M&Aのクロージングは、株式や事業を実際に引き渡し、対価を受け取る日である。
最終契約を結んだ日とは別である。契約は「この条件で譲渡する」という約束で、クロージングはその実行にあたる。ここが同じ日だと思っていると、契約後の数週間から数か月の作業が想定から抜ける。
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最終契約とクロージングは別の日
| 最終契約(調印) | クロージング(実行) | |
|---|---|---|
| 何をするか | 譲渡の条件を確定して契約書に署名する | 株式・事業を引き渡し、対価を受け取る |
| 時期 | 交渉がまとまった時点 | 契約から数週間〜数か月後 |
| 間にあるもの | — | 前提条件の充足、許認可の取得、社内手続き |
契約からクロージングまでの期間を空けるのは、その間にやらなければ実行できないことがあるためである。株主総会の承認、取引先の同意、許認可の移転、金融機関の手続きなどが該当する。
条件がすべて整っている場合は、契約と同日にクロージングすることもある。中小企業のM&Aでは同日に行う例も多い。
クロージング当日にやること
株式譲渡の場合、当日に交換されるのは主に次のものである。
| 売り手が渡すもの | 買い手が渡すもの |
|---|---|
| 株券(発行会社の場合)または株主名簿の名義書換に必要な書類 | 譲渡代金(着金の確認まで) |
| 株主名簿 | 領収書の受領 |
| 会社の実印・銀行印・通帳・重要書類 | — |
| 役員の辞任届 | 新役員の就任承諾書 |
| 各種の許認可に関する書類 | — |
当日は「確認して交換する」だけの日にする。その場で条件を交渉する場ではない。着金を確認してから書類を渡すのが原則で、順序は事前に決めておく。
場所と時間
金融機関の営業時間内に設定する。着金の確認が当日にできないと、その日のうちに完了しない。午前中に始めて、午後に着金を確認する形が一般的である。
前提条件が満たせず延期になる3つの型
最終契約にはクロージングの前提条件(CP)が定められる。これが満たされないと、買い手はクロージングを拒否できる。
1. 表明保証に違反が見つかった
契約時に「こうです」と表明した内容が、実際と違っていた場合である。
- 簿外債務が見つかった
- 係争中の案件を開示していなかった
- 主要な取引先との契約に、支配権が変わると解除できる条項があった
軽微なものは価格調整で処理されるが、重大なものは解除の理由になる。
2. 許認可・同意が取れなかった
- 許認可が承継できない業種で、買い手側の新規取得が間に合わない
- チェンジ・オブ・コントロール条項により、主要取引先や賃貸人の同意が要るのに取れない
- 金融機関の借入について、保証や担保の切り替えが整わない
チェンジ・オブ・コントロール条項は、契約書を全部読まないと分からない。デューデリジェンスの段階で洗い出しておく。
3. 社内の手続きが終わっていない
- 株主総会・取締役会の承認決議が取れていない
- 譲渡制限株式の譲渡承認の手続きが済んでいない
- 少数株主からの株式の集約が終わっていない
譲渡制限株式の承認は、会社法の手続きで期間が決まっている。逆算して動かないとクロージング日に間に合わない。
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売り手が事前に片づけておくこと
クロージングで止まる原因の多くは、売り手側の準備で防げる。
| やること | いつまでに |
|---|---|
| 株主名簿を実態に合わせる | 早いほどよい。名義株がある場合は解消に時間がかかる |
| 株券不発行の定款変更(株券発行会社の場合) | 契約前 |
| 代表者個人の資産と会社の資産を分ける | 早いほどよい。社長個人名義の不動産を会社が使っているケースは要整理 |
| 契約書一式を揃える | デューデリジェンス前 |
| 未払残業代・社会保険の加入漏れを確認する | デューデリジェンス前。指摘されてからでは価格に響く |
| 役員退職金の決議 | クロージングまで。株主総会の決議が要る |
「あとで直します」で進めると、クロージング直前に価格の再交渉になる。早く出したほうが交渉上も有利になる。
クロージング後に残る手続き
当日で終わりではない。
- 役員変更の登記(就任・辞任)
- 株主名簿の名義書換
- 金融機関の口座・借入の名義変更、代表者保証の解除
- 許認可の届出(変更届・新規申請)
- 取引先・従業員への説明
- 税務署等への異動届
代表者保証の解除は、必ず書面で確認する。「解除する予定」のまま放置すると、譲渡後も旧経営者が保証を負い続けることになる。
よくある質問
クロージングまでの期間はどのくらいですか。
中小企業のM&Aでは、契約から1か月以内が多い。許認可の移転や独占禁止法の届出が必要な場合は数か月かかる。条件が揃っていれば契約と同日もある。
前提条件が満たせなかったら契約は白紙ですか。
契約書の定めによる。多くは、期限までに条件が満たされない場合に解除できる旨を定めている。期限(ロングストップ・デート)が設定されているかを契約時に確認する。
対価は一括で支払われますか。
一括が原則だが、分割やアーンアウト(業績連動の追加対価)が設定されることもある。分割の場合は、未払分の担保をどうするかを契約に定める。
クロージング後に問題が見つかったらどうなりますか。
表明保証違反として、補償請求の対象になり得る。請求できる期間と上限額が契約で定められているのが通常である。この条項は売り手にとって最も重要な条項のひとつなので、内容を必ず確認する。
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まとめ
- クロージングは最終契約とは別の日。間に前提条件の充足・許認可・社内手続きが入る
- 当日は着金を確認してから書類を渡す。交渉する場ではない
- 延期・解除になる型は3つ。表明保証違反/許認可・同意が取れない/社内手続きが未了
- チェンジ・オブ・コントロール条項は契約書を全部読まないと分からない。デューデリジェンスで洗い出す
- クロージング後も登記・名義変更・許認可の届出が残る。代表者保証の解除は書面で確認する
参考
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
ジョブカンM&A ジョブカンM&A編集部
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