「個人保証があるから、会社を売れない」
そう思い込んでいる中小企業オーナーは少なくない。確かに数年前まで、個人保証(連帯保証)の存在はM&Aの大きな障壁だった。売却しても保証が残れば、会社を手放した後も経営者個人に債務リスクが残り続ける——そんなリスクを恐れて、M&Aの検討すら躊躇するオーナーも多かった。
しかし2024年以降、状況は変わっている。
金融庁が推進する「経営者保証改革プログラム」によって、個人保証なし融資が急速に広がり、M&Aの場面でも保証の扱いに関するルールと慣行が変化してきた。「個人保証があるからM&Aは無理」という時代は終わりつつある。
本記事では、個人保証の仕組みと、M&Aにおける保証の解除・引き継ぎ・対処法を整理する。
まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから
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経営者保証とは何か:基本の確認
連帯保証と個人保証
中小企業が銀行融資を受ける際、代表者個人が「保証人」になる慣行が長年続いてきた。これを「経営者保証」と呼ぶ。法人が返済できなくなった場合、保証人個人が代わりに債務を負う。
日本の中小企業では、この経営者保証が広く普及していた。2023年時点で、中小企業向け融資の半数以上に個人保証が付いているというデータもある。
M&Aで問題になるのはなぜか
会社を売却すると、経営権は買い手に移る。しかし銀行との融資契約における保証人(=前オーナー)の地位は、自動的には外れない。
つまり、会社を売っても保証が残れば、前オーナーは「会社とは関係ないのに、会社の借金の保証人」という状態が続くことになる。
この状態では:
多くのオーナーが「保証が外れないなら売らない方がいい」と判断してきた背景がここにある。
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経営者保証改革プログラムで何が変わったか
金融庁の動き:2024年以降
2023年12月、金融庁は「経営者保証改革プログラム」の推進強化を発表した。金融機関に対して、原則として新規融資における個人保証を取らないよう促す方針を明確にした。
2024年4月以降、主要銀行・地方銀行は以下を実施するよう求められている:
実際に、2024年の個人保証なし融資の比率は前年比で大幅に増加した。大手銀行では新規融資の7割超が個人保証なしというデータも出てきている。
M&Aにおける保証解除:原則論の整理
金融庁のガイドラインでは、M&Aによる事業承継の場面において、以下の場合は前オーナーの保証を原則として解除すべきとしている。
1. 買い手(新経営者)が保証人になることで前オーナーの保証を交代できる場合
2. 会社の財務状況・担保が十分で、個人保証なしでも貸付継続が可能な場合
3. 前オーナーが経営から完全に退き、会社への影響力を持たなくなった場合
この原則論が定着したことで、M&Aの検討段階から「保証をどう処理するか」を交渉テーブルに乗せることが一般化しつつある。
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M&Aにおける個人保証の3つの処理パターン
パターン①:買い手が保証を引き継ぐ(保証の引き替え)
最も一般的な処理方法だ。M&A成立と同時に、買い手(または買い手の代表者)が保証人の地位を引き継ぎ、前オーナーの保証が外れる。
メリット: 前オーナーが保証リスクから完全に解放される
条件: 買い手が銀行の審査を通過できること。買い手の信用力が前オーナーより低い場合、銀行が保証の引き替えに同意しないケースがある
パターン②:保証付き融資の返済・借り換え
M&Aの成約資金の一部を使って保証付き融資を返済し、保証を消滅させる方法だ。または、買い手が新たに保証なし融資を調達して既存融資を借り換える。
メリット: 保証問題を根本解決できる
デメリット: 返済・借り換えのための資金が必要。成約価格から差し引かれる形になることも多い
パターン③:保証付きのまま条件付き移転
前オーナーの保証が一定期間残留するが、具体的なリスク軽減措置(損害補償条項・エスクロー等)をM&Aの契約に盛り込む方法だ。
活用場面: パターン①②が難しい場合の暫定対応。段階的に保証を外す計画を付けることが多い
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保証解除に動くタイミング:M&A検討前から準備を始める
保証解除は、M&Aの成約直前に「やっぱり外してほしい」と言っても、銀行がすぐに動くものではない。財務状況・担保・経営実態の確認が必要なため、少なくともM&A検討の1〜2年前から保証解除の準備を始めることが理想的だ。
保証解除を実現しやすい会社の条件
| 条件 | 解説 |
| 財務の透明性が高い | 決算書が正確で、税理士による適切な会計処理がされている |
| 自己資本比率が一定水準以上 | 目安:20%以上。借入過多でない |
| 担保(不動産・預金等)が十分 | 保証の代わりに担保でリスクをカバーできる |
| 本業の業績が安定している | 赤字・業績悪化中の状態では解除交渉が難しい |
| 会社と個人の財布が分離されている | 経営者個人への貸付・立替が多い場合は整理が必要 |
M&A検討前に「自社の財務が保証解除に耐えられる状態かどうか」を確認することが、最初のステップだ。
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銀行との交渉:実際の進め方
ステップ1:メインバンクに相談する
保証解除の意向を最初に相談するのはメインバンクだ。「事業承継・M&Aを検討しており、個人保証の扱いについて相談したい」と伝えるだけで、担当者が経営者保証改革の制度説明と自社への適用可否を案内してくれるケースが増えている。
ステップ2:財務状況の整備
上記の「保証解除を実現しやすい会社の条件」を満たすよう、決算書の整備・貸付金の整理・自己資本の充実を進める。
ステップ3:「経営者保証に依存しない融資」への移行申請
2024年以降、多くの銀行が「経営者保証依存から脱却するための融資切り替えプログラム」を持っている。担保・財務状況の審査を経て、既存の保証付き融資を保証なし融資に切り替えることができる。
ステップ4:M&Aの成約条件に保証処理を明記
買い手が決まった段階で、成約条件として「前オーナーの保証解除を成約の前提条件とする」ことを明記する。この条項を入れておくことで、成約後に保証が残り続けるリスクを防げる。
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よくある質問(FAQ)
Q. 個人保証があることで、M&Aの売却価格は下がりますか?
直接的に価格が下がるわけではないが、保証付き融資が大きい場合、買い手から「保証の引き替えコスト・リスク」を価格交渉に使われることはある。事前に保証解除が進んでいるほど、交渉を有利に進めやすい。
Q. 銀行が保証解除に同意してくれないケースはありますか?
ある。財務状況が芳しくない場合、担保が不十分な場合、業績が不安定な場合は、銀行が保証解除に応じないことがある。この場合はパターン③(条件付き移転)などの代替策を検討することになる。
Q. 個人保証の問題は仲介会社に相談できますか?
できる。M&A仲介会社・FAは保証問題の交渉に慣れており、銀行との調整・契約条件への盛り込み方についてアドバイスを受けられる。ただし、銀行との正式な交渉は弁護士・税理士と連携して進めることを推奨する。
Q. 個人保証を入れたのが地方の信用金庫です。大手銀行と対応が違いますか?
対応方針に差がある場合もある。信用金庫・信用組合は地域密着型のため、個別交渉の余地が広い一方で、保証解除の経験・ノウハウが大手銀行より少ないケースもある。金融庁の経営者保証改革プログラムは全金融機関に適用されるため、同じ原則を根拠に交渉することは可能だ。
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まとめ:「個人保証があるから売れない」は過去の常識
経営者保証改革プログラムの推進により、個人保証がM&Aの絶対的障壁だった時代は終わりつつある。
重要なのは、以下の3点だ。
1. M&A検討の前から保証解除の準備を始める(財務整備・銀行との対話)
2. 売却交渉の段階で保証処理を成約条件に明記する(事後の「保証が残った」を防ぐ)
3. M&A仲介・弁護士・税理士の専門チームを早めに揃える(銀行交渉は専門家と連携が必須)
個人保証を理由にM&Aを諦めているオーナーは、まず税理士かメインバンクに「経営者保証改革プログラムの適用可否」を聞いてみることから始めてほしい。思っていたより早く、解決への道筋が見えてくることが多い。
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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