消費税の簡易課税とは|事業区分とみなし仕入率、届出期限、原則課税との有利不利を計算例で解説【2026年10月改正対応】

消費税の納税額は、売上にかかった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて計算する。この「支払った消費税」を実額で積み上げず、業種ごとに決められた率で計算するのが簡易課税制度である。

2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間でインボイスの2割特例が終わるため、簡易課税への移行を検討する場面が増える。令和8年度税制改正では、2割特例や3割特例から簡易課税へ移るときの届出期限の特例も見直された。

本稿では、仕組み・要件・届出期限・有利不利の判断に加え、M&Aで判定がどう動くかまで整理する。税務は一般論であり、個別の判断は税理士など専門家に確認してほしい。

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目次
  1. 簡易課税の仕組み
  2. 事業区分とみなし仕入率
    1. 複数の事業を営む場合
  3. 適用要件
  4. 届出書の提出期限
    1. 2割特例終了後の具体的な期限
  5. 2年縛りとやめるときの手続き
  6. 原則課税との有利不利の計算例
    1. 例1:サービス業(第5種・50%)の法人
    2. 例2:小売業(第2種・80%)の法人
  7. M&Aで簡易課税の判定はどう動くか
    1. 合併法人・分割承継法人の側
    2. 事業譲渡の買い手の側
    3. 事業譲渡の売り手の側
  8. よくある質問
    1. Q1. 簡易課税を選ぶとインボイスは発行しなくてよいのか
    2. Q2. 2割特例の最後の申告で簡易課税の方が有利だった場合、さかのぼって選べるか
    3. Q3. 基準期間の売上が5,000万円を超えたら届出書を出し直す必要があるか
  9. まとめ
  10. 参考

簡易課税の仕組み

簡易課税では、次の式で納付税額を計算する。

納付税額 = 売上にかかる消費税額 − 売上にかかる消費税額 × みなし仕入率

仕入れにかかる消費税額を実額で計算しないため、仕入先から受け取ったインボイスの保存が仕入税額控除の要件にならない。経理の手間を減らせる一方、仕入れが売上を上回っても還付は受けられない。

事業区分とみなし仕入率

みなし仕入率は、事業区分ごとに次のとおり定められている(国税庁タックスアンサーNo.6505)。

事業区分 みなし仕入率 主な事業
第1種事業 90% 卸売業(仕入れた商品を性質・形状を変えずに事業者へ販売)
第2種事業 80% 小売業、農業・林業・漁業のうち飲食料品の譲渡
第3種事業 70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業
第4種事業 60% 第1〜3・5・6種以外(飲食店業など)
第5種事業 50% 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く)
第6種事業 40% 不動産業

製造業に当たる事業でも、加工賃などを対価とする役務の提供は第4種になる。また、自社で使っていた固定資産を売った収入は第4種事業として扱う(消費税法基本通達13-2-9)。

複数の事業を営む場合

2種類以上の事業を営む場合は、原則として事業区分ごとの売上税額にそれぞれの率を掛けて計算する。売上を区分していない部分には、営んでいる事業のうち最も低い率が適用される。

次の特例もある。

  • 1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上:その事業の率を全体に適用できる
  • 3種類以上の事業のうち特定の2種類で75%以上:2種類のうち高い方の率をその事業に、低い方の率をそれ以外に適用できる

適用要件

簡易課税を使えるのは、次の2つを満たす課税事業者である。

  1. 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)
  2. 所轄税務署長に消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること

届出書を出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間は原則課税になる。その後5,000万円以下に戻れば、不適用届出書を出していない限り再び簡易課税が適用される(基本通達13-1-3)。

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届出書の提出期限

提出期限は原則と特例で分かれる。

ケース 提出期限 適用が始まる期間
原則 適用を受けたい課税期間の初日の前日まで 翌課税期間から
事業を開始した課税期間 その課税期間の末日まで 開始した課税期間から
免税事業者が登録の経過措置でインボイス登録(2023年10月1日〜2029年9月30日を含む課税期間) 登録日を含む課税期間中 登録日を含む課税期間から
2割特例・3割特例を使った課税期間の翌課税期間 翌課税期間の確定申告期限まで 翌課税期間から

最後の特例は令和8年度改正で見直されたもので、翌課税期間が2026年10月1日以後に終わる場合に適用される。申告期限の延長を受けている法人は、延長後の期限が届出の期限になる。

2割特例終了後の具体的な期限

事業者 最後の特例適用 簡易課税を始める期間 届出の期限
個人(2割特例のあと簡易課税) 2026年分 2027年分 2028年3月31日
個人(3割特例のあと簡易課税) 2028年分 2029年分 2030年4月1日
12月決算法人 2026年12月期 2027年12月期 2028年2月29日
3月決算法人 2027年3月期 2028年3月期 2028年5月31日

申告書を作る段階で実額と比べてから簡易課税を選べるため、有利不利を確かめたうえで判断できる。個人事業者の3割特例との比較は、関連記事「2割特例はいつまで」で扱っている。

2年縛りとやめるときの手続き

簡易課税をやめるには、やめたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を出す。ただし、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できない(タックスアンサーNo.6505)。

個人や1年決算の法人なら、少なくとも2期は簡易課税で申告することになる。大型の設備投資を予定している場合、簡易課税を選んでいると還付を受けられないため、投資時期と届出のタイミングを合わせて考える必要がある。

なお、課税事業者選択届出書を出して課税事業者になった事業者が、その後2年以内に一般課税で調整対象固定資産(税抜100万円以上の棚卸資産以外の資産)を仕入れた場合は、一定期間は一般課税で申告することになる(課税事業者選択届出書の記載要領)。詳しくは関連記事「消費税課税事業者選択届出書」を参照してほしい。

原則課税との有利不利の計算例

架空の数値で比べる。税率は地方消費税を含めて10%、軽減税率の取引はないものとする。

例1:サービス業(第5種・50%)の法人

項目 金額
課税売上高(税抜) 3,000万円
売上にかかる消費税額 300万円
実際の課税仕入れ(税抜) 1,200万円(消費税額120万円)
原則課税の納付税額 300万円−120万円=180万円
簡易課税の納付税額 300万円−300万円×50%=150万円

人件費が中心で課税仕入れが少ない業種は、簡易課税が有利になりやすい。給与は課税仕入れに当たらないためである。

例2:小売業(第2種・80%)の法人

項目 金額
課税売上高(税抜) 3,000万円
売上にかかる消費税額 300万円
実際の課税仕入れ(税抜) 2,500万円(消費税額250万円)
原則課税の納付税額 300万円−250万円=50万円
簡易課税の納付税額 300万円−300万円×80%=60万円

実際の仕入率が83%を超えているため、原則課税の方が10万円少ない。原価率の高い業種は、みなし仕入率が高くても原則課税が有利になることがある。

判断の目安は「実際の課税仕入れの割合がみなし仕入率を上回るか」である。上回るなら原則課税、下回るなら簡易課税が有利になる。2年間は変更できないため、翌期以降の投資計画や原価率の見通しも含めて比べる。

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M&Aで簡易課税の判定はどう動くか

合併・会社分割・事業譲渡では、簡易課税の届出の効力や判定の基礎となる売上高が引き継がれるかどうかが問題になる。

手法 簡易課税制度選択届出書の効力 5,000万円判定の基準期間
吸収合併・新設合併 被合併法人の届出は合併法人に及ばない 吸収合併は合併法人の基準期間の課税売上高のみで判定
吸収分割・新設分割 分割法人の届出は分割承継法人に及ばない 吸収分割は分割承継法人の基準期間の課税売上高のみで判定
事業譲渡 譲受側は自社の届出で判断(引継ぎの規定はない) 譲受側の基準期間の課税売上高で判定
相続(個人事業) 被相続人の届出は相続人に及ばない 個別に確認が必要

根拠は消費税法基本通達13-1-2、13-1-3の2〜13-1-3の4である。

合併法人・分割承継法人の側

吸収合併で簡易課税を適用していた被合併法人の事業を引き継いだ場合や新設合併の場合は、合併があった日を含む課税期間中に届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を使える。ただし、その課税期間の基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、もともと課税事業者である合併法人が吸収合併した場合は、この扱いに当たらない(基本通達13-1-3の3)。

合併後に簡易課税を続けたいなら、クロージング前に届出の要否と期限を確認しておく必要がある。

事業譲渡の買い手の側

事業譲渡には届出の効力を引き継ぐ規定がない。買い手は自社の基準期間と届出の状況で判定する。

譲り受けた事業が自社と違う事業区分なら、複数事業の計算になる。売上を区分して記帳しないと、低い方の率が適用されるおそれがある。買収後の会計システム統合では、事業区分ごとの売上管理を最初から組み込んでおきたい。

事業譲渡の売り手の側

簡易課税を使っている売り手が事業用の建物や設備を譲渡すると、その部分は第4種事業(60%)として計算する。のれんなど他の課税資産の扱いも含め、関連記事「事業譲渡の消費税」で整理している。

また、譲渡対価のうち課税資産の部分は売り手の課税売上高に含まれる。2年後の基準期間の課税売上高が5,000万円を超え、簡易課税が使えなくなることがあるため、事業を一部残して続ける場合は注意が必要である。

よくある質問

Q1. 簡易課税を選ぶとインボイスは発行しなくてよいのか

発行義務は変わらない。簡易課税で不要になるのは、自社が仕入税額控除のために受け取ったインボイスを保存する手間である。取引先から求められた場合のインボイスの交付義務は、登録事業者である限り残る。

Q2. 2割特例の最後の申告で簡易課税の方が有利だった場合、さかのぼって選べるか

さかのぼることはできない。期限の特例で届出できるのは、2割特例を使った課税期間の翌課税期間についてである。

Q3. 基準期間の売上が5,000万円を超えたら届出書を出し直す必要があるか

出し直す必要はない。5,000万円を超える課税期間は原則課税になるが、届出の効力は残り、5,000万円以下に戻った課税期間から再び簡易課税が適用される。

まとめ

  • 簡易課税は、売上税額にみなし仕入率(90〜40%)を掛けて仕入税額を計算する制度である
  • 使えるのは基準期間の課税売上高5,000万円以下で、届出書を出した課税事業者である
  • 届出は原則として適用を受けたい期間の前日までだが、2割・3割特例の翌課税期間は申告期限までに出せる
  • 一度選ぶと原則2年間はやめられず、還付も受けられない
  • 合併・分割・相続では届出の効力が引き継がれず、事業譲渡では売り手の課税売上高が増える点に注意する

まずは「自分の会社がいくらか」を知るところから

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参考

  • 国税庁 タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
  • 国税庁「消費税簡易課税制度選択届出手続」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_13.htm
  • 国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス関係)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm
  • 国税庁「令和8年度税制改正特集(3割特例・簡易課税への移行)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/pdf/0026004-099-01-2.pdf
  • 国税庁 インボイスQ&A 問117-3(3割特例と簡易課税制度) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/117-3.pdf
  • 国税庁「消費税法基本通達 第13章第1節 通則」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/13/01.htm
  • 国税庁「消費税法基本通達 第13章第2節」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/13/02.htm
  • 国税庁「消費税課税事業者選択届出書の記載要領等」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/pdf/1461_01_youryou.pdf

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