法人と株式会社の違い|包含関係と法人の種類、M&Aで組めるスキームがどう変わるか

「法人」と「株式会社」は、日常会話ではほぼ同じ意味で使われている。だが正確には、株式会社は法人という大きな枠組みの中の1つの種類にすぎない。

株式会社と法人の違いを一言でいえば、包含関係である。すべての株式会社は法人だが、すべての法人が株式会社ではない。法人と株式会社の違いを整理しないままM&Aの検討を進めると、対象会社の形態によって使えるスキームが違うことに、交渉が進んでから気づくことになる。

ここでは法人と株式会社の関係を会社法・民法の条文から整理し、法人形態がM&Aの選択肢と課税にどう影響するかまで見ていく。

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目次
  1. 法人とは何か
  2. 法人の種類と設立の根拠法
  3. 株式会社は「会社」の一種
  4. 課税の扱いも法人の種類で分かれる
  5. 法人形態が違うと、M&Aのスキームも変わる
  6. 法人形態別のM&Aスキーム対応表
  7. 実務でどう問題になるか
  8. 対象会社を確認する際のチェックリスト
  9. よくある質問
  10. まとめ
  11. 参考・一次情報

法人とは何か

法人とは、法律によって人と同じように権利義務の主体になれると認められた組織である。民法第33条は「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない」と定めており、法律の根拠なしに法人を作ることはできない(法人法定主義)。

法人には、会社法に基づく「会社」のほかに、一般社団法人・一般財団法人、特定非営利活動法人(NPO法人)、医療法人、宗教法人、社会福祉法人など、多くの種類がある。「法人」という言葉は、これらすべてを含む上位概念である。

法人格があると何が変わるか。次の3点が、個人事業との決定的な違いになる。

  • 法人名義で契約・登記・口座開設ができる。代表者個人とは別の主体として扱われる
  • 構成員が入れ替わっても組織は存続する。代表者が交代しても契約は引き継がれる
  • 法人自身が納税義務者になる。個人の所得税ではなく法人税が課される

法人の種類と設立の根拠法

区分 法人の例 根拠法 利益の分配
営利法人 株式会社・合同会社・合名会社・合資会社 会社法 できる(配当・持分の払戻し)
一般法人 一般社団法人・一般財団法人 一般社団・財団法人法 できない
公益法人 公益社団法人・公益財団法人 公益法人認定法 できない
特定非営利活動法人 NPO法人 特定非営利活動促進法 できない
医療法人 医療法人社団・医療法人財団 医療法 原則できない(剰余金の配当禁止)
社会福祉法人 社会福祉法人 社会福祉法 できない
士業法人 税理士法人・弁護士法人など 各士業法 社員間で分配

「法人」と言われたときに株式会社が思い浮かぶのは、営利法人の中で株式会社が最も数が多いからにすぎない。根拠法が違えば、設立の手続も、監督官庁も、M&Aの進め方も変わる。

株式会社は「会社」の一種

会社法は、会社の種類を「株式会社」と「持分会社」の2系統に分けている。持分会社はさらに、社員の責任の範囲によって「合同会社」「合名会社」「合資会社」の3種類に分かれる。

会社の種類 出資者の責任 経営と出資の関係 譲渡の単位
株式会社 有限責任(出資額の範囲内) 株主(出資者)と経営者(取締役)が分離できる 株式
合同会社 有限責任(出資額の範囲内) 出資者自身が経営を行うのが原則 持分
合名会社 無限責任 出資者自身が経営を行う 持分
合資会社 有限責任社員と無限責任社員が混在 出資者自身が経営を行う 持分

株式会社が中小企業のM&Aで圧倒的に多く登場するのは、株式という譲渡しやすい単位に経営権を分割できるためである。株式を譲渡するだけで経営権を移転できる仕組みは、持分会社にはない。

なお会社法では、出資者のことを株式会社では「株主」、持分会社では「社員」と呼ぶ。持分会社の「社員」は従業員ではなく出資者を指すため、デューデリジェンスの資料で読み違えやすい。

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課税の扱いも法人の種類で分かれる

法人税法は、法人を普通法人・公益法人等・協同組合等・人格のない社団等に区分し、税率と課税範囲を変えている。

区分 課税される所得 税率(令和7年4月1日以後開始事業年度)
普通法人(株式会社・合同会社など) すべての所得 23.2%。資本金1億円以下の中小法人は年800万円以下の部分が15%
公益法人等(公益社団・財団法人、非営利型の一般法人) 収益事業から生じた所得のみ 年800万円以下の部分が15%
協同組合等 すべての所得 年800万円以下の部分が15%
人格のない社団等 収益事業から生じた所得のみ 年800万円以下の部分が15%

軽減税率の適用対象であっても、令和7年4月1日以後に開始する事業年度では、所得が年10億円を超える法人の軽減税率は17%になる。

非営利法人が「税金がかからない」わけではない。収益事業を行っていればその所得には課税される。M&Aで非営利法人の事業を引き受ける場合、対象事業が収益事業に当たるかどうかが価格の前提になる。

法人形態が違うと、M&Aのスキームも変わる

法人の種類によって、使える譲渡スキームは異なる。

株式会社の場合、株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割など、会社法が定める幅広いスキームを選択できる。特に株式譲渡は、譲渡制限株式であっても会社の承認を得れば経営権を移転でき、手続が比較的単純である。

合同会社の場合、株式ではなく「持分」を保有する形になる。持分の譲渡には、原則として他の社員全員の承諾が必要であり、株式譲渡ほど自由に譲渡できない。定款で譲渡の条件を緩和している場合もあるため、事前の確認が欠かせない。

医療法人や社会福祉法人など非営利性の高い法人の場合、そもそも「持分」や「株式」という概念がない、または出資持分に譲渡制限がかかっているケースが多い。これらの法人が関わるM&Aでは、社員(構成員)の交代や理事の変更といった、株式譲渡とは異なる手続を取る。

NPO法人や一般社団法人の場合、非営利法人であるため「会社を売る」という発想自体が成り立たない。事業譲渡という形で、特定の事業や資産・契約関係だけを移転する手法が中心になる。

法人形態別のM&Aスキーム対応表

法人形態 株式・持分譲渡 事業譲渡 合併 主な確認事項
株式会社 可能 可能 可能 譲渡制限株式かどうかを定款で確認
合同会社 可能(社員全員の承諾が原則) 可能 可能 定款の譲渡条件を確認
合名会社・合資会社 可能(社員全員の承諾が原則) 可能 可能 無限責任社員の存在を確認
医療法人 出資持分の有無で対応が分かれる 可能 制限あり 出資持分あり型・なし型の区別と都道府県知事の認可
一般社団法人・NPO法人 不可(持分の概念がない) 可能 制限あり 事業譲渡・組織再編の可否を個別に確認
社会福祉法人 不可 可能 制限あり 所轄庁の認可

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実務でどう問題になるか

対象会社の法人形態を確認せずに交渉を進めると、想定していたスキームが使えないことが交渉の終盤で判明する場合がある。

典型的なのは、合同会社を株式会社と同じ感覚で扱ってしまうケースである。持分の譲渡には社員全員の同意が必要になることが多く、株式譲渡のように支配株主の同意だけでは完結しない。社員が多い合同会社ほど、この手続に時間がかかる。

もう1つの典型例は、医療法人や社会福祉法人を対象にした案件である。これらの法人は営利法人とは異なる規制(医療法・社会福祉法等)の下にあり、理事や社員の変更にも所轄庁への届出や認可が必要になることがある。株式会社を前提にしたスケジュールをそのまま当てはめると、想定より時間がかかる。

対象会社を確認する際のチェックリスト

M&Aの初期検討段階で、次を確認しておくと後の手戻りを避けられる。

  • [ ] 対象会社は会社法上の会社(株式会社・持分会社)か、別の根拠法に基づく法人か
  • [ ] 登記事項証明書で法人の種類と設立根拠法を確認した
  • [ ] 株式会社の場合、発行株式に譲渡制限がついているか(定款・登記事項証明書)
  • [ ] 合同会社の場合、持分の譲渡について定款でどう定めているか
  • [ ] 持分会社の場合、無限責任社員がいるか
  • [ ] 医療法人・社会福祉法人等の場合、出資持分の有無と所轄庁への届出・認可の要否
  • [ ] 非営利法人の場合、対象事業が収益事業に当たるか
  • [ ] 資本金1億円以下かどうか(中小法人の軽減税率と外形標準課税の判定)

よくある質問

Q. 株式会社と法人の違いを一言でいうと。
包含関係である。法人が上位概念で、株式会社はその中の1種類にあたる。「当社は法人です」と言っても、株式会社か合同会社かNPO法人かは分からない。

Q. 合同会社は法人か。
法人である。会社法上の会社はすべて法人格を持つ(会社法3条)。株式会社でないだけで、法人であることに変わりはない。

Q. 個人事業主は法人か。
法人ではない。法人格がなく、事業の権利義務は事業主個人に帰属する。法人を設立して事業を移すことを法人成りという。

Q. 「法人化」と「株式会社設立」は同じ意味か。
同じではない。法人化は法人格を得ることの総称で、株式会社にするか合同会社にするかは別の選択である。合同会社は設立費用が安く、株式会社は資金調達と信用の面で有利になる。

Q. M&Aで買い手が法人形態を気にする理由は。
使えるスキームと必要な同意の範囲が変わるからである。株式会社なら株式譲渡で完結するところ、合同会社なら社員全員の承諾、医療法人なら所轄庁の認可が加わる。

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

ジョブカンM&Aでは、専任アドバイザーが事業価値の簡易査定から成約まで一貫して伴走します。相談は無料。売却・買収のどちらでもお気軽にどうぞ。

まとめ

「法人」は上位概念であり、「株式会社」はその中の1つの種類である。

  • すべての株式会社は法人だが、すべての法人が株式会社ではない
  • 法人は根拠法ごとに種類が分かれ、設立手続も監督官庁も違う
  • 会社法上の会社でも、株式会社は「株式」、持分会社は「持分」と譲渡の単位が違う
  • 持分の譲渡には社員全員の承諾が原則必要で、株式譲渡ほど自由ではない
  • 課税も区分で分かれ、公益法人等は収益事業から生じた所得のみが課税対象になる
  • M&Aの検討を始める前に、登記事項証明書で法人の種類を確認することがスキーム選定の出発点になる

参考・一次情報

  • 民法(法人法定主義を定める第33条を含む)|e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 会社法(会社の種類を定める第2条・第575条等を含む)|e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
  • 国税庁 No.5759 法人税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  • 中小企業庁 事業承継 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html

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