M&Aの実施にあたって、従業員持株会が株主となっている場合は、持株会も他の株主と同様に重要な利害関係者となることを考えなくてはなりません。特に非上場企業においては、持株会が数%~数十%の株式を保有しているケースがあるため、M&A実行時の調整事項となります。
持株会が株主となっている場合の株式譲渡の流れ
- ① M&Aの条件説明
買い手企業から提示された条件について、持株会の理事会に説明がなされます。たとえば、次のような事項についての説明があります。
- 株式譲渡価格
- 譲渡時期
- 売却後の従業員処遇
- 持株会の扱い
など
- ② 持株会内で意思決定
持株会規約に従って、理事会決議、総会決議などを実施します。
持株会は独立した組織のため、会社側だけで売却を決定することはできません。
- ③ 株式譲渡契約への参加
持株会は株主として、株式譲渡契約(SPA)、株主間契約などの当事者または同意者になります。
買い手企業は、持株会が売却に応じないと株式を100%取得できない場合があります。
- ④ 売却代金の受領
株式譲渡完了後、持株会が保有していた株式の売却代金を受領します。
(例)
- 持株会保有株数:10,000株
- 売却価格:1株5,000円
- 売却総額:5,000万円
- ⑤ 会員ごとに持分配分
持株会内で保有している持分割合に応じて、売却代金が各会員へ分配されます。
M&A成立後の持株会解散・精算の手続き
M&A後は、持株会の存続目的がなくなるため、解散するケースが一般的です。
【解散までの流れ】
M&A成立
↓
持株会保有株式売却
↓
売却代金受領
↓
会員への分配
↓
残余財産確認
↓
総会決議
↓
持株会解散
持株会解散時におこなう主な手続き
会員への分配
持分に応じて売却代金を支払います。
未払金・経費精算
証券会社手数料、税務関連費用、運営費などを精算します。
会計報告
理事会・総会で、売却金額、分配金額、残余財産を報告します。
解散決議
規約に従い、総会決議、理事会決議を実施します。
M&A売却価格に対する持株会の影響と交渉ポイント
- ① 持株会が少数株主の場合
持株会保有比率が低い場合は、他の株主と同じ条件・同じ株価で売却することが一般的です。
- ② 持株会が大株主の場合
たとえば株主の比率が次のようなケースでは、持株会の同意がM&A成立の重要条件になることがあります。
(例)
- 創業者 55%
- 持株会 20%
- その他株主 25%
この場合、買い手が次のような条件を提示してくる場合もあります。
- 特別配当
- 上乗せ対価
- 従業員向けインセンティブ
- ③ ドラッグアロング条項がある場合
株主間契約に「ドラッグアロング(売却強制参加条項)」がある場合は、一定条件下で持株会も売却に応じる必要があります。
- ④ 従業員処遇とのセット交渉が望ましい場合
持株会が従業員の利益代表的な立場である場合、価格だけでなく、雇用維持、福利厚生維持、役職員の待遇、退職金制度なども重要な交渉テーマになります。
- ⑤ 少数株主(反対株主)を排除するスクイーズアウトの検討
買い手企業が対象企業の株式の100%取得を目指す場合、持株会に所属する全会員から譲渡の同意を得ることが理想です。しかし、実務上は一部の会員が売却に反対したり、連絡が取れなかったりするケースが少なくありません。このように全員の同意が得られない場合は、会社法上の手続きである「スクイーズアウト(少数株主の強制排除)」の実行を検討する必要があります。具体的には、株式併合や全部取得条項付種類株式などの手法を用いて、強制的に持株会(およびその他の少数株主)から株式を買い取り、買い手企業の完全子会社化を実現します。
実務上よくあるケース
ケース1:非上場企業の100%株式譲渡
もっとも一般的なパターンです。この場合は次の通りとなります。
- 持株会株式も同時売却
- 売却代金を会員へ分配
- 持株会解散
ケース2:上場企業によるTOB(株式公開買付け)
持株会が保有する株式について、TOBに応募する/上場維持後も保有する などについて規約や理事会で決定します。
ケース3:グループ再編
親会社への株式交換などの場合、現金ではなく買い手側企業の株式が交付されることもあります。
M&Aで持株会が重視するポイント
- 売却価格が適正か
- 全株主と同条件か
- 従業員の雇用が守られるか
- 税金・分配方法が明確か
- 解散後の手続きが適切か
特に非上場企業のM&Aでは、持株会が保有する株式も買収対象となるため、持株会の同意取得と会員への公平な利益配分が、M&A成功の重要なポイントになります。
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持株会と事業承継・相続の関係
持株会は従業員の福利厚生制度として利用されるだけでなく、オーナー企業の事業承継対策や株式の分散対策として活用されることがあります。ただし、後継者への承継や相続税対策との関係においては、注意すべきこともあります。
持株会が事業承継で活用される理由
株式の安定保有先になる
オーナー経営者が保有株式の一部を持株会へ売却すると、株式が従業員側へ移転します。これによって、次のようなメリットが得られます。
- 安定株主を増やせる
- 敵対的買収を防衛できる
- 従業員の経営参加意識が高まる
後継者に集中承継をしやすくする
事業承継を進めたいと考えていても、後継者(候補)、親族、従業員、外部株主に株式が分散すると意思決定が難しくなります。
そのため、次の通り手配して整理することがあります。
- 経営権に必要な株式は後継者へ
- 一部は持株会へ
持株会と相続税評価の関係
非上場企業では、株価評価が高くなると相続税負担も大きくなります。たとえば、株価:1株10万円・保有株数:1万株なら、株式評価額は10億円になります。そのため、オーナーは生前から、後継者への贈与、持株会への譲渡、事業承継税制の活用などを検討します。
ただし、持株会へ株式を売却しても相続税対策になるとは限りません。なぜなら、株式を売却すると現金化されて、現金も相続財産になるからです。そのため、単純な売却だけでは相続税の節税効果は限定的です。
オーナー死亡時に持株会へ影響するケース
ケース1:オーナーが過半数株主の場合
オーナー死亡後、相続人の間で株式が分散して、経営権が不安定化する可能性があります。
そうした状況において、持株会が一定割合を保有していると、安定株主として会社運営を支える役割を果たすことがあります。
ケース2:後継者が持株会の支援を受ける場合
たとえば、株式の保有比率が、後継者:35%、持株会:20%、その他:45%の場合、持株会が後継者を支持すれば経営の安定につながります。
持株会会員が死亡した場合
持株会の会員本人が死亡した場合は、持分も相続財産となります。持株会規約に則って手続きがとられることになります。
一般的には、次のような流れとなります。
相続人が持分を相続
↓
株式を払い出す
↓
換価して現金で受け取る
持株会株式の相続で問題になりやすい点
株価が分かりにくい
上場企業なら市場価格がありますが、非上場企業では評価が難しくなります。そのため、税理士、公認会計士、事業承継専門家による評価が必要になることがあります。
株式の換金性が低い
非上場株式は市場で売却できないため、換金性が著しく低いという問題があります。従業員が死亡して相続人が「株はいらないので現金がほしい」と希望しても、持株会規約に「相続発生時の買い取り規定」が明確に定められていなければ、買い手が見つからず現金化できないトラブルに発展する可能性があります。オーナー経営者は、事業承継を見据えて持株会を設立・運営する際、退職時や相続発生時の買い取りルール(買い取り主体や株価の算定方法)を規約で厳密に定めておく必要があります。
この記事の内容、自社に当てはめるとどうなる?
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従業員持株会制度をうまく活用すれば、会社側と従業員側とでwin-winの関係を築ける
先に解説した通り、持株会制度を導入することにはメリットもデメリットもあります。しかし、特に従業員持株会制度に関しては、うまく活用すると、経営側も従業員側も大きなメリットを得られることから、両社の信頼関係構築にも作用する制度であるといえます。配当金を受け取る側である従業員のモチベーションが上がるのはもちろん、経営側も、「従業員に還元するためにも業績を上げていきたい」という意識が働きやすくなるので、現状、導入していない企業は、導入を検討してみてもいいかもしれません。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
執筆 ジョブカンM&A編集部
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